YAMAHA CDX-1050は1990年の秋に発売されたCDプレーヤーです。1990年代のヤマハはリストラ、工場の売却など経営は悪化の道をたどっていきます。そんな中、オーディオ事業もピュアオーディオからAVアンプ・ホームシアターへと軸足を移していきます。
1990年発売のCDX-1050と640、そして翌年発売のGT-CD1は、さながらロウソクの火が消えかかる前に、パッと明るくなる最後の灯火のような製品だったのかもしれません。
CDX-1050と同じ年に発売されたライバル機は、SONY CDP-X555ESやPioneer PD-T05、PD-2000LTDといったところです。輸出仕様はCDX-1050以外にCDX-1060というモデルも作られ、こちらは10キーなどの操作ボタンが、シーリングパネルに収められています。
CDX-1050の心臓部であるD/Aコンバーターには、YAMAHAが新たに開発した1bitDAC・I-PDM(Independent
Pulse Density Modulation)を採用しています。
I-PDMは出力パルスを独立化して、パルスの面積(パルス密度)を比較してアナログ波形に変換するという仕組みで、原理的にはゼロクロス歪みが発生しないようになっています。
I-PDMはPDM方式(パルス密度変調・Pulse Density Modulation)を改良したものですが、このPDM方式こそ今話題のハイレゾ音源のDSDフォーマットそのものです。
ローパスフィルターには、アクティブ型より音質が良いとされるパッシブ型のハイマス・ローパスフィルタ採用。アナログオーディオ部のアンプはA級動作となっています。
また基板には高周波ノイズを減少させる両面銅箔基板を使い、重要な回路にはシールドボックスを装着するなどノイズ対策も抜かりがありません。
シャーシは高い剛性を持つダブルコンストラクション・シャーシで、天板、底板、サイドパネルは2重化されています。インシュレーターのGPレッグとともに、防振対策も十分に施されていました。
外見だけ見るとCDX-1030にサイドウッドを取り付けただけのように見えるため、CDX-1030のマイナーチェンジと書いた評論家もいましたが、両面銅箔基板の採用、電源回路の別基板化やコンデンサの強化、サーボ回路やオーディオ回路の見直し、DACの変更、シャーシの見直しなど、広範囲かつ細部に渡って手が入っています。
前作のCDX-1030/930はさして話題にもならずヒットもしませんでしたが、CDX-1050は前作を超えるヒットとなり、雑誌からの評価も高いものとなりました。
(音質について)
音はというと「しっとり」とした落ち着いたサウンドで、かつ繊細さがウリといったところ。以前のヤマハサウンドのように、高音のアクセントが強すぎるようなところはなく、高音と中音のバランスは良いです。ただ低音はやや弱いです。また音の広がりや奥行きは申し分ないです。
ジャンルでいうとクラシック、ジャズ、女性ボーカル向けで、ロックや歌謡曲は完全にスルー(相手にしていない)という感じ。一番の得意はクラシックで、もう少し絞りこむとオーケストラよりも室内楽の方があっていると思います。ジャズもソツなくこなしますが、ジャズをメインで聴くなら他に良いプレーヤーたくさんあります。女性ボーカルはパワフルなものよりも、しっとり歌いあげるものがオススメ。
実はこの音こそが1bitDACの本来の能力を活かした音で、テクニクスがSL-P777など初期のMASH搭載機で、「テクニクスサウンド」を変えないために、キャラクタ付けをしていたのとは対照的です。
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(フロントパネル) |
フロントパネルのデザインは先代のCDX-1030/930シリーズを踏襲したものです。CDX-1050とCDX-1030/930の外見的な違いはサイドウッドが付いたことと、ディスプレィの表示がすべてオレンジ色に変わり、表示内容も変更。ヘッドフォン/可変出力のボリュームが、電子ボリュームから電動ボリュームに変更されたことなどです。
ディスプレィの後ろには、2つのバックライトが付いています。どちらかの電球が切れるとディスプレィの端が暗くなったりします。
ヘッドフォン用のボリュームは、可変出力のボリュームと兼用となっています。 |
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ディスプレイのバックライト |
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ヘッドフォンの電動ボリューム |
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(シャーシと内部について) |
シャーシはYAMAHAの上級機伝統の2重構造で、「ダブルコンストラクションシャーシ」名付けられています。高い剛性と防振能力を持っています。
内部が黒く塗られているのは、アルミ押し出し材による特殊な形状のトレイを採用したため、CDの外縁部から漏れ出るレーザーの散乱光を吸収するためのようです。
底板は厚さは1.2mmと2.4mmの鋼板による二重底。天板も二重構造(1mmX2枚)で、2枚の板の間には防振ゴムのダンパーがあり、ここでも振動を吸収するようになっています。サイドパネルは鋼板1枚ですが、サイドウッドが付くので2重ということになります。
CDX-1030ではコの字型の天板を採用していましたが、CDX-1050は1枚板の防振鋼板です。サイドウッドはお飾り的なものでは無く、キチンとサイドパネルとなるように設計されています。
インシュレーターは「GPレッグ」と呼ばれるもので、逆円錐型の「ピンポイントレッグ」と、普通の形状の「防振レッグ」を選択することができます。
「ピンポイントレッグ」はスピーカーなどに使われるスパイクと同様に、プレーヤーの重量をピンポイントで支持し、外来振動を抑えます。防振レッグはピンポイントレッグに被せて使用するもので、ピンポイントレッグの下にアルミとゴムのプレート敷かれる形となり、防振性能を高めてます。
ただ、防振レッグのほうが音が良いということにはならないので、自分のシステムにあわせて、どちらかを選択するかたちになります。また「GPレッグ」はネジ込み式になっているので、高さの調整もできます。
CDX-1050のカタログでは重量が10.5kgとなっていますが、これはCDX-1030と同じ数値です。実際にはCDX-1050ではサイドウッドが標準装備となり、他にも防振が強化されているのでCDX-1030より1kg近くは重量が増加しています。 |
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1枚目の天板。裏側にゴム製のダンパーが貼ってあります。 |
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2枚目の天板 |
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GPレッグ(防振レッグ) |
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防振レッグを外すと中から「ピンポイントレッグ」が現れます。 |
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防振レッグ |
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ピンポイントレッグ |
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(電源回路) |
電源トランスはタムラ製作所製の大きめのものが1つ。デジタルとオーディオの別巻線になっており、電源回路自体も独立電源となっています。
平滑コンデンサはELNA製で50V・4700μFが2本。電源コードは直径9mmのキャブタイヤです。 |
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電源回路 |
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電源回路 |
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(サーボ回路・信号処理回路) |
1990年にはかなりの機種でデジタルサーボが搭載され始めましたが、CDX-1050はアナログサーボのままです。
この回路の主役はYAMAHA製の「YM7402」というチップです。1つのパッケージにサーボ回路と信号処理用の回路、それに必要なRAMやPLLが入っています。
その他には、ピックアップのアクチュエーターの制御を行う、SANYO製のドライバー「LA9200N」があります。
サーポ調整用のボリュームは「フォーカス・ゲイン」「フォーカス・オフセット」「トラッキング・ゲイン」「トラッキング・オフセット」など7つ。音質対策のために、きめ細かい調整が出来るようになっていますが、それだけに調整はシビアです。 |
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サーボ回路 |
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サーボ調整用のボリューム |
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YAMAHA YM7402 |
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SANYO LA9200N |
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(オーディオ回路) |
D/Aコンバーターは、ヤマハオリジナルの1bitDACのI-PDM(YAC501-D)です。ノイズシェーピングは2次384倍で、低い次数のままでサンプリング周波数を384倍と高くしているため、高周波ノイズの発生を抑えつつ量子化ノイズを低減できるというもので、1990年当時では最先端の1bitDACでした。
I-PDMはΔΣ(デルタシグマ)型のDACで、まずCDのPCM信号の16bit・44.1kHz信号を、デジタルフィルターを通してノイズを除去した後に、16bit信号を1bit信号に変換(再量子化、D/D変換)します。この時に発生する再量子化ノイズをノイズシェーパーで可聴帯域外に追いやります。その後に信号をPDM(パルス密度変調・Pulse
Density Modulation)の形で出力します。
再量子化する際の問題点は、量子化誤差(変換誤差)が発生することで、これをI-PDMでは2回(2次)、44.1kHzの384倍という高いオーバーサンプリングで行うことにより、量子化誤差を少なくして変換精度を向上させています。
また再量子化時には、とても大きな量子化ノイズが発生しますが、高いオーバーサンプリングのおかげで、可聴帯域よりもずっと上に量子化ノイズが移動します。
PDM変調された信号は、パルス(ビッ ト)列の密度で波形を表すという形になっており、それをD/A変換器(簡単なローパスフィルターですが実際は積分回路として働く)を、通すとアナログ波形に戻ります。
また1bitDACの変換精度は時間軸(クロック)の精度にも依存するため、CDX-1050にはジッター対策としてTCB「タイムコレクトベース」が装備されています。D/A変換直前にマスタークロックで改めてサンプリングを行い、時間軸の精度を高めてジッターを取り除くと共に混変調歪みも抑えています。
このマスタークロックは、I-PDM・DACのすぐ隣りに設置されており、外乱の影響を受けないように、シールドケースに収められています。
DACのノイズシェーパーで可聴帯域外に移動したノイズは、D/A変換器部分のローパスフィルターだけでは除去できないため、DACの後ろでパッシブ型ローパスフィルターを使用して、他の高周波ノイズといっしょに除去しています。
最終のラインアンプは音質を考慮してA級動作としています。電解コンデンサはMUSEや松下製のオーディオグレードが使われています。 |
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オーディオ回路 |
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オーディオ回路 |
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I-PDM・DAC YAC501-D |
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MUSEコンデンサ |
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(ピックアップ・ドライブメカ) |
ピックアップ・ドライブメカのベース部分は樹脂製ですが、しっかりしたものです。
ピックアップは3ビームのオリンパス製「TAOHS-KP2」を使用。ピックアップのスライドにはリニアモーターを使用しているので、アクセスは高速です。
CDを回転させるスピンドルモーターは、4mmφシャフトの制振ブラシレスモーターです。スピンドルモーターはピックアップのすぐそばにあり、ディスクとピックアップの距離を保つために、おなじメカシャーシに取り付けられます。このため機構上、どうしてもスピンドルモーターの振動が、ピックアップへと伝わりやすくなります。
ピックアップはミクロン単位の精度でディスクのピッドを読むため、モーターの振動が大きいと読み込みエラーを防止するためにサーボを強くかける必要があります。サーボが強くかかると電源部に電圧変動を及ぼし、これがオーディオ回路の電源部にも影響し、音質の低下をまねきます。またいわゆるデジタルノイズも増加します。
現在のSACDプレーヤーでは高額なモデルでも、スピンドルモーターには安価なDCモーター(振動が多い)を使っているものが多いですが、さすがバブル期は良いパーツを使っています。
トレイは「GTトレイ」と呼ばれるもので、厚さが1mm以上あるアルミ押し出し材を使ったトレイ本体に、制振とディスクの保護を兼ねたゴム製のディスクマットが取り付けられています。ちなみにブラックモデルはトレイもブラックに塗装されています。
CDX-1030/930ではトレイの振動を抑えるために、底板から柱状のホルダーが取り付けられていましたが、CDX-1050ではトレイ自体に振動を抑えるバーが装着されています。
(メカのメンテナンス・修理)
トレイ開閉用のゴムベルトはメカの裏側にあります。
交換するためには、まずメカと基板を結ぶ配線を取り外します。次にトレイの前面カバーを外し、シャーシのメカを固定している3ヶ所のネジを外せば、メカを取り出せます。ゴムベルトのサイズは約4cm。
トレイをオープンしても、すぐに閉まる場合は、トレイの開閉チェック用のスイッチの接点不良です。スイッチはトレイの下にあるので、ストッパーを取り外してトレイを引き抜きいてメンテします。
ピックアップのTAOHS-KP2は、CDX-1030やCDX-930と共通。レーザー出力のボリュームは裏側にあります。 |
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制振ブラシレスモーター |
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メカの裏側 |
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トレイ開閉用のゴムヘルト |
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GTトレイ・黒い部分が制振ディスクマット |
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(出力端子) |
出力端子はアナログが固定と可変の2系統。デジタルは同軸と光の2系統となっています。デジタル出力のON/OFFスイッチもあります。 |
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出力端子 |
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リモコン VH93300 |
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上:チタンカラー 下:ブラック |
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