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YAMAHA CD-S1000

    2008年 定価127,000円



YAMAHA CD-S1000は2008年6月に発売されたSACDプレーヤーです。

日本ではさほど話題にはなりませんでしたが、ヨーロッパでは2008~2009年のEISA AWORD(2-Channel System)を受賞するなど、高い評価を得ています。

※EISA・・・ヨーロッパのオーディオ、ホームシアター、ビデオ、カメラなどの雑誌が加入する協会

CD-S1000は前年に発売されたCD-S2000(168,000円)をベースにしており、シャーシー、メカ、デジタル回路は共用。違うのは電源トランス、オーディオ回路、DAC、インシュレーターなどで、バランス伝送を使わないのであれば、お買い得な内容となっています。

ライバル機はDENONのDCD-1500SE、DCD-1500RE、PioneerのPD-D9/PD-D9MK2など。


ベースとなったCD-S2000は、YAMAHAにとって1998年のCDX-993(価格は66000円でしたが、内容は現在の9万円クラスに匹敵)以来となる本格的なCDプレーヤーです。

CD-S1000にはバランス伝送はありませんが、基本はCD-S2000のオーディオ回路と一緒。搭載されているD/Aコンバーターは、高級機でも使われているバーブラウンの192kHz/24bitDAC「PCM1976」を左右独立で搭載しています。


シャーシはかってのダブルコンストラクション・シャーシを、彷彿させる高い剛性を持った構造で、メカのベースも十分な振動対策が行われています。

メディアはCDとSACD以外に、CD-R/CD-RWに対応しています。MP3とWMAファイルの再生が可能で、サンプリング周波数とビットレートは、MP3が44.1kHz・320kbpsまで、WMAが44.1KHz・192Bpsまでとなっています。

ヘッドホン端子はありませんので、ヘッドホンを利用するには別途にヘッドホンアンプが必要となります。またUSB端子もありませんので、USBメモリからのファイルの再生や、iPodなどとの接続は出来ません。


気になるところは、ピュアダイレクトモードを使用すると、デジタル出力とディスプレィのOFFが出来ます。普通はこの機能により、デジタル出力とディスプレィからのノイズを減らして、オーディオ回路への影響を減らすという物です。

ところがCD-S2000/1000では、オーディオ回路の真下にマイコンがあり、盛大にノイズを放出しているせいか、ピュアダイレクトモードは、「おまじない」程度にしか効きません。

SACDの輸入品のハイブリッドも何の問題なく読み込みます。ただ読み込みの音からするとサーボを少し強めにかけている感じで、かえって音質への影響が心配です。

使い勝手で気になるのが選曲が遅いこと。ボタンを押しても現在演奏中の曲はすぐには終わらず、ちよっとしてから次の曲がスタートします。またリモコンも使い勝手が悪いです。ボタンは小さいのですが、配置が妙に間延びしていて、手をずらさないとうまく操作ができません。


CD-S1000のベースとなったCD-S2000は2014年で生産中止となりましたが、CD-S1000は発売から13年がたった2021年でも現行モデルです。
そして2021年6月には、黒鏡面ピアノフィニッシュのサイドウッドを採用した新色モデル「シルバー/ピアノブラック」(税込み149,600円)が発売されました。

ということはCD-S1000の後継機は、しばらく発売しないのかもしれません。


もっとも、10万円台前半のCDプレーヤーとしては、とても造りが良いプレーヤーです。今時のCDプレーヤーとしては、シャーシや電源、オーディオ回路などにお金をかけていて、基本性能も良くコスパは高いと思います。

15.0kgという重量はアキュフェーズ DP-450よりも重く、シャーシだけでいったら50万円クラスのハイエンドに近いです。回路部分のパーツ数はDP-570の2倍近くあるので、人件費を除いた製造原価は、DP-450より高くても不思議はありません。

DENONの人気モデルのDCD-2500NEやDCD-1650REと比べても、シャーシや回路の作りはCD-S1000の方がずっと上です。



(音質について)
音は1980年代の「YAMAHAビューティ」とはうって変わって、ウォームトーンで柔らかく丸く、そしてフラットといったところ。欠点は低音がでないことで、これは昔と共通。傾向はCD-S2000と同じですが音は違います。

ポイントはこの「柔らかさ」の加減。柔らかい音が好きな人も硬めのサウンドが好きな人も、だいたいは自分はノーマルだと思っている訳で、「タイトな低音」といいっても両者ではかなり差があります。

マランツの音がよく「柔らかい」と評されますが、CD-S1000の音はさらに柔らかいです。簡単に言えば好き嫌いが分かれる音だと思います。


17万~9万クラスは各メーカーの主力機であり、かつ売れ筋の製品なのでDENONやマランツは、どこか音にも「受け狙い」の部分があるのですが、YAMAHAはそれがあまり見えてこない。そのため結果として、セールス的には2社に大きな差をつけられているというところでしょうか。

妥協していないところは良いことなのですが、少し筋が通りすぎているので同じジャンルでも合うソフトと合わないものが、ハッキリするのが困ったところです。

例えばジャズで言えば「ワルツフォーデヴィ」はもう最高で、とても心地良いサウンドを聴かせてくれます。ところが「ケルンコンサート」は全くダメで、あの鬼気迫る演奏の迫力は全く伝わってきません。

メイン機として使うには上記のような「フトコロの狭さ」が気になります。ただしこの音がツボにハマルと、このうえないパートナーになるかと思います。

高音が・・・低音が・・・などとオーディオ的なことを考えずに「まった~り」と音楽を聴くのに向いているプレーヤーです。


もちろん、ポテンシャルのあるSACDプレーヤーなので、YAMAHAのアンプやスピーカーと組み合わせて、オールYAMAHAのシステムを作ったり、好みのアンプやスピーカーと組み合わせて、自分の音を追求することもできます。(本来の趣味としてのオーディオ)


DACは24bitですが、32bitDACのSACDプレーヤーと聴き比べても、ビット数の違いを感じません。32bitといってもPCM5102のように、PCM1706よりも音の悪いDACは、たくさんあります。

またCD-S1000はオーディオ回路や、電源回路が充実していることもあり、評価が高いESS ES9038Q2Mを2基搭載した安価なUSB-DACよりも、滑らかな音が出ます。


大手メーカーのYAMAHAが作った製品ですが、回路もシャーシも下手なハイエンドを超えており、現在のSACDプレーヤーのレベルで見るとマニアックな造りです。(と言っても今のオーディオファンは良い回路、良いシャーシ、良いメカの区別が付かないと思いますが)

また、音も商業主義に走っていないという意味では、マニアックかもしれません。

どちらにしても「趣味的」なCDプレーヤーであり、ただケーブルをつなげて、良い音が聴きたいという人には向きません。

ある程度、ケーブルのチョイスが出来たり、スピーカーのセッテイングが出来るなど、本当の中級者以上の実力がないと使いこなせないかもしれません。



(フロントパネル)
フロントパネルのデザインは、同時期に発売されたプリメインアンプAS-2000/AS-1000のデザイン(1970年代のアンプCA-1000のイメージを受け継いている)に合わせたものです。

他社のデザインと比べると平面的ですが、レバースイッチやサイドウッドが印象的なものになっています。ディスプレィの文字は、YAMAHA伝統のオレンジ色ではなく白文字になっています。





(シャーシと内部について)
バブル時代の「物量機」を彷彿とさせるような中味です。最近のCDプレーヤーは価格はインフレ、中味はデフレというものが多かったのですが、これはある意味すごいです。

たぶん外資が親会社のメーカー(D&Mなど)の基準でいったら、この価格で、これだけコストがかかったモデルの発売など、許可しないでしょう。YAMAHAが健在で良かった。


シャーシはかってのYAMAHAの上級機伝統の「ダブルコンストラクション・シャーシ」とまではいきませんが、他社の同クラスのモデルと比べても群を抜いた防振性能を持っています。

重量は15kgと確かに重いのですが、DCD-1650REと比べると、手で持った時にキャビネットが「ガッチリ」としており、これが本物の剛性なのかと感じたりします。


底板は二重底。センターメカの上にはフロントとリヤのパネルを結ぶプレートがあり、剛性のアップに貢献しています。またオーディオ回路やトランスのシールドパネルも強度向上に利用しており、なかなか巧みな構造となっています。

天板は2重ではありませんが、防振タイルのダンパーが2つ取り付けられています。ただこの防振タイルはネット上でも指摘されているとおり、接着剤の材質が悪く1/4ぐらいが天板からハガレてきます。ゴム系接着剤などで修理可能。

サイドパネルは鋼板1枚ですが、サイドウッドと合わせることで2重化され、十分な強度を確保しています。

インシュレーターは鋳鉄製のようで、高さの調整が可能です。ただしCD-S2000のような「ピンポイントレッグ」はありません。

内部の構成は左に電源トランス、真ん中にメカと電源回路、右側がオーディオ回路です。デジタル回路はメカの下とオーディオ回路の下にあります。


天板

底部 インシュレーター

サイドウッド



(電源回路)
電源トランスはCD-S2000では、EIとトロイダルトランスによるデジタル・アナログ独立トランスでしたが、CD-S1000はバンドー製のEIトランスが1つです。

トランスはオーディオ、デジタル、メカ、ディスプレイ用に分けた別巻線となっており、底板に追加されたプレートに大きなネジでしっかりと固定されています。

電源回路の基板部分はCD-S2000と同じです。独立電源となっており、オーディオ用の電源には左右独立のシャント式ローカルレギュレーター(シャントレギュレータ)になっています。

シャントレギュレータによる電源回路は、電源効率が悪いですが、オーディオ的特性に優れた安定化電源を生み出すことができます。1980年のYAMAHAのCDプレーヤーの黄金期に、CDX-10000、CDX-2200、CDX-2000などに採用されています。


大きい電解コンデンサは、ニチコン製のオーディオグレード「Gold Tune KG」の56V・5600μFが4本。

このコンデンサは上部を十字型ホルダーで固定し、下部も固定剤で動かないようにして、「音鳴き」を防いでいます。(生産ロットによってはこのホルダーが無いものもあります。)

音鳴きとは回路基板やパーツが、微細に振動することで、人間に聞こえる不要な可聴音を生み出す現象のことです。

昔のオーディオ機器では、ふつうに行われていましたが、現在はハイエンド機でも、やっていない物が多いです。当たり前のことを普通にやっているYAMAHAの姿勢は素晴らしいです。


インレットは2Pで付属の電源コードは普通の物ですが、音質面の相性は悪くありません。

※CDプレーヤーでトロイダルトランスを採用するとコストが高いため、どうしてもトランスが1個になったりします。1個の場合は別巻線にしても、デジタル回路から戻ってきたデジタルノイズが、オーディオ用電源の巻線に影響を与えてしまうため、ノイズ対策上では有効ではありません。
CD-S2000で採用されたEIとトロイダルの独立トランスは、コストを抑えつつノイズも抑えるという、とても良い仕組みだと思います。

電源トランス 電源回路



(DAC・オーディオ回路)
CD-S1000のオーディオ回路の基板もCD-S2000と共通。空いている部分にパーツを取り付けるとバランス出力回路が完成します。

実際の動作はD/Aコンバーターから、差動出力(4ch)をI/V変換(4ch)して差動合成(2ch)。それをさらに1chに合成(アンバランスに変換)し、ローパスフィルターにかけて、バッファアンプでインピーダンス調整して出力します。

これはLチャンネル用で、全く同じ回路がRチャネル用としてあります。つまりDACは左右独立なので8chの差動出力となっています。


実はバランス出力とアンバランス出力を装備しているCDプレーヤーやDACでは、基本的にはバランス伝送で回路を作り、最後の部分で合成してアンバランス出力をするものが多いです。

ところがCD-S2000はそんなことをせずに、I/V変換と差動合成は共通ですが、そこから先はバランス回路とアンバランス回路の2つ搭載するという、とても贅沢な造りになっています。
ハイエンドでも、ここまでやっている機種は少ないです。


CD-S1000から見ると、CD-S2000のローパスフィルター以降のバランス回路を取り外しただけなので、バランス回路をくっつけた回路ではなく、最初からちゃんと設計されたアンバランス回路になっています。


D/Aコンバーターは、バーブラウンの24bit/192kHz PCM1796を左右独立で搭載しています。(CD-S2000はPCM1792を搭載)

多くのSACDプレーヤーやDACに搭載しているPCM1795は、このPCM1796を32bitに拡張したモデルです。


PCM1796は1つのチップに4つのDACと、8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターを内蔵しています。
アドバンスド・カレントセグメント方式というD/A変換システムを搭載しており、電流型の差動出力が可能です。


CD-S1000では片チャンネルに、PCM1796を1個使用して、4chの差動出力を合成したモノラル動作とすることで、ダイナミックレンジやS/N比、左右のセパレーションを向上させています。

左右合わせて8ch出力して、そのままI/V変換するという回路は、現在では50万円以上のハイエンド機の回路です。


オペアンプはI/V変換回路と差動合成回路にTI製のNE5532DRを使用。バッファアンプはLME49723MAとなっています。
ちなみにCD-S2000はI/V変換のみOP275GSRで、差動合成とバッファアンプにはNE5532DRを使用しています。


このオーディオ回路の下にはシールドプレートがあり、下にあるデジタル回路からの輻射ノイズをブロックするようになっています。

しかしAMラジオを530kHzに合わせて近づければわかりますが、デジタル回路にあるチップからのノイズの放射量はとても多く、これでも十分ではありません。

ここにあるのは、システムコントロールなどを行う16bitマイコン「M30302FAPFP」で、このCDプレーヤーの中では、最大のノイズの発生源です。

1990年代のマイコンと比べても、集積化が進んだため格段にノイズが多くなっています。ピュアダイレクトモードをONにしても、このマイコンは切れないので、オーディオ回路周辺の輻射ノイズは減りません。

オーディオ回路の下に、デジタルノイズの発生源を置いてしうというのは、たぶん昔のYAMAHAの開発者なら、やらなかったと思います。現在への技術の伝承が途切れてしまったのか、ノウハウ不足の現れかと思います。

それでも、DENON DCD-1650REのように、シールドプレート無しでオーディオ回路の上に、マイコンとFPGAを配置してしまうよりは、はるかにマシですが。


その結果なのかCD-S2000でも、1990年のCDX-1050(ノイズ垂れ流しとも悪口を言われた1bitDAC搭載)よりも、高調波歪率やSN比が悪いという、スペックに現れていると思います。



(PCM1796について)
PCM1796は「Advanced Current Segment方式」というD/A変換方式を搭載しています。

デジタルフィルターで24bit化された信号を、上位6bitと下位18bitに分割。上位6bitはICOBデコーダーで63レベルの信号に変換され、下位18bitのデータが5レベル・3次のΔΣ(デルタシグマ)変調器を通ったデータと合算されます。

これらのデータはDWA回路(後ろにあるカレントセグメントの誤差を最適化する回路)を通った後、67個の差動カレントセグメントDACでD/A変換され電流出力されます。

複雑な回路ですが、他社の24bitや32bitDACに比べると、D/A変換の精度が高く、ノイズシェーピングで発生するノイズが少なく、ジッターの影響が少ないなどのメリットがあります。

スペックはダイナミックレンジが123dB。S/N比は122dB。THD+Nが0.0005%で、32bitのPCM1795とまったく同じ数字です。

オーディオ回路 オーディオ回路

DAC バーブラウン
PCM1796
コンデンサ

シールドプレート オーディオ回路の下の
デジタル回路基板の
マイコン
M30302FAPFP



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカもCD-S2000と共通。やたら新開発と強調していますが、これはYAMAHAがCDX-993を除くと、10年以上も他社のメカを使ってきたせいかもしれません。

ただ今回、YAMAHAが開発したのはメカベースに、トレイとトレイの駆動機構、そして上部のカバーだけです。

ピックアップやスライド機構などドライブメカの本体部分は、「厳選された高信頼ドライブメカニズム」という説明どおり他社製です。

メカベースは鋼鉄製で底板だけでなく、メカの左右にあるシールドプレートにも固定されています。メカの天板(トッププレート)は、最近はやりの密閉式ではありません。

ピックアップはサービスマニュアルには「DVD DB-VTV733」と、何やら怪しげな番号が書いてありますが、PIONEER製の「OWX8060」です。

このピックアップとスピンドルモーター、ピックアップをスライドさせるウォームギヤ。そしてメカの下のサーボ回路の基板を含めたアセンブリーパーツとなっています。


トレイはアルミダイキャスト製ですが、薄さにこだわってしまったため強度はいまひとつ。

トレイの開閉にはメッシュワイヤー(樹脂ワイヤー)と、特殊なギヤを使用しています。これ自体はゴムベルトのように伸びてスリップする心配はありませんが、開閉用モーターとメッシュワイヤーを動かすプーリーの間は、従来どおりゴムベルトなので、ここが劣化するとスリップが起きて、トレイは開閉しなくなります。

このローディングシステムについて、YAMAHAの担当者は「当社だけの技術・・・」と自画自賛しています。

ワイヤーを使ったローディングシステムは、確かに現在は無いかもしれませんが、1980年代にはたくさんありました。
1982年にNECの1号機CD-803などで、既に実用化されており、その後もSONYのESシリーズや、KENWOODのCDプレーヤーで採用されています。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ・ドライブメカ

ピックアップ
OWX8060
アルミダイキャスト製の
トレイ



(出力端子・リモコン)
出力端子はアナログが固定の1系統。デジタルは同軸と光の2系統となっています。専用リモコンは「CDX5 WM43800」。

出力回路 リモコン

上:CDX-1000(1987年) 下:CD-S1000(2008年)

YAMAHA CD-S1000のスペック

周波数特性 2Hz~50kHz(SACD)-3dB
2Hz~20kHz(CD)
高調波歪率 0.002%以下
ダイナミックレンジ 105dB(SACD)
100dB以上(CD)
S/N比 113dB
サイズ 幅435×高さ137×奥行440mm
消費電力 25W
重量 15.0kg





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