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SONY CDP-XA3ES

     1994年 定価60,000円



SONY CDP-XA3ESは、1994年10月に発売されたCDプレイヤーです。CDP-333ESJの後継機で、当初発売されたのはブラックモデルでしたが、翌年にゴールドモデルが発売されました。

ライバル機はDENON DCD-1515AL(66,000円)、Pioneer PD-T04/PD-UK5(60,000円/58,000円)、KENWOOD DP-7060(60,000円)、Technics SL-PS860(54,800円)などです。
1994~95年の「6万円クラス」CDプレーヤーの比較


1994年はバブルの崩壊により、各オーディオメーカーは苦しい時期にあり、Technics/Panasonic、Victor、YAMAHA、ONKYOは新商品を抑えラインアップを大幅に絞っていました。

普及クラスの価格帯では1990年代の初めまでのようなシャーシやメカへの物量投入は行えなくなりつつありました。その代わり各社が力を入れはじめたのが新しいデバイスの投入です。

特にメーカーが注目したのがレガートリンク、ALPHAプロセッサー、PRO-BITなどの波形再現技術と、高性能のデジタルフィルターでした。

それまでのデジタルフィルターは、CDのデジタル信号に含まれるノイズを除去することを目的で、オーバーサンプリングが高ければ良いと考えられていましたが、1990年代に入ると「量から質」へと転換し微少レベルの信号の処理などの能力がクローズアップされます。

ONKYOのFPCSやKENWOODのD.R.I.V.Eは、NPCの高性能デジタルフィルター「SM5843AP」を使って、高精度のデジタル信号の処理を実現。DENONのALPHAプロセッサーは、現在の適応型デジタルフィルターとして動作する機能を持っていました。

そしてSONYが開発したのがフル・フィードフォワード方式のデジタルフィルターです。

フル・フィードフォワード方式のデジタルフィルターは、演算能力の不足によって切り捨てられていた下位ビットのデータを、新たに設けた演算ブロックで処理し、きちんと処理されたデータと合成し可聴帯域内に残っていたノイズを除去しています。これにより微少レベルの信号の再生を改善しています。

また当時はD/Aコンバーターの改良も行われていました。1bitDACは第2世代・第3世代となり特にPhilipsのビットストリーム「DAC7」の評判は高く、marantz以外にもONKYO、TEAC、KENWOODなどが採用していました。
DENONは従来のマルチビットDACの、弱点を取り除いたバーブラウンの電流出力型のDAC「PCM1702」を搭載。これがヒットします。

CDP-XA3ESではSONY独自のパルスDACを改良し、新たにカレント・パルスD/Aコンバーターを搭載しました。
従来のパルスDACが電圧出力であるのに対し、電流方式※オーディオ回路参照を採用しており、差動出力を行っています。


サーボ回路はハイプレシジョン・デジタルサーボ。電源トランスには磁束漏れが少なく、電磁特性の良いRコアトランスを採用しています。

シャーシは剛性の高いFB(フレーム・ビーム)シャーシを使用しており、それを支える脚部には偏心インシュレーターを装備しています。


機能としては、カスタムエディットや最大24曲のプログラム再生、7モードのリピート、ミュージックスキャン、オートスペースなど、たくさんの再生機能があります。

カスタムファイル機能は、ディスク1枚につき最大10文字までメッセージが記録したり、ディスクごとに異なる再生レベルを設定。ディスクに好きな個所にインデックスを設定することができます。



(音質について)
音は少し硬めのSONYサウンドですが、重心が低く情報量も多いので、今のCDプレーヤーの中級機と比べると、ふくよかなリッチテイストにも感じてしまいます。

解像度や透明感はDACが「CXD2562Q」ということもあり、現在の24bitや32bit・DACの搭載機と比べても問題ありません。

高音は適度な伸びとツヤがあり、中低音は適度なメリハリと締まりがあります。小型スピーカーにとても合っていて、夜の小音量時でもパフォーマンスを発揮してくれる「実戦向き」の音です。

音場は左右方向はそこそこですが、前後方向はとても良いです。また定位もしっかりしています。

ジャンルはオールラウンドですが、クラシックのオーケストラもなかなか良いです。


ライバルのDCD-1515ALと聴き比べると、こちらの方が1ランク上の音に聴こえます。それもそのはずで、ALPHAプロセッサーがいかに素晴らしくても、それ以外のDAC、シャーシ、メカ、電源回路、オーディオ回路などはCDP-XA3ESのほうが上です。

DP-7060は有名なDAC7を搭載しています。でも音はフィリップス・トーンではなく、KENWOODのサウンドです。
良いところもありますが、曲によってアンプやスピーカーとの相性が、けっこう出るので、メインとしては使いにくいです。

その点CDP-XA3ESは、いろいろなメーカーのアンプやスピーカーにも対応ができ、そういう部分でも「実戦向き」です。
音場は互角。レンジの広さ、解像度や透明感、細部の表現などはCDP-XA3ESの方が上回っており、夜間に小音量で聴く場合では断然、CDP-XA3ESが優位です。

ちなみに、DCD-1515ALやDP-7060で使われているサーボ回路のICや、ピックアップはSONY製で、CDP-XA3ESと同じものが使われています。



前モデルのCDP-333ESJと比べると音は良く似ており、アンプやスピーカーによっては、ほとんど同じに聴こえたりします。

レンジはCDP-XA3ESのほうが若干広めで、低音の締まりも良いです。解像度はレベル的には互角で、ソース(音源)によって、CDP-XA3ESが良かったり、CDP-333ESJが良かったりします。


2世代前のCDP-333ESAとの比較だと、レンジや解像度、透明感、音場など、ほとんどの部分でCDP-XA3ESが上回っています。


1世代前の「555」モデル CDP-555ESJと聴き比べると、CDP-555ESJの音質は圧倒的にすごい部分があるのですが、その代わりある程度のアンプとスピーカーを、使ってくれないと音は出ませんよという部分があります。

それに対しCDP-XA3ESは、そこそこのグレードのアンプやスピーカーと組み合わせても、いけるような感じがあります。
音楽ソフトによってはクラスを越えた音が出ますし、それでいて適応力の広さは6万円クラスならではのものです。

1989年の「555」モデル、CDP-X55ESと比べると、レンジの広さや解像度、音のキレといった「HiFi」的な要素では負けますが、CDP-XA3ESの音には明るさと柔らかさがあり、バランスのとれた音作りをしているので、長い時間でも聴き疲れることはありません。


当時もひどいオーディオ不況でしたが、いろいろとコストダウンしても、ちゃんと「ES」の名に恥じないような音が出てくる商品を、作っていたSONYの力は本当にすごいです。

それにひきかえ今のオーディオメーカー、特に投資ファンドに買収されたところは、宣伝は一生懸命ですが、価格に中味と音質が付いてこないような気がします。


CDP-XA3ESの価格は6万円ですが、音質は現在の9~10万円クラスのCDプレーヤーを上回る部分も多いです。

発売から年数がたちましたが、ピックアップのレンズや回路基板のクリーニング、トレイ開閉用のゴムベルトの交換などのメンテナンスをすれば、音質的も性能的も現役で使うのに、全く問題が無いCDプレーヤーです。



(フロントパネル)
フロントパネルは上部に段差が付いたもので、トレイとディスプレィ部分の張り出しが印象的です。また選曲用の10キーが復活しました。

ディスプレイはスタティック点灯方式のFL管となったため、スイッチングが減りノイズも減少しています。ただサイズが小さくなったためミュージックカレンダーは15曲分しかありません。



動画の音はビデオカメラの内蔵マイクで録音しているため、
音質は良くありません。





(シャーシと内部について)
上級機のCDP-XA5ESには「光学系固定方式ドライブメカ」が搭載されましたが、CDP-XA3ESは通常のメカのままです。

シャーシーはFB(フレームビーム)シャーシですが、前作のCDP-333ESJに比べてかなり重量が落ちていることを考えると、鋼板の厚みは薄くなっているはずです。

その代わり上部にも2本のビームを追加したり、鋼板の折り曲げ部分の拡大などによって強度を稼ぐ手法が取られています。それでも剛性や強度といった点ではCDP-333ESJには追いついていないと思います。

この時期はバブル崩壊の影響でSONYだけではなく、他のメーカーもシャーシーのコストダウンを行っており、これでもCDP-XA3ESのシャーシは「クラス最強」でした。
特に最大のライバルだったDENON DCD-1515のシャーシーよりは、剛性はかなり高いと思います。

インシュレーターは樹脂製ですが、偏心インシュレーターとなっています。インシュレーターとシャーシの固定位置を、中心からオフセットすることで、外部からの振動がダイレクトにシャーシに伝わるのを防ぎ、振動を減衰しています。


内部のレイアウトは真ん中にピックアップ・ドライブメカと電源回路。メカの下にはサーボ制御と信号処理回路があります。

左側の電源トランスは1つになりましたが、磁束漏れの少ないRコアトランスとなりました。
右側の基板の手前はシステムコントロール回路、奥がオーディオ回路です。


天板 偏心インシュレーター



(電源回路)
電源回路のトランスはCDP-333ESJのEIトランス2個から、Rコアトランス1個となりました。Rコアトランスは鉄芯の切れ目が無く、断面がドーナツ型の構造をしており、EIトランスに比べてリーケージ・フラックス(磁束漏れ)が少なく、低損失、低振動などの特徴があります。

電源回路の基板は逆さに取り付けられており、コンデンサーはELNAの「FOR AUDIO」の25V・3300μFが2本。他には日本ケミコンの「ASF」16V・6800μFなどが使われています。電源コードは直径7mmのキャブタイヤです。

※1980~90年代にはメーカーの評価テストで、EIトランスの方が力強い音が出るということになり、スペックやコストと関係なく音の方向性の問題でEIトランスを選択したこともあるようです。

Rコアトランス 電源回路



(デジタル回路 サーボ・信号処理)
サーボや信号処理回路はピックアップ・ドライブメカの下にあります。
メインチップは「CXD2515Q」で、1チップの中にハイプレシジョン・デジタルサーボ回路と、CDの音楽信号のデコードや誤り訂正などの信号処理回路が収められています。

ピックアップのアクチュエータやモーターの駆動を制御するBTLドライバは、ローム製の「BA6297AFP」が使われています。

サーボ・信号処理回路 SONY CXD2515Q



(DAC・オーディオ回路)
D/Aコンバーターは「カレント・パルスDAC」という名が付いており、CDP-555ESJ/333ESJで使われていたのと同じ1bitのアドバンスト・パルスDAC「CXD2562Q」と、2つの「CXA8042S」というICで構成されています。

カタログではCXD2562Qはパルス・ジェネレーター(生成器)として使われ、CXA8042SがD/A変換しているように書かれていますが、これはあくまで宣伝用の文句やブロック図で実際とは異なります。※1

「CXD2562Q」はPLM(パルス長変調・Pulse Length Modulate)方式の1bitDACで、内部には8つのDACが搭載されており、D/A変換を行った後に差動合成されて、片チャンネルあたり4つの電圧出力を行っています。

DACの後ろにある「CXA8042S」は、このD/A変換した後の電圧出力を受け取って、スイッチングして電流出力に変換するための回路しか持っていません。(サービスマニュアルにも書いてあります)

そして「CXA8042S」から出た電流出力は、すぐにCIV回路(I/V変換・電流から電圧に変換する回路)に入って、また外部出力のために電圧へと変えられています。

つまりカレント・パルスDACは通常のDACの後ろに、いわば電流変換器(CXA8042S)ともいうべき、余分なものをくっつけたような中途半端な回路となっています。

この回路については海外の掲示板でも、効果を疑問視したり、CXA8042Sを外したほうが音が良くなったという書き込みがありました。

いろいろと調べてみるとカレント・パルスDACの考え方や構成は、DIATONEのDA-P7000(1991年発売)に搭載した定電流型PWM方式「バリアブルカレント・ディスクリート1ビットDAC」によく似ています。
このDACはPWM方式の1bitDACと電子スイッチを持っており、この電子スイッチを強力な定電流回路によってドライブさせることにより、信号が電源変動や電圧性ノイズの影響を受けないようになっていました。

これをSONYでは既存のDAC(CXD2562Q)と、新たに開発した電子スイッチ(CXA8042S)を組み合わせることによって、同じ効果を得ようとしたもののようです。
ただ、カレント・パルスDACと言いつつ本体はあくまで「CXD2562Q」であり、ここでD/A変換は完結してしまっています。


CDP-XA3ESではMUSEコンデンサなどを投入して、このDACまわりの電源の強化(安定化)が行われています。1bitDACの場合、1秒間に数万回という高速なスイッチング処理が行われるため、ごく小さな電圧の変動でも歪みやノイズが発生し、これが音質の悪化の原因となります。

たぶんカタログで言っている「電圧変動や演算回路の電圧性ノイズの影響の排除」というのは、実際にはカレント・パルスDACよりも、電源の強化による効果なのかもしれません。

まあ、オーディオファンからすれば回路の実効性はともかく、音が良くなれば何でも良いのですが。ともあれ上記のレビューのとおり音質が悪いという印象はありません。


また、こういう回路になったことで、良い方にとればI/V変換と差動合成時に使う、オペアンプの組み合わせが増えたため、音のチューニングの幅ができたとも言えます。

CDP-XA3ESでは共にTI製のNE5532Pを使用。CDP-XA5ESでは三菱のM5238でI/V変換、アナログデバイセズのAD712で差動合成を行っています。

デジタルフィルターはフル・フィードフォワード方式を取り入れたFIR型の「CXD8504M」、ローパスフィルターは利得応答の良いカウエル型(楕円フィルタ)を搭載しています。


※1 SONYのカタログの説明にあるのは、実は「カレント・パルスDAC」の動作ではなく、Technics SL-PS860やSL-PS770Dに搭載された「S-アドバンストMASH・クラスA DAC」の動作そのものです。

※2 SONYのカレント・パルスDACは1998年発売のCDP-XA55ESで、ようやく専用DACの「CXD8594Q」と電子スイッチ「CXA8042AS」の組み合わせとなり、SACD1号機のSCD-1やSCD-777ESにも搭載されます。

2000年になるとSACDプレーヤーSCD-XB9に、カレント・パルスDACのDSD対応版「VC24 plus(CXD9515Q)」を搭載。2001年から登場した「スーパーオーディオD/Aコンバータ(SA DAC)」も、基本的にはDSDフィルターを除けば、カレント・パルスDACと同じ仕組みとなっています。

オーディオ回路 フル・フィードフォワード
デジタルフィルター
CXD8504M

D/Aコンバーター(本体)
CXD2562Q
D/Aコンバーター
(電流変換器)
CXA8042S



(ピックアップ・ドライブメカ)
CDP-333ESJと比べると一番コストダウンが大きいところかもしれません。
ピックアップ・ドライブメカのベースはGベースから、鋼板とABS樹脂を組み合わせたものに変更。でも、このベース部分はFBシャーシのビーム(はり)に10個のビスで、しっかりと取り付けられています。

ピックアップは自社製のKSS-272AからKSS-240Aに変更。スライド機構はリニアモーターではなくギヤ式(ラック&ピニオン)になってしまいました。

トレイはBMC製で肉厚があり頑丈です。BMCはエンジニアリング・プラスチックで、剛性が強く内部損失もあるので、オーディオ製品では良く使われる素材です。

ディスクの再生中にトレイの振動を抑えるステイブルロックが付いています。


(メカのメンテナンス・修理)
トレイの開閉用のメカはトレイの下にあります。ゴムベルトを交換するためには、トレイを外す必要があるのですが、これが少し手間がかかります。

まずメカと基板をつなぐフラットケーブルを外します。
トレイの前面カバーを外して、ビームにメカを固定しているネジを全部外します。この時にブリツジとステイブルロックも取り外します。
メカにはまだモーター用の配線が付いていますので、これを切らないように注意しながら、メカを少し後ろにずらします。そしてトレイを上に持ち上げれば外れます。

ゴムベルトは直径4cmで太さ1.5mmの角ベルトが使われています。交換が終わったらトレイを丸い棒にはめてやり、メカを元に戻します。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ・ドライブメカ

スピンドルとピックアップ ステイブルロック

トレイ開閉用のゴムベルト



(出力端子・リモコン)
出力端子はアナログは固定と可変が各1系統。デジタルは光のみとなっています。
専用リモコンの型番はRM-D921。

出力端子

上:CDP-XA3ES(1994年) 下:CDP-333ESJ(1992年)


SONY CDP-XA3ESのスペック

周波数特性 2Hz~20kHz ±0.3dB
高調波歪率 0.0018%以下
ダイナミックレンジ 100dB以上
S/N比 118dB以上
チャンネル
セパレーション
110dB以上
サイズ 幅430×高さ125×奥行345mm
消費電力 17W
重量 6.6kg





SONYのCDプレーヤー

CDP-555ESJ CDP-552ESD
CDP-X55ES CDP-333ESD
CDP-333ESD CDP-303ES
CDP-302ES CDP-750
CDP-301V SCD-XB9


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