TOP使っているオーディオCDプレーヤー > PD-UK5


Pioneer PD-UK5

   1994年 定価58,000円



パイオニアのPD-UK5は1994年5月に発売されたCDプレーヤーです。

1983年に発売されたPD-T04(60,000円)は、国内でヒット商品となりましたが、海外での評判も良く輸出仕様のPD-S802が、イギリスのオーディオ誌で最優秀CDプレーヤーに選ばれました。

そこでPD-T04をベースにして、イギリスのパイオニア・ハイフェデリティのジョン・バンフォード(「ハイファイチョイス」などオーディオ誌の編集や執筆で有名)が、チューニング(音決め)を行ったものがPD-UK5です。

当時パイオニアはUKシリーズとしてラインアップを持っており、PD-UK5の他にCDプレイヤーのPD-UK3(39,000円)、アンプのA-UK3(45,000円)、A-UK1(35,000円)、スピーカーのS-UK5(100,000円)、S-UK3(60,000円)などが発売されました。

またUKシリーズという特徴が与えられたことにより、PD-UK5はベースのPD-T04が終売となった後も販売が続けられ、1997年ごろまでは売られていたようです。


ベースとなったPD-T04は低価格ながらも、パイオニア独自のCDターンテーブル方式、レガート・リンク・コンバージョン・システム、ハイスピード・パルスフローDAC、ハニカムシャーシなどを採用した意欲的なCDプレーヤーです。

PD-UK5とPD-T04との違いは、フロントの両サイドにあるスタビライザーの廃止。電源回路やオーディオ回路の電解コンデンサを、オーディオ用に変更していることです。これによってPD-T04とは違った趣きの音に仕上げています。

CDターンテーブル方式は、レコードプレーヤーと同じように、ターンテーブルの上にディスクを置くものです。普通のCDプレーヤーのターンテーブルよりも、ディスクとの設置面積がはるかに大きく、ディスクの振動や面ブレなどを防いで、安定した回転を産み出します。
これによりディスクの読みとり精度が向上し、サーボを減らして電圧の変動やノイズ、ジッターを低減し、音質を向上させるという画期的な機構でした。

また、キャビネットにもハニカムシャーシやハニカムインシュレーターなど、パイオニア独自の防振技術が採用されています。

D/Aコンバーターは、ゼロクロス歪やグリッチノイズが無い1bitハイスピード・パルスフローDACを左右独立で搭載。回路のコンデンサには銅箔が巻かれ、ノイズ対策が行われています。

レガート・リンク・コンバージョン・システムは、波形再現技術と呼ばれるものです。ディスクに記録された信号をもとに、CD作成時に欠落した情報を推定し補足して、原音に近い波形を再現しています。



(音質について)

UK仕様ということでPD-T04と比べると、少しおとなしくて、やわらかい音作りになっています。クラシックを聴くとレンジが広く、高音も良く伸びているのがわかります。音場は横方向の広がりは普通ですが、奥行きの出方は少し独特です。

ジャンルとしては断然クラシック向きの音で、しっとりした女性ボーカルなどにも合います。たぶんジャズは好き嫌いが出そう。フュージョンやロックにはあまり向いていません。



(フロントパネル)
PD-Tシリーズ独特のデザインで、中央にターンテーブルを内蔵した大きなトレイがあります。

PD-UK5とPD-T04のフロントパネルは共通のため、さながらPD-T04のブラックモデルという感じです。ちなみにPD-T04の輸出仕様「PD-S802」には、シルバーとブラックモデルがあります。

パネルにあるのは基本的な操作ボタンと、ディスプレイのON/OFFスイッチなど。プログラムプレイの設定はリモコンからのみ可能です。ヘッドフォン端子は装備していません。



動画の音はビデオカメラの内蔵マイクで録音しているため、音質は良くありません。



(シャーシと内部について
PD-UK5のシャーシとPD-T04との違いは、フロントパネルの両サイドにあった樹脂製スタビライザーが廃止されたことです。後は基本的に同じです。

シャーシの奥行は286mmしかありません。天板、サイド、リアともに薄い鋼板です。底板だけはハニカム構造のために少し鳴きにくいですが、他は盛大に鳴きます。ちなみに底板は2重ではありませんし、天板の裏に防振材はありません。インシュレーターは樹脂製のハニカム・インシュレーターです。

この時期はバブルの崩壊後で、各メーカーとも経営は苦しい時でした。シャーシーの防振性能を下げてコストダウンしたのはPioneerだけではなく、DENON DCD-1515ALSONY CDP-XA3ESも同じです。

内部はPD-T04と同じです。チューニングといっても電解コンデンサの銘柄を変えてあるぐらいです。
左側に電源トランスとメカ・デジタル用の電源回路。中央はメカと奥の2階部分がオーディオ回路とオーディオ用の電源回路。右側の1階部分がサーボ、信号処理、システムコントロール回路です。

ちなみにPD-T04の後継機であるPD-T04Sは、フロントパネルのデザインは一新されていますが、内部はPD-T04/PD-UK5とほぼ同じで、レガートリンクが新しい「S」タイプとなっています。


ハニカムシャーシ ハニカムインシュレーター



(電源回路)
電源回路はこのクラスとしてはかなり強力です。ノイズや相互干渉を防ぐためにメカ・デジタル回路、D/Aコンバーター、オーディオ回路の3ステージの独立電源を搭載。レギュレーターも7個とこのクラスでは多いほうです。

電源トランスは小さいですが、デジタル用とアナログ用に2つのトランスを搭載しています。コンデンサにはひとつひとつに銅箔が巻かれています。電源コードは並行コードです。

電解コンデンサはPD-T04ではニチコンのVX(一般用)、日本ケミコンのAS(一般用)、エルナーのコンデンサが混在していましたが、PD-UK5ではニチコンのオーディオ用標準品の「FM」に、ほぼ統一されています。

電源トランス メカ・デジタル用の電源回路



(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール)
1993年ごろにはデジタルサーボが普通となっていましたが、PD-T04/PD-UK5に搭載されたのはアナログサーボです。使われているのはSONY製のサーボ・プロセッサ「CXA1372Q」で、フォーカス、トラッキング、スレッドサーボをコントロールしています。

調整用のボリュームは基板にトラフィック・ゲインとフォーカス・ゲイン。ピックアップの上の基板にトラッキング・バランスとフォーカス・オフセットがあります。

信号処理用のチップはSONY製の「CXD2500BQ」で、スピンドル用のサーボ回路(これだけがデジタルサーボ)も内蔵されています。

デジタル回路 SONY CXD2500BQ

SONY CXA1372Q サーボ調整用のボリューム


(DAC・オーディオ回路)
D/Aコンバーターは、自社開発のハイスピード・パルスフロー1bitDAC「PD2028B」を、左右独立で搭載しています。

1bitDACは、マルチビットDACで問題となっていたゼロクロス歪や、グリッチノイズが無いという特徴がありましたが、反対に高次のノイズシェイピングにより、S/N比やダイナミックレンジが、悪化するという問題もありました。

パイオニアは1bitDACとしては後発だったため、Technicsの「MASH」など、他のメーカーの動向を見ながら開発を進め、ノイズシェイパーの次数を2次と低く抑えながら、オーバーサンプリングを384倍と高くするという方法で、この問題を解決しています。

また1bitDACは、マスタークロックに依存するためジッターが問題となりますが、PD-UK5では16.93MHzという低いマスタークロックを使うことで、ジッターの影響も減らしています。

DACの手前にはレガート・リンク・コンバージョンと、デジタルフィルターの処理を行うIC(DSP)の「PD0116A」があります。

オーディオ回路とその電源部にある電解コンデンサは、銅のテープが巻かれてノイズ対策が行われています。


(レガート・リンク・コンバージョン)
1980年代後半になるとレコード会社の録音スタジオに、それまでの16bitに代わり20bitのデジタル録音システムが導入されはじめます。そうなると問題になるのが、CDの16bit・44.1kHzという規格です。

20bitのデータからCDを作成する際には、CDに入りきらないために、どうしても情報(4bit分のデータ)を切り捨てる必要があります。
しかし、聴感上でそれがハツキリとわかるようなものでは使えません。そこでレコード会社は新しいマスタリングシステムを開発します。

いっぽうオーディオメーカーでは、何とかCDの再生時に切り捨てられたデータを復元し、原音の波形を再現できないかと考えだされたのが、パイオニアの波形再現技術「レガート・リンク・コンバージョン・システム」です。


単にデータを補間し、情報量を増やして波形をなめらかにするものは、1986年にYAMAHAが開発した18bitデジタルフィルター「YM3619」などに搭載されています。(波形をなめらかにするためには、関数による演算が不可欠なため、波形再現技術に近い物だと思います)

1988年にはLUXMAN DA-07に「フルーエンシー理論」に、基づいた波形再現技術「F・E・DAC」が搭載されました。ただ、これは16bit信号の波形をなめらかにするという技術で、20bitへの対応や量子化歪への対策になるものではありませんでした。

レガート・リンク・コンバージョンやDENONのALPHAプロセッサー、YAMAHAのPRO-BITなどの波形再現技術では、マスター(原音)に近い波形を再現することを目指しており、なめらかで自然な音など音質面の改善を目的としています。


レガート・リンク・コンバージョン・システムは、 音楽信号を時間軸(時間的な幅)で捉えて、CDに記録された22.7μsec毎の音楽信号のデータの間を、オリジナルの音楽信号に近づくように設定した関数曲線を使って結び、リンギングの少ない原音に近い自然な波形を再現するというものです。

レガート・リンク・コンバージョンの最大の特徴は、多くの波形再現技術が、ダイナミックレンジ(音圧)の波形を再現したのに対し、20kHzを超える周波数の信号に対しても、波形の再現をはかっていることです。

CDの製造時には、原音の20KHz以上の周波数部分がカットされてしまいます。レガート・リンク・コンバージョンでは、高周波は減衰が早いという特性に着目して、1/f減衰特性(1/fゆらぎ)にしたがって、20KHz以上の音も再現しています。


レガート・リンク・コンバージョン・システムは、1992年のPD-T09(360,000円)に初めて搭載されましたが、翌年にはPD-T06(120,000円)、PD-T04(60,000円)と普及機にも搭載されます。

そして1993年になると、DENONがD/Aコンバーター DA-S1に「ALPHAプロセッサー」を搭載。1994年にはYAMAHAがCDX-580に「PRO-BIT」を搭載。KENWOOD DP-7060のD.R.I.V.E.システムも波形をなめらかにする機能を搭載しており、各社による波形再現技術の戦いが始まります。


Pioneerは1995年に、20kHz以上の倍音成分を生成する「レガート・リンク・コンバージョンS」を開発してPD-T07Sに搭載。2001年にはCDの信号を176.4kHzまで、アップサンプリングする「レガート・リンク・コンバージョンPRO」が登場します。

現在は「マスターサウンドリバイブ」と名前を変えて、カーオーディオに搭載されています。※パイオニアのオーディオ部門は、ONKYOの傘下に入ったため、使えなくなったようです。

オーディオ回路 パルスフロー 1bitDAC
PD2028B
レガートリンク・コンバージョン+デジタルフィルター
PD0116A
オーディオ回路



(ピックアップ・ドライブメカ)
PD-T07シリーズやPD-T06、PD-T09のCDターンテーブル方式のメカは、とても頑丈でコストのかかるものでした。そのため低価格機にも搭載できるように開発されたのが、PD-T04/PD-UK5のメカです。

このメカはPD-T01、PD-T04S、PD-HS7や多くの海外専用モデルに搭載されていきます。

いわば廉価版のメカですが、ピックアップとスピンドル・モーターがトレイの上側にあり、トレイが締まるとピックアップとスピンドル・モーターが下がり、ディスクを押さえつけてターンテーブルを回転させるという機構には変わりありません。

スピンドルモーターを普通のものにしたり、メカベースを樹脂製にするなど金属パーツを削減、ピックアップやスピンドルを取り付けるプレートも薄くするなどして、コストダウンをはかっています。

ピックアップは自社製の「PEA1179」を搭載。スライド機構は上級機はリニアモーターでしたが、PD-T04/PD-UK5はギヤ式です。歯車の取り付けがあまりよくないので、トラブルとなることがあるかもしれません。


(メカのメンテナンス・修理)
トレイ開閉用のベルトはメカの一番下にあります。基板とのケーブルを外し、トレイ用のカバーを外してメカを固定しているビスを外せば、メカを取り出せます。
ゴムベルトは1本。これでメカの上下とトレイ開閉を行っています。普通のCDプレーヤーより、かなり直径の大きなベルトが使われているので、交換の際には注意が必要です。

このメカはケーブルを含めPD-T01と全く同じ物が使われており、ウチでもピックアップの寿命が尽きたため、PD-T01のメカを外してPD-UK5に移植し問題なく動作しています。

メカ ピックアップとスピンドル

メカベース メカの上下と
トレイ開閉用の機構




(出力端子とリモコン)
出力端子はアナログが固定の1系統。デジタルも光の1系統です。他にシンクロ端子があります。

アナログとデジタルの出力端子

上:PD-UK5(1994年)
下:PD-T07(1990年)


Pioneer PD-UK5のスペック

形式 CDターンテーブル方式
D/Aコンバータ 1bitDAC
Pioneer PD2028B
デジタルフィルター Pioneer PD0116A
波形再現回路 レガート・リンク・
コンバージョン・システム
サーボ回路 アナログサーボ
周波数特性 2Hz〜20kHz
高調波歪率 0.0017%以下
ダイナミック
レンジ
99dB以上
S/N比 115dB以上
チャンネル
セパレーション
110dB以上
消費電力 11W
サイズ 幅420×高さ131×奥行286mm
重量 5.0kg (実測重量 4.8kg)




TOP
CDプレーヤー
アンプ
スピーカー
カセットデッキ
チューナー
レコードプレーヤー
PCオーディオ
ケーブル
アクセサリー
歴史・年表
いろいろなCD


Pioneer・パイオニア PD-UK5 B級オーディオ・ファン