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SONY CDP-750

     1987年 定価39,800円



SONYのCDP-750は、1987年9月に発売されたエントリークラスのCDプレイヤーです。

日本国内で販売されただけでなく、アメリカやヨーロッパにも輸出されたモデルで、特にアメリカではCDP-750にデジタル出力を取り付けたものを、CDP-207ESDと名付け「ESモデル」として販売されました。

1987年はまだ、4万円以下のCDプレーヤーの数が少なく、ライバル機は多くありません。NEC CD-410、Pioneer PD-6070、Technics SL-P120、TEAC PD-450、SHARP DX-A3など。



1986年はCDは発売から4年目となり、音の良さが一般にも浸透し、洋楽ブームと重なったこともあり、生産枚数はLPに追いつきます。

CDプレイヤーの売れ行きも好調で、各メーカーは春と秋に新商品を発売していました。価格競争も熾烈で、後から参入したTEACは業界で初めて4万円を切る「398」のCDプレーヤー、PD-200(フルコンポサイズ)を発売します。

同じ1986年にSONYは、ミニコンポサイズのCDP-M30を「398」で発売しますが、フルサイズのCDP-510はまだ49,800円でした。翌1987年の春にミュージックカレンダーと20キーを搭載したCDP-710を投入しますが、価格は49,800円のままでした。


1987年の秋に発売されたCDP-750は、39,800円という価格ですが、防振対策がされたシャーシに、左右独立のデュアルDAC、4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターを搭載するなど、1年前(1986年)に発売された、各社の59,800円のCDプレーヤーのスペック、内容を超えるモデルとして投入されました。

オーディオ業界では、いまだにエントリーモデルなどで、上級機の技術を継承したとか、惜しみなく投入などという宣伝文句が使われますが、内部を見てみると、似ても似つかない物で「真っ赤な嘘」ということが、よくあります。

CDP-750はエントリーモデルですが、ESシリーズで使われていたパーツやメカ、デザインが投入されています。


D/Aコンバーターは現在でも人気の、フィリップス製のTDA1541(デュアルDAC)を搭載。
デジタルフィルターは、前年発売のCDP-555ESDやCDP-333ESDに搭載された、4倍オーバーサンプリングのフィルターです。

サーボ回路は「SサーボII」で、これも上級機のCDP-337ESDやCDP-227ESD、CDP-R1などと同じです。

シャーシやメカは上級機のCDP-227ESDとほぼ同等で、樹脂と鋼板を組み合わせた、ハイブリッド構造による防振対策が施されています。


ディスプレィにはミュージックカレンダー、操作ではダイレクト選局用の20キーも装備されました。

機能はプログラムやシャッフル再生、5モードリピート、AMS、オートスペース、インデックスサーチ、タイムキーパーなどを搭載しています。


前モデルのCDP-710にはデジタル出力がありましたが、CDP-750では取り外されています。
でも当時はこのCDプレーヤーと組み合わせるような、安価な単品のD/Aコンバーターはありませんし、DAC搭載のアンプもなかったので、妥当な選択といえます。

ちなみに1988年にFM局の「J-WAVE」の開局時には、CDP-3000などといっしょに、このCDP-750も使われていたそうです。


CDP-750は上記のようなハイC/Pモデルのため、けっこう売れました。そのため、現在でもオークションの玉は豊富です。
価格も安価なため、昔から自作ファンにより、改造されたり、DACのTDA1541の部品取りにも使われています。



(音質について)
当時のエントリーモデルという「ドンシャリ」が相場でしたが、CDP-750の音質は違います。
中音域重視で少しメリハリをつけた明るめのサウンド。どんな曲でもボーカルの声を楽器の音が邪魔をするようなことは無く、聞きやすい作りになっています。

上級機のCDP-337ESDと聴き比べると、ちゃんとTDA1541の音がするのがわかります。

実はCDP-750のローパスフィルターは、1次のLCフィルターだけなので、そういう意味ではTDA1541の素の音に近いとも言えます。でも確かフィリップスは、3次のローパスフィルターを推奨しているので、これが正しい音ではありません。

レンジは狭いですし、解像度も悪く細部の音はつぶれています。高音の伸びや艶は不足気味。低音は厚いというほどではないですが、現在のCDプレーヤーと比べるとちゃんと出ています。

ジャンルとしてはロックやポップス向き。ジャズやクラッシックにはちょっと不向きです。


当時は1980年代の洋楽ブームの最中であり、加えて1970年代のヒットアルバムが、続々とCD化されて発売されたため、ロックやポップス、ソウルなどのCDがガンガン売れていました。

またエントリーモデルはオーディオファン以外の一般ユーザーの購入も多く、ロックやポップス向きの音造りをするのが普通でした。

特にSONYの場合は、価格帯別に7機種ものCDプレーヤーをラインアップしており、ジャズやクラッシックなど音質重視のユーザーのために「ES」シリーズが用意されていました。

それにも関わらず当時の評論家たちは、ユーザーニーズや開発コンセプトを理解せずに、CDP-750などエントリーモデルに対してもクラシック曲を使って製品レビューを書いていました。

当然、評価は良いものではないですし、的ハズレなものとなります。メーカー側もいい迷惑だったかもしれません。



(フロントパネル)
フロントパネルは樹脂製ですが金属ぽい処理がされているので、見た目では全くわからず触ってみて初めて気が付くぐらいです。

デザインはESシリーズを踏襲しており、ディスプレィ内にミュージックカレンダー、その横にダイレクト選曲用の20キーと、当時のSONYのCDプレーヤーのオーソドックスなスタイルとなっています。



動画の音はビデオカメラの内蔵マイクで
録音しているため、音質は良くありません。





(シャーシと内部について)
プラスチック製のシャーシを、鋼板製の天板(コの字型)と底板で囲むという構造になっています。

これによって底板とサイドパネルは2重化され、かつ振動係数の違う素材を組み合わせることで、外部からの振動を減衰させています。
実はこの手法はライバルメーカーの、YAMAHAやmarantzが得意とした設計方法です。

シャーシはプラスチックを使用していますが、防振対策がされているので、現在のエントリーモデルのペラペラな鋼板シャーシより鋼性は高いですし、内部損失もあるのでシャーシの性能としては上です。

また鋼板のシャーシで問題となる磁気歪に対しても、素材自体が非磁性なので影響が少ないというメリットもあります。


ピックアップ・ドライブメカのトップカバーは鋼板と制振素材を組み合わせた物が使用されています。

全体的にみても回路はなるべくシンプルにして、限られたコストをシャーシやメカの振動対策に振り向けているのがわかります。

発売当時はエントリーモデルとしては異例の防振性能でしたが、やはりコストがかかるのか、SONYは後継機のCDP-770以降は、エントリーモデルの防振対策は簡素化してしまいます。

また他社も結局、CDP-750並の防振性能を持つエントリーモデルは投入しませんでした。ということで現在に至るまでエントリーモデルとしては、CDP-750が最高クラスの防振性能を持っているかもしれません。


内部はいたってシンプルです。サーボ、システムコントロール、オーディオ、電源の回路をコンパクトな1枚の基板に配置しています。俗にいう「スカスカ」です。

スカスカといってもサーボや信号処理、システムコントロール回路はLSI化された上級機と同じものなので、電源回路とオーディオ回路で、どこまでノイズ対策や音質対策をやるかで、パーツ数と基板の大きさが決まります。

エントリーモデルはそこにお金が掛けられない訳ですが、この頃は他社の「898」クラスでも、ベークライト基板を使ったものがあったのに対して、CDP-750ではそれより2~3倍も高価な、ガラスエポキシ基板を使っています。


シャーシは「398」としては強力で、ボトムはプラスチックと鋼板の2重底。プスチック部分は強度を高めるために十字にリブ(桟)が入っており、上級機のCDP-227ESDとほぼ同じ構造です。インシューレーターはシャーシと一体成型。

天板はそこそこ厚みがあり叩いてもあまり鳴きません。また防振ゴムも貼ってあります。




(電源回路)
電源回路は簡素ながらデジタルとアナログを、分離した回路になっています。またICへの電源管理用に、トラッキングレギュレータ(三菱 M5290PとM5230)が使われています。

電源トランスは基板の上に設置にされています。メーカーはタムラ製作所で小さいながらも金属製のケースがついています。

電解コンデンサは一般品でELNAの「RE2」や日本ケミコンの「SME」です。

電源トランス 電源回路


(デジタル回路 サーボ・信号処理)
当時のサーボ回路や信号処理回路の技術では、SONYはトップクラスの技術力を持っており、そのICはDENON、KENWOOD、Pioneerなどのライバルメーカーにも供給されていました。

サーボ回路は「SサーボII」と呼ばれるもので、上級機のCDP-227ESDやCDP-337ESD、CDP-R1などと同じ物です。

ただ上級機と同じといっても、CDP-750ではサーボ量(ゲイン・利得)が、少し多くかかるように設定されているようです。

つまりCDの読み取りエラーが起こりにくくしてある訳で、その代わり音質は悪くなるという設定です。エントリーモデルのCDプレーヤーでは、よく使われている設定ともいえます。
サーボ回路の調整用のボリュームは5つ。

※サーボ制御用のチップは後期ロットではCXA1182も使われています。

モーターなどの制御を行うICは「CXA1082」。RFアンプは「CXA1081」です。

EFM復調やエラー訂正など、CDから読み取った信号を処理するシグナル・プロセッサは「CXA1125」です。 エラー訂正に使われるスタティックRAMはSANYO製の「LC9600P」です。

信号処理とサーボ回路 SONY CXA1082

シグナルプロセッサ
SONY CXA1125と

スタティックRAM
サンヨー LC9600P



(DAC・オーディオ回路)
フィリップス製のDAC、TDA1541(デュアルDAC)と、4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルター(CXD1088)は、上級機のCDP-227ESDと同じです。

この頃はエントリーモデルというと洋服のお下がりと同じで、数年前に上級機で使われていたDACが搭載されることが多かったのですが、CDP-750ではそういう慣例は適用されなかったようです。
※後期のロットにはTDA1541Aが搭載されています。


TDA1541の特徴はDEM(ダイナミック・エレメント・マッチング)を搭載していることです。DEMは出力信号をシフトすることで、素子のバラツキなどによるD/A変換の誤差を平均化し、高い変換精度を可能としていました。

TDA1541にはフィリップスのマークが付いていないので、通称「無印」とも呼ばれています。
1986~87年頃に日本に輸入されたTDA1541は、ほとんどが無印で、NECやPioneerなどのCDプレーヤーも、無印のTDA1541を搭載しています。


デジタルフィルターは、4倍オーバーサンプリングの「CXD1088」を搭載しています。

ノイズ成分を可聴帯域の20kHzから離れた、156.4kHzの周波数に移動できるため、D/A変換後のローパスフィルターの減衰(遮断)特性をなだらかにできます。これにより群遅延特性の改善や波形の再現性が向上します


DACの後ろのオーディオ回路は悪くいえば「貧弱」。よく言えば「シンプル&ストレートの見本」のような回路です。

DACの後ろにはオペアンプを使用したI/V変換回路があります。
ローパスフィルターはRCの1次。4倍オーバーサンプリングの、デジタルフィルターのおかげとはいえシンプルです。

その後ろにはエンファシス回路と、簡素なミューティング回路があります。

使用されている電解コンデンサは、数は少ないですがMUSEやDUOREXなどのオーディオ用コンデンサも使われています。

I/V変換用のオペアンプは三菱製のM5218。ヘッドフォン用の回路ではNEC製のμPC4570Cが使われています。

オーディオ回路 デジタルフィルター
SONY CXD1088

フィリップス製のDAC
TDA1541
I/V変換
ローパスフィルター
ミューティング



(ピックアップ・ドライブメカ)
メカは新型です。この頃はまだディスクを押さえるクランパーが上下する、チャッキングアーム方式のメカが主流でしたが、CDP-750のメカは現在のCDプレーヤーと同じ、クランパーの位置を固定して、ピックアップやモーターが、上下にリフトする方式のメカです。

当時は「バーティカル・クランパー」方式などとも呼ばれ、ディスクのクランプ(固定)がアーム方式に比べて正確で、回転の際に偏芯や面振れが少なくなると言われていました。

上級機のCDP-337ESDは、まだチャッキングアーム方式ですので、上級機の「お下がり」が当たり前の、エントリーモデルとしては異例のことです。


メカベースは樹脂製ですが、しっかりしたものです。4点支持のフローティング、鋼板製(ブラック・セラデッドかもしれません)のトップカバーやトレイの振動防止ホルダーの装備など、「398」モデルとはいえキチンとした防振対策がほどこされています。

このメカ部分の防振対策はとても重要で、読みとり精度の安定とサーボの負荷の低減につながるため、音質にもけっこう影響します。エントリーモデルとはいえ、ここの手を抜かなかったのは、当時のSONYのポリシーが出ていると思います。

トレイはシングルCDにも対応。ピックアップにはKSS-150Aを使用し、スライド機構はギヤ式です。
このメカの裏側にはトレイ駆動用のモーターやプーリーがあり、ゴムベルトの交換は簡単です。

ちなみにこの頃のSONYのCDプレーヤーのピックアップはCDP-227ESDがKSS-151A、CDP-337ESDやCDP-557ESD、CDP-R1はKSS-190Aとモデルのグレードによってピックアップを使い分けています。


(メカのメンテナンス・修理)
この時期のSONYのCDプレーヤーはともかく品質が良くて丈夫です。CDP-750は安価なエントリーモデルですが、今までにゴムベルトを1回交換しただけで故障しらずです。

よく誤解をしている人がいますが、DVDやブルーレイを含めて「SONYタイマー」などといわれるのは、2000年代に入り海外生産や、シャープなどからOEMを受けるようになってからの話です。

トレイ開閉用のベルトはメカの裏側にあります。トレイの前面カバーを外して、メカの取付ネジを外し、メカを裏返せば簡単に交換できます。
ギヤのグリスは以前の機種とは違い、劣化しても固着しないタイプ。25年以上たちましたが、粘度もそれほど上がっておらず問題なく動作しています。

またCDP-750には緊急用のトレイ開閉機構があり、底板の穴にドライバーを入れて回してやると、トレイを開閉できます。

ピックアップはKSS-150Aで、SONYのエントリークラスのCDプレーヤーに多く使われていたものです。KSS-210AやKSS-212Aと互換性があるため、それらの交換用のドナーとして使うこともできます。

トップカバーを
はずしたところ
ピックアップ
KSS-150A

メカの裏側 トレイの振動防止用
ホルダー

トレイ開閉用のギヤ ベルトが切れたりして、トレイが開かなくなった時に使用する、緊急用のトレイ開閉用の機構



(出力端子・リモコン)
出力端子はアナログ1系統だけで、左側にカセットデッキとのシンクロ用の端子があります。リモコンの型番はRM-D450。
出力端子 リモコン RM-D450


上:CDP-750(1987年・39,800円)
下:CDP-337ESD(1987年・89,800円)

SONY CDP-750のスペック

周波数特性 2Hz~20kHz±0.3dB
高調波歪率 0.003%以下
ダイナミックレンジ 95dB以上
S/N比 102dB
チャンネル
セパレーション
95dB以上
消費電力 10W
サイズ 幅430×高さ100×奥行340mm
重量 5.0kg





SONYのCDプレーヤー

CDP-555ESJ CDP-552ESD
CDP-X55ES CDP-XA3ES
CDP-333ESD CDP-101
CDP-302ES CDP-303ES
CDP-301V SCD-XB9


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