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Technics SL-PS770D

     1997年 定価59,800円



テクニクスのSL-PS770Dは、1997年9月に発売されたCDプレーヤーです。発売順からいうとSL-PS860(1994年・54,800円)の後継機という感じですが、実際にはドイツで生産されて、ヨーロッパで好評を得たSL-PS770A(1994年)の改良モデルです。

このSL-PS770Dもドイツで生産したものを、日本に輸入して販売していました。
※SL-PS770Aは1995〜96年のEISA AWORDを受賞しています。


1996年にDVDが発売されると、松下電器(現パナソニック)のような大手家電メーカーは、今後のAV(オーディオ・ビジュアル)の中心的な商品となると考え、DVDプレーヤーの開発・販売に力を入れます。

DVD(VIDEO)は、フォーマット上では24bit/96kHzとCDの16bit/44.1kHzよりも、はるかに情報量が多いオーディオ性能を持っていました。また次世代オーディオディスクとして、DVDオーディオ(24bit/192kHz)の開発も進められていました。

さらに全てのDVDプレーヤーには、CDの再生機能が搭載されており、これで代替できるとも考えていたようで、国内でのCDプレーヤーの生産は縮小したり撤退が行われます。

しかし実際には普及価格帯のDVDプレーヤーは、きちんとしたシャーシやオーディオ回路を持っていないため、音質が悪くピュアオーディオ用に使えないものが大半でした。
そこで白羽の矢がたったのが、ドイツで生産されていたSL-PS770Aだったのではないかと思います。


D/Aコンバーターは「S-アドバンストMASHクラスA DAC」です。
従来のMASHが1つのIC(LSI)の中に、デジタルフィルターとMASH(multi-stage noise shaping)と呼ばれる、ノイズシェーピング回路と、PWM(Pulse Width Modulation・パルス幅変調)回路、デジタル信号をアナログに変換するローパスフィルターを内蔵していました。

それに対し、「S-アドバンストMASHクラスA DAC」では、デジタルフィルターとMASH、PWM回路で1つのICとして、アナログに変換回路を分離してをL・R独立のICとしました。
これにより、D/A変換部へのノイズの影響を低減しています。


SL-PS770D以降に発売されるSL-PG480Aや、SL-PG5などでは、MASHは「スーパー1チップ」が使われています。このスーパー1チップは、DACとサーボなどのデジタル回路を1つのICにしたもので、音質よりもコストダウン優先のゼネラルオーディオ用のICです。
実はSL-PS770Dにも搭載されており、デジタルサーボと信号処理回路だけが使われています。

そういう意味ではSL-PS770Dは、ピュアオーディオ用の「MASH」を搭載した、最後のCDプレーヤーということになります。


電源部はテクニクス独自の、バーチャルバッテリーオペレーション回路を採用し、家庭用電源やデジタル回路で発生するノイズが、オーディオ回路に侵入するのを防いでいます。

シャーシの底板は鋼板と樹脂による2重底の、THCB(テクニクス・ハイブリッド・コンストラクション・ベース)を採用して、外部からの振動を抑えています。

SL-PS770Dで一番特徴的なのは、フィリップス製のメカ「VAM1201」が搭載されていることです。VAM1201はCDM-12の改良型で、マランツのCD-16DやCD-17DAにも使用されています。

実はテクニクスのCDプレーヤーでもドイツ製のものには、フィリップス製のメカが多く使われており、発売時期などによってCDM-4、CDM-12、VAM1201など、いろいろなメカが使われています。
当時は物流費が高かったので、日本から送るよりもヨーロッパで調達したほうが、コストが安かったのかもしれません。



(音質について)
テクニクスサウンドですが、1990年代のサウンド(SL-PS700、SL-PS840、SL-PS860)とは違い、音は少し硬めで低音にアクセントを付けた、1980年代後半のサウンドに近いです。

レンジや音場は狭いですが透明度や解像度はあります。ボーカル域と高音に山を作っている感じ。低音にはメリハリを付けてあり、全体としてはエントリーモデルでよくあるタイプの音になっています。
ジャンルとしてロックやJPOP向き。



(フロントパネル)
SL-PS70〜SL-PS860までのデザインと異なり、トレイが上でディスプレィが下というデザインになっています。

パネルの右側には再生、早送りなどの操作ボタンや10キー、プログラムなどのボタン。左側にはピークサーチやオートキューなどテープ、MD用の編集機能のボタンがあります。





(シャーシと内部について)
シャーシは鋼板製。底板には以前から使われていたTNRC(テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)ではなく、THCB(テクニクス・ハイブリッド・コンストラクション・ベース)というものになっています。

カタログでは粘弾性体となっていますが、見た目も触った感じも以前の樹脂(BMC)と変わらないので、テクニクスお得意のただ名前を変えたものだけかもしれません。

天板も鋼板製ですが防振材は貼られていません。インシュレーターは樹脂製です。

内部は中央にメカがあり、その下にデジタルサーボの回路があります。奥には電源トランス。右側のメイン基板は前がシステムコントロール用の回路、奥は左側が電源回路で右側がオーディオ回路となっています。メカの左側の小さな基板はヘッドフォン用の回路です。


THCBの底板 インシュレーター



(電源回路)
電源トランスは別巻線。電源回路は7系統に分けた独立電源です。

電源回路には、バーチャルバッテリーオペレーション回路が採用されていますが、実際にはI/V変換や差動合成などオーディオ回路の一部への電源しか対応しておらず、DACを含めた他の回路は、通常の定電圧回路で供給しています。

当時はバーチャルバッテリーオペレーション回路について、バッテリー駆動と同様に家庭用電源のノイズや電圧変動を受けずに、クリーンで安定した電力の供給ができるというような解説もされていました。
ただバッテリーというには、電気を蓄える電解コンデンサの容量が、少ないなど疑問な点もいくつかありました。

SL-PS770Dの回路は、SL-PS840やSL-PS860に比べると簡略化されており、どちらかというとノイズの発生源となるレギュレータやツェナーダイオードの代わりに、MOS-FETを使用してノイズの少ない定電圧回路を作っている感じです。


電解コンデンサは、竹繊維混抄セパレーターを使った松下製の「X-PRO」やなども使用しています。
電源コードはメガネ型コネクタの着脱式です。

電源トランス 電源回路

松下 X-PROコンデンサ



(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール)
サーボ回路はデジタルサーボで、ピックアップ・ドライブメカの下に基板があります。デジタルサーボ用の「MN66271RG1」、サーボアンプ「AN8805SBE1」、アクチュエーターやモーター用のドライバー「AN8389SE1」などのLSIがあります。

このうち「MN66271RG1」はサーボ回路だけではなく、CIRC復調や誤り訂正などの信号処理やデジタルフィルターそしてD/Aコンバータまで入っている、いわゆる「スーパー1チップLSI」です。

スーパー1チップLSIは、コストダウンのために作られたゼネラルオーディオ用のチップで、デジタル回路とオーディオ回路がいっしょになっているため、ノイズの影響が大きくピュアオーディオ用には向きません。

そこでSL-P770Dではサーボと信号処理機能だけを使用し、デジタルフィルターとDACは独立した高性能のものを使用しています。ちなみにこのような使い方はSL-PS860やYAMAHA CDX-580でも行われています。

システムコントロール用のマイコンは、メイン基板にありNEC製の「μPD78042A014」が使われています。

メカの下にあるサーボ回路 マイコン
NEC μPD78042A014



(DAC・オーディオ回路)
D/Aコンバーターは松下製の1bit・DAC「MASH」です。以前のMASHは1チップでしたが、SL-PS770Dに使われている「S-アドバンストMASHクラスA DAC」は、D/A変換部へのデジタルノイズの影響を低減するために、内部の回路を分割し3つのチップで構成されています。

デジタルフィルターと、MASH(multi-stage noise shaping)と呼ばれるノイズシェーピング回路、PWM(Pulse Width Modulation)変調回路は「MN67433」というICに収められています。
ノイズシェーピングは改良されて4次となり、デジタルディエンファシス回路も内蔵しています。


D/A変換部は「AN96A08SE2」というICに収められれています。ICは中に4個のDACを内蔵していますが、このうちの2個のDACを使用して差動回路としています。

これを左右独立で使用することで、チャンネル間クロストークを低減しています。

また従来のICはC-MOSでしたが、バイポーラに変更してパルス波形のオーバーシュートやアンダーシュートを抑制して、安定したD/A変換を行っています。

ちなみに、当時の補修部品の価格表では、MN67433が1個2800円。AN96A08SE2が1個600円となっています。


DACの後ろの回路は差動合成、ローパスフィルター、ラインアンプ、ミューティング回路を通って出力されます。



オペアンプはディファレンシャルアンプに、三菱製の「M5238FP」とJRCの「4580」。ローパスフィルターにはJRCの「4580」を使用。ヘッドフォンアンプはローム製の「BA4560N」が使われています。

電解コンデンサは松下(パナソニック)製のオーディオ用「Pureism」や、ノイズ除去能力や周波数特性に優れたサンヨー製のOSコンなどが使われています。

当時のサンヨーはまだパナソニックの子会社では無かった訳で、自社(パナソニック)製のコンデンサを押しのけて、価格の高いOSコンを使ったのは英断だったかもしれません。

オーディオ回路 サンヨー OSコンデンサ

1bitDAC・MASH
MN64733
1bitDAC・MASH
AN96A08SE2


(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカはフィリップス製の「VAM1201」を使ったメカです。VAM1201は「CDM12」の改良型で、型番は違いますが内容はほとんど同じです。トレース能力の高い3ビームピックアップとリニアトラッキング(ワームギヤによるスライド機構)を備えています。

ネットなどでは、フィリップスというブランドや過去のCDMメカの評判、海外の一部の高級機に使われていることから、CDM-12やVAM1201も音が良いという人もいます。

実際には国内外のメーカーのエントリーモデルやポータブルCDプレーヤーなどに、たくさん使われていることからもわかるとおり、コストが安くメカとしてのレベルはそれほど高くはありません。

1980年代後半〜1990年代始めの、国産機の6万円クラスのメカと比べても、防振能力やスピンドルモーター、ピックアップを移動させるスライド機構など、どれをとっても貧弱です。

メカベースABS樹脂製で、VAM-1201をスプリングと粘弾性材でフローティングしています。クランパーはディスク・スタビライザーとなっており、ディスクの振動を抑えて、安定した読み取りを実現させています。

トレイの開閉はSL-PS860までのスイングアームではありませんが、ゆっくりとした静かな開閉が可能です。

ピックアップ・ドライブメカ ディスク・スタビライザー

フィリップス VAM1201 スピンドルモーターと
ピックアップの裏側

スライド用のスレッド
モーターとギヤ


(出力端子とリモコン)
リアパネルのアナログ出力は固定1系統、デジタル出力は光学1系統です。リモコンの型番はEUR642101。

出力端子


上:SL-PS770D(1997年) 下:SL-PS700(1991年)


Technics SL-PS770Dのスペック

周波数特性 2Hz〜20kHz ±0.3dB
全高調波歪率 0.0023%
ダイナミックレンジ 98dB以上
S/N比 100dB以上
チャンネル
セパレーション
110dB以上
消費電力 14W
サイズ 幅430×高さ114×奥行290mm
重量 4.0kg (実測重量 4.0kg)




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