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KENWOOD DP-7060 |
1994年 定価60,000円 |
KENWOODのDP-7060は、1994年9月に発売されたCDプレイヤーです。FM fanのダイナミック大賞の優秀推薦機。 ライバル機はSONY CDP-XA3ES、DENON DCD-1515AL、Pioneer PD-UK5など。 →1994〜95年の「6万円クラス」CDプレーヤーの比較 DP-7060のD/Aコンバータは現在でも人気の高い、フィリップス製のビットストリーム1ビットDAC「DAC7」を搭載しています。 DAC7には2つのタイプがありますが、DP-7060はSAA7350とTDA1547の2つの異なるDACを組み合わせた物です。 DAC7などの1ビットDACの登場により、従来の抵抗型DACよりも高精度のD/A変換が可能となり、ゼロクロス歪や非直線歪が発生しないことで、低いレベルの信号の再現度が向上しました。 そこで問題になったのが、デジタルフィルターの能力不足です。デジタルフィルターの目的は、あくまでもノイズを低減することで、DACの後ろにあるアナログフィルター(ローパスフィルター)のパーツを少なく(軽く)して、音質の劣化を防ぐことなどです。 この時、音楽信号の大小のレベルに関わらず、決まったフィルター処理しかできないため、小さいレベルの信号のクオリテイが、低くなる傾向がありました。 そこで各社はデジタルフィルターの音質向上の技術を投入します。 SONYのフル・フィードフォワード方式、DENONのALPHAプロセッサーの適応型デジタルフィルター。 そしてKENWOODのD.R.I.V.E.(Dynamic Resolution Intensive Vector Enhancement)システムです。 D.R.I.V.E.システムは、デジタルフィルターの後ろに取り付ける適応型のデジタルフィルターです。 従来のデジタルフィルターが音楽信号のレベルに関係なく、ノイズ成分がある高周波をカットする「カットオフ周波数」を一律にしていたのに対し、適応型のデジタルフィルターは信号のレベルに合わせて、カットオフ周波数を変える仕組みになっています。 ネットで検索すると、デジタルフィルターのカットオフ周波数の計算式(関数)が、たくさん出てきます。これの通り計算すれば問題ないのかというと、オーディオの世界ではそんなに簡単ではありません。 遮断特性カーブの緩急によって音質は大きく変わりますし、過渡応答や位相に対して、適正な補正をしてやらないと、デジタル信号に歪が発生して音質が悪化します。 音楽信号のレベルが小さいほど、聴感上ではこれらの影響が大きくなることがあり、信号レベルに応じたフィルターをすることで、細部の再現性の向上をはかっています。 またデジタルフィルターでは、CDの16bitの信号を8倍オーバーサンプリングして、元の信号の間に新しい信号を補間(インターポーレーション)して、信号の波形を滑らかにしています。 しかし20bitのデジタルフィルターでも、小レベルの信号は16bitの分解能しか得られないため、ステレオ時代の記事のようにカクカクした信号になってしまいます。 D.R.I.V.E.システムでは、この信号をさらにローパスフィルター(適応型のデジタルフィルター)に通すことで、原音の波形に近い滑らかな信号にしています。 D.R.I.V.E.システムは、アプローチの仕方は違うものの、機能的にはDENONのALPHAプロセッサに近い波形再現技術と言えます。 DAC7はクロック・ジッターの影響を受けにくい、スイッチド・キャパシタ方式を採用していますが、DP-7060では正確な基準信号を発振するアドバンスド・ハイプレシジョン・マスタークロックを搭載して、精度の高いD/A変換を可能としています。 DACの後ろのオーディオ回路には、Super C4(スーパー・コンスタント・カレント・カスコード・サーキット)による差動増幅回路を採用しています。この回路はオペアンプを使用しないディスクリート構成で、marantzの「HDAM」のKENWOOD版とも言えます。 機能はプログラム再生やリピート、エディットやオートスペースなどの編集機能を搭載してます。 DP-7060はマランツのCDプレーヤーなどで、評判の良かったDAC7を搭載し、これまた評判の高かった、Pioneerのレガートリンク・コンバージョンやDENONのALPHAプロセッサと同様に、波形再現技術を取り入れたD.R.I.V.E.システムを搭載。 そしてマランツのHDAMにそっくりなSuper C4と、ライバル社の看板となるDACや機能、回路を詰め込んだ、いいとこ取りのCDプレーヤーです。 そして、これらのDACや回路はコストもかかりますので、6万円という価格を考えるとお買い得なCDプレーヤーです。 でも、そのおかげで他の回路にしわ寄せが出たり、ライバル機と比べるとグレードの低いパーツを使用するなど、6万円でやったために無理が出ている部分もあります。 歴史の世界では「if」がつきものですが、もう少し定価を高くして、電源やシャーシなどの強化を行い、メカやパーツに良い物を使えば、もっとすごいCDプレーヤーになっていたと思います。 |
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(音質について) | ||||||||||||||||||||||||||||||
DAC7の持ち味はアナログ的な音です。アナログっぽい音といっても、レコードプレーヤーのカートリッジによって、いろいろなサウンドがあったように、CDプレーヤーの場合もいろいろとあります。 人によってはCDプレーヤーは、レコードプレーヤーに比べて、音の温かみや艶が劣るという事を言う人がいますが、それは現在のCDプレーヤーの音が悪いのであって、1980年代〜90年代にはウォームトーンや艶がきっちりと出るCDプレーヤーが、いくつもありました。 こういう風に書くとDP-7060の音を期待したくなりますが、そう簡単ではありません。 ソース(音源・曲)によって、DAC7の良さが出るものもあれば、かえって悪い方に出ることもあるので、ある意味使い方が難しいCDプレーヤーです。 ポイントはDP-7060が、けっしてウォームトーンや柔らかい音では無く、少し硬めのサウンドだからかもしれません。 つまり音はフィリップス・トーンではなく、やはりKENWOODのサウンドなのです。 当時のKENWOODの音は、どちらかというとSONYのサウンドに近く、それをフィリップスのDAC7が「そっちにいっちゃダメ!!」と、引き戻そうとしている感じで、音づくりとしては中途半端な部分も感じます。 ライバル機のSONY CDP-XA3ESやDENON DCD-1515ALと比べると音はフラット気味。音にキレや艶などを求める人には、向かないかもしれません。また低音も弱いです。 ある程度、広いリスニングルームで、フロアスピーカーなどで、大きな音でゆったりと流す部分には良いかもしれませんが、小型スピーカーで家族や隣家に迷惑がかからないぐらいの音だと、解像度や透明感、レンジなどにも不満が出ることもあると思います。 いくつかのアンプやスピーカーを組み合わせてみましたが、けっこう相性も出ます。スピーカーによってはサ行がきつくなる場合もあります。 単純に音の良し悪しで言えば、1990年代の1ランク上のモデル、DENON DCD-1650GL、DCD-1650AR、SONY CDP-555ESJなどには、まったく歯が立ちません。 D.R.I.V.E.システムの効果ですが、正直これも解りません。細部や小レベルの再現性でいうと、同じKENWOODのD.R.I.V.E.非搭載のDP-8020や波形再現機能の無いSONY CDP-XA3ESのほうが上です。 D.R.I.V.E.システムは後付のデジタルフィルターです。そう言うとNPCのデジタルフィルター「SM5843AP」の、性能が悪かったように思えてしまいますが、実は当時としては高性能のデジタルフィルターです。 採用しているメーカーも多く、ESOTERIC X-50w、X-10w、D-3、TEAC VRDS-25、VRDS-25X、VRDS-25XS、DENON DCD-S1、Accuphase DP-75、NAKAMICHI DRAGON-DAC、ONKYO C-1E Integraなど、当時のハイエンドや高級機に数多く搭載されています。中でもTEAC VRDS-25シリーズとDENON DCD-S1は現在でも、名機として評価が高いモデルです。 逆に言うとDAC7とSM5843APという、当時としては音質的には最強のコンビを使いながら、何でこの音なの?という部分はあります。 DP-7060はDACやデジタルフィルターが良くても、コンデンサなどのパーツは、けっして音の良い物を使っている訳ではありませんし、DAC7の能力を発揮させるのに必要な電源回路もありません。 なんだかんだ言っても6万円のCDプレーヤーです。音の部分にも欠点や限界があります。 |
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(フロントパネル) | ||||||||||||||||||||||||||||||
フロントパネルは、先代のDP-7040やDP-7050では、スピーカーの音圧による影響を抑えるために、3mm厚のアルミ材を使用していましたが、DP-7060ではコスト削減のために1mm厚に変更されています。 デザインはセンターメカをやめて、左側にディスクトレイ、右側にディスプレィや操作ボタンという旧来のデザインに戻りました。 操作ボタンも一通りのボタンがあるので、リモコンが無くても、十分に操作ができます。マイコンノイズ対策のディスプレィのON/OFFスイッチもついています。 |
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(シャーシと内部について) | ||||||||||||||||||||||||||||||
以前のDP-7040やDP-7050では、ボックスを左右に配置したツインビーム構造でしたが、DP-7060ではそれをやめて、両端にフレーム、センターにビームを配置したオーソドックスな構造になりました。 底板は1.6mm厚の鋼板製です。天板は薄い鋼板製で、音のチューニングのために、左側面に細長い鋼板が取り付けられています。(取り付け方が雑) 内部のレイアウトはDP-7040やDP-7050が、センターメカをはさんで、デジタルとアナログ回路を分けて、ノイズの干渉を押さえていたのに対し、DP-7060では1枚の基板にデジタルとアナログ回路が同居しており、設計的には退化したと言わざるを得ません。 左側にメカと電源トランス。メイン基板は左側の手前にシステムコントロールとサーボ回路。その奥が電源回路。 右側は手前にD.R.I.V.E.システム。その後ろにオーディオ回路があります。 |
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(電源回路) | ||||||||||||||||||||||||||||||
電源回路のトランスはDP-7050よりも大型な物になりましたが、コストダウンのために、磁束漏れ(リーケージフラックス)防止用のケースは無くなりました。 トランスは4系統の別巻線で、電源回路ではデジタルとオーディオはもちろん、さらに系統を細分化した独立電源になっています。 ただDACとオーディオ回路用の電源部は、ライバル機のSONY CDP-XA3ESやDENON DCD-1515ALと比べると、かなり貧弱で音質への悪影響は避けられない感じです。 DAC7のうちTDA1547はスイッチド・キャパシタ型のため、消費電力が少ないと考えたのかもしれませんが、SAA7350の方は小さな電圧の変動でも歪みやノイズが発生します。そのため電源の安定化がポイントとなります。 また電源コードはエントリーモデル並みの細い並行コードで、これでは電源回路の能力を全く発揮できないですし、音質の悪化にもつながっている可能性があります。 電解コンデンサは日本ケミコンのSME(一般品)などを使用しています。 |
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(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール) | ||||||||||||||||||||||||||||||
DP-7060のサーボ回路はデジタルサーボです。 デジタルサーボの場合、ピックアップのトラッキングゲイン(エラー)やフォーカスゲイン(エラー)の調整ボリュームが無いため、ディスクが読めない場合は、ピックアップの交換という話になってしまいます。 しかしDP-7060のピックアップ「KSS-240A」には、トラッキングバランス(TB)と、レーザーパワーのボリュームが付いており、これの調整で、ディスクの読み取りが可能になる場合があります。 トラッキングバランスはRFアンプのゲインの調整用ですが、このゲインによって、トラッキングエラー信号の中心値(ピーク値とボトム値の中間値)を調整できるため、あたかもアナログサーボのトラッキング・ゲインの調整のような使い方が可能です。 またレーザーパワーの調整(光の強弱)によっても、信号のエラー値が変わるため、デジタルサーボが自動的に、フォーカスエラーやトラッキングエラーを最適な状態に調整します。 サーボ回路は宣伝文句では「アキュレートリニアフォーカスサーボ」という名前が付いていますが、実際はSONY製のサーボ制御ICが使われています。 このICはデジタルシグナルプロセッサ「CXD2515Q」で、デジタルサーボ回路の他に、復調やエラー訂正などの信号処理の回路も内蔵しています。 システムコントロール用のマイコンはNEC「μPD78044AGF」です。 |
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(DAC・オーディオ回路) | ||||||||||||||||||||||||||||||
D/Aコンバータはフィリップス製の1ビットDAC「DAC7」ですが、残念ながらコンデンサなどのオーディオ回路のパーツは、低いグレードの物が使われており、その足を引っ張る形になっています。 DAC7には2つのタイプがありますが、DP-7060はSAA7350とTDA1547の2つの異なるDACを組み合わせた物です。 1つ目のDAC「SAA7350」では、デジタルフィルターを通って20bitにアップコンバートされた音楽信号を、PDM(パルス密度変調)によって、1bitデータにと変換します。 この際に量子化ノイズが発生しますが、2次のノイズシェイピング回路で、ノイズを低減しています。 2つ目のDAC「TDA1547」は、スイッチド・キャパシタ型と呼ばれるDACです。名前のとおりキャパシタ(コンデンサ)とスイッチを組み合わせた回路になっています。 従来の抵抗ストリング型のDACのような、製造時のバラツキが少なく高精度を得やすく、クロックジッターの影響を受けにくいという特徴があります。 PDM(パルス密度変調)は、現在のSACDやハイレゾのDSDに使われている方式です。 密度というのはパルス(ビット列)の密度のことで、この密度によって音楽信号の波形を記録しています。PWM(パルス幅変調)とは違い1つのパルスの幅は同じです。 現在、ネットではPDMとPWMやマルチビットを混同している説明がけっこう多く、特にDSDの説明ではひどいです。 オーディオ機器でのPDMとPWMは、目的や機能、メリットやデメリット、そして音質を勘案して使い分けがされています。 TDA1547は内部にはI/V変換用のオペアンプがあり、電圧出力とオペアンプを通す前の電流出力が可能です。 ネットでは電圧出力しか無いようなことを書いている人もいますが、ピン番号10、11、22、23番と、ちゃんと電流出力の端子があります。 TEAC VRDS-10SEではこの端子を利用して、外付けのI/V変換回路を付けた電流出力DACとしていますし、DACを自作する人たちの中でも電流出力を利用している人は多いです。 DP-7060では電圧出力(厳密にいうと両方の出力を利用)ですが、電圧出力だから即、音が悪いという訳ではありません。 DAC7のうちTDA1547は、クロック・ジッターの影響を受けにくいのですが、SAA7350はクロック・ジッターの影響を受けるため、アドバンスド・ハイプレシジョンマスタークロックを搭載しています。 普通のクロックの10〜30倍という純度があり、Source Follower回路をベースにして、ゲインを1以下にして、外来ノイズを増幅しないようにしています。 デジタルフィルターは、20bit・8倍オーバーサンプリングのNPCの「SM5843AP」です。 ロールオフ特性はシャープロールオフで、3段のFIRフィルタを持ち、207次(153/25/29)の演算により、リップル特性±0.00003dB以内、阻止帯域の減衰量110dB以上という能力を持っています。 D.R.I.V.E.システムは、デジタルフィルターの後ろに取り付ける、適応型のデジタルフィルターです。 内部にはカットオフ周波数の違うローパスフィルター回路がいくつもあり、コントロール回路が周波数成分とレベルをチェックして、最適なローパスフィルターを選択する仕組みになっています。 この時に周波数によって、ローパスフィルター内を通過する時間が異なる(マイクロ秒の単位)ため、遅延器を使用して各ローパスフィルターの遅延量を合わせています。 DACの後ろは、ディスクリート構成のSuper C4(スーパー・コンスタント・カレント・カスコード・サーキット)による差動増幅回路となっています。 その後ろの差動合成には、オペアンプ「JRC 4580L」が使われています。ローパスフィルターはフィリップスの推奨よりも「軽い」です。音質的にも影響していると思います。 電解コンデンサは日本ケミコンのSME(一般品)です。 |
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(ピックアップ・ドライブメカ) | ||||||||||||||||||||||||||||||
ピックアップはSONY製のKSS-240Aです。受光素子と電流電圧変換アンプを同じ基板上に集積したOEIC(Optical Electrical
Integrated Circuit)を使用しており、光信号から電気信号への高速処理が可能です。 ピックアップのスライド(トラバース)機構はギヤ式です。 これらのユニットはフローティングされています。メカベースは樹脂製です。 メカの台座部分(最近は諸事情により、この部分をメカベースと呼ぶメーカーが多い)は、底板の上に鋼板製のボックスを作って、メカを取り付けています。 メカ本体の側面はプラスチック製のカバーで、複雑なパターンにより強度の向上と振動の減衰をしています。上部(トップカバー)はアルミパネルです。 |
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(出力端子・リモコン) | ||||||||||||||||||||||||||||||
アナログ出力は2系統。デジタル出力端子は光学式が1系統、他にケンウッドのシンクロ接続端子(XS8モード)があります。 |
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リアパネル | ||||||||||||||||||||||||||||||
上:KENWOOD DP-7060 下:SONY CDP-XA3ES |
周波数特性 | 4Hz〜20kHz |
高調波歪率 | 0.0017%以下 |
ダイナミック レンジ |
100dB以上 |
S/N比 | 105dB以上 |
チャンネル セパレーション |
100dB以上 |
サイズ | 幅440×高さ127×奥行319mm |
消費電力 | 16W |
重量 | 6.5kg |
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