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SONY CDP-X55ES 

     1989年 定価90,000円



SONYのCDP-X55ESは、1989年10月に発売された「ESシリーズ」のCDプレイヤーで、SONYのCDプレーヤーとしては初めて1bitDACが搭載されました。

ライバル機はmarantz CD-80、DENON DCD-1650、SANSUI CD-α717D Extra、YAMAHA CD-1030など。
このうちSANSUIとYAMAHAは松下電器(現パナソニック)から、同じ1bitDACの「MASH」の供給を受けて搭載していました。


CDP-X55ESはSONYが新しく開発した1bitDACの「パルスD/Aコンバーター」を、搭載したCDプレーヤーです。当時はこれを「ハイデンシティ・リニアコンバーター・システム」と名付けていました。

1bitDACは構造上、当時のマルチビットDACで問題になっていた、グリッチ歪やゼロクロス歪、微分非直線歪などが発生しません。また解像度(分解能)が高く、音をなめらかに再生できるなど、理想的なDACと考えられていました。

ふつうのマルチビットDACは、ビット数とサンプリング周波数で分解能が決まりますが、1bitDACはマスタークロックの周波数で分解能が決まります。

CDP-X55ESのDAC「CXD2552」の、最高動作周波数は50MHz(毎秒5000万パルス)で、分解能の細かさにより、滑らかな音の再生を実現しています。
また、パルス波形のハイ・ロー(立ち上がり、立下り)も音質に影響するため、「Sony Extended Noise Shaping」で、高い密度のパルスを生成しています。

このCXD2552は内部に4個のDACを内蔵しており、片チャンネルあたり2個のDACを使用して差動出力します。デジタルフィルターは、45bit・8倍オーバーサンプリングです。

シャーシは、フレームとビームにより高い強度と剛性を持つ「FBシャーシ」です。このシャーシは銅メッキが施されており、磁気歪みの影響を抑えています。

ピックアップの移動はリニアモーターで、ギヤ式のような振動が発生せず、高速なディスクアクセスを可能としています。またメカニズムのベースは、SONYのアンプで採用されている、適度な内部損失と剛性を持つ「ジブラルタルシャーシ」と同じ素材の「Gベース」を採用しています。インシュレーターには「ファインセラミック」材を使用しています。

これらにより振動を抑え、ピックアップの読み取りやトレース精度を向上させ、音質に有害なサーボ電流によるノイズの発生を防いでいます。

電源トランスはデジタルとオーディオ用を独立して搭載し、電源回路もデジタル部からオーディオ回路への干渉を防ぐために独立電源となっています。

機能しては、カスタムエディットや7つのリピートモード、インデックスサーチ、オートスペース、マルチモードタイマーなど、とてもたくさんの再生機能を持っています。



(CDP-X55ESの発売当時について)
CDP-X55ESが登場した1989年は「バブル」のまっ最中です。しかしオーディオメーカーは、1986年から始まったスピーカーの「598戦争」、アンプの「798」戦争、CDプレーヤーの「ハイビット競争」などで疲弊しており、SANSUIやA&D(アカイ)などは業績も振るわない状況でした。

CDプレーヤーは、各メーカーともに低価格モデルに軸脚を移していきますが、バブル期ということでSONY CDP-R3やTechnics SL-Z1000/SH-X1000のような、高価格モデルも投入されました。
「89,800円」というと、かっては売れ筋のラインアップでしたが、1988年を最後に新商品を投入しないメーカーも増えています。

SONYはこの年からESの「3」シリーズと「5」シリーズの、大幅の値下げを行いますが、CDP-X55ESの評判は今ひとつでした。

これは1bitDACの「パルスD/Aコンバーター」が第1世代だったことと、その使いこなし(チューニング)方法の経験値が低かったからかもしれません。

ライバルとなるTechnicsは、SL-P150やSL-P777に18bitDACと偽って、「MASH」を搭載してフィールドテストを行っており、DACの改良やチューニングのノウハウを蓄積。音が進化した第3世代のMASH「MN6742」が完成したところで、SL-PS70(1989年)に搭載して、大規模な1bitDACのコマーシャルを行いました。

このあたりの成果もあって翌年には、最強のエントリーモデルとも言えるSL-PS700(39,800円)が発売され大ヒット。1bitDACの普及が加速していきます。



(音質について)

全体としては少し硬めのサウンド。高音は普通ですが中・低音は充実しており、ネットで中低音がぶ厚いなどと言われるDCD-1650REよりも、低音は出ており音に芯があります。音場は広く定位もそこそこ良いです。

確かにパルスD/Aコンバーターの音の良さや、解像度の高さは感じられますが、CDP-555ESJに比べると、音はまだ「荒削り」です。レンジが狭く細部の解像度が劣り、音楽の表現力なども物足りません。

CDP-X55ESの後継機、CDP-X555ESではパルスD/Aコンバーターを倍の2個として、片チャンネルあたり4個のDACでD/A変換を行います。CDP-555ESAでは1チップに8個のDACが入った新型のDAC「CXD2562Q」を投入。そしてCDP-555ESJではセンターメカとなり、電源やメカ、オーディオ回路の強化を行われています。

つまりSONYはバブルの崩壊後も、「ES」シリーズには物量の投入を続けており、それが音の差となって現れていると思います。


オークションでは、たまにサイドウッドの無いCDP-X55ESが出品されますが、実はサイドウッドを外して使うことを想定して、付属品として外した時にネジ穴を塞ぐための、短いネジ(M4X6)が同梱されていました。

サイドウッドを付けると、高級感が増して見た目は良いのですが、設置環境によっては音がデッドになることもあります。もしかするとサイドウッドが無いほうが、音が良いと感じたオーナーも多かったのかもしれません。



(フロントパネル)
CDP-X55ESは、前年に発売されたCDP-X7ESDのデザインをベースにして、従来の「555」シリーズからは一新したデザインになりました。

今まで中央右側にあったディスプレィは、左側のトレイの下になりました。

ディスクトレイの開口部には、特殊ゴム材によるダンパーを設けたアコースティックシールドです。これによりトレイリッド(隙間)から侵入する、スピーカーの音の空気振動を抑えて、音質への影響を少なくしています。


ディスプレイのON/OFF機能があり、OFFや部分点灯によって、ディプレィから放出されるノイズを減らすことができます。

右下のシーリングパネル内には、カスタムファイルやマルチモードタイマーなどのボタンが13個も並んでいますが、取説が無いと操作方法がよくわかりません。

発売当時も不評だったのか、後継機のCDP-X555ESでは、マルチモードタイマーなどの機能を削減し、シーリングパネルも廃止されました。







(シャーシ・内部について)
シャーシーは銅メッキがされたFB(フレーム・ビーム)シャーシです。頑丈なフレームとフロントとリア、底板を結合する2本のビームにより、高い剛性を実現しています。

天板は1.4mm厚の制振鋼板のようです。裏側には黒とクリーム色のフェルトのような素材が貼られています。
底板は2mm厚のスリットの開いた鋼板で、14個のビスでしっかりと取り付けられています。リアパネルの鋼板はの厚さは1.4mm。

サイドパネルは2mmの銅メッキ鋼板と1mmの鋼板で、その外側にサイドウッドが付く3重構造になっています。サイドウッドは取り外すことも考慮されていたので、制振目的というより、音のチューニングが目的だったのかもしれません。

インシュレーターにはファインセラミック製です。

内部は左側にピックアップ・ドライブメカと電源トランス。ビームをはさんだ右側には手前からシステムコントロール、サーボ回路、奥の左側に電源回路、右側がオーディオ回路になっています。

弟分のCDP-X33ESはCDP-X55ESをベースに開発されたモデルで、かなりの部分が共通となっています。主な違いはサイドウッドの廃止、シャーシの銅メッキの廃止。電源回路とオーディオ回路は少し簡略化されています。


天板 底板

底板をはずした状態 ファインセラミック
インシュレーター



(電源回路)
電源回路のトランスはデジタルとオーディオ用を独立して搭載しています。このトランスはゴムパーツでフローティングされた、1.4mm厚の鋼板にしっかりと取り付けられています。

電源回路もデジタル部からオーディオ回路への、干渉を防ぐために独立電源となっています。

電解コンデンサは日本ケミコンの「W」35V・5600μF X4本や、「ASF」などが使われています。電源コードは直径7mmのキャブタイヤです。

電源トランス 電源回路



(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール)
サーボ回路はデジタルサーボではなく、アナログサーボです。

「SサーボⅢ」といわれる回路で、サーボがかかった時に発生する電流のノイズ成分をローパスフィルターで除去して、電源回路に戻るノイズを減らしてオーディオ回路への影響を抑えています。

サーボ制御用のICは「CXA1372Q」です。アナログサーボのため「TE」トラッキングゲインと「FE」フォーカスゲインの2つの調整用ボリュームがあります。

ピックアップのアクチュエータやモーターの駆動を制御するドライバICは、SONY製の「CXA1291」が使われています。

信号処理用のチップはEFMデモジュレータや誤り訂正などを持つ、SONY製のシグナル・プロセッサー「CXD2500Q」です。

システムコントロール用のマイコンは、SONYの刻印がありますが、三菱製の「M37450M8-132FP」、RAMはSHARP製の「LH5164H-10」です。

他にはサウンド・デテクタのSONY「CXD2553S」があります。

デジタル回路 信号処理 CXD2500Q

サーボ制御 CXA1372Q マイコン MM37450M8-132FP

サウンド・デテクタ
CXD2553S



(DAC・オーディオ回路)
オーディオ回路のアンプ部はL・R独立のツインモノ構成です。

D/Aコンバーターは1bitのパルスD/Aコンバータ「CXD2552Q」で、SONYはPLM(パルス長変調・Pulse Length Modulate)方式を採用していました。

CXD2552QはNTTと松下が開発した、有名な1ビットDAC「MASH」の改良型です。基本的な回路構成は同じですが、フィードバックバスが新たに搭載され、量子化値がMASHの9値から7値に減っています。

PLMはMASHが採用したPWM(パルス幅変調)の、改良型ともいうべき方式で、PWMではパルス幅がマスタークロック2個ずつしか増えないのに対し、PLMではマスタークロック1個ごとにパルス幅が増えるため、理論的にはMASH(PWM)の2倍の分解能を持っていました。


CXD2552Qは内部にインターポレータ(位相補間回路)と、64倍オーバーサンプリング・3次のノイズシェイピング回路を持っており、4個のDACを内蔵しているため、片チャンネルあたり2個のDACを使って差動出力しています。

デジタルフィルターは45bitの演算能力を持つ、8倍オーバーサンプリングの「CXD1244」を搭載しています。

内部には1次のノイズシェイピング機構に、3段のFIR型フィルターと1つのIIR型フィルターがあり、強力な演算能力と合わせて、リップル特性±0.00001dB、阻止帯域の減衰量100dBという数値を得ています。


ダイレクト・デジタル・シンクはジッター除去のシステムです。
それまでのCDプレーヤーでは、マスタークロックをDACのそばに配置していましたが、ダイレクト・デジタル・シンクはマスタークロックをDACのチップ内に内蔵しました。
さらにDACの最終段の前にジッター除去回路を設けることで、原理的にはジッターの発生を無くしています。


DACの後ろにはバッファアンプ、差動合成、アクティブ型のローパスフィルター、ラインアンプなどの回路があり、L・R独立のツインMONO構成になっています。

その真ん中には銅製のバスバー(ブスバー)があり、グランドの安定化や基板の低インピーダンス化を図っています。

ローパスフィルターのオペアンプはJRC製の「5532DD」です。
電解コンデンサは日本ケミコンの「AVF」などが使用されています。


現在のSACDプレーヤーで使われているデジタルフィルターは、32bit・8倍オーバーサンプリングが主流ですが、CDP-X55ESは45bit・8倍オーバーサンプリングのフィルターを搭載しています。

1bitのパルスD/Aコンバーターは、50MHzで駆動が可能なので、乱暴に言うとSACDはおろか、DSDの5.6MHzや11.2MHzにも対応できてしまいます。

DSD 5.6MHzはPCMにすると、32bit/192kHzに相当しますので、こうなると最新のDACとスペックは変わらないです。

また最新の32bit・DACの多くはパルスD/Aコンバーターと同じ、ΔΣ(デルタシグマ)変調でD/A変換していますので、悪く言えば30年たっても、DACはそれほど大きく進化していないとも言えます。

デジタルフィルター
CXD1244
パルスD/Aコンバータ CXD2552Q

オーディオ回路 オーディオ回路

内部配線に使用されているLC-OFC(線形結晶無酸素銅)線。



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップは自社製のKSS-272Aです。RFアンプを内蔵しており、低インピーダンスでローノイズの信号出力を可能にしています。ピックアップのスライド機構は高速アクセスのリニアモーターです。

ドライブメカの本体、ピックアップやスピンドルモーターが取り付けられる、メカシャーシはGベースが採用されています。

素材はSONYのアンプTA-F333/555シリーズなどに使われた、G(ジブラルタル)シャーシと同じ物で、大理石と同じ組成をした炭酸カルシウムに、不飽和ポリエステルに加えて、グラスファイバーで強化したものです。

特徴は高い剛性と内部損失を持っていることです。これによって振動を減衰して、トレースの精度の向上を図っています。
トレイも同じ素材の「Gトレイ」になっています。


メカのスライド機構はリニアモーターなので振動が少ないです。それに加えてGベースによって、スピンドルモーターの振動を抑え込むことができるので、現在のハイエンドのCDプレーヤーに使われている、メカよりも高精度で振動が少ないメカになっています。

リニアドライブメカ

ピックアップ KSS-270A Gベース



(出力端子・リモコン)
出力端子はアナログは固定と可変が各1系統。デジタルは光のみとなっています。
リモコンの型番はRM-D590。

リアパネル

SONY CDP-X55ESのスペック

周波数特性 2Hz~20kHz ±0.3dB
高調波歪率 0.0018%以下
ダイナミックレンジ 100dB以上
S/N比 115dB以上
チャンネル
セパレーション
110dB以上
サイズ 幅470×高さ125×奥行375mm
消費電力 18W
重量 12.5kg





SONYのCDプレーヤー

CDP-555ESJ CDP-552ESD
CDP-XA3ES CDP-333ESD
CDP-303ES CDP-302ES
CDP-101 CDP-750
CDP-301V SCD-XB9


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