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TEAC V-770

      1986年 定価69,800円

TEAC V-770は1986年10月に発売された3ヘッド・3モーターのカセットデッキです。V-750(1985年・74,800円)の後継機として開発されたモデルで、海外仕様のV-770はフロントパネルのデザインを変えてMarantz SD-55として、OEM供給もされていました。

ライバル機はAKAI GX-R60EX、DENON DR-M25HX、KENWOOD KX-880D、Pioneer T-7050R、SONY TC-R502、Victor TD-V66、YAMAHA K-650などです。


歴史では第1次世界大戦と第2次世界大戦の間を「戦間期」と呼びますが、1980年代のカセットデッキでも、1984年〜86年の秋までは戦間期のようなものでした。

1978年の年末、Victorがメタル対応の新兵器(カセットデッキ)「KD-A5」「KD-A6」「KD-A8」を発売して、奇襲攻撃に出ました。これに各メーカーが呼応して、カセットデッキのメタル化が進みます。その後も普及モデルへのダイレクトドライブやオートリバースの搭載。そしてドルビーCやドルビーHX、アモルファスヘッドなどの新技術の搭載によって、カセットデッキは熾烈な競争へと突入します。

一方で、オーディオメーカーは回路の集積化(IC化)を進めて、コストダウンを行います。集積化は回路の安定性の向上や故障の低下、そしてコストダウンというメリットもありますが、なんでもかんでもIC化というように、使い方を誤ると音質の低下を招きます。

また1985年には次世代のカセットテープ、DAT(Digital Audio Tape)の規格が決まり、各メーカーは製品の開発をスタートします。そのため従来のカセットデッキの開発には力が抜けてしまいます。これらの悪い要素が出てしまったのが、戦間期に発売されたモデルです。

ところが1986年の年末にSONYは高級機の内容をも上回る、物量モデルのTC-K555ESXとTC-K333ESXを10万円を切る価格で投入。これを機に各社は第2次大戦ともいえる「バブルの物量戦」に突入します。


V-770はいわば「戦間期」のモデルです。V-770の「売り物」は3ヘッド・3モーターにドルビーHX-PROで、V-750よりも内容を充実させて価格は5000円安くなりました。

ヘッドはハードパーマロイのコンビネーションヘッドで、消去ヘッドはダブルギャップフェライトです。メカは3モーターで、キャプスタンには電子制御サーボモーターが使われています。

ドルビーHX-PROシステムは、録音時のバイアス量を入力信号の変化に合わせて、自動的に調整することで、高音域の飽和特性を改善し、フラットな周波数特性を得ています。
これとは別にテープの特性に合わせて、バイアスの微調整ができる「バイアスファイン機能」を搭載しています。

ノイズリダクション・システムはドルビーB/Cタイプを搭載しています。テープポジョンはオートセレクターで、ノーマル、ハイ(クローム)、メタルに対応しています。


この他にテープから任意の曲をサーチして再生するCDSシステムや、再生中の曲から前後15曲をサーチできるCPSシステム、任意の2点間を繰り返し再生するブロックリピート機能、オートレックミュートやMPXフィルターを搭載しています。


V-770の各回路はV-750と比べるとパーツが大幅に増えています。ただV-750は74,800円という価格にもかかわらず、IC化の悪影響もあり初級モデル並みの回路でした。そのためパーツが増えたといってもV-770の録音・再生回路は、1980年代初期の「598」モデルより劣る部分もあります。

メカとヘッドは前モデルのV-750のものを、そのまま持ってきています。ハードパーマロイのヘッドは、1970年代のハードパーマロイよりも音質が改善されていますが、当時TEACはさらに高性能なCA(コバルト・アモルファス)ヘッドの搭載を進めており、すでにV-770より下のクラスのモデルにも採用していました。
TEACもこれはまずいと思ったのか、V-770の宣伝文では3ヘッドというだけで、ヘッドの材質については言及しませんでした。



(音質について)
音は少し解像度が悪いです。低音は出るほうで締まりも良いですが、高音は伸びが不足しておりキレも良くありません。音質からは3ヘッド・3モーターの恩恵はほとんど感じられません。同じバブル期の5万円クラスであるAKAI GX-Z5000Pioneer T-636の音にも負けています。

V-770は1986年の発売のため、バブル期のモデルということになりますが、中身は一世代前やコストの安いパーツを使っており、メーカーとしては「儲かる」モデルだったかもしれませんが、ユーザーからすると「残念」なデッキです。



(フロントパネル)
フロントパネルはこの時期のTEACらしいデザインですが、他社と比べるとどこかあか抜けていない感じがします。

レイアウトは左側に電源ボタン、カセットのイジェクトボタンとカセットホルダーがあります。

ディスプレィは「FLマルチファンクションディスプレイ」と呼ばれるもので、時間表示とプログラム表示も可能な電子カウンターとピークレベルメーターがあります。ただ、このレベルメーターはサイズが小さいにも関わらず、+12dBまで表示できるようにしてあるため少し見にくいです。

ディスプレィの下にはカウンターのモード切替とリセットのボタン。CDS、CPS、ブロックリピート、オートモニター、タイマー、MPXフィルター、ドルビーの切り替え(OFF、Bタイプ、Cタイプ)といったボタンがあります。
一番下には録音レベルのスライドボリューム(TEACはレコーディング・フェーダーと呼んでいました)があります。

右端には巻き戻し・早送り、再生、ストップ、録音、PAUSE、RECミュートの操作ボタン。一番下にはバイアス調整のボリュームと、ヘッドフォン端子とそのボリュームがあります。




(シャーシと内部について)
シャーシは薄い鋼板製です。サイドパネルは独立しており、コの字型のフレーム状に加工されています。剛性のアップを狙ったものですが、ネジの数をケチったため、フロントやリアパネル、底板との結合が弱いという残念なシャーシです。脚はインシュレーターではなく、小さなプラ足です。

内部は左側がメカと電源トランス。右側のメイン基盤には録音と再生回路に、電源回路とシステムコントロール回路があります。


底板


(電源部) 
電源部だけはなかなか強力で、7万円超のモデルと比べても見劣りしません。

電源トランスの容量は24.4V、21VAで、別巻線になっています。磁束漏れ対策のために、周囲は金属製のカバー。上部と下部にはBMC(バルク・モールディング・コンパウンド)のカバーが付いています。
サイドパネルに取り付けられているのは、トランスの振動がメカに伝わるのを少しでも減らすためです。

電源回路は独立電源で、一部はアクティブ電源となっています。ブリッジダイオードは新電元「S1WB S20 69 」です。

残念なのは電解コンデンサに汎用品の日本ケミコン「SME」を使っていること。充放電特性の良いオーディオ用コンデンサであれば、もう少し電源の安定度が高められ、音質に貢献できたかもしれません。

電源ケーブルは細い並行コードで、極性表示が付いています。

電源トランス 電源回路


(システムコントロール・サーボ回路)
システムコントロール用のマイコンはTEACのロゴが付いた「5220806601」です。スピンドルモーターはサーボ回路内蔵のDCモーターですが、マイコンも一部の制御をしているようで、隣にはローム製のモータードライバー「BA6209」があります。

マイコン NEC D7519HCW 242 TEAC 5220806601


(ヘッド・メカ)
ヘッドは録音と再生がハードパーマロイのコンビネーションヘッド。消去ヘッドはダブルギャップフェライトです。
ハードパーマロイといっても、1970年代の単に耐摩耗性をを向上させたヘッドとは違い、飽和磁束密度や歪率が改善されたヘッドになっています。

メカは「サイレント・メカニズム」と呼ばれるもので、キャプスタン、リール、メカニズムに専用のモーターを使用することで、安定した走行と作動音を減少させています。

大型のフライホイールを使用しており、モーターはキャプスタン用がDCサーボモーター。リールとメカニズム用がDCモーターです。

カセッホルダーの開閉はパワーローディングではなく、パワーイジェクトとでもいえるものです。カセットホルダーを開ける時は、モーターの力でロックを解除し、バネの力でホルダーをオープンします。ただしホルダーを閉める時は人力で行います。

弱点はメカがプラスチック製のフロントパネルに取り付けられていることです。当時は今と違ってサービスマンによる訪問修理が一般的で、たぶんメカの分解・修理を簡単にするための設計だと思います。

カセットデッキのヘッドは安定したテープタッチが必要なため、振動はご法度です。しかしメカの中にはモーターという振動の発生源があります。そこでモーターの振動を抑えるために、メカ本体をしっかりとしたシャーシに固定してやる必要があります。

V-770のような取り付け方法だと、プラスチックにも内部損失があるので、少しは振動を吸収できますが、メカ本体がモーターの振動にゆすられてしまい、安定したヘッドタッチが難しくなります。せっかくの3ヘッド・3モーターの効果が音に反映されないのも、このあたりに問題があるためかもしれません。

ヘッド・キャプスタン・ピンチローラー 消去ヘッドと録音、再生ヘッド

メカ メカ


(録音・再生回路)
録音回路にはドルビーHX-PROシステムを搭載しており、録音時のバイアス量を入力信号の変化に合わせて、自動的に調整することで、高音域の飽和特性を改善し、フラットな周波数特性を得ています。ドルビーHX-PRO用のチップはNEC製の「μPC1297CA」です。

ノイズリダクションはドルビーBとCタイプで、チップはSONY製の「SONY CX20187」を録音用と再生用にそれぞれ独立して搭載しています。

オペアンプは録音側に三菱「M5218L」と再生側に三菱「M5520」。電解コンデンサは日本ケミコン製の汎用品「SME」と「LL」が使用されています。

その他に松下製のカセットデッキ用・自動テープセレクタIC「AN6256」や、RECミュートに使う三菱製のテーププログラムセレクタ「M51143AL」、三菱製のクワッド・アナログスイッチ「M4066BP」などのパーツがあります。

録音・再生回路 録音回路

ドルビーB・C SONY CX20187 ドルビーHX-PRO NEC μPC1297CA


(入出力端子)
入力端子は1系統。出力端子も1系統(固定出力)です。

リアパネル


1984年 TEAC リールタイプ カセットテープ
リール交換式カセットの「オー・カセ」と、同じ1984年に発売されたカセットテープです。
オーカセは失敗に終わりましたが、こちらは他社の同クラスのカセットよりも価格が高いにも関わらず、オープンリールを取り入れたデザインの良さからヒット商品となりました。そのため後に他のメーカーから多くの類似商品が発売されました。

ラインアップはノーマルタイプの「SOUND」 C-52が750円。クロムタイプの「COBALT」C-52が850円。メタルテープの「STUDIO」のC-60が1250円など。

使われているテープはいずれもマクセル製です。「SOUND」はたぶん「UD」と同じもので、ニュー・ピアクリスタル(PX)ガンマ酸化鉄磁性体を、「COBALT」は「XLU」と同じ超微粒子エピタキシャル磁性体。「STUDIO」は「MX」と同じで、微粒子スタビライズド・ピュア(PS)メタル磁性体を使用しています。

また高精度のパーツを使用したHP(HIGH PPRECISION)メカニズムにより、正確なヘッドタッチと安定したテー走行を実現しています。
リール(ハブ)はアルミ-マグネシウム合金製で、カラーはシルバー、ゴールド、ブラックの他にブルー、グリーン、ピンクのメタリックや、ミラーボウルなどがありました。

※カセットテープの書籍には1978年発売となっているものがありますが、カセットテープを網羅しているステレオサウンド別冊のカタログブックでは1984年からの掲載です。他の資料も1984年となっているので1978年は間違いかと思います。
なおTEACは日本より先にアメリカで、1982年から「CDC」と「CRC」というオープンリールタイプのカセットを発売しています。

TEAC STUDIO



TEAC V-770のスペック

周波数特性 20Hz〜21kHz ±3dB(メタルテープ)
20Hz〜20kHz ±3dB(クロムテープ)
20Hz〜18kHz ±3dB(ノーマルテープ)
S/N比 60dB(Dolby オフ)
70dB(Dolby-B)
80dB(Dolby-C)
ワウ・フラッター 0.03%(WRMS)
±0.06%(W.Peak)
消費電力 17W
外形寸法 幅435X高さ120×奥行265mm
重量 4.9kg













TEAC V-770 B級オーディオ・ファン