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Pioneer T−636 |
1989年 定価53,800円 |
Pioneer T-636は1989年9月に発売された3ヘッド・2モーターのカセットデッキです。 T-616(1988年10月発売・59,800円)の後継機と言いたいところですが、結論からいうとT-636とT-616は外見も中身も同じでリモコンが違うだけ。 基板の回路別にパーツの配置や個数を確認しましたが同じでした。もしかすると音色を変えるために、コンデンサの銘柄を変更した可能性はあります。 それでも回路としては同じということになるので、T-616を新製品に見せかけるために型番を変えて、価格を6,000円下げたのがT-636ともいえます。海外仕様モデルはT-616がCT-S600、T-636がCT-S707です。 この時期はDATの発売もあってカセットデッキの機種が減っており、T-636のライバルとなるのはEXCELIA XK-005、Nakamichi Cassette deck2、ONKYO K-501R、SONY TC-K222ESG、TEAC V-5000、Victor TD-R631、YAMAHA KX-640などしかありません。 1980年代後半になると、スピーカーの「598戦争」、アンプの「798戦争」、CDプレーヤーの「ハイビット競争」と、オーディオメーカーにとっては「仁義なき戦い」が勃発します。その波はカセットデッキにも波及する訳ですが、先鞭をつけたのはPioneer CT-A7Dです。 CT-A7Dは高い評価を受けたものの、Pioneerは物量主義の競争は「消耗戦」になるとわかっていたのか、最初は「598戦争」「798戦争」「ハイビット競争」に消極的でした。その後、アンプのA-717やCDプレーヤーのPD-3000から巻き返しに転じ、スピーカーには独自のバーチカルツイン方式で対抗します。 カセットデッキではT-818(1988年・85,000円)を発売しますが、これはVictor TD-V711(1987年・85,000円)を強く意識した商品でした。 デザインはTD-711のコピーといってもよいくらい似ており、内部はCT-A7DやアンプのA-717、CDプレーヤーのPD-3000で開発された技術などを融合した内容となっていますが、やはりTD-V711の影響も見受けられます。 T-616(T-636)は、そのT-818をスケールダウンした「598」の物量モデルです。 中身を見るとキチンと剛性と防振を考慮したシャーシ。アモルファスヘッドを使った3ヘッド構成。強力な電源回路、堅実な録音回路、シンプルな再生回路と基本に忠実な設計が見えてきます。ただ「598」という価格ですので、しわよせは当然発生し、それがメカの駆動系になったということだと思います。 カタログの宣伝文句では信号経路の「ダイレクトコンストラクション」が大きく取り上げられていますが、これは「シンプル&ストレート」のことで、この時代には他社でも行われていましたし、すでにPioneerのオーディオ機器の回路でも行われていました。 たぶん「ダイレクトコンストラクション」は、新製品にぜひとも新機構が欲しい宣伝部が考えた方策かもしれません。 ヘッドは再生ヘッドにレーザーアモルファス。録音ヘッドがハードパーマロイ、消去がフェライトヘッドです。録音と再生ヘッドの巻線には、高音質で有名なPCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)が使われています。 メカは2モーターで、キャプスタンが電子制御サーボのDCモーター。リールとメカ用がDCモーターです。 カセットホルダーとリールのまわりには、ゴム製のパッドが装着されており、録音・再生時にカセットテープのハーフに生じる振動を吸収して、テープの走行を安定させるスタビライザーになっています。 ライバル機にはデュアルキャプスタンや、3モーターを搭載しているものもあり、T-636ではここが見劣りするところです。 電源トランスは4系統の別巻線として、メカやシステムコントロール回路、ディスプレィから、オーディオ回路(録音・再生)へのノイズの干渉を防いでいます。 またオーディオ用の巻き線にはバイファイラ巻を採用しており、回路部分もオーディオ用にはハイスピード・アクティブサーボレギュレーターを搭載して、音楽信号の強弱による電源電圧の変動に対して安定した電源を供給しています。 オートテープセレクターを搭載しており、ノーマル、ハイ、メタルと3ポジションに対応しています。 ノイズリダクション・システムはドルビーBとCタイプで、 録音時における高音域の特性を改善するために「ドルビーHX PRO」を搭載しています。またバイアスのマニュアル・キャリブレーション機構も備えています。 その他の機能としては、MPXフィルターや15曲までの頭出しが可能なミュージックサーチ、オートRECミュートなどがあります。 Pioneer T-616が発売された時、SONYはESモデルにはすごい物量を投入していましたが、中級機のTC-K600(1988年発売・59,800円)などは、パーツが少なく内部はスカスカでした。TC-K600に比べるとT-616/T-636の、基板のパーツ数は倍近くあり、しっかりと物量が投入されていることがわかります。 このT-616やEXCELIA XK-005など、カセットデッキの「598」にもバブルの物量機が登場した結果、1988年のCDプレーヤーの「598戦争」で事実上敗北したSONYは、同じ過ちは繰り返さないとばかりに、高級機に匹敵する装備を持つ、TC-K222ESG(1989年・59,800円)を投入することになります。 (音質について) 高音はレーザーアモルファスヘッドということで、よく伸びてキレがあります。そしてT-636の特徴は低音が良く出ること。再生回路はとてもシンプルですが、強力な電源回路の恩恵かもしれません。 骨太ともいえるサウンドですが、残念なところは全体的にメリハリが強いところ。ロックには問題ありませんが、クラシックの室内楽やジャズのムーディな曲では、ちょっと気になってしまう。やはりクラシックやジャズを聴く人は、T-818やT-838を買ってくれというところでしょうか。 それでも1980年代中期の「698」クラスのデッキよりも、ぜんぜん音が良いです。またバブル期のこのクラスは一部を除いて不人気モデルが多く、中古やオークション価格が安いというのもポイントです。 |
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(フロントパネル) | |||||||||||||||
フロントパネルのデザインはVictorのTD-V711をアレンジしたという感じです。 左側にカセットホルダーの開閉ボタン、電源とタイマーのスイッチ、ヘッドフォンジャック。カセッホルダー内の照明は、テープの後ろから照らす方式ではなく、前面から当てる方式。このため照度が弱くテープの残量は見にくいです。 ディスプレィにはFL管によるピークレベルメーターや電子カウンター、各種インジケーターがありますが、メーターレンジの切換機能が付いており、通常モード(ワイドレンジ)は-30dB〜+8dBまでの表示。のエクスパンドレンジモードは-3dB〜+12dBまで表示ができます。 中段にはディスプレィの表示をカウンターだけにする表示(ディスプレィから発生するノイズが少なくなります)。モニタースィッチ、ドルビーの切り替え、CDプレーヤーとのシンクロスイッチ。その下が操作ボタンのブロックで、再生、録音、巻き戻し、早送り、ポーズ、RECミュート、停止などのボタンがあります。 一番右には録音レベルと録音バランス。ヘッドフォンボリューム、バイアスレベルのキャリブレーションのツマミがあります。 |
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(シャーシと内部について) | |||||||||||||||
Pioneer独自のハニカムシャーシで、天板・底板・リアパネルともに鋼板製です。 天板は少し厚めの鋼板を使っており、防振材が取り付けられています。真ん中より少し後ろにはリブを入れて強度を確保。後ろのほうには放熱用のスリットがありますが、アンプのA-717やA-838と同様にハニカム状になっています。 底板はハニカム状にプレスが施されており、強度と剛性の向上と振動の分散・吸収をはかっています。インシュレーターは樹脂製です。 内部は左側にメカと電源トランス。基板は大型のものが1枚で、奥に電源回路、メーター回路。手前側がシステムコントロール回路。録音回路、再生回路となっています。またディスプレィの後ろ側は金属製のシールド板を設置してあり、ディスプレィからの放射ノイズをブロックして、録音・再生回路に干渉しないようにしてあります。 また信号経路の最短化「ダイレクトコンストラクション」ということで、録音レベルと録音バランスボリュームを入力端子の近くに配置して、シャフトを介して調整するようになっています。 しかし実際には入力端子のそばにあるのは、レベルメーターの回路で、録音回路はディスプレィの後ろにあります。同様に出力端子の裏側は電源回路で、再生回路はフロントパネルの録音ボリュームの後ろにあります。 |
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(電源部) | |||||||||||||||
電源回路は強力で7万円クラスにも匹敵するレベル。コストがかかる部分なのでバブル時代ならではと言えます。 電源トランスはバンドー製で中級機としては大きいサイズです。リーケージフラックス(磁束漏れ)用のケースはありません。4系統の別巻線となっており、オーディオ用の部分にはバイファラ巻きが採用されています。バイファイラ巻は+と−のコードを並行にしてコアに巻くもので、出力電圧の平衡度の向上に効果があります。 電源回路も独立電源で、オーディオ部は「ハイスピード・アクティブ・サーボレギュレーター」と名付けられたアクティブ電源を搭載しています。 。電解コンデンサはなんとELNAの「DUOREX」(25V・2200μF X2)や、アクティブ電源の部分にはニチコンのMUSEが使われています。 ヒューズは1..25A-125Vが1本。800mA-125Vが2本。電源ケーブルはやや太めの平行ケーブルで、極性表示が付いています。 |
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(システムコントロール回路) | |||||||||||||||
キー操作などを制御するシステムコントロール用のマイコンは、Pioneerのロゴが入った「PD4228」です。 |
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(ヘッド・メカ) | |||||||||||||||
T-636は5万円台のデッキですが3ヘッドを搭載しています。 録音ヘッドにはハードパーマロイを使用しています。ハードパーマロイヘッドといっても1970年代の単に耐摩耗性をを向上させたヘッドとは違います。ハードパーマロイヘッドは1980年代を通して、継続した改良が加えられており、飽和磁束密度や歪率が改善されたヘッドが使用されています。 再生ヘッドはレーザーアモルファスヘッドです。この頃には多くのメーカーでアモルファスヘッドが使われていますが、ヘッドに独自の名前を付けたり、単に「アモルファスヘッド」という呼び方をしました。 1981年から「レーザーアモルファスヘッド」という名称を使っていたのはSONYだけなので、PioneerのヘッドもSONY製かもしれません。 この録音と再生ヘッドの巻線には、導電特性に優れた古河電工のPCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)が使われています。消去はフェライトヘッドです。 メカは2モーターで、キャプスタン用のモーターは電子制御DCモーター。リール・メカニズム用にはDCモーターが使われています。 カセットホルダーとトランスポート部には、録音・再生中のカセットの振動を抑えるため、特殊ゴム使ったスタビライザーを装備しています。 |
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(録音・再生回路) | |||||||||||||||
パーツはコンデンサや抵抗などの種類に関わらず、規則正しく整列しています。 録音回路は上級機なみに、しっかりとパーツが投入されています。 バイアスのキャリブレーションを搭載しており、マニュアルで微調整ができます。また録音時に高域の特性を改善するドルビーHXproを搭載しています。 その反対に再生回路はイコライザー、ミューティング部ともシンプルで、良く言えばテープの再生音音を色付せずに出力しているということでしょうか。(実際にはそう簡単にはいきません) ノイズリダクションはドルビーBとCタイプを搭載しています。使われているICはドルビーB・C用がSONY製の「CX20187」で、ドルビーHX用はNEC製の「μpc1297CA」です。 再生イコライザー用のオペアンプは三菱製の「M5220」。録音用はローム「BA15218」が使用されています。 電解コンデンサはオーディオ用で、ニチコンの「MUSE」やELNAの「DUOREX」が使われています。 |
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(入出力端子・リモコン) | |||||||||||||||
入出力端子はラインイン、ラインアウトが各1系統で、出力は固定出力です。その上にはCDプレーヤーとのシンクロ端子と、MPXフィルターのON/OFFスイッチがあります。 専用リモコンはCU-T009です。 |
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1989年のカセットテープ 富士フィルム AXIA METAL PS-Wx |
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1985年、富士フィルムはカセットテープのブランドを「AXIA」に変更。透明なカセットハーフを使用したPS-TとPS-Uがヒットします。 1989年に主力の「PS」と「GT」シリーズをリニューアル、新たにPS-Wxを追加しました。PS-WxはXD Masterの下位グレード、いわゆる廉価版のメタルテープです。 高性能磁性体メタリックスPX TypeWをダブルオリエンテーションで高配向し、ドルビーなどノイズリダクションへの適性も優れています。ツインクリスタルハイポリマーハーフと高精度パーツを使用した「PSメカ」により、変調ノイズや走行ノイズを抑えています。 価格はC-46が500円、C-50が520円、C-54が550円、C-60が600円、C-74が690円、C-90が790円。 |
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周波数特性 | 20Hz〜21kHz ±3dB(メタルテープ) 20Hz〜20kHz ±3dB(クロームテープ) 20Hz〜20kHz ±3dB(ノーマルテープ) |
S/N比 | 58dB(Dolby オフ) 68dB(Dolby-B・5kHz) 77dB(Dolby-C・5kHz) |
歪率 | 0.7% |
ワウ・フラッター | 0.05%(W.R.M.S.) ±0.09%W・peak(EIAJ) |
消費電力 | 15W |
外形寸法 | 幅420X高さ130×奥行323mm |
重量 | 5.6kg |
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