TOP使っているオーディオカセットデッキ > RS-M33


Technics RS-M33

  1978年 定価59,800円



Technics RS-M33は1978年6月に発売されたカセットデッキです。

ライバル機はAIWA AD-F30、GXC-706D、Aurex PC-X30、DIANGO AU-K7000、Lo-D D-560、OTTO RD-5350、Pioneer CT-600、SONY TC-K5、TEAC f-330、TRIO KX-6500、Victor KD-55SAなど。

この頃はオーディオブームになっており、オーディオ製品は家電メーカーにとっても主力商品のひとつです。カセットデッキもよく売れており、新製品は年末のボーナス前だけでなく、春の卒業・進学シーズンや、夏のボーナスの時期にも発売されていました。

Technicsを例にとると、1977年の年末にRS-M70(99,800円)とRS-M50(74,800円)。1978年の春にRS-M85(138,000円)、RS-M75(118,000円)、RS-M60(89,800円)、RS-M30(59,800円)、RS-M20(49,800円)。1978年の夏にはRS-M56(89,800円)、RS-M33(59,800円)、RS-M22(49,800円)という具合でした。

中でもRS-M33とRS-M22は、わずか3か月前に発売したRS-M30とRS-M20を置き換えるために発売したモデルです。RS-M30とRS-M20は、先に発売されていた上級機のRS-M50をベースに、機能を省略したり、ヘッドのグレードを下げたモデルです。
もしかすると営業側からの要望で、RS-M33とRS-M22が完成するまでの、つなぎとして作られたものかもしれません。


RS-M33はHPF(ホットプレスフェライト)ヘッドを搭載しています。HPFヘッドは高い透磁率など良好な磁気特性と、高い耐摩耗性を併せ持ったヘッドです。消去用ヘッドにはダブルギャップフェライトヘッドを搭載しています。

レベルメーターは2色のFLディスプレィが搭載されています。この頃はまだVUメーター(ニードルメーター)が全盛の時代で、FLディスプレィを搭載しているのは高級機など一部のモデルでした。

Technicsは1977年12月に発売されたRS-M70から、FLのレベルメーターの搭載を始め、そして1978年の春モデルでは、普及機から高級機まで搭載されるようになりました。

当時、使われていたVUメーターは、反応速度が遅いために瞬間的なピーク入力は表示しきれず、別途にLEDを使用したピークレベルメーターを装備したモデルもありました。
FLディスプレィはLEDと同等の表示速度を持ち、セグメントを細かくできるため、カセットデッキのレベルメーターには最適でした。

FLディスプレィは正式にはVFD (Vacuum Fluorescent Display)と呼ばれるため、宣伝文句ではデジタル・フローレッセント・ディスプレィとも書かれています。


メカは1モーターで、スビンドルやリールなどを駆動しています。この頃の中級機は1モーターが当たり前で、1978年の年末に登場したVictor KD-A5(59,800円)により、2モーター化が広まります。
FGサーボモーターを使用しており、大型フライホイールにより安定したテープ走行を実現しています。

ドルビーノイズリダクションは「Dolby-B」で、MPXフィルターを内蔵しています。
テープセレクターはバイアスとイコライザを個別に切り替えるタイプで、CrO2(クローム)、ex(フェリクローム)、normal(ノーマル)の3ポジションに対応しています。

その他にはキュー&レビューやクイックレビュー機構、繰り返し再生に便利なリワインドオートプレイ、タイマースタンバイ、フルオートストップ、ソフトイジェクト&ローディング機構などを装備しています。

RS-M33とRS-M22は兄弟機で、RS-M33から出力ボリューム、ディスプレィの明るさ調整機能などを取り除き、ヘッドをLHヘッドにしたのがRS-M22です。

翌1979年にはRS-M33は改良されて、メタルテープに対応するためにSXセンダストヘッドを搭載したRS-M33G(59,800円)が発売されます。しかし、その程度の改良ではVictor KD-A5の圧倒的な物量には対抗できず、すでに陳腐化した存在となっていました。



(音質について)
音は元気なサウンジで少しドンシャリ系です。解像度やキレは弱く、音場は狭いかわりに定位は良いです。ジャンルとしはロック、JPOP向きです。

この頃の初級モデルでは、少しでも良い音に聞えるように、高音と低音を強調した「ドンシャリ」がよく使われていました。このような音はオーディオ中級者以上には、すぐにバレてしまいますが、初級モデルは初級者や初めてオーディオをする人が対象なので、販売面ではけっこう「効果」があったようです。



(フロントパネル)
デザインは前モデルのRS-M30を踏襲しています。

レイアウトは左側に電源スイッチとヘッドフォン端子。カセットホルダーの下には操作用のピアノボタンが並んでいます。

カセットホルダーの右にはテープカウンターとリセットボタンがあります。
その下にはドルビーNR(Bタイプ)のON/OFFスイッチ。ラインインとマイクのインプットセレクタ。テープセレクタはイコライザーとバイアスが独立したタイプで、ノーマル、クローム、フェリクローム(ex)に対応しています。

FLディスプレスイはレベルメーターのみの表示で、 0dB以下はイエロー、0dB以上はオレンジ色の2色表示です。その横にはFLディスプレスイの明るさ調整用のボリューム、上には録音のインジケーターランプがあります。

その下にはヘッドフォン/外部出力兼用のボリューム、録音レベルのボリューム、マイクの接続端子があります。




(シャーシと内部について)
シャーシは鋼板製でサイドパネルをコの字型に折り曲げ、フロントとリヤパネルと組み合わせて、フレームを作り、さらに真ん中にはビーム(梁)を設けて、シャーシの剛性を上げています。

1970年代後半では標準的なシャーシーですが、1980年代に入るとしだいにシャーシにコストをかけなくなり、このような構造を持つのは高級機だけとなります。

コの字型の天板や底板も、1980年代の中級機よりも厚めの鋼板が使われています。脚はプラ脚です。

内部は左側に大型メカがあります。メイン基板は左側に再生回路とドルビー回路。右側には録音回路、メーター回路、電源回路があります。フロントパネルの後ろにはメーター回路があります。

面白いのは電源トランスの取り付け方。メカの後ろ側には取り付けスペースがあり、穴まで開いていますが、メイン基板の上に新たにフレームを設置して、取り付けています。このフレームはサイドパネルとビームを結合しており、強度の向上に一役かっています。

基板や回路など中身はRS-M22と同じ。極端に言えばRS-M22にボリュームを2つ追加して、ヘッドをHPFヘッドにすると、RS-M33が出来上がります。
RS-M22は49,800円という価格でも、利益が出るように作られている訳ですから、どの回路も簡易な設計で、「598」のモデルとしては物足りません。



(ヘッド・メカ)
前モデルのRS-M30はLH(ロングライフ・ハイデンシティ)ヘッド、いわゆるハードパーマロイヘッドを使用していましたが、RS-M33ではHPF(ホットプレスフェライト)ヘッドを搭載しました。

これはライバル機であるSONYのTC-K5が、F&F(フェライト&フェライト)ヘッドを搭載しており、ヘッドの寿命はハードパーマロイの2倍以上もあり、磁気特性や音質も優れていたため、これに対抗したのだと思います。

ハードパーマロイはパーマロイに添加物を加えて、硬度を高くすることで約10倍の寿命を持っていましたが、添加物が非磁性体のため飽和磁束密度が低くなるなど、磁気特性が低下するなどの問題がありました。

HPFヘッドはマンガン、亜鉛、フェライトの微粉末を高温高圧(ホットプレス)して、成形したフェライトヘッドです。ホットプレスのメリットは比較的低い温度で焼結が進むため、粒子径が小さく空孔の少ない高密度のフェライトを作ることができ、結晶の方向をそろえることもできました。

そのため高い透磁率や渦電流による高域での損失が少なく、周波数特性が良いなどの特性と高い耐摩耗性を持っていました。

消去用ヘッドにはダブルギャップフェライトヘッドを搭載しています。


メカは幅が230mmという大きなもので、RS-M33の幅が430mmですから、いかに巨大であるかわかると思います。メカの本体は鋼板製ですが、まわりを厚めのプラスチックで覆っています。
ヘッドへの防磁対策だったら、カッコよいのですが、プラスチックは磁気を通してしまいます。そうなるとメカの防音対策が目的なのかもしれません。

メカは1モーターでスピンドルとリールの駆動を行っています。基板にはサーボ回路がなく、電源回路から直接モーターに配線されています。

このモーターにはサーボ回路が内蔵されており、スピード調整も可能です。ただモーターの内部ですので、あくまで簡易な回路です。カタログでは「デジタルFGサーボモーター」となっています。

デジタルFGサーボは、モーターの回転軸に付いている、NとSのマグネットを装着した板から、磁界をFGセンサで検出しパルスとして出力します。それを矩形波(くけいは・方形波)、つまりデジタルに変換してから、積分して基準値と比較チェックを行い、スピードのズレを検出してモーターのスピードをコントロールします。

当然、FGサーボよりもパーツ数が増えますが、ふつうモーター内部のサーボ回路は、FGサーボだけでもパーツがいっぱいなので、本当にデジタルFGサーボなのかは疑問ではあります。

フライホイールは直径83.5mmと大型で、ダイナミックバランス1g/cm以下の高精度のものを使用しています。さらに、ホイールの軸方向の隙間(遊び)であるスラストガタを一方向だけにするために、抑えるバネを設けています。

このフライホイールは薄型で、ゴムベルトより少し幅があるだけです。そのためゴムベルトが劣化して伸びてしまうと、簡単に外れてしまいます。

カセットホルダー内の照明は6Vのムギ球です。


(メカのトラブルについて)
RS-M33のメカはピアノボタンを使って人力で動作します。最近はガチャメカなどと言われますが、正式には「メカニズム方式」と呼ばれていました。

よく起こるトラブルがヘッドやピンチローラーが上がらずに、再生や録音ができないというケースです。ほとんどのガチャメカ機はメカの動作にモーターやソレノイドは使っていません。ピアノボタンを押した力でヘッドやピンチローラーを押し上げています。

ピアノボタンを押してもヘッドやピンチローラーがほとんど動かない場合は、グリスが劣化してメカが固着していることが多いです。これは分解してグリスを落としてやれば直ることが多いです。

またヘッドやピンチローラーが上がるにもかかわらず、ピンチローラーが回転しないというトラブルもけっこうあります。実はピアノボタンを押してメカが上がるのは途中までで、最後の1〜2mmはバネの力でピンチローラーをキャプスタンに押し当てています。

このバネが経年変化で変形してしまうと、押し当てる力が弱くなり、ピンチローラーとキャプスタンの間にスキマが出来てピンチローラーが回転しません。こうなるとバネを取り出して、交換するか元の形状に戻してやることが必要になります。

またRS-M33は1モーターのため、再生や録音時の時にヘッドやピンチローラーが上がらないと、巻き取り側のリールが回転しないようになっています。

ヘッド・キャプスタン
ピンチローラー
メカ

モーター フライホイール


(電源部)
電源トランスはリーケージフラックス(磁束漏れ)対策のために、金属ケースに入っています。電源回路は簡易な回路で、独立電源ではありません。

電解コンデンサは松下製の「S」が使われています。たぶん一般品だと思います。電源ケーブルは細い並行コードです。

電源トランス 電源回路


(レベルメーター回路)
FLのレベルメーターの回路は2ヶ所に分かれており、メイン基板に小型のトランスとメーターレベルの調整回路(半固定ボリューム)、デスプレィの裏側にFLのドライバー用ICと明るさの調整ボリュームがあります。

小型トランスは、VUメーター(ニードルメーター)を作動するために必要なものですが、本来ならFLは低電圧で作動するためトランスは必要ありません。VUメーターからFLディスプレィに移行する過渡期ならではの回路です。
ドライバー用ICはローム製のバーグラフ・ディスブレィドライバー「BA658」です。

レベルメーター回路 レベルメーター回路


(録音・再生回路)
録音回路はパーツがとても少なく、初級機かそれ以下レベルという回路です。本当にこれで録音ができるのかと心配になるくらいです。

再生回路とドルビー回路はちゃんとしており、左右独立のMONO構成の回路です。
再生回路には、出力レベルとイコライザーの調整用の半固定ボリュームがありますが、このイコライザーがすごい。アンプのトーンコンロール並みに高音〜低音の調整ができます。

ノイズリダクションはドルビーBタイプで、MPXフィルターを内蔵しています。同じ年の春に発売されたRS-M85/RS-M75では、まだIC化されていないディスクリートの回路でしたが、このRS-M33ではノイズリダクション用ICの「NE646B」が使われています。

再生回路のイコライザー用のオペアンプは「QVITA7122A」です。電解コンデンサは松下製の「S」です。

録音回路 バイアス回路

再生回路 ドルビー回路


(入出力端子)
入出力端子はラインイン、ラインアウト(可変出力)が各1系統です。

リアパネル


(Technicsのカセットテープ)
当時のカセットテープは、1977年発売のTDKの「AD」が、マイルス・ディビスをCMに起用して大ヒット。またマクセルが「UD XL1」と「UD XL2」を発売。フジフィルムは「レンジ」シリーズ、Scotchは「クリスタル」と「マスター」を発売します。
1978年にはSONYが「BHF」「AHF」「JHF」を発売するなど、高性能のカセットテープが続々と登場していました。

下の「XA」は1976年に発売されたクロームタイプのテープで、価格は45分のRT-45XAが500円。60分のRT-60XAが700円でした。



Technics RS-M33のスペック

周波数特性 20Hz〜17kHz(クローム)
20Hz〜15kHz(ノーマル)
S/N比 57dB(Dolby オフ・クロームテープ)
67dB(Dolby-B・クロームテープ)
ワウ・フラッター 0.05%(WRMS)
消費電力 11W
外形寸法 幅430X高さ142×奥行267mm
重量 6.7kg




TOP
CDプレーヤー
アンプ
スピーカー
カセットデッキ
チューナー
レコードプレーヤー
PCオーディオ
ケーブル
アクセサリー
歴史・年表
いろいろなCD



Technics RS-M33 B級オーディオ・ファン