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NEC CD‐803

    1982年 定価215,000円



NECのCD-803は1982年10月に発売されたCDプレーヤーです。

当時CD(コンパクトディスク)は、レコードに代わる次世代ディスクDAD(デジタル・オーディオディスク)の中でも最も有望とされ、CDプレーヤーは久々の大型商品になると見られていました。

そのため国内だけでも14社の家電メーカー、オーディオメーカーが参入。1982年10月〜12月にかけて各社の1号機が発売されました。NECの1号機 CD-803はSONY、Lo-D、DENONより少し遅れて、10月21日に発売されました。

CDプレーヤーは従来のオーディオと違いデジタル技術が中核となるため、CDの規格を取りまとめたSONY、すでにLD(レーザーディスク)プレーヤーを開発していたパイオニア、そしてコンピューターや衛星、通信などエレクトロニクスに強いNECなとが有利とされていました。

「エレクトロニクスのNEC」というのが当時の会社のキャッチコピーで、TVコマーシャルでもCD-803の広告やカタログにもそれを大きく唱っていました。しかし「事実は小説よりも奇なり」という言葉どおり、実際の中味は大違いでした。

内部はSONY、東芝、日立、TI(テキサスインスツルメンツ)など、他社製のパーツの方が圧倒的に多く、これらのメーカーのパーツが無ければプレーヤーは動きません。
NEC製のパーツはデジタルフィルターやマイコンなど、ほんの少しで探すのに苦労するほどです。サーボ回路など技術的にも他社より遅れているところがたくさんあり、「エレクトロニクス」という面ではSONY、Lo-D、YAMAHA、Technicsの1号機のほうが、はるかに進んでいます。(詳しくは下記参照)


中味はともあれ音は雑誌での評価が非常に高いものでした。いずれもレンジが広く中低音の量感が良いというもので、こだわって搭載したデジタルフィルターと、大容量の電源回路の効果が現れているようです。

※ちなみに、このCD-803が発売された直後に開催された第31回オーデイオフェアでは、今では伝説的な存在のプリメインアンプ「初代A-10(1983年発売)」もお披露目されています。





(内部について)
開発は発売ギリギリまで続けられていたのか、当時の雑誌に掲載された内部写真と実機ではかなりの違いがあります。

大量のパーツを使っているため、他社の1号機よりもシャーシが大きいです。シャーシは鋼板製で発熱への対応として、天板と底板にはスリットが空けられています。

内部は左側の前がドライブメカ。側面に電源回路とトランス。茶色の大きな基板はサーボ回路です。タテ置きの基板は手前からシステムコントロール、その裏と側板にサーボ回路。奥側は手前から信号処理、デジタルフィルター、オーディオ回路と並んでいます。

各基板にはたくさんのパーツが取り付けられていますが、オーディオ回路の部品数はその後のCDプレーヤーとさほど変わりません。一番部品が多いのはサーボ回路で1980年代後半のような音質のための物量投入ではなく、これだけの部品が無いと動かなかったということです。

またパーツ数が多いため消費電力も大きく、SONYやLo-Dの倍の48Wもあります。この電力をまかなうためトランスも大きいものが必要で、重量増加の一因にもなっています。


天板 底部



(システムコントロール回路)
フロントパネルの再生、ストップ、イジェクトなどのボタン操作を、マイコンを使って実際にCDプレーヤーの動きに変える回路です。ここにはNECのパーツはZ80AコンパチブルCPUの「D780C」1つしかありません。後は日立製のSRAM、東芝製の不揮発性メモリやTI製のICなどコンピューター分野でもライバルだったメーカーのチップが並んでいます。
当時の雑誌には「さすがNEC、大容量メモリーによる99曲ランダムメモリーを実現」みたいなことが書かれていましたが、他社製のパーツのおかげによるものです。
システムコントロール基板 NEC D780Cなど



(サーボ回路)
CD-803で一番大きなメイン基板は全てサーボ回路です。これだけでも足りなくて側面にある基板とシステムコントロールの裏側の基板もサーボ回路です。この回路を他社と比較するとSONY CDP-101やLo-D DAD-1000の2倍以上、Aurex XR-Z90に対しては1.5倍ぐらいのパーツが取付られています。

ここにはTOCの読みとりなど起動時用のサーボと、再生用のサーボが2つ(高速用と低速用)と全部で3つのサーボ回路があります。これを「3段アクションサーボ」と巧みに宣伝しました。

CDプレーヤーはレーザー光でディスクを読むスピードを一定にするため「線速度」になっており、内周部は500回転/分、外周部は200回転/分と回転スピードがかなり違います。サーボ回路はこのCDの回転数と送りの制御を行い、それに対応してトラッキングやフォーカスを制御し、信号を正しく読まなくてならなりません。

他社は1つのサーボ回路で起動も再生も対応できていましたが、どうやらNECの技術レベルでは、3つのサーボを組み合わせないとうまく再生ができなかったようです。
結局このサーボ回路は進歩せず、3号機のCD-607では自社製のサーボは放棄されてYAMAHA製のサーボ回路(チップ)に置き換えられます。

回路の調整用ボリュームは何と11個もあります。工場の出荷時はレーザーの特性に合わせながら、これを1つずつ調整する訳ですから、たいへんな手間がかかったと思います。

ちなみにライバル機のSONY CDP-101はマイコンを使用したサーボ回路で、各社の1号機の中では最も進んだサーボ回路でしたが、エラーアンプなどいろいろな所でNEC製のオペアンプ「μPC4558C」を使用しています。

こんなサーボ回路ですがオーディオ雑誌に掲載された宣伝文句がすごいです。「デジタル技術を極めた NEC独自の3段アクション・サーボ方式採用」。

サーボ回路 サーボ回路

サーボ回路
TIと日立製のICが
並んでいます。
調整用のボリューム



(信号処理回路)
信号処理回路は、CDのデジタル信号を処理する回路で復調、誤り検出、誤り訂正などが行われます。システムコントロール回路と並んで、本来ならばNECが得意としそうな回路ですが、ここにはNEC製の部品はまったくありません。

ここでメインとなるのはSONY製のCX7932、CX7933、CX7935というチップ。この3つのチップ(LSI)で信号処理をほとんど行っており、わかりやすく言うと信号処理はSONYに丸投げしているということです。誤り訂正に使われるRAMは、沖電気のスタティックRAM「MSM2128」です。

当時の雑誌によると、SONYはこの3つのLSIで約500個分のICを、集積化していると言っていますので、このチップが無ければCD-803はとんでもない大きさになっていたはずです。

信号処理基板 SONY CX7935とCX7933



(デジタルフィルター回路)
ここでようやくNECの本領発揮。デジタルフィルターはNEC製の16bit・オーバーサンプリングのND(ノン・ディレイ)フィルターです。デジタルフィルターはDSP(Digital Signal Processor)の一種で、当時のNECは製品としては世界初となるDSPを完成させており、その技術は超一流でした。

CD-803のデジタルフィルターは、専用チップの「μPD7720」を4個使用して回路を構成しています。このチップは1チップに4万個の素子が収められていますが、これでもまだ集積化の途中でした。NECは集積化をすすめて、2年後にはこの基板全部が3cm足らずのチップ1つに収められます。

1982年の段階ではピックアップの性能も低いですし、サーボ回路の制御レベルも高くないので、プレーヤー内部のノイズはかなり高いものでした。そんな状況ではデジタルフィルターの効果はてきめんで、音質面では大きな効果を発揮しました。

※このデジタルフィルターの基板は、ロットによって反対に取り付けられているものもあります。

デジタルフィルター基板 NEC μPD7720



(DAC・オーディオ回路)
D/Aコンバーターは16bitのバーバラウンPCM51JG-V。後に世界標準ともなるバーブラウンのDACですが、各社のCDプレーヤー1号機でバーブラウンを搭載したのは、NECとPioneerしかありませんでした。

PCM51JGは低ひずみ率、ローコストをコンセプトに開発されたラダー抵抗型のDACで、電流出力型のPCM51-J1と、オペアンプを内蔵して電圧出力としたPCM51JG-Vがありました。

PCM51JG-VはシングルDACなので、DACの後ろにはトランジスタを使ったスイッチング回路があり、変換された音楽信号を左右のチャンネルに振り分けています。その後ろのローパスフィルターは、左右独立のツインモノ構成となっています。

オペアンプはライバル機のLo-D DAD-1000が、NEC製の「μPC4557C」を使用しているのに対し、CD-803では自社製を無視。現在でも音質に定評があるTI製の「NE5532P」が使われています。

オーディオ回路基板 DAC PCM51JG-V

スイッチング回路 オペアンブ NE5532P



(電源回路)
これだけ大量にパーツがあるということで、77VAの大型電源トランスを装備しています。

大きさは当時のプリメインアンプに搭載されているトランスと、たいして変わらないくらいのサイズがあります。

ヒートシンクに取り付けられているレギュレーターは6個で、かなりの発熱量となります。

ただ結果としては、この大容量の電源回路の搭載して、回路を安定動作させたことが音質面ではプラスに働き、CDプレーヤー1号機の中では音は一番良いという評価につながったのかもしれません。

電源トランス 電源回路

電源回路



(ピックアップ・ドライブメカ)
CDのローディングは、各社の1号機では多数派の垂直ローディング。ドアのポケットにCDを入れて、「CLOSE」ボタンを押すと自動的にCDがエレベーターで下がり、ドアが閉まり読み込みが始まります。

ピックアップはダイキャスト製のケースに収められた東芝製の「OPH-31」です。スライド機構はギヤ式でパルス制御モーターにより駆動しています。スピンドルモーターはFUJIYA製のDCコアレスモーターです。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ

ピックアップの裏側 スピンドルモーター(手前)と
ドア開閉用のモーター(奥)

ディスクのローディング機構

ワイヤーを使用した仕組みで、まずディスクがエレベーターで下降し、ドアが閉まることによってスピンドルモーター側のクランパーにセットされます。そして斜めにセットされたチャッキングアームによりディスクが固定されます。

(出力端子・リモコン)
出力端子はアナログの固定と可変出力が1系統ずつ。隣のボリュームは可変出力とヘッドフォンの調整用です。リアパネルには他にオートスタートスイッチやACコンセントがあります。

CD-803は専用リモコンが付属になっていました。当時はリモコンというとオプション扱いで、各社の1号機でリモコンを付属にしたのはCD-803とダイヤトーンDP-101だけです。リモコン自体はとても小型で、ボタン電池のLR44を使用しています。

出力端子 専用リモコン


NEC CD-803のスペック

周波数特性 5Hz〜20kHz ±0.5dB
高調波歪率 0.01%以下
ダイナミックレンジ 90dB以上
S/N比 90dB以上
チャンネル
セパレーション
70dB以上
消費電力 48W
サイズ 幅430×高さ150×奥行360mm
重量 12.0kg




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