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DENON DCD-1650AR

   1997年 定価99,000円



DENONのDCD-1650ARは、1997年7月に発売されたCDプレイヤーです。
ライバル機はSONY CDP-XA50ES、marantz CD-17Da、Pioneer PD-HS7、SANSUI CD-α607など。

DCD-1650ARは発売当初から人気を集め、20年以上たった現在でも人気が高く、中古ショップやオークションでは高値で取引されています。
この人気を作り出したのが「長岡鉄男」。

1997年のFMfan14号のダイナミックテストの記事で、DCD-1650ARの上級機にあたるDCD-S10Ⅱ(190,000円)を「超ワイドでハイスピード&高分解能、高級コンポで実力を発揮」と評価しますが、同じ年の22号でDCD-1650ARについて

「音は良くなった。1650ALよりS10Ⅱに近い。むしろ、その点でS10Ⅱに及ばないかを探すという感じになる。普通のオーディオシステムで、普通の音量で再生していると、S10Ⅱとの違いは判らないのではないかと思う。馬力がありハイスピード、ワイドレンジで、解像度が高く、音場も広い。それでもS10Ⅱと比較すると、コクとか艶とかいった、いわく言い難い部分で違いがでるようだ。文句なしのハイCP機だ。」と評価します。

年末のダイナミック大賞ではDCD-1650ARが部門賞となり、DCD-S10Ⅱは優秀推薦機のうちの1台ということになります。つまり評価はDCD-1650ARが上ということ。
DCD-1650ARとDCD-S10Ⅱのダイナミックテストのレビュー


当時の長岡鉄男の発言力はとても大きく、製品の販売を左右するほどの力がありました。DCD-1650ARの大ヒットの影で当然DCD-S10Ⅱは売れなくなったはずで、メーカーのDENONもさぞ苦慮したのではないかと思います。

しかし長岡鉄男が「S10Ⅱとの違いは判らないのではないかと思う。」といったのも無理もない話で、DCD-1650ARの外見は前モデルのDCD-1650ALと同じですが、長岡鉄男言わくシャーシの強度はS10Ⅱより、DCD-1650ARが上回るところがあり、内部の回路はDCD-S10Ⅱとほぼ同じとなっています。


DCD-1650はD/Aコンバータに、電流加算型の20bitDAC バーブラウン「PCM1702」を4個搭載。チャンネルあたり2個のDACを使った差動構成としており、ラムダS.L.Cによってゼロクロス歪みを発生させないようにしています。

DCD-1650ARのもうひとつのウリが「ALPHAプロセッサー」です。ALPHAプロセッサーは、CDの16bit信号から原音に近いアナログ波形を再現するというもので、改良型が現在のSACDプレーヤーにも搭載されています。

オーディオ回路はDCD-S10Ⅱと違いを付けるため、オペアンプの銘柄を変更したり、コンデンサの種類や本数を変更することで、音の味付けやコストダウンを図っています。

でも、コンデンサの種類を変えたといっても、DCD-1650ARが使っているのは、オーディオ用として評価の高い「シルミック」コンデンサなどオーディオ用コンデンサです。本数を減らしたと言っても、まだ十分過ぎるぐらいの電解コンデンサを搭載しており、本数の削減は「ぜい肉」を削ぎ落としたぐらいの感じです。
そのため、メーカー側が意図したほどDCD-S10Ⅱとの、音の差がつかなかったのかもしれません。

メカは重心に配慮したセンターメカを採用。デイスクスタビライザーの機能を持った、直径80mmのクランパーの装備により、ディスクの振動を低減して安定した読み取りを可能としています。
さらにトレイにも振動を低減するコラーゲンを配合した特殊塗料をコーティングしています。シャーシは振動対策のために低重心とした重量級のものです。


現在のDENONはリップルウッド、さらにベインキャピタルと外資に買収された影響で、価格の上昇と裏腹に製造コストのカットも行っています。これはDCD-1650AEやDCD-1650SEの内部を見れば、ハッキリとわかります。

特に電源回路やオーディオ回路まわりは、コンデンサなどのパーツが削減されており、ここにキチンとお金をかけて、1990年代のDCD-S10やDCD-1650シリーズ以上にパーツを投入しているのは、もはやDCD-SX1ぐらいしかありません。



(音質について)
長岡鉄男はダナミックテストの中で「馬力があり、ハイスピード、ワイドレンジで、透明度が高く、音場が広い」と評しており、実にマトを得た簡潔な表現だと思います。

32bitDACを搭載したSACDプレーヤーDCD-1500SEと比べると、スピード感、解像度はやや劣りますが、DCD-1500SEがDCD-1650ARに勝るのはそこまで。
音の緻密さ、情報量、倍音、ツヤ、中低音の太さ、高音の伸び、そういうものが合わさって出てくる音楽の「表現力」とか「臨場感」などは、DCD-1650ARのほうが断然良くて、DCD-1500SEではまったく歯が立ちません。

「1650」シリーズの最終型であるDCD-1650REは、価格が180,000円とDCD-1650ARの2倍近くになりました。でもSACDは音が良いのですが、CDの音はパッとしません。

従来のDENONのサウンドから方向を変えたのもあるのですが、中低音の太さ、高音の伸び、音のツヤ、音場などはDCD-1650ARのほうが上です。ソースによってはレンジや細部の再生でも、DCD-1650ARに負けてしまいます。

もっともCDプレーヤーとしての中味のレベルは、SACDを除けばDCD-1650REよりもDCD-1650ARのほうが、レベルが上なので当然の結果ではあります。(DAC、オーディオ回路、電源部などはDCD-1650ARの勝ち。メカやシャーシは互角、デジタル回路はノイズが大きく、音質に悪影響を与えているのでDCD-1650REの負け)。


DENON特有の「中低音の厚み」は、SACDプレーヤーの時代になってから、オーディオ回路をちょこっといじって、音を持ち上げているような感じなのに対し、DCD-1650ARは本当にナチュラルで、重心が低く、量感も全く違います。

このあたりは、ただ24bit、32bitと解像度を追い求める現在のDACと、名機とも呼ばれたDAC「PCM1702」との音の違いであり、さらにコストを十分にかけた電源や、オーディオ回路の能力の差によるものだと思います。

使用する際の注意しなくてはならないのは電源ケーブル。付属の電源ケーブルは安物なので、DCD-1650ARの能力をキチンと引き出すには不十分です。なるべく能力の高い電源ケーブルが必要です。





(フロントパネル)
1990年代後半のDENONのCDプレーヤーの代表的なデザインです。
操作ボタンは電源、開閉、プレイ、ストップ、スキップ、ディマーにヘッドホンのボリュームのみで、プログラムはリモコンからしかできません。輸出仕様にはブラックモデルもありました。



動画の音はビデオカメラの内蔵マイクで録音しているため、
音質は良くありません。






(シャーシ・内部について)
手で持つとズッシリと重いプレーヤーです。

シャーシは厚さ1.3mmの鋼板製で、底板はこれに1.7mm厚の鋼板が2枚プラスされた3重構造。天板は1.5mmの鋼板に1.3mmの制振鋼板を合わせた2重構造。サイドパネルも2重です。フロントのアルミパネルは3mmですが、上端と下端部は8mm以上の厚みがあります。

インシュレーターは金ピカですが、中空のプラスチック製で接地面にはフェルトが貼られています。

DCD-S10Ⅱの重量は14kg。それに対しDCD-1650ARは11.9kg。重量の差はDCD-S10Ⅱが焼結合金のインシュレーターを付けているのと、DCD-1650ARよりぶ厚いフロントパネルを装着している部分の差ぐらいしかないかもしれません。

内部はセンターメカを採用。左側にデジタル/オーディオ独立の電源トランスと電源回路。右側がサーボ・信号処理などのデジタル回路。オーディオ回路が一番奥という配置です。


底板をはずしたところ 天板

底板 インシュレーター



(電源回路)
電源トランスはデジタルとオーディオ専用の独立2トランス。それぞれシールドケースに入っており、回路に影響を与える磁束漏れを防いでいます。トランスはサイズから見ても、DCD-S10Ⅱのトランスと同じ物だと思います。

回路部分もDCD-S10Ⅱとほぼ同じで、コンデンサはELNAのシルミック 50V・3300μFが2本などを使用。違いはレギュレーターのヒートシンクの形状ぐらいです。

電源コードは3Pの着脱式で1.25m㎡の丸型キャブタイヤです。ただ安物なので良い物に交換したほうが良いです。

電源トランス 電源回路


(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール)
DCD-S10Ⅱでは独立基板でデジタル入力に対応していましたが、DCD-1650ARはオーディオ回路との一体基板となっています。ICはすべて基板の裏側にあるので、表面はジャンパー線だらけです。

DENONは、1980年代からずっとサーボ回路のICはSONY製を使用していましたが、DCD-1650ARは松下製のデジタルサーボのICを使っています。

デジタルサーボ用のICは「MN662720RB」です。このICはサーボ専用ではなく、サーボ回路に信号処理回路やデジタルフィルター、そしてD/Aコンバータまで入っている、いわゆる「スーパー1チップLSI」と呼ばれるものです。
DCD-1650ARでは、この中でサーボと信号処理の機能だけを利用しています。

このスーパー1チップLSIはコストが安かったため、DCD-1650ARのように一部の機能だけを利用する使い方は、テクニクスやYAMAHAのCDプレーヤーでも行われています。

デジタル回路 マイコン
DENON 622 172 107

スーパー1チップLSI
松下 MN662720RB
4chドライバー
松下 AN8389S



(DAC・オーディオ回路)
DCD-1650ARのオーディオ回路は、DCD-S10Ⅱの回路をベースにしています。
厳密にいうとDCD-S10Ⅱの回路はDCD-S10(初代)と、ほぼ同じなので、DCD-1650ARもDCD-S10Ⅱも、DCD-S10の回路がベースということになります。

DCD-S10ⅡとDCD-1650ARの回路との違いは、スチロールコンデンサをフィルムコンデンサに変えてあることと、電解コンデンサの本数を減らしてあること。そしてオペアンプを変更してあることです。

電解コンデンサの本数を減らしたといっても、まだ30本もあり電源の供給力と安定度としては、十分過ぎるぐらいです。このため、とても余裕度の高いオーディオ用電源となっており、急な電圧変動などが発生しても、安定したD/A変換やI/V変換、ライン出力が可能となっています。


DCD-1650ARのD/Aコンバーターは、サイン・マグニチュード方式の、バーブラウンの20biDAC「PCM1702」を4個使い、片チャンネルあたり2個の差動構成としています。出力は音質の良い電流出力となっています。

サイン・マグニチュード方式は、内部にある2つのDACを+専用と-専用で動作させてD/A変換し、それを後で合成するというもので、マルチビットのDACにつきものだった、ゼロクロス歪みが発生しないというメリットがあります。

動作としてはテクニクスの4DACシステムや、DENONのラムダS.L.C(スーパー・リニア・コンバーター)に近いものです。

DCD-1650ARはラムダS.L.Cも搭載しており、ゼロクロス歪みの対策にはこちらを使用しているようです。
ラムダ(LAMBDA)は、LADDER-FORM MULTIPLE BIAS D/Aの略で、信号をプラス側とマイナス側の二つに分け、テジタルパイアスをかけてシフトし、ゼロクロス点が含まれない状態でD/A変換して、信号を合成するもので、ゼロクロス歪を解消しています。


ALPHAプロセッサー(Adaptive Line Pattern Harmonized Algorithm Processing)は、波形再現技術と呼ばれるものです。

デジタル録音や、アナログマスターからCDを作る際に使用するA/Dコンバータでは、どうしても変換誤差が発生して歪みとなります。

ALPHAプロセッサーの仕組みは、CDに記録された16bitのデータから、波形の変化率を検出して解析。元の信号の波形パターンを推測します。それを複数の補正パターンと照合して、補完データを作成。元のアナログ信号に近い波形を再現します。

またALPHAプロセッサーは、デジタルフィルターと連動しており、入力信号の解析により、フィルター周波数のパターンを、自動的に変更する適応型デジタルフィルター(8倍オーバーサンプリング)を搭載しています。

ALPHAプロセッサーとデジタルフィルター、ラムダプロセッサの回路と共に、「SM5845AF」というICに収められています。

オペアンプはI/V変換がNEC製の「C4570C」。差動合成やローパスフィルター用には、アナログ・デバイセズの「OP275」や、フィリップス製の「NE5532」が使われています。


※オーディオ回路の電源の余裕度、安定度は音質に直結するため、最近は各メーカーともに、セールスポイントとして、取り上げることが多くなりました。ただの宣伝文句だけの場合もあるので注意が必要です。
わかりやかい基準としては、オーディオ回路にある電解コンデンサの本数が目安になります。

ちなみに現在のDENONのCDプレーヤーで、DCD-1650AR並みのオーディオ回路用の電源を持っているのは、DCD-SX1(550,000円)しかありません。

中級機では外資に買収後に発売された、DCD-1650AE(150,000円)では、コストダウンのために、DCD-1650ARの1/3のレベルに落としてしまいました。その後DCD-1650SE、DCD-1650RE、DCD-2500NEと、オーディオ回路用の電源の強化してきましたが、まだDCD-1650ARのレベルには遠く及びません。

オーディオについて、よく「オカルト的」という言葉が使われますが、普通の家電製品は年々進化して価格が安くなるのが普通。ところがオーディオ製品は、年々価格が高くなるのに中味は退化しており、一番「オカルト」的なのは、オーディオ機器そのものかもしれません。

オーディオ回路 ALPHAプロセッサー
デジタルフィルター
DENON SM5845AF

DAC バーブラウンPCM1702 シルミックコンデンサ

オペアンプ NEC C4570C オペアンプ
アナログデバイセズ OP275
フィリップス NE5532



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカはDCD-1650ARのいわば「アキレス腱」です。わかりやすく言えば安物のメカということです。

メカには銅メッキされた鋼板製のシールドカバーが付いています。このカバーはメカの強度向上をはかるとともに、ピックアップへのホコリの付着を防いでくれます。また最近のカタログやホームページでの写真では、安物のメカを使ってるのを隠すのにも、重要な役目を果たしています。

メカベースは樹脂製。ピックアップはシャープ製の「H8147AF」で、スライド機構はラック&ピニオンによるギヤ式。このピックアップやスピンドルモーターを、取り付けてあるメカシャーシーは薄い鋼板製とバブル期のエントリーモデル並みのメカです。でもこんなメカですが、上級機のDCD-S10もほぼ同じ物を使っています。

以前よりもメカのレベルを落としたのは、デジタルサーボの進化で、安定した読み取りが可能となったことや、デジタルフィルターの進歩などノイズ対策が進んだことが考えられます。

それでも、メカの善し悪しは音質に大きく影響します。このメカでもこれだけの音が出るの訳ですから、以前のように振動特性に優れた素材や、リニアモーターを使った高価なメカだったら、どんな音になっていたのかと思います。

実はこのようなメカの部分のコストダウンは、DENONだけではなくSONYやYAMAHAなどでも行われており、1990年代の中ごろから、安価なメカが搭載されるようになりました。
また現在では、けっこう高額のSACDプレーヤー(ハイエンド)でも、このメカと大差ない物が使われています。


ピックアップ
シャープ製「H8147AF」

ディスクをターンテーブルに押さえつけるクランパーは、大型の物で、ディスクの振動を抑えるスタビライザーの役目も果たします。

ディスクトレイには振動を減衰するためコラーゲンを配合した特殊塗料がコーティングされています。
ところがこの塗料が劣化すると、ベタベタするのがDCD-1650ARの持病でもあります。



(出力端子・リモコン)
出力端子はアナログが固定と可変の2系統。デジタル出力も光と同軸の2系統となっています。
専用リモコンの型番はRC-255です。

出力端子 リモコン RC-255


DENON DCD-1650ARのスペック

周波数特性 2Hz~20kHz
高調波歪率 0.0018%
ダイナミック
レンジ
100dB
S/N比 118dB
チャンネル
セパレーション
消費電力 20W
サイズ 幅434×高さ135×奥行340mm
重量 11.9kg





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