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TRIO KT-8000

    1977年 定価69,800円



TRIO KT-8000は1977年に発売されたFM専用チューナーです。中級機の価格帯でありながら、フロントエンドの7連バリコンや、KT-9700用に開発された検波部のパルスカウント方式、IF部のダブルコンバージョン方式、IF帯域の2段切替などを搭載しており、前年に発売されたKT-7700(78,000円)と同等以上のスペックを持つ、意欲的でコスパに優れたチューナーでした。


フロントエンドには高選択度特性を持つFM7連パリコンを搭載しています。1970年代のチューナーは、クラスによりFM用のバリコンの数が違うのが特徴で、初級モデルは3連バリコン。中級機は4~5連バリコン、高級機は7連バリコン以上という感じでした。ちなみに1982年に発売されたKENWOOD L-02T(300,000円)も7連パリコンです。

RF部には直線性の良いデュアルゲー トMOS-FET。ミキサー部にはDD MOS-FETを使用し、すぐれた妨害排除能力を得るとともに、高周波数特性に優れながら低歪率な回路としています。
チューニングノブには60mmの大型フライホイールを採用。シグナルとチューニングメーターと合わせて、スムーズで正確な同調がてきます。

IF部は歪率を抑えた音質重視の「WIDE」と、高選択度でクリアな受信ができる「NARROW」を選択できます。パーツにも群遅延特性にすぐれたフェーズリニア型セラミックフィルターなどを採用し低歪率化を実現しています。
第1 IF周波数10.7MHzを、第2 IF周波数1.96MHzに変換するダブルコ ンバー ト方式により、検波効率が上がりSN比も向上しています

パルスカウント検波は、周波数変調信号をパルス信号に変換してから、積分して出力電圧を得る方法で、直線検波が可能なため歪がきわめて低く、検波帯域幅が広いという特徴があります。またイ ンダクタンスが不要なために、環境の変化に対しても安定的な検波出力が行えます。

MPX部はクリーンサブキャリア方式のパイロッ トキャンセラー回路により、音質を劣化させずに19kHzのパイロッ ト信号を除去しています。
出力部は差動直結オペレーショナルアンプにより、オーバー変調にも強く低インピーダンスの回路となっています。


(受信について)
現在はFMアンテナが無いので、ケーブルテレビからFM放送を聴いています。ケーブルテレビからの受信も問題が無い訳ではなく、ケーブルテレビ局が受信したFM波を送ってくるだけなので、実際にはFM局によってはシグナルが低かったり、混信が起きていたりします。また局間ノイズなども、FMアンテナを使った時と同じです。

KT-8000は7連パリコンということで、確かに感度は良いのですが、その分チューニングはシビアです。安いバリコンチューナーに比べると、チューニングメーターで中央を捕らえるのは難しく、ほんの少しダイヤルがズレただけで、針が中央から離れてしまいます。

日常的に使うにはシンセサイザーチューナーのほうが断然便利です。しかしチューニングつまみを回しながら、目はシグナルメーターとチューニングメーターを注視。耳はスピーカーから出る音に集中と、電波の一番良いポイントを探しながら操作をするというのは、バリコンチューナーならではの醍醐味です。



(音質について)
TRIO KT-6005と比べると音質は格段に良くなっています。ただKT-1010やPioneer F-120といったシンセサイザーチューナーと比べると、レンジは狭いですし細かい部分も出ません。単純にそういう尺度で「音質」を比較するとまったく勝てません。でもKT-8000の音はウォームトーンでアナログ的です。これが最大の魅力。

KT-1010やF-120の頃になると放送局もCDプレーヤーを導入し、使用するソースもデジタル音源が増えていった時期です。そういう意味では、これらのチューナーの音は現代的です。
それに対してKT-8000が発売された1977年は、放送局もレコードなどのアナログソースが主体です。チューナーの音作りも当然これに合わせたものになっていた訳です。

この時期に復活したフォー・シーズンズの1975年のヒット曲、「1963年12月・あのすばらしき夜(December, 1963 Oh, What a Night)」ではありませんが、1970年代の夜に聞いた、あの素敵なFM放送の音を再現するには、やっぱり、バリコン・チューナーでなければダメなのです。



(フロントパネル)
フロントパネルは当時としてはオーソドックスなデザインです。

上部にはシグナルメーターとチューニングメーター。そしてインジケーターランプ。その下にチューニングスケール。

操作系は左が電源スイッチ、出力ボリューム、真ん中にチューニングつまみ、右側には「WIDE」と「NARROW」のIFバンド切替スイッチ。ミューティングスイッチ、モード(MONO・AUTO・MPX FILTER)切替スイッチがあります。


シグナルメーターと
チューニングメーター





(キャビネットと内部について)
アルミのフロントパネルは4.3mm厚。キャビネットは鋼板製。この時代はオーディオ機器の積み重ねは当たり前だったので、天板もそこそこ丈夫なものが使われています。

内部は左側に電源回路。右側のメイン基板にはRF、IF、MPX回路などがあり、フロントエンドとパルスカウント回路にはシールドカバーが取り付けられています。




(電源回路)
電源部は土2電源で、誤差電圧を検出して負帰還をかけた、定電圧電源回路となっています。コンデンサには2200μFを使用して、安定した電源を供給しています。

電源トランス 電源回路


(フロントエンド)
フロントエンドには局部発振器内蔵型の周波数直線7連パリコンを搭載。シングル、ダブル、トリプルチューニングで構成 して高選択度特性を得ています。

RF部には直線性の良いデュアルゲー トMOS-FET。ミキサー部には 2乗特性 にすぐれたDD MOS-FET (2重拡散型) を使用し、すぐれた妨害排除能力を得ています。

局部発振回路はプリント板を使わずに、立体配線として安定性を高めており、温度や湿度の影響による周波数ドリフトを抑えています。また局発部をバリコンと一体化しているため、バリコ ンの回転角度に対 して正確に受信周波数を合せることができ、高い同調精度を得ています。

フロントエンド フロントエンド

FM専用7連バリコン フライホイール



(FM復調 IF・検波回路)
IF帯域幅を2段階に切替えることができ、歪率を抑えて音質重視の「WIDE」と、高選択度特性によるク リアな受信ができる「NARROW」を選択できます。

ダブルコンバート方式は第1 IF周波数10.7MHzを、第2 IF周波数1.96MHzに変換するもので、相対周波数偏移が上がるため、検波効率が上がりSN比を大幅に改善しています

パーツには日立製のIF部用の多機能チップ「HA1137W」を使用。内部にはIFアンプやマルチパス回路、メーター回路、ミューティング回路などが搭載されています。
他に群遅延特性にすぐれたフェーズリニア型セラミックフィルターを使用 して低歪率を実現。「WIDE」側の回路では、新開発の4素子のセラミックフィルターを採用して、45dB(400Hz) の選択度で歪率0.05%(1kHz、MONO)を達成。「NARROW」では12素子 (4素子1段・ 2素子4段) のセラミ ックフィルターによリ60dB(300kHz)の選択度で、歪率0.15% (1kHz MONO) の性能を得ています。
バンドパスフィルターは「TRIO-KENWOOD」と書かれた「L79-0058-05」です。

パルスカウント検波は、まず周波数変調信号をリミッターアンプで方形波(パルス信号)に変換。これをトリガー回路と単安定マルチ回路(単安定マルチバイブレータ)で、パルス幅の等しい出力にします。これを積分回路に通して復調信号に変換しています。
従来の検波回路では回路の特性上、インピーダンス変化による非直線歪みが発生していましたが、周波数帯域の全般にわたって直線検波が可能なため、理論的には非直線歪みが起きません。

当時はパルス信号と呼んでいましたが、1980年代にはデジタル信号という呼び名に代わります。積分回路はいわばD/A変換回路で、ローパスフィルターを利用してアナログ化しており、これは1990年代の1bitDACと同じです。

このパルスカウント検波の回路は、基板の表裏をシールドケースで厳重に保護されています。単安定マルチ回路のNANDゲートは、テキサスインスツルメンツ製の「SN74LS03N」。積分回路(ローパスフィルター)は可変コイルを使用したパッシブフィルターです。

IF回路 1.96MHz バンドパスフィルター
L79-0058-05

パルスカウント回路 パルスカウント回路



(ステレオ復調 MPX回路)
MPX部はクリーンサブキャリア方式によるパイロッ トキャンセラー回路を搭載。音質の劣化をもたらすビー トディストーションを悪化させることなく、高城周波数特性や位相特性を保ったまま19kHzのパイロッ ト信号を除去しており、30Hz~16kHで+0.2dB-0.6dBという周波数特性を得ています

ポストアンプ部は差動直結オペレーショナルアンプで、ダイナミックレンジが広く、 300%以上の過変調に対しても強く、出力インピーダンスも低い設計となっています。

パーツは日立製のFMステレオデモジュレーター(復調器)の「HA11223」。ミューティング用には富士通製のリードリレー。オペアンプはJRC 4558Dです。

MPX回路 リードリレー



(アンテナ端子・出力端子)
アンテナ端子は75Ωの同軸ケーブルコネクター (3C-2V)と、75Ω同軸ケーブル端子(5C-2Vまたは3C-2V)に、300Ωのフィーダー用端子。そしてGND端子があります。
出力端子は固定出力と可変出力。その他にFMマルチパス出力があります。



TRIO KT-8000のスペック

FM 受信周波数 76MHz~90MHz
周波数特性 30Hz~16kHz +0.2-0.6dB
感度 1.6μV(IHF)、 9.3dBf(新IHF)
SN比50dB感度
MONO 2.8μV(IHF)、14.1dBf(新IHF)
STEREO 30μV(IHF)、34.7dBf(新IHF)
選択度 WIDE 45dB
NARROW 60dB
歪率
Wide Narrow
MONO 100Hz 0.04% 0.04%
1kHz 0.05% 0.15%
15kHz 0.08% 0.08%
STEREO 100Hz 0.06% 0.3%
1kHz 0.05% 0.15%
50Hz~
10kH
0.1% 0.3%
S/N比 MONO 83dB
STEREO 78dB
ステレオ
セパレーション
55dB(1kHz)
42dB(50Hz~10kHz)
35dB(15kHz)
イメージ妨害比 120dB
IF妨害比 120dB
AM抑圧比 65dB
サブキャリア抑圧比 70dB
キャプチャーレシオ WIDE 1dB
NARROW 1.6dB
消費電力 20W
サイズ 幅430×高さ149×奥行377mm
重量 7.9kg





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