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Panasonic SL-PS70

     1989年 定価42,800円



パナソニックのSL-PS70は、1989年10月に発売されたCDプレーヤーです。海外仕様はSL-PS50。


この頃、松下電器(現パナソニック)は低価格のオーディオ製品には、「Technics」ブランドではなく、海外で実績のあった「Panasonic」ブランドを採用しました。しかしユーザーからの不評もあり、数年で方針を変更して、また「Technics」へと戻すことになります。

Technicsは1988年のSL-P777やSL-P555などに、1bitDACの「MASH」を搭載しましたが、これは第2世代のMASH「MN6741」で、音の評価は歓迎する声もあれば厳しい声もありました。

事実、パナソニックは搭載機に「リニア18bit・4DACシステム」と名付けて、1bitDACであることを隠しました。それだけ完成度が十分では無かったのかもしれません。

翌1989年に発売されたSL-PS70には、改良が加えられ進化した第3世代のMASH「MN6742」を搭載しました。雑誌の広告やカタログでは「サイレンス・テクノロジー」として、MASHが優れたDACであることを大々的にPRします。

このためSL-PS70が、MASHを搭載した最初のモデルと誤解した人も多かったように思います。ともあれSL-PS70は成功を収めヒット商品となります。


MASH(multi-stage noise shaping)は、松下電器とNTTが共同開発したD/Aコンバーターです。

仕組みはCDのデジタル信号をノイズシェーピング回路でオーバーサンプリングしなから16bitから1bitにビット圧縮。
それをPWM(Pulse Width Modulation)回路で波形に対応した幅を持つパルスに置き換え、これを4つのDACでD/A変換し、ゼロクロス歪や非直線歪がない信号を再現しています。

またオーディオ回路には負荷変動に強いclassAA回路を採用し、歪みの少ない再生を可能にしています。

TechnicsのCDプレーヤーとして初めて、重心のバランスに優れたセンターメカニズムを採用。メカはリニアモーターを使用していてアクセスは高速です。シャーシのボトムベースは鋼板とBMCによる多層構造として、高い防振能力を持っています。

1989年当時、松下電器は「MASH」をSANSUI、YAMAHA、ONKYO、Victorなどのメーカーに供給していましたが、これらのメーカーに供給したのは旧型の「MN6741」で、新しい「MN6742」を国内で搭載したのは自社のSL-PS70だけでした。

このような「仕打ち」のせいかMASHのユーザーだったメーカーは、PHILIPS製の1bitDACに移行したり、自社で1bitDACを開発・搭載したために、MASHの搭載機はしだいに数が減って行くことになります。



(音質について)
音はTechnicsらしい少し明るめのサウンドです。当時のMASHは解像度が「売り」で、これは18bitDACの5万円クラスよりは優れています。低音は良く出ておりエントリーモデルということでメリハリは少し強めになっています。ジャンルでいうとロックやフュージヨン、JPOPなどに向いています。

後継機のSL-PS700では、音の方向性をガラリと変えて軟らかいサウンドとなり、解像度や音場も向上しバランスの整った音となります。SL-P70よりも価格は安いですが、後継機というより2段階ぐらい上の上級機という感じの音質です。



(フロントパネル)
フロントパネルはセンタートレイの全く新しいデザインが採用されます。センタートレイは当時としては斬新なデザインで、トレイにRをつけるのもこの頃の流行です。

再生や早送りなど操作用のボタンと、プログラム用のボタンが全て右側に集中してしまったため、ゴチャゴチャしてわかりずらいです。その反省もあるのかリモコンは大型のものが採用されました。




(シャーシと内部について)
シャーシのボトムはTNRCと呼ばれていないものの、鋼板とBMCによる2重底です。天板には大きな制振材が貼られています。

内部は中央にピックアップ・ドライブメカがあり、この下にサーボ回路があります。左奥には電源トランス。

右側の基板は前がサーボやシステムコントロール用の回路、奥は左側が電源回路で右側がオーディオ回路となっています。DACなどのチップ類は裏面に装着されています。


天板 インシュレーター



(電源回路)
電源回路のトランスは小型。電源回路もシンプルで、いかにもエントリーモデルという感じの回路です。

電解コンデンサは松下製のオーディオ用「Pureism」 16V・2200μFや、一般品の「SU」が使われています。

電源トランス 電源回路



(サーボ回路・信号処理・システムコントロール回路)
サーボ回路はまだアナログサーボで、回路はピックアップ・ドライブメカの下に基板があります。

サーボ制御を行うサーボプロセッサー「8374S」と、RFアンプなどを内蔵したサーボアンプ「8373S」。アクチュエーター用のBTLドライバー「AN8377N」などのICにより、コンパクトな回路となっています。

信号処理回路とシステムコントロール回路はメイン基板の下にあります。CIRC復調や誤り訂正を行うシグナルプロセッサー「MM6625」と、SONY製のスタティックRAM「CXK5816MS-15L」。システムコントロール用のマイコン「MN1554PJZ1」などがあります。

信号処理・システム
コントロール回路
メカの下にあるサーボ回路

サーボアンプ 8373S サーボプロセッサー 8374S

(右)シグナルプロセッサー
 MM6625
(左)スタティックRAM
 CXK5816MS-15L 
マイコン MN1554PJZ1

サーボ調整用のボリュームは、メカの下にあるため、ディスクの再生中はトレイに隠れて調整が出来ません。そのためボリュームを少し回しては、ディスクを再生するという作業を繰り返えす必要があります。

左からトラッキング・オフセット(VR103)、トラッキング・ゲイン(TR G・VR102)、フォーカス・ゲイン(FE G・VR104)、フォーカス・オフセット(VR105)、フォーカス・バランス(FO B・VR101)、トラッキング・バランス(TR B・VR106)。




(DAC・オーディオ回路)
D/Aコンバーターは松下製の「MN6472」で、MASHとしては第3世代となります。MN6472は4つのDACを搭載し3次・768倍のノイズシェイピングを持っており、8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターも内蔵しています。

デジタルフィルターは3段で、ここでCDの16bitデータは、いったん24bitにアップコンバートされます。このデータは1次のノイズシェイパーに入り、まず18bitにビット圧縮。2次、3次のノイズシェイパーを経て4bitの信号となり、左右独立のPWM(Pulse Width Modulation)回路に入ります。

こから先は差動回路で片チャンネルあたり、2個のD/A変換部(ローパスフィルター)を通り電圧出力されます。


DACの後ろの回路には差動合成とローパスフィルター。ラインアンプにはテクニクスお得意のclassAA回路を採用しており、電圧と電流のコントロールを別々のアンプに分担させることで、負荷変動による影響を受けにくくしています。

オペアンプはローパスフィルターなどに三菱製の「M5219FP」、ラインアンプには「M5238FP」が使われています。コンデンサは松下製の「Pureism」「BP」などが使われています。

オーディオ回路 1bitDAC MN6472(MASH)



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカは、前年のSL-P999〜SL-P333に搭載されていたメカと、ほぼ同じものです。
このメカはリニアモーターを使用しているため、エントリーモデルにもかかわらず高速アクセスを体感できます。

ピックアップは自社製の「SOAD70A」で、スピンドルモーターなどと共にスプリングによる3点支持でフローティングされ、外部からの振動の影響を抑えて安定した読み取りを可能としています。

ディスクのクランプはサイドのサイドのチャッキングアーム式で、クランパーはスタビライザー効果も狙った大型のものです。トレイのローディングはゴムベルトを使用した一般的なものです。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ・ドライブメカ

ピックアップ SOAD70A クランパー



(出力端子)
出力端子はアナログ出力が固定1系統、デジタル出力端子は光学1系統となっています。他にシンクロエディット端子があります。
リモコンの型番はRAK-SL5001W。

出力端子

(SL-PS70・SL-PS700のトラブルについて)
第1の原因はTechnicsの他のCDプレーヤーにも当てはまることですが、搭載されている松下製のコンデンサの耐久性が悪いことです。
このため1980〜90年代初めにかけて、TechnicsのCDプレーヤーは大量に売れたにも関わらず、中古ショップやオークションに出てくる動作品が少ない原因となっています。

SL-PS70・SL-PS700の固有の原因としては、フロントパネルの裏にある2枚の基板のコネクタの問題です。

この2枚の基板を繋ぐコネクタが特殊な形でかつ脆弱なため、メイン基板を外そうとしただけで、フロントパネルの2枚の基板にも不要な力がかかり、最悪の場合は操作キーが反応しなくなったり、誤作動を起こしたりします。この場合、単に接触不良の問題だけであれば、リモコンでは正常に操作できることもあります。



Technics/Panasonic
SILENCE TECHNOLOGY TEST DISC

1989年にMASHなど「サイレンス・テクノロジー」のプロモーション用に製作された、デモンストレーションCD。(非売品)

上:SL-PS70(1989年) 下:SL-PS700(1991年)

SL-PS70のスペック

周波数特性 2Hz〜20kHz ±0.3dB
全高調波歪率 0.0028%
ダイナミックレンジ 98dB以上
S/N比 112dB以上
チャンネル
セパレーション
100dB以上
消費電力 8W
サイズ 幅430×高さ127×奥行333mm
重量 5.2kg




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