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Technics SL-P990

     1987年 定価89,800円


テクニクスのSL-P990は1987年の10月に発売されたCDプレーヤーで、型番の数字は小さくなりましたが、事実上SL-P1000(125,000円)の後継モデルです。日本国内だけでなくアメリカ、ヨーロッパ、オセアニア、アジア、アフリカなどにも輸出され世界各地で販売されました。

1987年は各メーカーが上級機の技術や機能を積極的に下級機に投入するとともに、大幅な値下げを行っていた年です。
SL-P990もデジタルフィルターやDACの18bit化と4DAC化、シャーシ・防振対策の強化など、SL-P1000に比べて大幅な内容のアップをしたにも関わらず、約35,000円もの値下げとなりました。
その内容は名機と呼ばれたSL-P1200(1986年発売・160,000円)をも部分的に上回っており、いわば戦略モデルと呼んでも差し支えないものだと思います。

1980年代後半〜90年代初めにかけてはCDプレーヤーの物量投入時代です。ところがテクニクスは広告やカタログでは、さも物量を投入してあるように書きながら、中味は大違いというモデルがたくさんあります。
実際にシャーシ、メカ、DAC、電源のすべてに物量を投入して、重量が10kgを越えたモデルはSL-P1200、SL-P1300、SL-P990、SL-P2000の4機種しかありません。

SL-P990は微少信号の再生をコンセプトに開発されたCDプレーヤーです。そのためにボトムには複数の素材を組み合わせた多層構造(TNRC テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)を採用。天板も多層構造となっています。ピックアップ・ドライブメカは2重のインシュレーターを使用してフローティング。さらに電源トランスにもインシュレーターを装着するなど徹底した防振対策を行っています。

オーディオ回路では、マルチビット機の弱点ともいえる「ゼロクロス歪」をシャットアウトするために、新しい回路を開発。専用の4DACプロセッサで、プラスとマイナスの信号を分離・切換えを行い、LchとRchの+−信号を4つのDACで個別にD/A変換しており、信号をゼロクロスをさせないため歪みも発生しないというものでした。
後に登場するDENONの「ラムダS.L.C.」も、全く同様の回路(DENONがパクったのかどうかは不明)で、以後のDACの設計にも影響を与えました。

デジタルフィルターは18bit・4倍オーバーサンプリングを採用。D/Aコンバーターもフローティング方式の18bitDACとして分解能を向上させています。さらにテクニクスお得意の「classAA方式」をラインアウトやヘッドホン回路など各所に採用し歪率を低減しています。

電源回路ではオーディオ、デジタルそれぞれに専用の電源トランスを搭載し、アクティブサーボ電源とすることでオーディオ回路へのノイズの影響を低減しています。


(音質について)
音はテクニクスの明るめのサウンドに、パワフルな低音をミックスさせたもの。しいていえば前年に大ヒットしたSONYのアンプ「TA-F333ESX」とキャラクタが似ています。
とはいえテクニクスは1986年に発売されたSL-P1200やSL-P720などから低音の厚みを増す方向にサウンドを変更しており、これは当時のユーザーのニーズとも合致する音造りでした。

音は太く、それでいて解像度もちゃんとあり、音場も問題ありません。でもこのパンチの効いた低音は、1980年代にオーディオを聴いていた人は理解できるものの、現在の透明感が高く、線の細い音に聴きなれた「耳」の人達には、かえって「派手」「元気が良い」「過剰なメリハリ」など、大味気味のサウンドに聞こえるかもしれません。

オーディオの要はアンプやスピーカーとプレーヤーとの組み合わせなので、低音があまり出ない小型のスピーカーであれば、このような「アラ」は出ずに、ほど良いサウンドになるかもしれません。また組み合わせによっては、現在の「線の細い」音の改善にも使えるかもしれません。

もっと割り切って考えれば、ジャズやクラッシックにはちょっと難しい(オーケストラを豪快に聴きたいというのなら別)ですが、ロックにはピッタリのサウンドとなります。いや逆にロックオンリーと考えれば、何の問題もありません。もちろんJPOPやボーカルもOK。

SL-P990はバブルが産み出した物量プレーヤーですが、現在のプレーヤーの高解像度や繊細な音を求める傾向からいうと、このような豪快な音がウリとなるようなプレーヤーは、今後はまず出てこないでしょう。



(後継機 SL-P999について)
後継機は1988年発売のSL-P999(定価69,800円)ということになっています。「4DAC・リニア20ビットシステム」と名づけて、さもすごいモデルであるかのように宣伝されましたが、価格が下がった分だけ内容もダウンしており、音もSL-P990にはかないません。→詳しくはSL-P999


(フロントパネル)
SL-P990のフロントパネルのデザインはSL-P1000を踏襲。この時期のテクニクスのCDプレーヤーのアイデンティティー「ジョグダイヤル」を搭載した印象的なデザインです。

このジョグダイヤルは1回転で、1秒または1/25秒の2つのスピードのサーチが可能で、曲の聴きたい場所を短時間で探すことができます。
ディスプレイにはCDプレーヤーでは珍しくピークレベルメーターもあり、プレイングポジションと切り替えて表示できます。


デジタルアウトプット・スィッチ エンファシスCDのインジケーター


(内部について)
シャーシのボトムはTNRC(テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)による多層構造です。TNRCは成型樹脂のベース(第1層)に、樹脂とゴムの特殊制振材(第2層)、厚鋼板(第3層)、樹脂とゴムの特殊制振材(第4層)、本体の鋼板シャーシー(第5層)という5層構造で、異なった材料を組み合わせることで、十分な強度と振動の吸収、共振周波数の分散を行っています。

TNRCは機種によって内容に違いがありますが、SL-P990のものは上級機のSL-P1200と同等で、後に登場するSL-P2000(3層構造)より強力でした。

このTNRCの採用により重量はSL-P1000より2kg以上も増加しています。SL-P1000にあった補強用のビームは不要?となったのか装備されていません。
天板も3種類の材料を張り合わせた構造で振動を抑えています。サイドパネルやリアパネルも叩いてもあまり鳴きません。

内部はオーソドックスで左側がピックアップ・ドライブメカと電源トランス。右側には電源、サーボ、信号処理、システムコントロール、オーディオなどの回路が一枚の基板の上に載っています。

パーツ数は電源回路とサーボ回路は他社と同じくらい。オーディオ回路は少ないです。チップの多くが基板の裏側にあり、コンデンサのサイズが他社よりも小さいものが多いため、見る人によってはスカスカに見えるかもしれません。

SL-P1000ではシールド構造と称して、サーボメカとトランス、デジタル回路、アナログ回路を分ける鋼板製の仕切板がありました。ところがシールドといいながら天板までととかない背の低いもので、効果も少なかったのかSL-P990以降は廃止されています。


3重構造の天板 TNRC 多層構造に桟が入った底板
真ん中の少し右側にあるのは輸送の際に使う、ピックアップのロック装置。斜めの梁にある小さな穴(下側)の中にスピンドルの高さ調整ツマミがあります。


(電源回路)
電源回路はSL-P1000と比べてトランスのシールドカバーはなくなりましたが、コンデンサなどのパーツはグレードアップしています。

電源トランスは、デジタルとオーディオ回路に専用のトランスを搭載したツイントランスです。このトランスは別巻線で容量が13VA。2個の合計容量は26VAにもなり、回路に対してかなり余裕を持たせています。
またトランスの下にはゴム製のインシュレーターを装備しており、トランスの振動がシャーシに伝わらないように配慮されています。

電源回路は独立電源で、オーディオ用の電源部は三端子レギュレーターに、オペアンプを組み合わせたアクティブサーボ電源として、電源ノイズを低減させています。

電解コンデンサは、オーディオ用の電源回路にニチコンのMUSEで16V・2200μFが4本、デジタル用の回路は松下製の一般品16V・3300μFが2本などです。

電源ケーブルはめがね型コネクタ。付属品は安物ですので、良い物に交換するのがオススメ。
デジタル・オーディオ独立の電源トランス 電源回路


(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール)
当時、各メーカーはサーボ回路にいろいろな名前をつけ、あたかも自社で開発したサーボ回路のような宣伝をしていましたが、実際には国内メーカーで自社開発していたのはSONY、YAMAHAとTechnics(松下・現パナソニック)などで、他社はほとんどこの3社から供給を受けていました。

テクニクスのサーボ回路はピックアップを自社生産しているため、これと一体となって開発できることと、それを組み込んだチップも自社生産できるなどの強みがありました。

フォーカスやトラッキングなどのサーボ制御は「AN8370S」で行い、スピンドルモーターのサーボ制御は、信号処理用のチップ「MM6622」の中に組み込まれています。信号処理用のSRAMはSONY製の「CXK5816M-15L」を使用。

サーボ回路の調整用のボリューム(半固定抵抗)は、フォーカス・ゲイン(FOG)、フォーカス・オフセット(FOO)、PDバランス(ベストアイ・PDB)、トラッキング・ゲイン(TRG)、トラッキング・オフセット(TRO)、トラッキング・オフセット・バランス(TRB)の6つとなっています。

システムコントロール用のマイコンは「MN1554PEF」です。
サーボ回路 MN6622

AN8370S RAM SONY CXK5816M-15L


(オーディオ回路)
SL-P990の特徴はテクニクス独自の「4DACシステム」で、当時のオーディオ回路としては、たいへん贅沢な構成となっていました。

デジタルフィルターのYAMAHA製の「YM3404B」は、266次・4倍オーバーサンプリングでフィルタリングを行うとともに、16bit信号を18bitに変換(拡張)します。
それを4DAC用プロセッサでLchとRchの+−信号の4つに分割し、その信号ひとつずつにD/Aコンバーター(バーブラウン PCM56PのJランク X4個)を使ってD/A変換を行っています。

この回路は4つのDACにより分解能を高めるとともに、ゼロクロス歪みをキャンセルする回路となっています。仕組みは「+」側のDACで信号を半サイクル、「-」側のDACでも半サイクルしかさせないことで、「ゼロ」をクロスしなくなり、ゼロクロス歪が発生しません。信号は差動合成して元の1サイクルに戻ります。
ちなみに4DAC用プロセッサはカタログでは松下製「MN6622」となっていますが、これは誤植で実際は「MN53010PEH」というチップです。

PCM56Pは16bitDACですが、当時は「ビット数が多いほうが売れる」というようなところがあり、各社ともにハイビット化するために工夫をしていました。
YAMAHAはフローティング処理をして18bit化。Victorは2bitのディスリートのDACと組み合わせたコンビネーションDACにして18bit化しました。またLo-Dは片チャンネルに2個あるDACのうち、1つを8bit分ずらして使用するシフトアップという方法を使用しました。

SL-P990では4DAC用プロセッサで、フローティング処理を行い18bitとして動作させています。フローティング処理は信号の強弱によって、18bitの枠の中で上から16bitの処理をしたり、下から16bitの処理をしたりするもので、あくまでも疑似的な18bit動作となります。
この方式はフルタイムで16bitとなる訳ではありませんが、コンビネーションDACのようにPCM56PとディスクリートDACとの間に、特性の差が出て音質が劣化するということはありません。

またPCM56Pは電圧出力よりも高音質の電流出力で使用。DACの後ろでI/V変換することで電圧変動を受けにくくしています。サンプルホールド回路やラインアンプには、テクニクスのアンプと同じく「classAA方式」を採用し、歪率や分解能の改善を行っています。

オペアンプはI/V変換に三菱製の「M5238FP」、ローパスフィルターとラインアンプにはJRC「5532M」、ヘッドフォン用にはJRC「5238M」が使用されています。
オーディオ回路 デジタルフィルター YM3404B

4DAC用プロセッサ MN53010PEH DAC バーブラウン PCM56P


(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカは、まずメカ全体をゴムのパーツでフローティングし、鋼板製のベースからピックアップとスピンドルモーターのユニットを、ゴムとスプリングでフローティングするという、2重の防振構造を採用しています。
ピックアップは松下製の「SOAD60A」。スライド機構はリニアモーターなのでアクセスは高速です。

スピンドルモーターにはBSL(ブラシ&スロットレス)モーターを使用しています。BSLモーターはレコードプレーヤーや、カセットデッキの性能や音質向上のために発展したモーターです。
普通のDCモーター(サーボモーター)と比べてコストは高いですが、DCモーターのようにスロットによるトルクむらや、トルクの脈動(コッキング)が発生しないため、振動がが少なく、なめらかな回転が可能です。
また電磁ノイズの発生も少ないなど、音質に影響する部分に大きなメリットがあります。モーターのノイズについて→マブチモーター
ところが、現在はコストダウンのために、50万円クラスのSACDプレーヤーでも、普通のDCモーターが使われており、BSLモーターやコアレスモーターといった、音質を考慮したモーターを使用しているのは、一部のハイエンドモデルだけです。

一部のサイトにBSLモーターは壊れやすいという記載がありますが、現在でこそDCモーター(サーボモーター)の寿命・約5万時間に対して、BSLモーターは約4万時間と、DCモーターのほうが長持ちしますが、昔のDCモーターは寿命が今よりも短く、BSLモーターはブラシやスロットが無い分、構造的に機械的寿命が長いと言われていた時期もありました。
CDプレーヤーの場合、BSLモーターよりもピックアップの半導体レーザーの寿命(約1万5000時間)のほうが、圧倒的に短いので、現実的にはBSLモーターの故障を心配する必要はないかと思います。

※ウチにはBSLモーターを使用している、CDプレーヤーやカセットデッキがたくさんありますが、BSLモーターが原因で動かなくなったものは1台もありません。テクニクスのCDプレーヤーの場合はコンデンサのトラブルが大半だと思います。下記参照。



(メカのメンテナンス・修理)
トレイベルトの交換は、まずトレイを引き出しクランパーを外すとトレイを駆動するためのメカが現れるので、簡単にゴムベルトの交換はできます。

CDが読み込まなくなったり音飛びした時は、サーボ回路のボリュームの調整以外にもピックアップの出力用のボリュームの調整、底板の穴からはスピンドルの高さ調整ができるので、対応はしやすいかもしれません。

ただし、この時期の松下製コンデンサは耐久性に問題があり、サーボ回路のボリュームを調整してもディスクが回転しない場合は、サーボ回路にあるコンデンサを疑う必要があります。
テクニクスのCDプレーヤーにとって、サーボ回路のコンデンサはある意味「鬼門」です。SL-P990よりも前の世代でも起きていますし、後の世代、特にSL-PS700、SL-PS840、SL-PS860などではトラブルとなっているケースが多いです。

ホコリが付いていたり、キズのあるディスクを再生した場合、サーボが頻繁に働くため、サーボ回路の電源にはたくさんの負荷がかかります。コンデンサはその分だけ充放電を繰り返すため、コンデンサの寿命(一般的には耐用年数)よりも、寿命を早めてしまう場合もあります。
テクニクスが意図的に耐久性の悪いコンデンサを使ったとも考えにくいのですが、他のメーカーよりも圧倒的にサーボ回路のコンデンサのトラブルが多いのも事実だと思います。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ・ドライブメカ

ピックアップ SOAD60A トレイ(CDシングル対応)


(出力端子とリモコン)
リアパネルのデジタル出力端子は光学と同軸が各1系統、アナログ出力は固定が1系統となっています。リモコンの型番はEUR64711。
出力端子 リモコン

SL-P990はトレイのシングルCDの対応の有無で、前期型と後期型に分けられていましたが、オーディオ回路の基板は製造時期によって少なくとも3パターンがあります。
見分けるポイントはD/Aコンバーターの後ろの回路の白いボリューム(半固定抵抗)です。便宜的に初期・中期・後期で分けると、初期のロットにはボリュームがありません。中期のロットで回路からリード線を引き出し、D/Aコンバーター手前の空きスペースに、小さな基板を取付てボリュームを設置しています。後期のロットではボリュームが回路の中に組み込まれています。
初期 中期 後期


Technics SL-P990のスペック

周波数特性 2Hz〜20kHz ±0.3dB
全高調波歪率 0.0025%
ダイナミックレンジ 100dB以上
S/N比 113dB以上
チャンネルセパレーション 110dB以上
消費電力 20W
サイズ 幅430×高さ129×奥行333mm
重量 11.6kg















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