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Technics RS-M77

    1978年 定価125,000円



Technics RS-M77は1978年12月に発売された、メタルテープ対応の2ヘッド・ダイレクトドライブのカセットデッキです。前モデルのRS-M75/RS-M85と同様に、上級機のRS-M88からクォーツロックとリモコン機能を省略したモデルとなります。


1978年にメタルテープ対応デッキを発売したのはTechnicsとVictor、Aurexだけです。まず11月にVictor KD-A6とAUREX PC-X80ADが発売され、翌12月にTechnicsのRS-M77/RS-M88とVictorのKD-A5やKD-A8が発売されました。

つまりメタルテープ対応デッキとしては、まさに第一世代のデッキとなります。ちなみにSONYやAIWA、Pioneer、TEACなど、ライバル他社がメタル対応デッキを発売したのは、1979年の春からとなります。

当時のカセットデッキは競争が激しく、毎年多くの新商品が発売されましたが、RS-M77は1981年7月にRS-M280(128,000円)が発売されるまでの3年近くの間、テクニクスの高級機としてのポジションを守り続けました。


RS-M77/RS-M88は正確に言うとRS-M75/RS-M85の改良機です。メタルテープへの対応を行い、モーターの制御がデジタルFGサーボに変更になりました。

録再用ヘッドはラミネート方式のSXセンダストヘッドです。センダストヘッドは優れた磁気特性を持っているため、良好な周波数や歪特性を得ることができます。また耐摩耗性にも優れていました。

しかし、材料となるセンダスト合金は、製造過程での空孔や、その硬さによる加工のしずらさ、腐食などの問題がありました。そのためVictorのSAヘッドやSONYのS&Fヘッドは、コアにはパーマロイやフェライトを使用し、テープの接触面(ヘッドチップ部)にのみ、センダストを使用する「クレバイト型」ヘッドとなっています。

テクニクス(松下電器)は磁気ヘッドにセンダストを使用するために、空孔を防ぐセンダスト合金の製造方法や、酸化処理により腐食を防ぐ方法を独自に開発しました。これにより、センダストを積層(ラミネート)したコアを作ることに成功し、SXセンダストヘッドが誕生しました。
消去用ヘッドはダブルギャップ・フェライトヘッドです。

メカはキャプスタン駆動用が、BSL(ブラシレス・スロットレス)モーターを使用したDD(ダイレクトドライブ)方式。リール用のモーターもコギングが無く回転がなめらかな、コアレスモーターを採用しています。

RS-M77の特徴のひとつは「デジタルFGサーボ」です。FGサーボの FG(Frequency Generator)は「周波数発電機」という意味で、モーターの回転軸にNとSのマグネットを装着した板を取付けて、その磁界をFGセンサで検出しパルスとして出力します。それを基準周波数と比較チェックして、スピードのズレを検出しモーターのスピードをコントロールする方式です。

RS-M77ではパルスをいったん矩形波(くけいは・方形波)、つまりデジタルにしてから、積分し比較チェックするため、「デジタル」という名前が付けられたようです。1980年代の末に登場するCDプレーヤーの「デジタルサーボ」と比べると、かなり幼稚なシステムで、どちらかというと、トリオがチューナー用に開発した「パルスカウント」に近い方式です。

テープセレクターはCrO2、ex、normalの4タイプに対応。ドルビーノイズリダクションは「Dolby-B」で、MPXフィルタを内蔵しています。録音機能としてはバイアスコントロールを搭載しており、±15%の範囲で調整できます。その他にはRECミュートやタイマースタンバイ機構を装備してます。



(音質について)
RS-M88からクォーツロックを外したといっても、さずがは高級機。音はワイドレンジで解像度もあり、細かい部分や艶ぽさも、ちゃんと出てきます。1980年代中盤の中級機では、ちょっと太刀打ちできない音です。クラシックもジャズも、そつなくこなしてくれます。



(フロントパネル)
1970年代のコンポはシルバーフェイスがとても多かったのですが、テクニクスはサンスイとともに、ブラックフェイスを採用したメーカーです。特にセパレートアンプやカセットデッキの高級機に薄型のブラックモデルを投入しました。

フロントパネルのデザインは前モデルのRS-M75/RS-M85を踏襲。全高はカセットテープの高さ68mmに対し、97mmとヘッドの上下のスペースを考えると、かなりギリギリまで抑えられています。
他のメーカーがコンポを「立派」に見せるために、高さを大きくしていたのは「真逆」で、精悍でカッコいいデザインです。

高級機ということでカセットのドアはガラス製、テープカウンタは照明付きです。でも見た目は良いのですが、薄型にしたためスペースが無く、ピークメーターは小型の物しか取り付けられませんし、操作ボタンはレバースイッチを多用したり、間隔が狭かったりします。
元になったRS-M75/RS-M85はメタル対応機ではないので、メタル用のポジションスイッチがありません。そこでRS-M77/RS-M88では、バイアス調整のつまみをメタルポジションのスイッチ兼用とし、つまみを引くとメタルポジションに切り替わります。

他にはドルビー(Bタイプ)、FLメーターのピーク・VUの表示切替、タイマースタンバイ、インプットセレクター。録音ボリュームや出力ボリュームがあります。

ドアの部分のシールには「METAL TAPE Available」(メタルテープ対応)と書かれています。



(シャーシと内部について)
シャーシはサイドフレームと縦横のフレームを組み合わせた構造で、薄型デッキとはいえしっかりとしており、10.5kgとそこそこ重量もあります。

天板には操作方法やブロックダイヤグラム、バイアスの周波数特性、ピークメーターのレスポンス特性などが印字されています。脚はプラ脚(ゴム脚)です。

内部は左側にメカと電源回路、システムコントロール回路、サーボ回路。右側が録音・再生回路です。


底板 プラ脚


(ヘッド・メカ)
録再ヘッドは高い耐久性を持ち周波数特性や歪み特性に優れたSXセンダストヘッドです。

センダストは硬く加工が難しいため、SONYやVictorはテープの接触面にのみセンダストを使用し、コアの部分はフェライトやパーマロイを使用していましたが、TechnicsのSXセンダストヘッドは、溶かしたセンダストを、高速回転する鋳型に流し込んで製造する「円芯鋳造方式」※でコアを作り、それを1トラック当り4枚積み重ねてラミネートにした「センダストコア」のヘッドです。

消去ヘッドはRS-M75/RS-M85と同じ、ダブルギャップフェライトですが、新型のものになっており、たぶん保持力が高いメタルテープ用に、消去能力を高めているだと思います。


メカはどうやらRS-M75/RS-M85と同じ物です。
駆動系はダイレクトドライブで、モーターはカタログには「平面対向型」のモーターと書かれていますが、いわゆるBSLモーターのことです。

RS-M77のBSLモーターはちょっと変わっていて、永久磁石の回転子がフライホイールと一体化されています。ただしその大きさは、モーターの外径とほぼ同じ大きさという物でした。

当時はフライホイールは直径が大きく慣性質量が大きいほうが、回転が安定しテープの走行も安定するという考え方が普通でした。
まあ松下もそれがわかっているので、カタログにはあえて「ICによる制御によって、大型フライホイール以上の効果を実現」と書いたのだと思います。

ただメカに大型のフライホイールを採用するとなると、ダイカスト製のフライホイール自体のコストも高いですし、スピンドルの強度のアップなど、コストアップになります。またフライホイールが大きい分、メカが大型化しキャビネットも大きく(背が高く)なります。

しかし、当時のTechnicsの戦略は、高級機は「薄型でブラックカラー」という感じでしたから、薄型にするためにはフライホイールの小型化は必須。またモーターと一体化することでコストを引き下げたり、パーツの削減によるメカの稼働箇所(故障箇所)が減るなどのメリットも考えられます。

このフライホイールと一体化したBSLモーターは、1980年代に入るとメーカーを問わず多くの機種に採用されており、そういう意味では先見の明があったとも言えます。


リール・メカ用のモーターはコアレスモーターです。このモーターの回転軸がアイドラに接触して回転させる方式なので、古いカセットのトラブルの定番、ゴムベルトの伸びや断裂で、リールが動かないという心配は少ないです。
ただしフルオートストップの検出メカ用に、ゴムベルトを使っているようで、これが切れてしまうとオートストップが、かかったままとなり、再生・録音・巻き戻し・早送りなどが出来なくなる恐れがあります。

※別冊ステレオサウンドでは円芯鋳造方式と紹介されていますが、同じ時期に発行された日本応用磁気学会の会誌では、松下電器無線研究所がセンダストヘッドの製造方法として、溶湯鋳造法を開発・採用したことが紹介されています。2つが同じ方式かどうかはわかりません。

ちなみに当時の松下電器には、開発本部の下に無線研究所と音響研究所があり、テープレコーダーなどの開発は、無線研究所の管轄となっていました。

ヘッド・キャプスタン・
ピンチローラー
メカ

BSLモーターと
フライホイール



(電源部)
電源トランスの容量は23.2V・33VA。独立電源となっており、電解コンデンサは松下製のTSWなどが使われています。電源ケーブルは細い並行コードです。

電源トランス 電源回路



(システムコントロール回路)
キー操作などを制御するシステムコントロール用のマイコンは松下製「AN6251」。他に三菱製のNANDゲートIC「M53200P」などがあります。

システムコントロール回路 マイコン AN6251



(録音・再生回路)
録音・再生回路のアンプ部は左右独立のMONO構成でディスクリート回路です。パーツにはローノイズや高利得タイプのトランジスタ、タンタル型コンデンサを使用し、ローノイズで高耐入力の回路としています。

ノイズリダクションはドルビーBタイプで、MPXフィルタも搭載しています。ドルビー回路はまだIC化されておらず、ディスクリートの回路です。

録音・再生回路 バイアス回路

ドルビー回路 再生回路



(入出力端子)
入出力端子はラインイン、ラインアウトが各1系統です。その他にディスプレィ(FLレベルメーター)の光度調整用のボリュームがあります。

リアパネル


(Technicsのカセットテープ)
松下電器は「ナショナル」ブランドで、カセットテープを販売していましたが、オーディオ市場の拡大に合わせて、1972年から「Technics」ブランドのテープを投入しました。

1978年にラインアップが新しくなり、ノーマルタイプのLN、XD。クロームのXAとなります。1979年にXAがXAUに変更、メタルテープのXMが追加となりました。

Technics XAU

Technics RS-M77のスペック

形式 2ヘッド・2モーター
ダイレクトドライブ
テープ走行 シングルウェイ
駆動方式 シングルキャプスタン
ダイレクトドライブ
キャプスタンモーター デジタルFGサーボ BSLモーター
ヘッド 録音再生:SXセンダストヘッド
消去:ダブルギャップフェライト
ノイズリダクション ドルビーBタイプ
周波数特性 20Hz〜20kHz(メタル)
20Hz〜18kHz(クローム)
20Hz〜15kHz(ノーマル)
S/N比 58dB(Dolby オフ・クロームテープ)
68dB(Dolby-B・クロームテープ)
ワウ・フラッター 0.035%(WRMS)
消費電力 33W
外形寸法 幅450X高さ97×奥行403mm
重量 10.5kg




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