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QUAD 11L

  2002年 100,000円



QUADは1936年にピーター・J・ウォーカーによって設立された、イギリスのオーディオメーカーです。QUADは「Quality Unit Amplifier Domestic」の頭文字をとった名前です。

今でこそスピーカーで有名なメーカーですが、「Amplifier Domestic」(家庭用のアンプ)の名前どおり、古くからアンプの生産も行っています。なかでも1953年発売の管球式アンプQUADUは今でも人気があります。

QUADの名前を有名にしたのが、静電型スピーカーのESL 57です。ESLのファーストモデルはESL 53であるという話がありますが、英語のサイトでESL 53を探しても、ほとんど出てこないので詳細はわかりません。ちなみにQUADの公式サイトではESL 57がファーストモデルとなっています。

ESL 57は1957年の発売で、BBCラジオ(当時はモノラル放送)などのスタジオモニターとして、使用されて有名になります。日本でも輸入販売されていますが、当時の商品名はただの「ESL」でした。1980年代に入りESL63、ESL63PROを発売。1989年にはCDプレーヤーの66CDが発売されました。

しかし1990年代になると、他のオーディオメーカーと同様に経営不振となり、1995年にVerityグループ に買収されます。そして1997年にはIAG(インターナショナル・オーディオ・グループ)の傘下となり現在に至ります。日本での販売は1970年代はシュリロ・トレーディング、1980年代にはハーマンインターナショナルが行い、現在はロッキーインターナショナルが代理店となっています。


QUAD 11L(正式な型番は77-11L)は、1995年に発売されたQUAD 77-10Lの改良モデルです。この10Lが発売された時は、ちょうどVerityやIAGの買収された不遇の時期にあたっていたため、日本では知る人ぞ知るという存在です。

当時、QUADには小型スピーカーのノウハウがなかったので、10Lの設計はLS3/5aやBCUで有名なSpendor(スペンドール)に依頼しています。
そして11Lの設計者は、小型スピーカーやギターアンプのスピーカーで有名な、Celestion(セレッション)出身のエンジニアです。ただ11Lのデザインやサイズは10Lとそっくりなので、設計というよりも改良に携わったというのが、正確なところかもしれません。

11Lはその音質の良さから世界中でヒットしましたが、このサイズとデザインに決めたという事では、Spendorによる功績が大きいと思います。また技術・音質的なノウハウから言えばQUADというよりも、SpendorとCelestionの合作といったほうが良いかもしれません。


QUAD 11Lは2002年の発売(日本発売は2004年)で、イギリスでの価格はペアで380ポンド。(2004年のレートは1ポンド=198円)
カラーは「バーズアイメープル」「ローズウッド」「ブラック」の3色で、2004年の秋に「Yew」と「エボニー」が限定色として発売(120,000円)されました。

この11Lとラインアップを組んでいたのは、17cmユニットを搭載した兄貴分「12L」(140,000円)とフロアスピーカーの「21L」(170,000円)と「22L」(220,000円)です。これ以外にイギリス本国では、センタースピーカーの「L-Center」と、サブウーファーの「L-Sub」が発売されました。


2007年には後継機として、ツィーターやネットワークなどを改良した「11L2」が登場し、これも高い評価を得ました。ただその後が悪かった。11L2は韓国からも平行輸入されるようになって、正規輸入品との価格差が問題となります。

そして2011年に11L2の後継機「11L Classic Signature」が発売されます。このスピーカーは当初、日本専用モデルということでしたが、韓国ルートから「11L Classic」という名前の輸入品(見た目はそっくり)が登場しました。またしても韓国からの輸入品のほうが、だいぶ安かったことから、ユーザーは混乱し結果として人気の低下を招いたように思います。

その後、11L Classic Signatureは、イギリスなどヨーロッパでも発売されており、ワールドモデルとしての位置付けになりました。

2016年には11L Classic Signatureの後継機となるS-1が発売されました。






(QUAD 11Lについて)
QUAD 10Lとほぼ同じサイズで、前面のデザインや特徴的な袴(はかま)などはそっくりですが、10Lが密閉型なのに対し11Lはバスレフ型です。重量は11Lのほうが約1.5kg軽いですが、ユニットは新しく開発されたものが搭載されています。

トゥイーターは25mmのシルクドーム。ウーファーは12.5cmで、B&Wなどと同じ軽量で剛性の高いケブラーを使用したユニットです。トゥイーターとウーファーともに繊維系の素材です。

ネットワークは空芯コイルとフィルム・コンデンサーを使用した低損失なもので、クロスオーバー周波数は2.2KHz。端子はバイワイヤリングに対応しています。

キャビネット(エンクロージャー)はリアバスレフ型で、バスレフダクトは中低域の歪みを改善するため口径を小さくしており、デュアルになっています。

厚さ18mmの強化MDF製で、無垢のツキ板を7回の塗装と研磨を繰り返した仕上げ(ピアノフイニッシュ)になっています。
発売時にはボディに手垢をつけないための手袋が、同梱されていると話題になりました。

キャビネットの下には袴(はかま)が付いており、その下にはゴム脚があるので、インシュレーター無しでも使用できます。
袴の下にいくつかのインシュレーターを取り付けて聴いてみましたが、劇的に音質が改善されるということはなく、かえって音質が悪化するものもありましたので、このままの状態でも十分かと思います。

発売された当初は中国製ということで、品質について心配する声もあがりました。実は1990年代から日本やヨーロッパのメーカーは、中国や東南アジアでスピーカーの製造をスタートしており、JBLも中国で生産を行っていました。そういうことを知らない人たちが、少し騒いだというところだと思います。



(音質について)
全体としては刺激的なところがなく、クリアで聴きやすい音。典型的な美音といえますが、あえて皮肉ぽく言うと万人受けのする八方美人的な音ともいえます。

高音は少しキャラクタがありますが、これを使ってハイハットなど、「良い音に聞こえる部分」をうまく作っています。低音はあまり出なくて、ワンサイズ小さなFOSTEX GX100にも負けてしまいます。

スピード感はそれほどでもなく、ゆたりと流れるタイプ。ハイスピードのGX100と比べると1/4テンポぐらい遅い感じもします。
音場は広いですが少し散乱系で、定位はガチっと決まるほうではありません。


ジャンルはクラシック、ジャズ、ロックとそつなくこなす「オールラウンダー」。
いろいろなジャンルをソツなくこなすというのは、なかなか難しいことですが、それを高次元でうまくまとめて、バランスをとっているのは凄いです。

ただ、聴く側がクラシックだけとかジャズ専門、アニソン中心とかという使い方になると話は別です。

クラシックやジャズは聞き込んでいくと、しだいに物足りなくなったり、飽きてくるかもしれません。いわゆる「クラシック向け」とか「ジャズ向け」といわれるスピーカーには、艶や繊細さ、表現力などの特徴がありますが、11Lにはそういう「とんがった」部分が無いので、「専門家の人」と戦うのには力不足という感じがします。

ボーカルは歌唱などの表現は良く出ていますが、少し定位が悪いので、ライブ感を求める人にはマイナスポイントとなるかもしれません。

ロック専門であればもっと低音が出て、メリハリがあるもの。悪い表現で言えば「ズンドコ」があったほうが楽しく聞けるのですが、11Lの音調はもっと上品です。それでも全く聞けないということはありません。

最近のJPOPやアニソンは打ち込みが多いですが、打ち込み独特のキレやスピードが出ないので、これは正直厳しいかと。そうなると11Lよりも安くて向いているスピーカーはあります。


特定のジャンルをメインに聴くのなら、何かしら聴いていて「ハッ」とするところや、「ohhhh!」と感じるようなところが欲しいですが、そういう「個性」や「魔力」の部分はちょっと弱いです。でもそういう特徴をつきつめると、出来の良いオールラウンダーにはならない訳ですが。

とはいうものの、このサイズのスピーカーとしては、とても良く出来ていると思いますし、いろいろなアンプとの相性も良いので、使う側としては当たり・ハズレの心配も少ないかと思います。



(ジャンパーについて)
バイワイヤリングで使用するのならよいのですが、2芯のケーブルを使うのなら、ジャンパー線をどうにかしないといけません。付属品としてショートバーが付いていますが、これは発売された時から音が悪いので有名です。
市販品のジャンパーは高いものばかりですが、普通のスピーカーケーブルを5cmほどの長さに切って、ショートバーの代わりに取り付けてやれば十分です。


(セッティングについて)
QUAD 11Lはリヤバスレフですが背圧は大きくないため、調整用のスポンジなどは付いていません。実際に壁面に近づけても、それほど低音が暴れる訳ではなく、棚の上などにも設置しやすいと思います。

重要なのは左右の間隔で、近すぎると音が混濁してしまいます。これはウーファーがケブラーと、フェイズ効果のあるセンターキャップによって、不要な音をわざと拡散させているためで、間隔が近いと反対側のスピーカーから拡散された、不要な音の影響を受けてしまうようです。最低でも80cmぐらいの間隔が必要です。




2.5cmソフトドーム・トゥイーター

前モデルの10LではVifa社製のトゥイーターが使用されていましたが、11Lでは「QUAD」のマークが入った、自社製のオリジナルユニットになりました。

シルク素材を使用したドーム型で、振動系の質量を軽くするためにアルミ製ボイスコイルを使用。マグネットはネオジウムです。



12.5cmコーン・ウーファー

振動板の素材はケブラーの織布に硬化樹脂を含浸したもので、高密度のフェライトマグネットを使用し、アルミボビンに手巻きされたデュアルボイスコイルとなっています。

中央部にあるのは、砲弾型の形状をした樹脂製の「フェイズ・プラグ」です。といっても実際にはコーンといっしょに振動しますし、交換も出来ないので、パーツ名はセンターキャップで、機能としてはフェイズ・プラグということになります。※

振動板に使われているケブラーは、防弾チョッキなどに使用される素材で、1970年代からB&Wがスピーカーに使用を始め、現在では振動版の代表的な素材のひとつとなっています。

昔は振動板は軽くて丈夫な素材を使い、正確で均一なピストンモーションを伝えるものがベストという感じでしたが、ケブラー振動版はちょっと違って、あえて分散パターンを作りだすことで、音の遅れや反射音による「音ぼけ」を無くして良い音を出そうというものです。

従来の素材では振動(屈曲波)がスピーカーの中心から円形に広がるのに対し、ケブラーは織り布の模様に合わせて正方形の形になります。

問題は振動(屈曲波)がエッジ(サラウンドとも呼ばれます)に到達した後、エッジで吸収されるものやバッフルに伝わるものもあれば、そこで反射してコーンの中央部に戻り、また振動となって遅延音を放射することです。

従来の素材ではこの反射波も円形に広がるため、最初に発信した音と同じパターンの形の遅延音となり、音質を悪化させる原因となります。

それに対してケブラーは織布のため、エッジ周辺は円形にカットすることで、不規則な形になっており、正方形に伝わった振動は、反射波になったときに方向、時間ともに不規則になります。この結果、中央に戻るエネルギーははるかに少なくなるため、遅延音の発生も少なくできます。こうしてクリアで抜けの良い音が再現できる訳です。

詳しくはB&Wのサイト

※フェイズ・プラグは、ケブラーと同様にB&Wのユニットでよく使われる物で、振動板の中心部で波動がぶつかって音波が乱れるのを防ぐために、波動を拡散させるイコライザーの役割を持っています。



バスレフポート

中低域の歪みを改善するために、リヤに小さな口径のものが2つあります。
ダクトは樹脂製で口径は30mm、長さは12cmです。

スピーカー端子

バイワイヤリング対応。
ショートバー(ジャンパーピン)が附属しています。

キャビネット
MDF製でフロントバッフルの厚さは18mm。
内部の吸音材は化学繊維の綿で、バスレフスピーカーとしては多めに入っています。


仕上げはとても美しく、鏡のように周りの物が写りこみます。

袴(はかま)の下側も、他の部分と同じくピアノフィニッシュになっており、4つの小さなゴム脚がついています。



QUAD 11Lのスペック

トゥイーター 2.5cm ソフトドーム
ウーファー 12.5cm ケブラーコーン
出力音圧レベル 86dB
周波数帯域 45Hz〜24kHz
クロスオーバー
周波数
2.2kHz
最大許容入力 150W
インピーダンス
サイズ 幅190×高さ310×奥行243mm
重量 6.0kg




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