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KENWOOD KT-880F

     1985年 定価45,000円



KENWOOD KT-880Fは1985年10月に発売されたFM/AMシンセサイザーチューナーです。

1980年代の初めは、シンセサイザーチューナーの高性能化と低価格化により、たくさんの新モデルが発売されましたが、1985年にはメーカーの商品開発の軸足は、CDプレーヤーになっており、チューナーの新製品は数がとても少ないです。
1985年のカタログブックで、チューナーのラインアップを見ても、1983年や84年に発売された機種が多いのが目に付きます。

この頃になるとシンセサイザーチューナーの価格も下がっており、初級モデルは2万円台からありましたが、45,000円~49,800円のゾーンというのも、売れ筋の価格帯のひとつでした。
ライバル機となりそうなのはALPINE/LUXMAN T-105(1985年・44,800円)、Marantz ST-64(1984年・44,800円)、Pioneer F-120D(1984年・49,800円)、SONY ST-333ES(1984年・49,800円)、Technics ST-G6T(1984年・49,800円)など。


KT-880Fという型番からすると、KT-880のマイナーチェンジのように見えますが、外観は新しいデザインとなり、内部も一部の回路を除いて一新されているので、フルモデルチェンジといってもよいチューナーです。

クリアな受信を可能にするダイレクト・リニアレセプション・サーキット。広帯域直線検波回路のDLLD(ダイレクト・リニア・ループ・ディテクター)。歪み補正回路のDCC(ディストーション・コレクティング・サーキット)。そして新しく開発されたステレオ復調のDPD(ダイレクト・ピュア・デコーダー)の4つの回路を搭載しており、これをKENWOODでは「4Dシステム」と名付けました。

ダイレクト・リニアレセプション・サーキットはフロントエンドの回路で、低い受信周波数で起こるチューニング電圧のノイズの揺れを抑え、S/N比を改善しています。

IF段に投入されている技術が「DLLD」と「DCC」です。DLLDはIFの10.7MHz信号をダイレクトにリニア化して、閉ループ内で検波するというもので、これにより高いS/N比を得ています。さらにDCCにより音質を悪化させる高調波歪みを補正・低減させています。

MPX部には新しく開発された「DPD」(ダイレクト・ピュア・デコーダー)が使われています。従来は方形波でスイッチングしていましたが、DPDでは38kHzの純粋な正弦波で検波出力と掛算を行っており、IF段のクリーンレセプションフィルターが不要となり、、高いセパレーションを得ています。

FMのフロントエンドは4連バリコン相当。RF増幅部とMPX部にデュアルゲートMOS FETを採用し、相互変調特性を改善しています。

チューニングはオートとマニュアルが可能。プリセットメモリーはFM、AMランダムに合計16局が登録できます。

留守録に便利なプログラム受信機能を搭載しており、プログラムタイマーと連動して3つの放送局を受信できます。その他にカセットデッキの録音レベルの調整用に、-6dBのRECキャリブレーションを搭載しています。



(受信について)
現在は家にFMアンテナが無いので、ケーブルテレビからFM放送を聴いています。受信性能は良好です。ただ電波の弱い隣接県のFM局の受信となると、KT-1010にはかないません。


(音質について)
音がクリアで解像度も高く、セパレーションも良く定位もしっかりとしています。ともかくクォリティの高い音です。

KT-1010と比べると細部の音や楽器の表現力などは、KT-1010のほうが良いです。KT-880Fのほうが新しい世代の回路を搭載していますが、IF帯域の切り替えがないのと、KT-1010は独立トランスなどノイズ対策が、しっかりしていることによる差かもしれません。

TRIOのシンセサイザーチューナーの技術も熟成されていた時期なので、良い音を聴かせてくれます。現役として十分に使えるチューナーです。



(フロントパネル)
前モデルのKT-880がKENWOODのCDプレーヤーと、統一感を持たせたデザインだったのに対し、KT-880Fでは一新されました。

左側から電源スイッチ、プログラムスイッチ(留守録)、RECキャリブレーション、プリセットのグループ(A、B)の切り替えボタン、プリセットのメモリーボタン。選局(プリセット)ボタン。

ディスプレィ内のシグナルインジケーターは「マルチディメンション・チューニング」と呼ばれるものです。これはバリコンチューナーの、チューニングメーターとシグナルメーターを合わせた機能を持っており、赤・白・赤の3本のインジケーターがあります。

真ん中の白色が表示されるとチューニングがあっている状態で、左右の赤はチューニングがどちらにズレているかを表しています。たて軸は信号の強度を表しています。
たぶんTechnicsの「シグナル・フィデリティ・インジケーター」の影響を受けたものだと思います。

受信周波数の他にチューニングモードやステレオインジケーターがあります。
一番右にはチューニングボタン、チューニングモード(AUTO、マニュアル・MONO)とFMとAMのバンド切り替えスイッチがあります。IFの切り替えスイッチはありません。

プリセットメモリーボタン

マルチディメンション・チューニング
チューニングがあっている状態
マルチディメンション・チューニング
チューニングが高い方にズレた状態

AM受信時




(キャビネットと内部について)
アルミのフロントパネルにキャビネットは薄い鋼板製です。指でたたくと良く鳴ります。

内部はKT-880に比べると、電源回路が別基板となっています。メイン基板には余裕ができた分、IF部とMPX部はパーツが投入され内容的にも強化されています。またシステムコントロール回路も機能を強化した分、パーツが増えています。その反対にフロントエンドはコストダウンが行われています。電源回路とAM部はほぼ同じレベルです。

メイン基板から電源回路を外したことで、若干ですがIFやMPX回路への干渉が減ることが期待できます。ただ消費電力は10Wと低いものの、3端子レギュレーターはかなり発熱して天板が熱くなります。

現在とは違ってオーディオ装置内の熱計算をきちんとやっていた時代ですが、チューナーのパーツは温度変化によって特性が変化するため、チューナーの上には物を置かないとか、隙間を開けるなどの放熱対策は考えておいたほうが良いと思います。



(電源回路)
薄型チューナーのため電源トランスは小型ですが、それでもKT-880に比べると少し大きくなりました。
電源トランスより後ろの回路は、小さな電解コンデンサが3本少ないですが、それを除けばKT-1100Fとほぼ同じです。

電源トランス 電源回路


(システムコントロール)
この回路のメインは東芝製のIC「TC9147BP」。3バンド対応のチューニングシステム用ICですが、その機能はバンドや周波数の切り替えと、そのキー操作のコントロール。プリセットメモリ機能、これらの情報のディスプレィへの表示、そしてPLL回路と多彩です。

TC9147BPはいわゆるマイコン内臓型のICで、チップのパッケージも当時の汎用マイコンと同じくらいの大きさがあります。ディスプレィの周波数表示など、デジタル信号の伝送は、スタティックコントロール方式(静的伝送)となっており、ノイズが低減されています。

またフリップフロップ「NEC D4013BC」を2個使用したプログラム回路があり、プログラムタイマーと連動して、3つの放送局を順番に受信するという機能を持っています。

他には不揮発性メモリー(EPROM)の「NEC D4001BC」やローム製のLEDドライバー「BA618」があります。

システムコントロール回路 フリップフロップ NEC CD4013BC


(フロントエンド・PLLシンセサイザー)
フロントエンドは4連バリコン相当。RF部には直線性の良いデュアルゲー トMOS-FET を使用して、すぐれた妨害排除能力を得ています。

PLLシンセサイザー回路はパルススワロー方式です。PLLシンセサイザー回路のうち、プログラマブルカウンターなどは、東芝製の3バンドチューニングシステムIC「TC9147BP」に内蔵されています。プリスケーラは東芝「TD6104P」です。

AM用のチューナーICはSANYO製の「LA1245」を使用しています。

フロントエンド フロントエンド

東芝 3バンドチューニングシステム
TC9147BP
AMチューナー
SANYO LA1245

(FM復調 IF・検波回路)
FM復調部の特徴は、広帯域直線検波のDLLD(ダイレクト・リニア・ループ・ディテクター)と、IF歪補正回路・DCC(ディストーション・コレクティング・サーキット)です。

FM放送は音楽信号によりFM変調をかけて送り出しているため、チューナーの10.7MHzのIF信号もつねに動かされている(ゆすられる)ことに着目し、これを改善するために開発された回路です。

DLLDもPLL(位相同期)回路となっており、FM変調による10.7MHzの変化と同じ量だけ、VCO(電圧制御発振回路)を動作させて、位相比較器の出力の誤差がゼロになるようにしています。

ただ、このままではVCOの非直線性の歪みやIFフィルターで発生した歪みは残ったままです。そこでIF歪補正回路(DCC)により、歪み成分と正反対の特性を作り出すことにより歪みを打ち消し、広帯域にわたる直線検波を可能にしています。
また、DLLDはPLL回路の閉ループを利用した検波器のため、ループ内で発生するノイズが少なく、SN比も向上しています。

使用されているチップは、IFアンプやミューティング回路、シグナルメーター出力などを内臓した、SANYO製のIFシステム「LA1231N」と、差動増幅回路用にNEC製の「uPC1163H」が使われています。

IF回路 IFシステム
SANYO LA1231N


(ステレオ復調 MPX回路)
ステレオ信号を復調するMPX部には、新しく開発された「DPD」(ダイレクト・ピュア・デコーダー)が搭載されています。これは従来の38kHzの方形波(矩形波)を使って、スイッチングする方式とは異なり、38kHzの正弦波で検波出力と掛算を行って、ステレオ復調しています。

また従来の方式では信号を方形波に変換した時に、53kHz以上のノイズ成分(マルチパスや隣接局の干渉により発生)が可聴帯域に変換されるため、 クリーンレセプションフィルター(アンチバーディーフィルター)で除去していましたが、DPDではこれがフィルターが不要となり、結果として高いステレオセパレーションを実現しています。

何やらPioneerがF-120で開発したD.D.(デジタル・ダイレクト)デコーダーと同じですが、D.D.デコーダーの前半部分は、TRIOのパルスカウント(ダブルコ ンバー ト方式を含む)とほぼ同じであり、MPX部についてはKENWOOD(TRIO)がPioneerの、マネをしたということになるのかもしれません。

MPX回路のデモジュレーター(復調器)はSANYO製の「LA3350」です。チップの中にはステレオ復調回路の他に、PLL回路などが内臓されています。オペアンプはJRC 4200Dや三菱 M5218、ローム BA4560などが使われています。

MPX回路 MPXデモジュレーター
SANYO LA3350


(アンテナ端子・出力端子)
アンテナ端子はFM用の75Ωの同軸ケーブル端子(F型コネクター) と、AM用の300Ωのフィーダー用端子です。出力端子は固定出力が1系統です。

AMアンテナは本体に比べて大型のループアンテナとなっています。

KENWOOD KT-880Fのスペック

FM 受信周波数 76MHz~90MHz
周波数特性 20Hz~15kHz +0.2-0.8dB
感度 0.95μV(IHF)、10.8dBf(新IHF)
SN比50dB感度
MONO 1.8μV(IHF)
16.2dBf(新IHF)
STEREO 24μV(IHF)
38.8dBf(新IHF)
高調波歪率
MONO 100Hz 0.02%
1kHz 0.006%
50Hz~10kH 0.02%
STEREO 1kHz 0.009%
50Hz~10kH 0.1%
実効選択度 60dB
S/N比 MONO 98dB
STEREO 88dB
ステレオ
セパレーション
1kHz 68dB
50Hz~10kHz 43dB
15kHz 38dB
イメージ妨害比 90dB
IF妨害比 110dB
スプリアス妨害比 100dB
AM抑圧比 65dB
サブキャリア抑圧比 70dB
キャプチャーレシオ 1.5dB
AM   受信周波数 531~1602kHz
感度 10μV(IHF)、300μV/m
選択度 25dB
SN比 50dB
高調波歪率 0.3%
イメージ妨害比 40dB
IF妨害比 50dB
消費電力 10W
サイズ 幅440×高さ67×奥行319mm
重量 3.3kg





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