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TRIO KT-1010

      1983年 定価59,800円


TRIO KT-1010は1983年11月に発売されたFM/AMシンセサイザーチューナーです。価格帯としては中級機ですが、当時はチューナーの低価格化が進んでおり、カタログブックを見ても6万円を超える機種は、だいぶ少なくなっていました。

ライバル機となりそうなのはLo-D FT-505(54,800円)、ONKYO Integra T-437(69,800円)、Technics ST-S7A(54,800円)、Victor TX-900(64,800円)、YAMAHA T-950(53,800円)。


1980年代に入り、シンセサイザーチューナーは著しく性能が向上します。当初バリコンチューナーに劣っていた感度も、カタログスペック上はバリコンチューナーの高級機とほぼ同等になります。そこで各社が次に目指したのは、歪み率やS/N比の改善による音質の向上です。

この背景には1982年に発売されたCDの影響があります。CD発売前のFM放送のメインのソースはレコードでしたが、CD登場後はメインがCDとなるのは明らかでした。

CDはレコードに比べてダイナミックレンジやS/N比、セパレーションなどのスペックが大きく向上しており、放送局にとっては曲の頭出しが容易などのメリットもありました。
また当時はコンサートなどのライブ番組も、録音にVTRを利用したPCM録音が増えており、ソースのデジタル化により、FM放送自体の音質が向上すると期待されていました。

一方ではユーザーがエアチェックに使うカセットデッキも、メタルテープの発売によって、性能が著しく向上しており、これらに対応できる高音質のチューナーが必要となっていました。


KT-1010ではDLLD(ダイレクト・リニア・ループ・ディテクター)という広帯域直線検波回路と、歪み補正回路のDCC(ディストーション・コレクティング・サーキット)を搭載しています。

DLLDはIFの10.7MHz信号をダイレクトにリニア化して、閉ループ内で検波するというもので、これによりモノラルで98dBというSN比を得ています。さらにDCCにより音質を悪化させる高調波歪みを低減させています。

FMのIF帯域は2段切換え式で、歪率を抑えた音質重視の「WIDE」と、高選択度でクリアな受信ができる「NARROW」を選ぶことができます。AM放送の復調帯域も可変調整が可能です。

フロントエンドは5連バリキャップを搭載。RF増幅部とMIX部にデュアルゲートMOS FETを採用し、相互変調特性を改善しています。

電源部はオーディオ系とデジタル系に専用の電源トランスを搭載して、デジタル回路からオーディオ回路へのノイズの侵入を防いでいます。

プリセットメモリーはFM8局、AM8局の合計16局が登録できます。メモリーバックアップの保証時間は(3日・72時間)。またオートチューニング機構を搭載しています。

留守録に便利なプログラム受信機能を内蔵しており、電源を切る直前に受信していた局と、CH-1に登録した局を順番に受信することができます。これはプログラムタイマーやカセットデッキと連動して、留守や就寝中に2つの放送局を受信・録音できるというものです。

今となっては、どうということのない機能ですが、当時のプログラムタイマーは、指定の時間に電源をON/OFFするだけの機能しかありません。そのため、留守録をする場合、カセットデッキはテープの録音時間内なら何度でも録音できましたが、チューナーは電源が入った時に選局された放送局しか受信できませんでした。

この機能は当時としては画期的でした。ただ運用面からいうと、番組の聞き逃し防止という面では便利でしたが、いかんせんカセットデッキのテープは交換できないので、エアチェックという部分では効果が薄いとも言えました。


KT-1010は59,800円という価格ですが、DLLDやDCCなどの新しい回路の投入により、実効選択度や音質に影響する高調波歪率、S/N比、ステレオセパレーションなどは、高級機のKT-9900(1978年・200,000万円)を上回るという優秀なチューナーでした。



(受信について)
現在は家にFMアンテナが無いので、ケーブルテレビからFM放送を聴いています。KT-1010の受信性能は良好で安定しており、不満は何ひとつありません。


(音質について)
Pioneer F-120と比べても音がクリアでレンジが広いです。高音の伸びも良く、弦のこすれる音やボーカルのブレスなども、ハッキリと聴こえます。

最近のFM放送はNHKを含めてトーク番組がとても多いのですが、数少ないクラシックやジャズの番組をKT-1010で聴くと、音質の良さにビックリします。FM放送はこんなにポテンシャルが高かったのかと改めて感じたりします。

後にKT-3030や2020が発売された時に、KT-1010のDLLDは80MHz以下の周波数のノイズ(S/N比)が、弱点というようなことが言われましたが、実際に聞いてみると音質は80MHzより上の放送局と、変わらない感じがします。

今から30年以上も前のチューナーですが、音は「現代的」で現役のチューナーとして十分に使えると思います。



(フロントパネル)
フロントパネルは高さ64mmの薄型デザインです。カラーはシルバーとブラックの2つがありました。

左側から電源スイッチ、周波数表示、シグナルインジケーター、プログラム(留守録)、プリセットのメモリー、ステーションスイッチ、IFバンドスイッチ、モードスイッチ、選局(プリセット)ボタン、AM IF BAND、FMとAMの切り替えスイッチです。

※AM IF BANDは、AM放送の復調帯域を可変調整できる機能です。

ディスプレィ・左側はプログラム機能のインジケーター    シグナルメーターとSTEREOインジケーター

プリセットメモリーボタン AM復調帯域の調整ボリューム


(キャビネットと内部について)
アルミのフロントパネルにキャビネットは薄い鋼板製です。指でたたくと良く鳴ります。

内部はメイン基盤が1枚で、ここに電源回路やフロントエンド、IF、MPXなど、すべての回路があります。基盤には整然とパーツが取り付けられていますが、パーツ数が多くて余裕がありません。

KT-1010の場合、整然というのは生産効率が上がるようにレイアウトされているのであって、けっして音質のためにパターン(配線)の引き回しを少なくしている訳ではありません。

たとえばIF回路などは4つのブロックに分かれており、右端のFMアンテナ端子のところにはIFアンプがあり、左端に近いラインアウト端子の後ろには、WIDEとNARROWの調整回路があるという具合です。
ともかくパターンが長くなるのは承知の上で、1枚の基盤にすべてのパーツを収めているという感じです。今となっては不要なプログラム受信回路などが無ければ、基盤に余裕が出来て配線の引き回しも改善されていたかもしれません。

それでも、これだけの音が出る訳ですから、TRIOの技術力の高さがうかがわれます。



(電源回路)
チューナーとしては珍しくオーディオ系とデジタル系に、専用の2つの電源トランスを搭載しています。ただキャビネット本体の厚さが55mmしかないので、小さなトランスしか搭載できません。容量はオーディオとループフィルター系(DLLD)用が6.97VA、ロジック制御やディスプレィ用が7.2VAです。

オーディオとデジタルに分けたデュアル電源トランスは、CDプレーヤーの高級機では当たり前ですが、それが登場するのは1980年代後半になってからのことです。
TRIOのチューナーでも2つの電源トランスを積んでいるのは、高級機のKENWOOD L-01TとL-02Tぐらいしかありません。

チューナーでも搭載している各種のチップやディスプレィからは、ノイズ(いわゆるデジタルノイズ)が発生します。これが電源トランスに戻って、その他の回路への電源電流に乗って、干渉を引き起こします。またチューナーはカセットデッキやCDプレーヤーにあるモーターやソレノイドのような、稼動パーツがないとはいえ、回路内では小さな電圧変動が発生します。

特にオーディオ(MPX)回路では、ノイズと電圧変動により音質が劣化します。またPLL回路のループ・フィルタ周りは、ノイズやロックタイムなど複数の要因が、ループの特性に影響を与えます。

電源トランスを分けなくても、独立電源の系統を細分化したり、バイパス・コンデンサの使用などによりノイズや電圧変動を低減することは可能ですが、パーツ数が多くなってコストがかかります。
KT-1100の電源トランスを分ける方法は、ノイズと電圧変動を絶つということでは理想的な方法であり、後ろの回路も簡略化できるので、効率の良いやり方です。

電源回路自体は3系統の独立電源で、1系統はアクティブ電源となっています。パーツは整流用のブリッジダイオードが新電元「S1WB 10 42」、電解コンデンサはELNAのREです。

電源トランス 電源回路


(システムコントロール)
この回路のメインは東芝製のIC「TC9147BP」。3バンド対応のチューニングシステム用ICですが、その機能はバンドや周波数の切り替えと、そのキー操作のコントロール。プリセットメモリ機能、これらの情報のディスプレィへの表示、そしてPLL回路と多彩です。

TC9147BPはいわゆるマイコン内臓型のICで、チップのパッケージも当時の汎用マイコンと同じくらいの大きさがあります。ディスプレィの周波数表示など、デジタル信号の伝送は、スタティックコントロール方式(静的伝送)となっており、ノイズが低減されています。

TC9147BPの隣は、フリップフロップ(NEC CD4013BC)を2個使用したプログラム回路で、プログラムタイマーと連動して、2つの放送局を順番に受信するという機能を持っています。

他にはシグナルメーターの表示用に、松下製の7ドットLEDドライバー「AN6882」があります。

 
システムコントロール回路 フリップフロップ NEC CD4013BC


(フロントエンド・PLLシンセサイザー)
フロントエンドは5連バリキャップを搭載。RF部とミキサーには直線性の良いデュアルゲー トMOS-FET を使用して、すぐれた妨害排除能力を得ています。

PLLシンセサイザー回路はパルススワロー方式です。
ディスプレィに表示されるFMの周波数は、0.1MHz単位で数字が変わりますが、回路内では基準周波数の25kHzの単位で、周波数のアップ・ダウンが行われます。
この基準周波数は、精度と安定度が重要なため、水晶振動子(クォーツ)の周波数を分周して作りだしています。また可聴帯域外の25kHzに設定することで、信号ラインへの残留ノイズを解消しています。

ただ基準周波数の精度が高くても、パーツの特性などにより周波数ドリフト(周波数ズレ)が発生します。これを防止するのがPLL(フェーズロックループ・位相同期)回路です。

チューナーに搭載されているLC発振器は、PLL回路から見るとまさにVCO(電圧制御発振器)となります。発振器の周波数を回路にフィードバック(ループ)させて、位相比較してその差があれば、ローパスフィルター(ループ・フィルタ)を通して差分の電圧を発振器に送り、ズレた周波数を修正できます。これにより同期(ロック)させています。

PLLシンセサイザーでは、このPLL回路内に可変分周器(プログラマブルカウンター)というものがあり、ユーザーがチューニングボタンを押したり、プリセットボタンを押すことで、これに分周数が入力されます。放送局の周波数にするためには、基準周波数 X 分周数で済むため、VCOに送る電圧設定が速く、短時間で選局が可能となります。

とはいえ90MHzなどの高い周波数になると分周数が大きなり、当時の処理速度が遅いチップでは時間がかかりました。そこで可変分周器の前に、プリスケーラ(前置分周器)を設置して、計算処理を分けて動作の高速化したのが、パルススワロー方式です。

TRIOのカタログには「パルススワロー・スタティックコントロール方式」と、いっしょくたに書かれていますが、あくまでもパルススワローとスタティックコントロールは別のものです。

PLLシンセサイザー回路のうち、プログラマブルカウンターなどが内臓されている、東芝製の3バンドチューニングシステムIC「TC9147BP」が、コントロール信号の伝送にスタティックコントロールを使用しているだけの話で、パルススワロー部分だけはでなく、ディスプレィ回路など他の回路への伝送も、スタティックコントロールになっています。

その他にPLL回路用のプリスケーラは東芝「TD6104P」。AM用のチューナーはSANYO製の「LA1245」を使用しています。

フロントエンド フロントエンド

東芝 3バンドチューニングシステム
TC9147BP
AMチューナー
SANYO LA1245

(FM復調 IF・検波回路)
FM復調部の特徴は、広帯域直線検波・DLLD(ダイレクト・リニア・ループ・ディテクター)と、IF歪補正回路・DCC(ディストーション・コレクティング・サーキット)です。

FM放送は音楽信号によりFM変調をかけて送り出しているため、チューナーの10.7MHzのIF信号もつねに動かされている(ゆすられる)ことに着目し、これを改善するために開発された回路です。

DLLDもPLL(位相同期)回路となっており、FM変調による10.7MHzの変化と同じ量だけ、VCO(電圧制御発振回路)を動作させて、位相比較器の出力の誤差がゼロになるようにしています。

ただ、このままではVCOの非直線性の歪みやIFフィルターで発生した歪みは残ったままです。そこでIF歪補正回路(DCC)により、歪み成分と正反対の特性を作り出すことにより歪みを打ち消し、広帯域にわたる直線検波を可能にしています。
また、DLLDはPLL回路の閉ループを利用した検波器のため、ループ内で発生するノイズが少なく、SN比も向上しています。

回路の動作面だけを見ると、後にSONYがチューナーに搭載する、WODD(Wave Optimaized Direct Ditector)は「DLLD」のパクリ、WIOS(Wave Optimaized IF System)は「DCC」のパクリと見ることもできます。


IF帯域は2段階の切換えが可能です。WIDEポジションは選択度を落とすことで、歪みなどを下げて音質優先となり、NARROWでは90dBの高選択度により、優れた妨害排除能力を実現しています。

使用されているチップは、IFアンプやミューティング回路、シグナルメーター出力などを内臓した、SANYO製のIFシステム「LA1231N」と、差動増幅回路用にNEC製の「uPC1163H」が使われています。


※翌1984年に登場するKT-1010Uは、KT-1010と回路が全く同じだとも言われていますが、どうやらKT-1010UではVCOの周波数対チューニング電圧と、IFひずみ補正回路の補正値の見直し、つまり回路を改良したというよりも、より最適なチューニングを行ってスペックを改善しているようです。

IF回路 NEC uPC1163H

 
SANYO IFシステム LA1231N   FM検波回路(DLLD)

   
FM用のIF帯域・WIDEとNARROWの調整回路。オペアンプはJRC 「4560」「4558」「4220」。


(ステレオ復調 MPX回路)
ステレオ信号を復調するMPX回路の、デモジュレーター(復調器)はNEC製の「uPC1223C」です。チップの中にはステレオ復調回路の他に、PLL回路、19kHzと38kHzのパイロット信号キャンセラーなどが内臓されています。オペアンプはJRC 4560Dです。

ミューティング回路には松下製のHi-Fi ポップキャンセラー「AN6135」があります。このAN6135にはL・Rの信号ラインのミューティング機能だけでなく、IF帯域のミューティング、電源ON/OFF時のポップノイズの防止、ファンクションスイッチのミューティングなどがあり、チューナーに必要なミューティング回路がひとまとめになっています。

コスト的には魅力的なチップですが、ミューティングが必要なそれぞれの回路から、AN6135まで配線を引き回す必要があり、配線が長くなる=音質劣化というデメリットがあります。

MPX回路 ミューティング回路


(アンテナ端子・出力端子)
アンテナ端子はFM用の75Ωの同軸ケーブル端子(F型コネクター) と、AM用の300Ωのフィーダー用端子です。
出力端子は固定出力が1系統です。




TRIO KT-1010のスペック

FM 受信周波数 76MHz〜90MHz
周波数特性 20Hz〜15kHz ±0.5dB
感度 0.95μV(IHF)、10.8dBf(新IHF)
SN比50dB感度
MONO 1.8μV(IHF)
16.2dBf(新IHF)
STEREO 24μV(IHF)
38.8dBf(新IHF)
実効選択度 WIDE 45dB、NARROW 90dB
歪率
Wide Narrow
MONO 100Hz 0.009% 0.1%
1kHz 0.006% 0.12%
15kHz 0.03% 0.03%
50Hz〜10kH 0.02% 0.15%
STEREO 100Hz 0.04% 0.4%
1kHz 0.0095% 0.3%
15kHz 0.3% 1.0%
50Hz〜10kH 0.1% 0.6%
S/N比 MONO 98dB、STEREO 88dB
ステレオ
セパレーション
Wide Narrow
1kHz 68dB 50dB
50Hz〜10kH 50dB 40dB
15kHz 36dB 36dB
イメージ妨害比 95dB
IF妨害比 110dB
スプリアス妨害比 100dB
AM抑圧比 65dB
サブキャリア抑圧比 70dB
キャプチャーレシオ WIDE 1dB、NARROW 2.5dB
AM   受信周波数 522〜1611kHz
感度 10μV(IHF)
選択度 WIDE 30dB、NARROW 50dB
SN比 52dB
高調波歪率 WIDE 0.3%、NARROW 0.8%
イメージ妨害比 40dB
IF妨害比 60dB
消費電力 15W
サイズ 幅440×高さ64×奥行317mm
重量 3.8kg











TRIO・トリオ KT-1010 B級オーディオファン