TOP使っているオーディオCDプレーヤー > XL-Z521

Victor XL-Z521

     1988年 定価59,800円



XL-Z521は1988年に発売されたCDプレーヤーです。当時はVictorの「598」のクラスはC/P(コストパフォーマンス)が高いということで人気があり、1987年のXL-Z511、88年のXZ-Z521、89年のXL-Z531、そして90年のXL-Z505とヒット商品を連発しました。

この1988年は「598」クラスのCDプレーヤーにも物量がどんどん投入されており、メーカー間の競争も熾烈でした。→1988年の598プレーヤーの比較


XL-Z521も例外ではなく、8倍オーバーサンプリングのデジタルフィルター、18bitのコンビネーションDAC、デジタルからアナログ部へのノイズを遮断するオプティカルリンク(光伝送)やオーディオ用コンデンサなどを採用。またシャーシーの底板は上級機でもあまりない3.2mmの厚さの鋼板に、さらに2枚の鋼板を張り合わせた重量級ボトムベースを採用していました。

その他、マイコンやディスプレイのノイズ対策として、ディスプレイON/OFFスイッチやカセットテープなどの録音に便利なトリプルエディティングシステムも搭載していました。

18bitのコンビネーションDACは、18bitのうち下位2bitの変換をディスクリート構成のDACで行い、バーブラウンの16bitDACの信号と合成して18bitDACとしています。この方式はYAMAHAやTechnicsが採用したダイナミック・フローティング方式の18bitDACと違い、常時18bitをフルでD/A変換することが可能でした。XL-Z521ではこれを左右独立で装備して高い分解能を実現しています。

このようなコンビネーションDACは他のメーカーでも行われていました。でもほとんどは正式な18bitや20bit駆動のDACのように宣伝を行っており、コンビネーションDACであることを隠していました。キチンとユーザーに伝えていたのは、たぶんビクターやKENWOODだけだと思います。
また正式な駆動のDACを現す言葉として頭に「リアル(本当の)」を付けて、18bitDACを「リアル18bitDAC」、20bitDACを「リアル20bitDAC」と呼ぶように用語が作られましたが、DENONやテクニクスなどの「悪用」によりルールは破られ、なし崩しとなってしまいます。

当時はハイビット化の競争が熾烈でした。そこでメーカーはディスクリート、フローティング、シフトアップなどいろいろな工夫をしてハイビット化を目指しました。その極めつけはLo-DのDA-703Dで、16bitDACを2個使い片方を8bit分上位にシフトして、擬似的な24bitDACを作りだしました。
但し24bitというのは全くの見かけ上の話で、実際には18bit程度の分解能しかないと言われていました。こうしたハイビット競争もMASHなど1bitDACの登場により終息します。



(音質について)
音は少しソフトなサウンド。高音はツヤも良くちゃんと伸びます。低音は少しドローンとしたところもあるので、CDソフトによってはパワー不足に聞こえます。まあ当時はこのプレーヤーと組み合わせるような「598」「498」のスピーカーは、大口径・重量級スピーカーが人気で、今と比べれば騒音問題もおおらかでしたし、低音はこの程度でも問題なかったかもしれません。

1980年代の「598」としては珍しく、クラシックやジャズもしっかりと音を出します。また女性ボーカルなども良いです。逆にロックは少し苦手。

このクラス(KENWOOD DP-7010、Technics SL-P777、ONKYO C-701XD)の中では、一番音が自然に出てきますし、解像度や定位、音場もキチンとしています。DP-7010の音もうまく作られていますが、緻密さではXL-Z521のほうが1枚上手です。



(フロントパネル)
SONYのESシリーズのレイアウトをアレンジした、当時としてはオーソドックスなデザインです。

ディスプレィの右横が10キーとプログラム関係のボタン。ディスプレィの下が「PLAY」「STOP」など操作系のボタン。その横がカセットへの録音時に使う「トリプル・エディティング・システム」専用のボタンで、「オート」「プログラム」「マルチ」の3つのプログラムができます。
普通は演奏と録音のプログラムボタンを兼用にすることが多いのですが、操作が複雑になる場合もあるので、XL-Z521では独立させたものと思います。

他にはFLディスプレイからのデジタルノイズの影響を無くすために、ディスプレイON/OFFスイッチがあります。





(シャーシ・内部について)
シャーシー(キャビネット)の底板は3.2mm厚の鋼板をベースとし、その上には薄い鋼板、下にはラジアル構造の絞り鋼板を貼るという3重底となっています。天板は中央の部分だけが2重となっています。

このおかげで重量は8.5kg(実際に計ったところカタログどおりの8.5kg)と、前年に発売されたXL-Z701(89,800円)よりサイズが小さいにも関わらず、同じ重さとなり「598」クラスでも群を抜いていました。

内部は左側にピックアップ・サーボメカと電源トランス。右側の基板には電源回路、サーボ回路、システムコントロール回路などがあり、オーディオ回路は右すみにタテに取り付けられています。
メカ・トランスと基板の間には仕切板が設置されていますが、シールド用ではなく天板の振動を抑えるためのものです。

底板 天板



(電源回路)
電源トランスはバンドー製。取付金具とシャーシの間にダンパーをはさみ、フローティングしています。小型ですが少なくともアナログ、デジタルなど3系統ぐらいの別巻線になっています。

コンデンサは日本ケミコンのオーディオハイグレード品「AWF」のなどを使用しています。平滑コンデンサの容量は50V・2200μF。

電源トランス 電源回路



(デジタル回路 サーボ回路・信号処理回路)
サーボ制御や信号処理を行っているのはYAMAHA製のチップ「YM3815」です。このチップにはサーボ回路と復調やEFM誤り訂正などを行う信号処理回路が、1パッケージに収められています。また誤り訂正に必要なRAMはサンヨー製の、8bit CMOS スタティック RAM「LC3517BS-15」を使っています。

YM3815で処理されたデジタル信号は1本はデジタルフィルターへと流れ、もう1本はデジタル出力用のインターフェイスであるYAMAHA「YM3613B」と流れます。

サーボ回路の調整ボリュームは、フォーカス・オフセット(F.E..OFFSET)とトラッキング・ゲイン(「T.E OFFSET)、トラッキング・オフセット(T.E OFFSET)の3つしかありません。

サーボ・信号処理回路 YAMAHA YM3815

RAM SANYO LC3517BS-15 YAMAHA YM3613B



(DAC・オーディオ回路)
オーディオ回路のデジタルフィルターは、CDX-1000などでも使われていた8倍オーバーサンプリング・278次のヤマハ製「YM3414」です。ここで16bit信号は補間されて18bit信号へと拡張されます。

その後、信号はHP製の高速フォトカプラで、光に変換し伝送(オプティカル・リンク)することで、デジタルノイズを除去してD/Aコンバータへと流れます。
ただしオプティカル・リンクだけではノイズを100%除去することはできないのでビクターは有名なK2インターフェースを開発。上級機のXL-Z711(99,800円)に初めて搭載します。


DACは18bitですが、16bitのバーブラウン「PCM56P」とディスクリート構成のDACを組み合わせて18bitとしています。

18bitの信号のうちバーブラウンの「PCM56P」で、上位の16bitをD/A変換するとともに、下位2bitの変換を別のディスクリート構成のDACで行い、双方の信号を加算することで18bitDACとして動作するというものです。

このディスクリートDACはオペアンプ(JRC 5532S)を使った簡易なもので、特性的には劣りますが、まわりに投入した高品位パーツのおかげもあり、音はうまくまとめられています。


XL-Z521の発売時には18bit駆動のDACというと、バーブラウンの「PCM64P」などしかありませんでした。
ただしこのDACは高価でノイズ対策の必要があったため、SONY CDP-557ESDなど一部の高級機にしか採用されませんでした。その後バーブラウンは安価でグリッチレスタイプの18bitDAC「PCM58P」を開発。1988年の秋に発売されたライバル機は、こぞってこれを搭載しています。

オーディオ回路のコンデンサは、日本ケミコンの「AWF」など、オーディオ用のものを使用しています。

オーディオ回路 デジタルフィルター
YAMAHA「YM3414」

HP製の高速フォトカプラ
6N137
DAC バーブラウン PCM56P



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカのベースは樹脂製ですが、肉厚のしっかりとした物です。これ自体が別の樹脂パーツによってフローティングされています。

ピックアップやスピンドルモーターなどが取り付けられたプレート(メカシャーシ)は鋼板製。これもメカベースからフローティングされています。このダブル・フローティング構造により外部からの振動を減衰させています。

ピックアップはビクター製「OPTIMA-4S」。スライド機構はウォームギヤ式で、モーターとギヤの間はゴムベルト駆動にして、モーターの振動がピックアップに伝わらないようになっています。

ブリッジについているクランパーは、「スタビライズ・ホイール」と呼ばれる小型のスタビライザー付きの物です。これにより回転時のディスクの振動を低減し、ピックアップの読み取りの安定性を高め、サーボ量を減らすことでデジタルノイズの発生を減少させています。



(メカのメンテナンス・修理)
トレイ開閉用のゴムベルトとスライド(スレッド)用のゴムベルトは、両方ともメカの裏側にあります。メカと基板を結ぶ配線を取り外してから作業に入ります。

まずハメコミ式のブリッジを外します。そうすればトレイをメカから引き抜くことが出来ます。次にメカをシャーシーに固定しているネジ(4ヶ所)を外します。

トレイ開閉用のゴムベルトは直径が約6cmで、少し太めの物が使われています。交換の際には太さ1mmぐらいの角ベルトでも、大丈夫かもしれません。
スライド用のゴムベルトは直径が約2.5cmで、ワームギヤのシャフトを外す作業が必要ですが、難しくはありません。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップとスピンドル

スタビライズ・ホイール メカの裏側

スライド機構のウォームギヤ

現在のCDプレーヤーでもウォームギヤ方式を使うものがありますが、モーターに直結のため振動がピックアップに伝わり、読み取り精度が低下します。

XL-Z521ではゴムベルトをはさむことで振動を吸収し、ピックアップの読み取り精度を維持しています。



(出力端子・リモコン)
リアパネルのデジタル出力端子は光学と同軸が各1系統。隣にはデジタル出力のON/OFFスイッチがあります。

アナログ出力は固定と可変の2系統。他の機器とのシンクロ用の接続端子もあります。
専用リモコンの型番は「RM-SX521」。

出力端子とシンクロ端子
(一番右)
リモコン RM-SX521

上:XL-Z521(1988年) 下:XL-Z505(1990年)


Victor XL-Z521のスペック

周波数特性 2Hz〜20kHz
全高調波歪率 0.0035%
ダイナミックレンジ 98dB
S/N比 106dB
消費電力 14W
サイズ 幅435×高さ118×奥行300mm
重量 8.5kg (実測重量8.5kg)




TOP
CDプレーヤー
アンプ
スピーカー
カセットデッキ
チューナー
レコードプレーヤー
PCオーディオ
ケーブル
アクセサリー
歴史・年表
いろいろなCD


Victor・ビクター XL-Z521 B級オーディオ・ファン