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SONY TC−FX77

     1981年 定価69,800円



SONYのTC-FX77は1981年11月に発売されたカセットデッキで、SONYで初めてアモルファスヘッドを搭載したモデルです。

当時はこの価格帯が激戦ゾーンのためライバル機が多く、AIWA AD-FF6、AKAI GX-F51、Aurex PC-G7AD、DENON DR-L1、Lo-D D-M70、NEC-K535、ONKYO TA-6X、Pioneer CT-580、TEAC V-R2、Technics RS-M212、TRIO KX-7X、Victor DD-66、YAMAHA K-9などがありました。


先代のモデルはTC-FX7(1980年・79,800円)です。TC-FX7は高さが、わずか70mmという薄型デッキで、同じSONYのシンサイザーチューナー、JX-5(53,000円)と組み合わせれば、オーディオラックのひとつの段に、カセットデッキとチューナーが収まるというのが「売り」でした。

しかし販売のほうは低調だったようで、ノイズリダクションの「ドルビーC」の登場の際に、下級機のTC-FX6とTC-FX5が、ドルビーCを搭載しTC-FX6C、TC-FX5Cとして改良・マイナーチェンジされたのに対し、TC-FX7は改良されることはありませんでした。


TC-FX7では薄型にしたために大型フライホイールを搭載できず、クォーツDDサーボモーターを採用しましたが、それでもワウフラッターは0.05%にしかなりませんでした。0.05%というのは初級モデルのTC-FX2(36,800円)と同じ数値です。
当時はカセットデッキの購入の際に、ワウフラッターの数値を気にする人が多かったので、これは大きなマイナス要素でした。

また、他社で79,800円のデッキというと、3ヘッドのDDモーター。しかもワウフラッターは0.02%台が買えてしまう訳ですから、ただ薄いのが取り柄というデッキは、見向きはされなかったのかもしれません。しかし現在では、その希少性やデザインが評価されて中古価格は高いです。


TC-FX77では一般的なサイズに戻すとともに、新開発の「レーザーアモルファスヘッド」を投入しました。

1970年代の後半、カセットデッキのヘッドの主流はセンダストヘッドで、各社は音が良いとセンダストのPRに努めますが、センダストは加工が難しくコストも高い。また渦電流損失が大きく高域特性が悪化するなどの音質的な弱点もありました。

1980年代に入りカセットデッキの開発競争が激化すると、センダストヘッドをやめる動きが本格化します。テクニクスやLo-Dはヘッドをハードパーマロイに戻し、SONYとKENWOODはアモルファスヘッドへと舵をきります。

センダストでは一番音の良い「リボンセンダストヘッド」を開発したパイオニアも、少し遅れてレーザーアモルファスヘッドに切り替えます。最後までSAヘッド(センダストヘッド)にこだわったビクターも、TD-V711(1987年)からアモルファスヘッドの使用を始めます。
ちなみにナカミチはセンダストヘッドを使用したのは下級モデルで、上級機にはクリスタロイヘッド(パーマロイ系)を使用。アカイは自社のGXヘッド(フェライト系)のほうが音が良いということで、センダストヘッドを採用しませんでした。


「レーザーアモルファスヘッド」は新技術開発事業団の委託を受け、SONYが1970年代から開発を進めてきた新しいヘッド※です。非結晶のアモルファス合金は、磁束密度がフェライトの倍以上も高く、センダストをも上回っていました。さらに薄い帯状に製造できるため、渦電流損失を少なくできるなど、ヘッド材料として積層ラミネートコアを作るのに適していました。

このヘッドの音を聴いた、当時SONYの副社長だった大賀典雄氏が、トップダウンでカセットデッキへの搭載を決定したといわれています。TC-FX77と同時期に発売された上級機のTC-FX1010やTC-K555は、従来のS&Fヘッドのままですので、TC-FX77は「実験的」な意味あいや「戦略的」な位置づけがあったのかもしれません。

レーザーアモルファスヘッドの音質を活かすために、ヘッドと再生アンプはダイレクト結合として、カップリングコンデンサーを省き、音質の劣化を防いでいます。

ノイズリダクションシステムはドルビーBとCタイプを搭載。テープセレクターはオートセレクターではなく手動。 ポジションはメタル、フェリクローム、クローム、ノーマルの4段です。

メカは低共振フライホイールを採用し、キャプスタン用にはDCサーボモーター、リール用にDCハイトルクモーターを使用しています。

録音・再生のレベルメーターはLEDからFLディスプレィに変更へとなりました。FLディスプレィ(VFD)は応答性が早く、LEDよりもセグメントを細かくできるため、ピークレベルが見やすくなるなどの利点があります。またピークレベルを約4秒間保持するピークホールド機能が付いていました。カウンターは減算機能・プリエンドウィンカー付きのリニア電子カウンターです。

他には頭出や選曲ができる、AMS(オートマチック・ミュージック・センサー)やリピート機能、カウンターメモリー、RECミュートなどの機能も備えていました。


※ちなみにアモルファス合金を使用したヘッドは、SONYよりも先にTDKが商品化しています。



(音質について)
音はSONYサウンド。昔にSONYの中級機を使っていた人なら「あ、この音だ」とすぐわかる音です。

音は少し硬め。レンジはそれほど広くありませんが、高音は伸びます。高音が伸びると「音が良い」と錯覚しちゃったりする訳で、レーザーアモルファスヘッドの効果というか、そのあたりもSONYの狙いだったのかもしれません。

じゃS&Fヘッドを搭載した上級機のTC-K555と比べると、どうかというと、やはりTC-K555の音が1枚上手。TC-FX77はやっぱり情報量が少ない。ただその分、音がドライでハイスピードです。

内容的にはヘッドと電源回路はTC-FX77のほうが強力ですが、メカはTC-K555のほうが断然上で、ツインモノのオーディオ回路との差も大きいようです。


(メンテナンスについて)
メカのゴムベルトはキャプスタンのフライホイール駆動用だけで、ヘッドの上下はソレノイド(アクチュエイター)による駆動です。

この時代のSONYの中級機を初めて入手する人は、このヘッドの上下の音や、巻き戻しや早送りの音の大きさに、ビックリするかもしれません。これは壊れている訳ではなく、新品の時から「うるさい」のです。

もし動作品でゴムベルトが生きているのなら、ゴムの保護剤を塗布しておきます。

アジマスの調整は簡単で、カセッホルダーの前面カバーを外せば、アジマス調整用の穴があります。テープを再生しながら穴に細いプラスドライバーを入れて、調整ネジをゆっくりと回転させながら合わせていきます。
オシロスコープが無くても、スピーカーから出る音を聴きながら、高音をポイントにして合わせていけば調整できます。その後、できるならば「サ行」が気になりやすい女性ボーカルのテープなどを使って、さらに微調整をします。


カセットデッキのメンテナンスの定番はヘッドとピンチローラーのクリーニング。オーディオテクニカからは70年代からある、赤と緑の液が入った「ヘッド&ピンチローラークリニカ」が、今も販売されています。でも値段もそこそこするので、無水アルコールと綿棒という人が多いです。

また背面のRCA端子と前面のヘッドフォンやマイク端子のクリーニングも重要。それと数か月に一度は消磁器でヘッドの消磁も必要となります。

内部をいじれる自信があるなら、やっておきたいのが基板のクリーニング。発売から30年もたつと、内部にはホコリがたまっており、これが音質の劣化をまねきます。

もうひとつ是非やっておきたいのは、再生出力用のボリュームのクリーニング。SONYのカセットデッキは固定出力が多いですが、内部の基板には半固定抵抗による出力ボリュームがあります。このボリュームが汚れていると、音質が劣化したり、左右のチャンネルで音の大きさに差が出て、定位の悪化を招きます。

クリーニングをする前に、元のボリュームの位置がわかるように、印しをつけたり写真に撮っておきます。接点復活剤を吹きかけ、ドライバーでグリグリと回して終了。ボリュームを元の位置に戻します。

もし左右のチャンネルで音の大きさが違う場合は、スピーカーで定位を確認しながら調整します。TC-FX77の場合、レベルメーターの調整用ボリュームが無いため、レベルメーターを見ながら確認もできますが、それでもスピーカーを聴きながらの調整は必須です。

※上級機のTC-K555にはレベルメーターの調整用の専用ボリュームがあります。



(フロントパネル)
フロントパネルは見た目には凡庸なデザインですが、説明書を見なくても操作できるくらい、わかりやすくて、しかも使いやすい。そして飽きることのないデザイン。さすが当時のSONYのデザイナーは優秀です。

弟分のTC-FX66もほぼ同じデザインで、違いはピークプログラムメーターにFL管を使い、電子リニアカウンターと一体化したディスプレィとなったことと、その下にあるAMSやリピートボタンなど。


レイアウトは左側から電源、タイマー、カセットホルダーの開閉ボタン。それにリモコン端子があります。リモコンは別売でワイヤレスリモコンユニット(RM-80 18,000円)や有線のリモコン(RM-50 6,000円)、フットリモコン(RM-51 8,800円)がありました。

カセットホルダーをはさんで、ディスプレィには録音や再生時間がわかるリニア電子カウンターとFL管のピークプログラムメーター。その横にドルビーのインジケーターがあります。

電子カウンターには「プリエンドウインカー」という機能が付いており、録音時にテープの残量が終わりに近づくと、カウンターの数字が1秒間隔で点滅します。
コンサートのエアチェックをしている時などは、これが点滅し始めるとデッキの前で待機。カセットのA面が終わると、すぐに取り出してB面に裏返してセットし録音をスタート。という感じでした。

ディスプレィの下はカウンターリセット、メモリー、AMS、リピートのボタン。その隣には横一列に並んだ録音、再生、早送り、巻き戻し、ポーズなどの操作ボタン。当時、はやりだったストロークがほとんどないフェザータッチのボタンです。

下にはTypeT(ノーマル)、TypeU(クローム)、TypeV(デュアド・フェリクローム)、TypeW(メタル)のテープポジションの切替えスイッチ。録音ボリュームは100mmのロングスライドボリュームです。

一番右にはドルビーのスイッチ(B・C・OFF)とヘッドフォンボリューム。ヘッドフォンとマイクの端子(どちらも標準プラグ)があります。

使用上の注意点としては、カセットホルダーが開く時にロケットオープンになることと、スライド式の録音ボリュームにガリが出やすいこと。スライド式ボリュームの故障は当時から問題になっており、TC-FX705では電子アッテネーターが搭載されますが、その後はふつうの回転式のボリュームが採用されます。





(シャーシと内部について)
シャーシ(キャビネット)は普通の鋼板製です。真ん中にシールド板を置いてオーディオブロックへの干渉を防ぐとともに、リアパネルや底板と結合することで、ビーム(梁)の役目もしており、シャーシの剛性を上げています。

内部は左側に電源トランスと電源回路。ロジックコントールをするためのマイコンがあるシステムコントロール回路(デジタル回路)。そしてメカがあります。右側には録音と再生の回路があります。



(電源回路)
電源トランスはたぶんTC-K555と同じもの。リーケージフラックス(磁束漏れ)対策のために、ケースで四方を囲っています。

左右のチャンネルの相互干渉を抑えるために、±2電源方式を採用しており、FETバッファ回路を搭載して、モーターが駆動する際(サーボ制御がかかる時)に、発生する「電圧のふられ」を低減しています。電源ケーブルは並行コードです。

レギュレータは真ん中のシールド板に4個取り付けられており、シールド板がヒートシンクの役目もしています。

電解コンデンサはメカ・デジタル回路用が日本ケミコンの「SM」がメイン。オーディオ回路(録音・再生)用にはELNAのオーディオ用コンデンサが使用されています。

電源トランス メカ・デジタル回路用の電源

録音・再生回路用の電源。
赤いコンデンサは、ELNAのオーディオ用電解コンデンサ。


(システムコントロール回路)
マイコンは富士通製の「MM8843 590」と「MM843 594」の2つが使われています。たぶん片方が再生や録音、早送り、巻き戻しなどのメカのコントロールを行い、もうひとつは電子カウンターとFLレベルメーターの制御をしていると思います。

ロジックIC(NOTゲート・HEXインバータ)は富士通「MB84049B」「MB84069B」と東芝「TC40H004P」の3つ。

システムコントロール回路 マイコン
富士通「MM8843 590」



(ヘッド・メカ)
ヘッドは録再と消去の2ヘッドです。録再ヘッドには高い磁束密度と磁気リニアリティを持つという非結晶合金の「レーザーアモルファスヘッド」。消去ヘッドには「マグネフォーカス4ギャップF&Fヘッドヘッド」が使われています。

レーザー・アモルファスヘッドは、S&F(センダスト&フェライト)ヘッドの弱点を克服するために採用されたヘッドです。

センダストはフェライトよりも磁束密度が高いものの、コアに使用すると渦電流損失が大きく、高域特性が悪化するなどの弱点がありました。またオーディオ用のヘッドとして使用するには加工がしずらく、耐食性を高めるために添加物が必要なため、本来の磁束密度が得られないなどの問題がありました。
そのためS&Fヘッドでは、コアに従来どおりフェライトが使用され、センダストはテープとのタッチ面だけに使用されていました。

レーザー・アモルファスヘッドは非結晶のアモルファス合金を使用したヘッドで、磁束密度がフェライトの倍以上も高く、センダストをも上回っていました。さらに薄い帯状に製造できるため、渦電流損失を少なくできるなど、ヘッド材料として積層ラミネートコアを作るのに適していました。

ただ、この時はTC-FX77だけのために、レーザー・アモルファスヘッドを生産していた訳ですから、コストはかなり割高だったと思います。

そのせいかメカは安上りに作られており、かなりチープです。キャプスタン用のモーターがDCサーボモーター、リール用はDCモーターとなっています。メカはソレノイド(アクチュエイター)で駆動します。


以前はTC-FX6(59,800円)でも、BSLモーター(グリーンモーター)を使用していましたが、TC-FX77はふつうのDCモーターです。それでもサーボ回路が進化しているので、ワウフラッターは0.04%とグリーンモーターと変わりません。

フライホイールはデッドニング(防振対策)を施した低共振フライホイールです。リール用モーターの後ろにはサーボ基板があります。

ヘッド・キャプスタン
ピンチローラー
メカ



(録音・再生回路)
録音・再生回路は音質に影響するカップリングコンデンサを、排除したDCアンプ構成となっています。

ドルビーノイズリダクション用のICはSONY製の「CX174-2」です。CX174-2はドルビーBタイプ用のICですので、ドルビーCタイプの追加部分はディスクリートによって組まれています。

再生回路の半固定抵抗(調整ボリューム)は出力レベルだけで、イコライザーはありません。他にレベルメーター用の半固定抵抗があります。

録音・再生回路 バイアス OSC(オシレーター)
ユニット

ドルビー・ノイズリダクション用ICのSONY「CX174-2」。
録音の左・右ch、再生の左・右chの全部で4個が使われています。



(入出力端子)
入出力端子はライン入力とライン出力(固定出力)です。

リアパネル

SONY TC-FX77のスペック

周波数特性 30Hz〜17kHz ±3dB
(メタル、フェリクローム)
S/N比 59dB(Dolby オフ・メタル)
66dB(Dolby B・メタル)
72dB(Dolby C・メタル・フェリクローム)
高調波ひずみ率 0.5%
ワウ・フラッター 0.04%(WRMS)
±0.06%(W Peak)
消費電力 22W
サイズ 幅430×高さ105×奥行275mm
重量 5.5kg




SONYのカセットデッキ

TC-K555ESG TC-K555ESX TC-K5555ES TC-K555
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