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Technics SL-P777

    1988年 定価59,800円



テクニクスのSL-P777は、1988年10月に発売されたCDプレーヤーで、SL-P770(1987年・59800円)の後継機です。

1988年はこの価格帯のCDプレーヤーが激戦区で、優秀なモデルが次々と投入されました。→1988年の598プレーヤーの比較



テクニクスはSL-P777を、リニア18bit・4DACシステムと宣伝しましたが、実際に搭載されているのは、新しく開発された1bitDACの「MASH」です。

初めて「MASH」を搭載したのは、1988年3月に発売されたSL-P150で、SL-P777は第2世代のMASH搭載機となります。
テクニクス以外のメーカーのMASH搭載機では、1988年11月にVIctor XL-Z231とXL-Z221が、12月にSANSUI CD-α717 EXTRAが発売されています。


MASHは松下電器とNTTが、共同開発したD/Aコンバーターです。

まず多段ノイズシェーピング回路(multi-stage noise shaping・・・MASHの語源)が、CDのデジタル信号を高い周波数にオーバーサンプリングして、16bitのデータをビット圧縮(再量子化)して1bitにします。
次にPWM(Pulse Width Modulation・パルス幅変調)回路で、波形に対応した幅を持つパルスに置き換え、最後にD/A変換を行いアナログ信号が出力されます。

1bitDACのメリットはゼロクロス歪や非直線歪がないことですが、ビット圧縮の際にS/N比が悪くなるという欠点もありました。

SL-P777に搭載された「MN6471」では、3次・768倍のノイズシェーパー(ΔΣ・デルタシグマ変調器)を採用し、可聴帯域内のS/N比やダイナミックレンジを改善しています。

オーディオとヘッドホン回路には、負荷変動に強いclassAA回路を採用し、音質の劣化を防いでいます。

振動対策はシャーシのベース部分に、TNRC(テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)と呼ばれる、異種素材を組み合わせた多層構造を採用しています。

メカは高速なリニアモーター。ピックアップはダブルフローティングにより、外部からの振動を抑えています。


テクニクスは「リニア18bit・4DACシステム」搭載と、1bitDACの「MASH」を搭載していることを隠した訳ですが、これは3つの理由があったと思います。

当時は各メーカーがハイビット競争をしており、ユーザーもビット数が大きい物やDAC数が多い物の方が、音が良いと考えていたことです。
前年に本物の4DAC・18bit変換システムを、搭載したSL-P770が大ヒットしており、18bitDACを4つ積んでいるというふうにした方が、商売上は都合が良かったのではないかと思います。

次にSL-P770では、バーブラウンのマルチビットDACを4つ搭載していましたが、メーカーから見ると「MASH」は4つのDACを内蔵しているとはいえ、構造が簡単で製造コストの安いという魅力がありました。

またDACの調整や4DAC用のLSIも不要であり、工場での生産性の向上というメリットがあります。

SL-P777ではメカやシャーシなどDAC以外にも、SL-P770よりコストダウンをはかっており、いわば物量機を続々と投入する他メーカーと逆のことをしていました。それをカモフラージュする意味でも、「18bit・4DAC」という言葉が必要だったのではないかと思います。

3つ目は「MASH」が開発途上であり、音質面ではまだ不安な要素があったのではないかと思います。現実にテクニクスはこの後、毎年のように新しい「MASH」を開発し、音質の評価も徐々に高まっていきます。

しかし、当時はFMfanの「ダイナミックテスト」など、内部を公開したり分解したりする雑誌のコーナーがあったため、SL-P777が搭載しているのが「MASH」であることは早々にバレてしまいました。



(音質について)
MASHを搭載していますが、SL-P990やSL-P999と同じテクニクスサウンドです。低音は良く出ていますが、高音の艶などの成分は特徴的で、このあたり好き嫌いが出そうな感じです。音場は広くも狭くもなく普通といった感じです。

上級機のSL-P999と比べると解像度はMASHのSL-P777のほうが良いですが、高音はややうるさくも感じます。

回路はSL-P777のほうがかなり簡略化されていますが、見た目以上に音は差が無いという感じです。それでも1万円高いだけあって全体のバランスはSL-P999のほうが上です。

後に発売されるSL-P70SL-P700と比べると音が「硬い」です。透明感や解像度などはSL-P700のほうが断然良く、第2世代と第3世代のMASHの差を感じます。

後継機と比べると確かに音の差がありますが、他メーカーの「598」のライバル機と比べると全く遜色のない音だと思います。



(フロントパネル)
フロントパネルのデザインは、SL-P990を踏襲したものでSL-P999と共通です。違いは「4DAC Linear 18BIT」というところが、バッチでは無く文字になったというだけです。

トレーの前面はRが付けられ、その上にはSL-P990では廃止されていた、CDの回転している状況が見える照明付きの「窓」が復活しました。

ディスクのサーチはSL-P990ではジョグダイヤルでしたが、SL-P777では丸い形は同じものの、回転はしない左右4ポジションのスイッチとなっています。1/8倍速から76倍速まで4段階のスピードでサーチが可能です。

ディスプレイはピークレベルとプレイング・ポジションが表示できます。また表示のON/OFF機能も搭載しています。





(内部について)
カタログを読むと、さぞ中味はスゴイのだろうと思いますが、実際はかなりのスカスカです。1988年というと物量戦争の真っ只中ですが、テクニクスはSL-P999/777などから、コストダウン戦略へと舵を切ります。

シャーシはSL-P999と共通です。ベース部分はTNRC(テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)と呼ばれるものです。SL-P990では材質が異なる素材を組み合わせた5層構造となっていましたが、SL-P777では樹脂と鋼板による2層だけに簡略化されています。実測重量は5.8kg。


内部は左側にピックアップ・ドライブメカと電源トランス。このメカの下にサーボ回路の基板があります。右側の細長いメイン基板には電源、信号処理、システムコントロール、オーディオなどの回路があります。

この内部構成は、後のテクニクスのCDプレーヤーのベースとなるもので、SL-PS70からはセンターメカ、SL-PS700からはデジタルサーボやトレイがスィング方式となりますが、SL-PS860まで踏襲されていきます。


天板 TNRCの底板



(電源回路)
電源トランスは別巻線のトランスを使用。回路はデジタルとオーディオを分けた独立電源となっています。

整流回路にはファーストリカバリーダイオードと、松下製の「Pureism」などオーディオ用電解コンデンサを使用し、整流ノイズの低減しています。
電源ケーブルはめがね型コネクタです。

電源トランス 電源回路


(サーボ回路・信号処理回路)
信号処理回路はメイン基板の下、サーボ回路はメカの下にあり、どちらも集積化されてコンパクトな回路となっています。

サーボ回路はフォーカスやトラッキングなど、ピックアップ用のサーボ制御は、自社製のIC「AN8374S」と「AN8373S」で行っています。BTLドライバーは「AN8377」です。

サーボ調整用のボリュームもメカの下にあるため、ディスクの再生中はトレイに隠れて調整が出来ません。そのためボリュームを少し回しては、ディスクを再生するという作業を繰り返えすことになります。

信号処理用のICは、復調や誤り訂正などの回路と、スピンドル用のサーボ回路が、1パッケージに収まった自社製のシグナルプロセツサ「MN6622」を使用。

スタティックRAMはサンヨー製の「LC3517BML15T」を使っています。システムコントロール用のマイコンは「MN1554PEZ-1」です。

サーボ回路
左がAN8374S、右がAN8373S
メイン基板の裏側

信号処理 MN6622 マイコン MN1554PEZ-1


(DAC・オーディオ回路)
D/AコンバーターはMASHとしては第2世代の「MN6471」です。

同じMN6471でも、サンスイのCD-α717 EXTRAや、YAMAHA CDX-930では「MN6471M」というモデルが使われていました。


MN6471は3次・768倍のノイズシェーパーを採用しており、4倍オーバーサンプリングのデジタルフィルターと、4つのDACを内蔵しています。
デジタルフィルターは2段のFIR型で、リップル特性±0.0072dB、阻止帯域の減衰量62.7dBと、同じ時期のデジタルフィルターに比べて、能力がかなり低いです。


カタログや雑誌用のプレスリリースでは、あたかも4DACコントロールLSIによって、4つのDACの出力を合成しているかのように書いてありますが、実際には差動合成は、オペアンプを使った普通の回路です。つまり4DACコントロールのLSIなどというのは、宣伝用の話で実際には存在しません。

DACの後ろにはバッファアンプ、差動合成、ローパスフィルター、ラインアンプ、ミューティング回路などがあります。

ラインアンプはテクニクス独自のclassAA方式です。電圧コントロールと電流ドライブを2つのアンプで分担するため、歪の少ない安定した増幅が可能です。

オペアンプはバッファアンプや、ローパスフィルターに三菱製の「M5219FP」。ラインアンプには「M5238」を使用が使われています。

また新開発の高音質炭素皮膜抵抗や、電解コンデンサにはMUSEなどの高音質のパーツを使用しています。

オーディオ回路 1bitDAC
MN6471(MASH)



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカはSL-P999と共通ですが、下級機のSL-P555やSL-P333とも共通です。

リニアモーターを採用しているものの、メカブロックを含め樹脂を多用した作りで、明らかにコストダウンを意識した構造となっています。ただピックアップのフローティングはきちんとされています。

ピックアップは自社製の「SOAD70A」。光効率が良い独自の1ビーム方式で、ピックアップレンズには非球面の一体成型ガラスレンズを採用し、優れた信号読み取り能力を持っています。

この当時は、まだピックアップ用の非球面のガラスレンズは難しい技術で、それを解消するためにピックアップ用の、プラスチックレンズが開発されたそうです。


(メカのメンテナンス・修理)
トレイ開閉用のゴムベルトの交換は、まずトレイを開いた位置にして、ストッパーを解除してチャッキングアームを外します。次にトレイを引き抜くとトレイ開閉用のメカが現れます。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ・ドライブメカ

ピックアップ トレイ開閉用のゴムベルト

トレイ



(出力端子とリモコン)
アナログ出力は固定が1系統、デジタル出力は光学1系統となっています。フロントパネルにデジタル出力のON/OFFスイッチがあります。

リモコンの型番はEUR64727。

出力端子

上:SL-P777(1988年) 中:SL-P999(1988年) 
下:SL-P990(1987年)


Technics SL-P777のスペック

周波数特性 2Hz〜20kHz ±0.3dB
全高調波歪率 0.003%以下
ダイナミック
レンジ
98dB以上
S/N比 112dB以上
チャンネル
セパレーション
100dB以上
消費電力 11W
サイズ 幅430×高さ126.5×奥行338mm
重量 6.0kg (実測重量5.8kg。)




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