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TOPPING VX2

実売8,000~10,000円





TOPPING VX2は中国の拓品電子が、2015年11月に発売したフルデジタルアンプです。実売価格は8,000円~10,000円。


世界初のフルデジタルアンプは、1998年にデンマークのTACT AUDIOが発売した「MILLENNIUM」です。
実際にフルデジタルの技術開発をしたのは、同じデンマークのトッカータ・テクノロジーで、これに目を付けたTIにより2000年に買収されています。

もっとも、TACT AUDIO自体はフルデジタルアンプではなく「True Digital Power Amplifier」と呼んでいました。

フルデジタルアンプの回路は、EQUIBIT(イクイビット)と名付けられています。前段ではDSPを使用して、PCM(48kHz/24bitまで)をPWM(パルス幅)に変調。それを後段のMOS-FETを使用したアウトプットモジュールでスィッチング(増幅)。その後にローパスフィルターでアナログに変えて出力しています。

基本的な構成は現在のフルデジタルアンプICと同じです。多くのICはPCMの変換、PWM変調、MOS-FETでの増幅を同一のチップの中で行っていますが、TIにはEQUIBITと同じく、PWM変調のICとMOS-FETの増幅ICを分けている物もあります。
※S.M.S.L Q5PROはTI TAS5508C(PWM モジュレータ)と、TI TAS5342A(デジタルアンプ パワーステージ)の2つを搭載。


しかし、2000年代になって爆発的にヒットしたのは、アナログ入力のデジタルアンプで、日本をはじめ各国で安い中華デジアンのブームが起きました。
またテレビをはじめ家電品への搭載も広がりました。

でも、デジタルアンプICのメーカーは、DACがいらないことから、製品コストを下げられるということで、家電用のフルデジタルアンプの開発も進めています。

2010年代の中ごろになると、オーディオ用のフルデジタルアンプがちょっとしたブームとなり、各社がいろいろな製品を発売しました。



(普通のデジタルアンプとフルデジタルアンプの違い)
普通のデジタルアンプはアナログ信号をデジタルアンプICの中で、デジタル信号(1bit PWMまたはPDM変調)に変換して増幅。スピーカーに出力します。

そのため、パソコンやスマホなどと接続する場合は、いったんUSB-DACでアナログに変換してから接続するか、デジタルアンプの中にDACを内蔵している機種を使う他ありません。(Bluetooth搭載機の多くは内部にDACを持っています)


フルデジタルアンプは、パソコンなどとケーブルで接続して、デジタルのPCM信号をそのままアンプICに入力できます。つまりDACがいらないということです。
1bit PWMまたはPDM変調に変換して増幅。スピーカーに出力する部分は、ふつうのデジタルアンプと同じです。

2015年ごろは、このことを利用して「フルデジタルアンプはデジタル信号のまま処理するので音が良い」という宣伝文句も登場しました。またUSB-DACは消えてなくなると豪語する人もいました。


その後、フルデジタルアンプの弱点が明らかになり、音質も普通のデジタルアンプよりも優れている訳ではありませんでした。

ユーザー側の実用面としては、フルデジタルアンプはアナログ入力端子を備えていませんでしたが、実際にはこれを望むユーザーが多くいました。

またUSB-DACが32bit/768kHzのPCMや、DSD512(DSD 22.4MHz)に対応するなど進化したのに対して、フルデジタルアンプはICが32bit入力に対応できるものが少く、製品も24bit/96kHzや24bit/192kHzがメインでした。

さらにデジタルアンプは1bitで処理しているにも関わらず、PCMの入力しかできず、DSDをアンプICの前でPCMに変換しているものが多いです。そのためハイレゾが盛り上がる中で見劣りする状況となりました。

またマスコミが騒いだほど販売が伸びませんでした。ToppingもフルデジタルアンプはVX2だけで、後継機は発売されませんでした。

DDFA搭載と意気込んでいたDENONも、PMA-150HとPMA-60の生産をやめて撤退しました。残ったPMA-30はフルデジタルですがUSB接続ができないという、「?」なコンセプトの商品です。

フルデジタルアンプの機種は減っており、Bluetooth搭載アンプでは新商品も出ていますが、このまま終わってしまうのかもしれません。



(Topping VX2について)
VX2はいちおうVX1の後継機ということになります。VX1はTripath TA2024Bと、DACの PCM2704を搭載した、USB-DAC内蔵アンプで、ヘッドフォンアンプも搭載していました。でもフルデジタルアンプではありません。VX2ではヘッドフォンアンプは廃止されています。

VX2はデジタル入力のフルデジタルアンプICは、STMicroelectronicsのSTA326を搭載しています。

デジタル入力はPCMのみで24ビット/192kHzまで可能で、デジタルアンプは一般的なPWM増幅です。出力は40W + 40W。

フルデジタルアンプはマルチビットのPCMを1ビット信号に変換します。デジタルからデジタルへの信号変換なので精度は高いですが、この際に大量の再量子化ノイズが出ます。

ふつうのアナログ入力のデジタルアンプICは、フィードバック回路により、歪みやノイズを減らして音質を改善できますが、STA326にはフィードバック回路が搭載されていません。これが最大の弱点となります。


実はそれが数字にも現れています。STA326は30Wの出力でも高調波歪率が10%と、かなり歪みが多いです。

ちなみにアナログ入力のデジタルアンプIC、TDA7498Eの高調波歪率は125Wの出力で1%。TI TPA3250の高調波歪率+Nは60Wの出力で1%ですから、いかにSTA326の歪みが大きいかわかります。

アナログアンプと比べてしまうと、エントリーモデルのDENON PMA-600NEでも、45Wの出力で高調波歪率は0.07%なので、ケタ違いに悪いということになります。



VX2の入力端子は、USBが24ビット/ 96kHzまで対応。SP/DIF(同軸・光)は24bit /192kHzまで対応しています。DSDの入力はできません。
またアナログ入力端子を備えていません。


ボリュームは電子ボリュームを搭載しています。フロントパネルに液晶画面があり、ボリュームの数字が表示されます。ボリュームはクリック付になっています。

ボリュームは「メガバス」スイッチを兼ねており、ボリュームノブを押して、スイッチをON/OFFします。
「メガバス」は低音を増強する機能ですが、増強量はそれほど大きくありません。「メガバス」がONになっている時は、ディスプレィのボリュームの数字の隣に、ドットマーク(ピリオド)が表示されます。


外部電源は24Vのセンタープラスとなっており、 付属品の電源アダプターは24V・3Aです。他にUSB ケーブルが付属します。


ドライバーはWindows10のものが利用できます。表示は「SP/DIFインターフェイス(VX2)」ですが、USBも使えます。



(音質について)
音は良くないです。サウンドは少しやわらかめの音ですが、解像度の悪さとレンジの狭さは一聴してわかります。

透明感が無く少しノイジーです。このせいか音源によっては、ピアノなどの音色が変わったりしています。フルデジタルアンプ特有のノイズが取れていないのかなと思ったりします。

中音がメインで高音や低音が出る訳ではないです。定位はそこそこ良いですが、音場は小ぢんまりとしていて平面的です。ライブ演奏を聴いても臨場感が悪いです。

ハイレゾを再生しても、滑らかさや情報量の多さを感じられません。
デジタルからデジタルへの変換なので、もう少し音のレスポンスの良さを期待したのですが、デジタルアンプICの能力の低さのせいか、もっさりとした音になっています。


単純に比べるとFX-AUDIO- FX202A/FX-36A PRO(3,750円)よりも音が悪いです。同じ曲をvx2で24bit/96kHzのハイレゾを再生しても、FX202A/FX-36A PROの16bit/44.1kHzに負けます。

これではToppingが後継機のVX3で、フルデジタルアンプをやめて、TPA3116D2を搭載したのも納得です。



USB-DACがいらないという手軽さはありますが、手軽さでいったら配線もいらないBluetooth搭載のデジタルアンプの方が上です。


BGMやハイレゾじゃないストリーミングの再生には使えますが、良い音のデジタルアンプが欲しい人には向きません。

USB-DACの接続も出来ないので、音の良いUSB-DACを買って音質を改善なんてことはできません。
普通の人は音が気に入らなかったら処分する他ありません。私のようなコレクターは別ですが。



(フロントパネルとリアパネル)
フロントパネルは厚さ6mmのアルミ材を使用。ヘアライン仕上げになっています。

ボリュームはクリック付きで、ツマミは丸型ではなくピュアタッチノブという形状です。セレクタスイッチなどには使われることがありますが、ボリュームで使うのは珍しいです。VX2は音量を上げるのに、けっこうツマミを回すので使いづらいです。

ディスプイがありますが表示されるのは音量とメガバスのインジケーターだけです。


リアパネルの入力端子はUSB、SP/DIFが光と同軸端子の3つ。スピーカー端子はケーブルを通す穴が小さいので、細いケーブルしか使えません。実質的にはバナナプラグ専用と考えたほうがよいと思います。

DCインは24Vのセンタープラスです。

フロントパネル リアパネル





(内部について)
一見するとパーツの数もそこそこあるし、大きな電解コンデンサもあるので、ちゃんとしていそうですが、電源回路はかなり手を抜いています。

この電源の問題とSTA326の特性の悪さが、音が悪い原因かもしれません。


フルデジタルアンプICはSTMicroelectronicsのSTA326です。フルデジタルアンプでは、このICがDACの代わりになります。

フルデジタルアンプとはいえ、クロックジッターの問題は発生します。STA326の中にはサンプリングコンバーターが内蔵されているハズで、それがジッターを低減する働きもします。


ローパスフィルターにはBournsの巻線インダクタとTDK-EPCOS製のフィルムコンデンサ。出力カップリングコンデンサもTDK-EPCOS製です。ちなみにデジタル入力なので入力カップリングコンデンサはありません。

出力用のパワーリレーはHONGFA HFD41です。


USBトランシーバーはVIA VT1620Aで、製造ロットによってはSAVITECH SA9023が使われています。横にはMicrochip Technologyのフラッシュメモリ SST25VF512Aと、クロック用の水晶発振器があります。
SP/DIFインターフェイスはCirrus Logic CS8416です。


ディスプレィの制御などを行うマイクロコントローラは、STMicroelectronics STM8S00。LEDの表示にはシフトレジスタの74HC595Dが使われています。


電源部はDC-DCコンバータ(TI TPS54231)が1つありますが、レギュレータもトランジスタもありません。

ということは5Vや3.3Vの電圧を作って、同じ電圧のグループに給電はするものの、電圧を一定に保つ回路がないという感じでしょうか。

そうなると、STA326は安定した電圧を受けられず音質が悪化します。また電源回路が独立化されていないので、マイクロコントローラやインターフェイスICのノイズが、STA326に入り込み、これも音質を悪化させる原因になります。


平滑用の電解コンデンサは、ニチコン製のオーディオ用コンデンサ FW 35V・4700μF。バルクコンデンサもニチコンのFM 35V・220μFが4本。ショットキー・バリア・レクティファイヤ(整流器)がMIC SS34。

その他にはボリュームの調整に使うはロータリーエンコーダーがALPS製。KOA製の抵抗,も使われています。



(STMicroelectronics STA326について)
STMicroelectronicsのSTA326は2.1chのフルデジタルアンプICで、左右のスピーカーとサブウーファーを駆動できます。出力は40W + 40Wと80W 1chとなっています。(VXは2chで利用)

デジタル入力はPCMで24ビット/192kHzまで可能。内部にはPWM増幅のデジタルアンプの他に、28ビット・バイクアッド(イコライザー回路)や電子ボリュームを内蔵しており、トーン回路として使うこともできます。


STA326の弱点はマルチビットのPCMを1ビットに変換する際に、大量の再量子化ノイズが発生し、音質を悪化させることです。

これは他のフルデジタルICも同じで、ノイズを除去する回路を搭載しています。STA326ではAMノイズリダクション回路が搭載されています。詳細は不明ですが、よく使われるノイズシェイピングではないようです。

ノイズ除去回路はフィードバック回路がなく、歪み減らせないフルデジタルアンプICにとっては、音の「キモ」となるため、メーカーの技術力がポイントとなります。

スペックはS/N比は99dB。THD+Nが0.07%(1W RMS)となっていますが、フルブリッジで30W出力の高調波歪率は10%。この数字だとAMノイズリダクション回路の効果はあまりないようです。

※STA326のデータシートは2種類あり、片方からはTHD(高調波歪率) 10%の記述が削除されています。


メイン基板

STMicroelectronics
TA326
ローパスフィルター

ECPOS製のメタライズド
フィルムコンデンサ
USBトランシーバー
VIA VT1620A

Cirrus Logic
CS8416
STMicroelectronics
STM8S00

左:
ショットキー・バリア・レクティファイヤ
(整流器)
MIC SS34。


DC-DCコンバータ
TI TPS54231

電解コンデンサ
ニチコン FW
35V・4700μF
付属のACアダプタ
24V/3A


TOPPING VX2のスペック

定格出力 40W+40W(4Ω)
高調波歪率 10%(30W出力)
0.07%(1W RMS THD+N)
S/N比 99dB
スピーカーインピーダンス 4Ω~8Ω
電源(ACアダプタ) DC 24V センタープラス
サイズ 幅122×高さ38×奥行178mm
重量 530g





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