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YAMAHA CDX-1020

      1988年 定価89,800円



YAMAHAのCDX-1020は、1988年11月に発売されたCDプレイヤーで、CDX-1000の後継機です。輸出仕様の型番はCDX-920。

1986年、18bitDACを搭載したYAMAHA CDX-2200の登場によって、16bitを越える「ハイビット競争」がスタートします。18bitを越える20bitDACはDENONのDCD-3500(1988年6月発売)が初めて搭載。当時はまだ本物の20bitDACが無かったため、18bitDACのPCM64Pを使ったリアル20bitとしていました。

「ハイビット」を売り物にしていたYAMAHAとしては、ハイビット競争に負けることはできず、今度は20bitを越える22bitを目指すこととなります。


それを具現化したのが、22bitDACを搭載したCDX-1020です。デジタルフィルターも、8倍オーバーサンプリングのものを採用していました。

22bitDACといっても、本物の22bitDACはまだ有りませんでした。そこでYAMAHAが考えた方法は、新しく開発された18bitDACのバーブラウンPCM58Pを使い、不足する4bit分を、ディスクリート方式のDACで変換するというものでした。

この方法で確かに22bitのDACになりましたが、S/N比は2dB向上したものの、逆にチャンネルセパレーションは、4dB下がってしまうなど、スペック的には18bitDACのCDX-1000と、あまり変わりませんでした。

ハイビット・ダイレクトスイッチを搭載しており、DACからの信号をローパスフィルターを通さずに出力することができます。デジタル回路とオーディオ回路の間にはカレントアイソレーションを設置し、デジタルノイズのオーディオ回路への侵入を抑えています。

メカはアンチバイブレーション・フローティングサスペンションを採用しており、外部からの振動を吸収して、精度の高い読み取りを実現しています。

機能はプログラム再生がマニュアル/デリート/テープマニュアル/テープランダムの4モード。リピート再生も4モード、オートスペース、プログラム機能を利用したタイマープレイなど。


22bitDACということで、期待されたCDX-1020ですがセールス面ではパッとせず、YAMAHAのハイビットへのチャレンジはこれにて終了します。
翌1989年発売の後継機CDX-1030には、松下(現パナソニック)製の1bitDAC「MASH」を搭載。そして自社製の1bitDAC「I-PDM」の開発へと方向を転換して行きます。



(音質について)
DACは22bitの分解能を持っているハズなのですが、音の解像度やなめらかさは、さほどCDX-1000から向上している感じはありません。

サウンド的にはCDX-1000の特徴的な高音は影をひそめ、ピアノも普通の音になってしまいました。

CDX-1000と同様に低音はそれほど出ないのですが、高音の伸びや艶が弱くなった分、レンジが狭くなったように聴こえます。

中音域を重視しフラット的な味付にして、バランスをとったという感じの音ですが、YAMAHAの高音が好きな人は、物足りなさを感じるかもしれません。


この後のCDX-1030CDX-1050と聴いていくと、CDX-1020が従来のYAMAHAサウンドから、方向転換し始めたということがわかります。

ただ、まだ方向転換の途中なのでCDX-1050ほどの音の完成度はありません。

ジャンルはクラシック、ジャズ、ロックと、いちおうオールラウンドに使えると思います。



(フロントパネル)
フロントパネルは基本的にはCDX-1000と共通です。

ディスプレィの表示は「白」から「黄色がかったオレンジ」に変更されました。このオレンジ色はこれ以後、2006年のCDX-497まで受け継がれていきます。ミュージックカレンダーには24曲の表示ができます。

カラーはチタンとブラックの2色です。

操作ボタンはディスプレィの右側にプレイ、ストップ、ポーズなどの操作ボタン。ディスプレィの下にはダイレクト選曲、スキップ、サーチやプログラム関係のボタン、トレイの下にはハイビット・ダイレクトスイッチなどがあります。







(シャーシと内部について)
シャーシはCDX-1000から大きく変わりました。鋼板と樹脂による複合シャーシをやめて、鋼板がベースのシャーシとなりました。真ん中にはシールド用のセパレーターがあり、メカや電源トランスから基板への干渉を防ぐとともに、シャーシの剛性を高めています。

底板は2.5mm厚の鋼板1枚ですが、メカとトランスの部分だけ1mm厚の鋼板を追加して2重底となっています。

天板は厚さ2.7mm(カタログでは2.6mm)の鋼板1枚です。防振材は取り付けられていませんが、叩いてもあまり鳴りません。
この天板は12個のビスでしっかりと留められています。サイドパネルは1mmの鋼板と2.7mm厚のアルミ板の組み合わせです。

インシュレーターはYAMAHAオリジナルの「GPレッグ」で、逆円錐型の「ピンポイントレッグ」と、普通の形状の「防振レッグ」を選択することができ、設置環境に合わせて使用できます。

重量はカタログの表記が9.0kg(CDX-1000と同じ)となっていますが、取扱説明書では11.8kgです。CDX-1000よりもCDX-1020のずっとほうが重いので11.8kgが正解だと思います。


内部のレイアウト左側にメカと電源トランス。基板の左奥に電源回路です。
ここからが独特で、ピックアップから出た信号は、右横のサーボ回路を経て、一番奥のトランスの横にある信号処理回路に入ります。

そこから配線はフロントパネルの方へと向かい、デジタルフィルター、DAC、サンプルホールドと通ります。ここで折り返して、またリアパネルの方向に向かい、ハイビット・ダイレクトスイッチとヘッドホンアンプとの切り替え回路、ローパスフィルター、ミューティング回路を経て、RCA端子から出力されます。

他ではなかなか見られない回路構成になっています。

この結果、ノイズを出す信号処理用のICが、DACやオーディオ回路の隣りにあるという、非常にまずい配置になりました。

またオーディオ用電源とオーディオ回路の間にも、デジタル回路があるのため、給電用のケーブルが空中をまたぐなど、あまりキレイな配線とは言えません。


天板 GPレッグ



(電源回路)
電源トランスはシャーシが非磁性ではなくなったこともあり、肉厚のダイキャスト製のシールドケースが付いています。

電源回路は独立電源で、オーディオ特性に優れたシャントレギュレータを使用した電源になっています。

フィルターコンデンサはELNA DUOREX 50V・4700μFが2本で、これはCDX-1000と同じです。レギュレータはシールド板に固定されており、シールド板がヒートシンクの役割も兼ねています。

電源コードは極性表示付きで材質はOFCですが、キャブタイヤではなく普通の平型コードです。

電源トランス 電源回路

ELNA DUOREX レギュレータ



(デジタル回路 サーボ・信号処理)
サーボ・信号処理回路で使われているICは、サーボ制御とEFM誤り訂正などの信号処理が、1チップに入っているYAMAHA製の「YM3616」です。

信号処理に使うスタティックRAMはSANYO製の「LC35178」。デジタル出力用のトランシーバーは、YAMAHA製の「YM3613B」です。


サーボ回路の調整用ボリュームはトラッキング・ゲイン、トラッキング・オフセット、キック・ゲイン、フォーカス・ゲイン、フォーカス・オフセット。

YAMAHAのサーボ回路は、けっこうシビアな調整が必要な物が多いです。
CDX-1020の固有のトラブルとして、キック・ゲインをMAX近くまで持っていくと、過電流が流れるようで、電源回路の抵抗が焼けることがあります。(2台で経験)

サーボ回路 YAMAHA YM3616

YAMAHA YM3613B SRAM
SANYO LC35178



(DAC・オーデイオ回路)
1988年当時はオーディオ用の20bit駆動のDACはまだ有りません。

そこでCDX-1020ではバーブラウンの18bitDAC「PCM58P」といっしょに、ディスクリートのD/Aコンバータ(実際はオペアンプを使用)を搭載して、この2つのDACの信号を合成して22bitDACとしています。DACは左右独立になっています。

デジタルフィルターは8倍オーバーサンプリングの「YM3414」で、ここでCDの16bit信号を補間して22bitにしています。
この信号をFDPの「YM6055C」で、PCM58P用の信号とディスクリートDAC用の信号に分割しています。


実は22bitDACと言いながら、PCM58PとディスクリートDACでの、D/A変換の組み合わせ方はわかりません。

フロントパネルには「18+4bit」と書かれおり、これを信じるならば18bitDACの「PCM58P」は、そのまま18bitでD/A変換を行い、ディスクリートのDACで残り4bitを変換しているということになります。

ところがCDX-1020を紹介している当時の雑誌には、20bit+2bitと紹介されており、取扱説明書には「18bitフローティング」と書いてあります。つまり言っていることがバラバラなのです。


実際の回路を見るとCDX-1020には、フローティング処理用のIC・FDP(フローティングデータプロセッサ?)が搭載されており、この場合はフローティングした20bitの信号をPCM58PでD/A変換し、ディスクリートDACでは残り2bitだけを変換するということになります。

※フローティング処理とは、もともと16bitDACを18bit駆動させるために考え出された方法です。
18bitDACを20bit駆動させる場合は、信号レベルの大小によって20bitデータの上位か下位からの18bitを選択し、それをDACに送り込んで、あたかも20bitDACのような動作をさせます。


CDX-1020で使われている「PCM58P」は、バーブラウンが新しく開発した抵抗型の18bitDACです。CDX-1000に搭載された「PCM56P」と同様にグリッチレス仕様となっています。
スペックはダイナミックレンジが108dB、全高調波歪+ノイズの比は-92dBです。

デイスクリートのDACは、オペアンプを使用した簡易なもので、変換の精度はPCM58Pより落ちます。


デジタルフィルターの「YM3414」は、18bit・8倍オーバーサンプリングのFIR型フィルターで、1段目で225次、2段目で41次、3段目で21次と、合計287次の演算能力を持っています。

帯域内リップル特性±0.0001dB以内、帯域外ノイズ-100dB以下という能力を持っています。


DACの後ろにはDACのMSBの調整回路、サンプルホールド回路、ローパスフィルター(3次のニューアクティブフィルター)、デイエンファシス、ミューティング回路などがあります。

デジタル回路とオーディオ回路の間は、オーディオ信号を電流信号に変換して伝送する「カレント・アイソレーション」があり、デジタルノイズがオーディオ回路に混入しないようにしています。

オーディオ回路 下:デジタルフィルター YM3414
上:FDP YM6055C

DAC
バーブラウン PCM58P
ディスクリートDAC



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカは、CDX-1000のメカを改良したものです。

一番大きな変更はスピンドルモーターで、制振型のブラシレスモーターが採用されています。その他にはスピンドルモーターの上にあるクランプ(ターンテーブル)と、チャッキングアームが金属製になりました。

ピックアップは3ビームのオリンパス製「TAOHS-JP3」です。振動対策としてアルミダイキヤスト製ベースを採用。ヘッドアンプを内蔵しているため、信号読取り時のS/Nを向上しています。

スライド(トラバース)機構は、ラック&ピニオン式ですが、モーターとギヤの間はゴムベルトを使用することで、ピックアップに振動が伝わるのを防いでいます。

ピックアップやスピンドルモーターが取り付けられているメカシャーシは、1.6mm厚の鋼板製です。

このメカシャーシを、アンチバイブレーション・フローティングサスペンションと、呼ばれる特殊ゴムを使った3点支持のフローティング機構で、外部からの振動を減衰し、ディスクの読み取り精度を高めています。



(メカのメンテナンス・修理)
CDX-1020は1988年の発売ですが、メカの基本的な部分はCD-3やCD-2000といった以前のモデルとさほど変わりません。メンテナンス性が良いので他のメーカーに比べれば、クリーニングやゴムベルトの交換は簡単です。

トレイの開閉用ベルトの交換は、トレイの隣にある丸い大きなパーツ(ネジを外せば簡単に取れます)の下にプーリーがあり、簡単に交換できます。スライド機構用のベルトは、チャッキングアームの稼働部のにあるネジを外し、アームを取り外せばトレイとの隙間から交換ができます。

ピックアップ「TAOHS-JP3」の出力ボリュームは、裏側に取り付けられています。メカを取りはずさなくても、底板を外せば調整が可能です。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ
TAOHS-JP3

メカの裏側
中央がスピンドルモーター
トレイ



(出力端子・リモコン)
出力端子のアナログは可変が1系統。デジタルは光と同軸の2系統となっています。デジタル同軸の端子は金メッキになっていません。デジタル端子の間にはデジタル出力のON/OFFスイッチがあります。

専用リモコンはRS-CD10。

出力端子

上:CDX-1020(1988年) 下:CDX-1000(1987年)


YAMAHA CDX-1020のスペック

周波数特性 2Hz~20kHz±0.3dB
ディエンファシス偏差 ±0.3dB
高調波歪率 0.003%以下
ダイナミックレンジ 100dB以上
S/N比 120dB
チャンネル
セパレーション
96dB以上
消費電力 20W
サイズ 幅435×高さ107×奥行347mm
重量 11.8kg (実側重量 11.7kg)





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