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ONKYO A-5VL |
2009年 定価80,000円 |
ONKYOのA-5VLは、2009年6月に発売されたデジタルアンプ(スイッチングアンプ)です。 今ではオーディオ用のデジタルアンプは珍しくありませんが、歴史は意外と古くAB級アンプがはやる前の1977年に、SONYがTA-N88(パワーアンプ・180,000円)を発売しています。当時はオーディオブームの最中でしたが短命で終わってしまいます。 1990年代に入ると低コスト・省電力ということで、テレビなどの家電製品への搭載が始まります。またIC化(デジタルアンプIC)されたことで、省スペースも実現されました。 このデジタルアンプICに目を付けたのがSHARPで、SM-SX100を1,000,000円(受注生産)で発売します。カタログの宣伝文句ではハイエンド用などと謳っていましたが、デジタルアンプの回路は、数年後に登場する中国製の5,000円ぐらいのデジタルアンプと同レベルで、この内容で「100万円」という値付けをした度胸に関心します。 2000年代に入るとミニコンポ、シスコン、AVアンプと続々とデジタルアンプ搭載モデルが発売されます。SONYは2003年に独自のデジタルアンプ技術、「S-Master PRO」を搭載したTA-DRを、1,000,000円(受注生産)を発売します。 そんな中、ONKYOは2003年にAV用の7chパワーアンプ、Integra DTA-7(350,000円)を発売します。これに搭載されたのがONKYO独自のデジタルアンプ技術「VL digital」です。 通常、デジタルアンプでは、アナログ信号をデジタル信号に変えるA/D変換を行い、信号をPWM(パルス幅変調)にします。次にMOS-FETなどを使用して信号を増幅(スイッチング)。ローパスフィルターでアナログ信号に変えて、スピーカーに出力します。 音質的に重要なのはA/D変換の部分で、変換精度が悪いと音質が悪化するだけでなく、細部の情報が欠落したりします。また電圧の変動やノイズなどの影響によっても、変換精度が悪化して音質が劣化します。 「VL digital」はこのA/D変換の部分の回路で、積分型変調回路を使用して面積値でパルス幅を決定する方式で、一般的な三角波によるパルス幅変調よりも、精度が高くノイズの影響を受けにくいというメリットがあります。 ちなみに、メーカーによる「VL digital」の説明では、「ベクトル発生器」が使われているように書かれていますが、ベクトル発生器は使用されていませんし、「VL digital」の特許の情報にも、そのような言葉はありません。 電源部は上記のように電圧変動を防止するために、強力な物が搭載されています。電源トランスはデジタルアンプ用にL/R独立の2個を搭載。電源回路もL/Rのチャンネル別に独立した電源です。 また、その他の回路はトランスから独立した電源回路になっており、デジタルアンプへの干渉を防いでいます。 A-5VLはバーブラウンの24bit・DAC PCM1796を搭載しており、24bit/96kHz(ハイレゾ)の再生が可能です。 デジタル端子はS/PDIFですが、DDC (Digital to Digital Converter)を使用して、USBをS/PDIFに変換すれば、パソコンと接続して再生が可能です。 その他にはレコードプレーヤー用に、MM/MCカートリッジに対応したフォノ・イコライザーを搭載しています。 デジタルアンプの弱点はいうと「低音」です。ONKYOは電源の強化などにより、低音の量感については改善を行っています。 しかし、スピーカーの制動力を表すダンピングファクターは、A-1VLやA-977などは25しかなく、改良型のアンプを搭載したA-5VLでも、60しかありません。 このため、低音の締まりは悪くなる傾向があります。 「VL digital」を搭載したピュアオーディオ用のデジタルアンプは、2004年のA-1VLが最初で、2009年のA-5VLで新規開発は終了となりました。(A-7VLはA-5VLのマイナーチェンジモデル) 2010年代に入るとONKYOはデジタルアンプに見切りをつけ、またアナログアンプを発売していきます。 (使用上の注意点) デジタルアンプは一般的には効率が良いので、発熱が少ないということになっていますが、実際には使われているパーツ(パワーIC、MOS-FET)や電源回路によって発熱が違います。 A-V5Lはアナログアンプ並みの電源回路(レギュレターなどが発熱)や、MOS-FET素子を使用しているため発熱が多く、夏場は放熱口のあたりはかなり熱くなるので、注意が必要です。 A-5VLにはリモコンが付属していますが、アンプ本体を操作できるのは、ボリュームとミューティングだけで、電源スイッチのON/OFFも出来ません。 ほとんどのボタンはDOC、CDプレーヤー、チューナーを操作するためのものです。 A-5VLの消費電力は170Wもあり、1990年代のアナログアンプ A-925とほとんど変わりません。それどころか定格出力はA-925の半分ですので、デジタルアンプにも関わらず効率が悪いということになります。(他のVLデジタル搭載機も効率はよくありません)
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(音質について) | ||||||||||||||||||||||||||||||
デジタルアンプのレビューというと、2000円の中国製アンプも、10万円をこえるアンプも「クリアで味付の無い音」という、判を押したように同じような言葉が出てきます。 実際にはアナログアンプと同じで、回路やパーツが違えば、音も全く違います。 A-5VLの音は平面的でフラット指向。この辺りが「味付の無い音」という話になったのかもしれません。低音は締まりが悪くブーミー気味です。(ダンピングファクターは60) この質の悪い低音が強力な電源のおかげで、そこそこパワーがあるため、中音域までマスキングしてしまいます。 アナログアンプの中級機、ONKYO A-917(1990年)、A-925(1996年)と比べても、レンジが狭く、解像度や透明感も見劣りします。解像度や透明感については、価格が約1/10のデジタルアンプ、FX-AUDIO FX1002Jよりも悪いくらいです。 またデジタルアンプということで、効率が良いハズなのですが、VLデジタルの効率は良くありません。それが影響しているのか、小音量時の特性の悪さも少し気になります。 中味を見ると、ちゃんとしたアンプのようにも見えますが、パーツや配線、シャーシなど、ビギナーモデル並みやそれ以下のところが、そこそこあります。その部分が音にも出ている感じです。 宣伝文句では「強力なスピーカードライブ能力を実現」と書いてありましたが、上記のようにダンピングファクターは「60」しかなく、「真っ赤なウソ」とも言えます。 出力は80W+80W(4Ω)、40W+40W(8Ω)ですが、数字ほどの駆動力はありません。パワーに関しては、スペック・聴感ともに、中国製の5000円ぐらいの小型デジタルアンプに負けています。 効率が悪く、ダンピングファクターが低く駆動力もないため、低能率のスピーカーを接続すると、力強さや音質で物足りなく感じることもあると思います。 |
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(フロントパネル) | ||||||||||||||||||||||||||||||
A-1VLのデザインをもとに、左右の2つのダイアルの真ん中に、TONEやバランスなどの小さなダイアルを配置したデザインです。 カラーは発売時はシルバーだけでしたが、2009年8月からONKYOの直販サイト「e-onkyo direct」限定で、ブラックが販売されました。 |
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(シャーシ・内部について) | ||||||||||||||||||||||||||||||
シャーシは厚さ1.6mmの鋼板を使用ということになっていますが、天板を外して手で持ってみると、簡単にたわんでしまいます。重いトランスを2個搭載しているのに、全くの強度不足です。 シャーシが弱いと、トランスの振動がアンプの基板に伝わってしまうので、音質の悪化を招いてしまいます。それを反省したのか、後にA-5VLをベースに作られたA-7VLでは、トランスの下に補強板が取り付けられています。 鋼板といっても全部同じではありません。同じ厚みでも強度の高い物もあれば、低い物もあります。1980~1990年代のオーディオでは質の良い鋼板を使っていましたが、現在はコストダウンが優先なので、こういうことになってしまいます。 普通のアンプでは放熱口が上と下にあり、空気の対流によって下から空気を吸い込み、ヒートシンクの熱を奪って上の放熱口から抜けていきます。 A-5VLは強力な電源と普通サイズのMOS-FETを使用しているため、デジタルアンプとしては発熱が大きいです。下の写真のとおりヒートシンク(放熱器)が7つもあります。 しかし放熱口は上にしかありません。このため空気の対流は悪いです。また薄型のキャビネットのため、内部に熱がこもります。 トランジスタなどは内部の温度によって特性が変化しますし、温度が高いと電解コンデンサなどは寿命が短くなります。これでは設計ミスと言われてもしょうがありません。 インシュレーターは小ぶりで、接地面はコルクになっています。 内部のレイアウトは、手前に左右独立の電源トランス。その後ろの左側に電源回路、デジタルアンプ基板、ローパスフィルターとなります。 右側にはDAC回路、電源回路、フォノイコライザーがあります。 パーツ類は良い物と悪いものが混在していますが、信号を流す配線はダメです。コストを抑えるためでしょうが、音楽信号用の導線は安物です。 フロントパネルへはシートケーブルを利用していますが、トランスのすぐ横にあるというのはマズいです。 メーカーの説明では「信号ラインがフロント側を経由しない」と説明していますが、シートケーブルをトランスから遠ざけると音が良くなるので、シートケーブルからノイズが侵入して、音質の悪化を招いているのは確実です。 またプリ部やDACからデジタルアンプに入る信号のケーブルが、ローパスフィルターのコイルの横を通っていますが、普通の回路と違い大きな電流が流れるコイルなので、干渉が起きてしまいます。この辺にも設計の手抜きが見てとれます。 |
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(電源部) | ||||||||||||||||||||||||||||||
デジタルアンプとしては、そこそこ強力です。 デジタルアンプは効率が良いということで、手を抜いた電源回路も多いですが、アナログアンプに比べて電圧の変動やリップルに弱いため、オーディオ用にはキチンとした電源が必要となります。 電源トランスはデジタルアンプ用の大型トランスが、L/R独立で2つあります。そして整流回路、平滑用電解コンデンサーもデジタルアンプ専用です。 電源の低インピーダンス化をはかるために、銅製のバスプレート(ブスバー)を使用しています。それでもダンピングファクターは60ですので、電源回路全体としては低インピーダンスに、なっていないかもしれません。 プリ部やDAC、フォノイコライザー、そしてマイコンなどは小さなトランスから給電されています。DACの基板は独立電源ですが、その他は共用となっているかもしれません。 |
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(デジタルアンプ) | ||||||||||||||||||||||||||||||
けっこうな値段がするデジタルアンプでも、安価なオールインワンタイプや、PWM変調とドライバー部に分かれたデジタルアンプICを使用しています。 ONKYOの「VL digital」は、ディスクリート構成のデジタルアンプという広告がされていました。確かに基板を見るとディスクリートぽく見えますが、発振回路とゲートドライバにはICが使用されています。 アナログ信号をデジタル信号に変えるA/D変換を行い、信号をPWM(パルス幅変調)にする部分は「VL digital」と呼ばれるONKYO独自の回路です。 デジタルアンプのA/D変換の部分には、回路が簡単なため三角波を使用した変換器が良く使われますが、仕組み的には高い精度の変換は望めません。また電圧変動やノイズなどによっても、変換精度に影響を受けてしまいます。 またVLデジタルでは、電源電圧に含まれる変動成分が検出して、その変動成分を反転して、入力信号に戻すというNFB(ネガティブフィードバック)により、変動成分やノイズを打ち消しています。 カタログの宣伝文句では、VLデジタルもVLSCも、ベクター(ベクトル)という名称を使い、ベクトル発生器を使用していると書いてありますが、特許公報にはそんな言葉は出てきません。また面積値でパルス幅を決定するという言葉も出てきません。 どうやら、従来からあったマルチバイブレータを使用した積分型変調回路の、改良版とも言える回路で、発振部にはトリガインバータ「TC7W14FU」が使用され矩形波を生成しています。どうやらこの部分を、ベクトル発生器という名前にして宣伝に使ったようです。 また、特許公報の一説には「部品コストの低減化を図ることができるとともに、回路構成の容易化を図る」という記述もあり、コストが安いというのもポイントだったのかもしれません。(それでも一体型のデジタルアンプICのほうが安いです) VLデジタルを出た信号は、MOS-FETを使用して信号を増幅(スイッチング)。そしてローパスフィルターでアナログ信号に変えて、スピーカーに出力します。 ただ、PWM(パルス幅変調)の信号では、MOS-FETを駆動できないので、ドライブ回路が必要になります。 このドライブ回路は、ハイサイドのMOS-FETを駆動させるためのレベルシフタ(昇圧器)、ハイサイドとローサイドのMOS-FETが同時に「ON」になると、過大な電流が流れるため、これを防止するデッドタイム生成器。UVディテクタ(アンダーボルテージ・不足電圧の検出器)などからなります。 これらの回路がひとまとめになったゲートドライバ用のICは、HVIC(High Voltage MOS Gate Driver IC)とも呼ばれます。 A-5VLではIR(インターナショナル・レクティファイアー・・・現在はインフィニオン・テクノロジーズが買収)製の「IRS20954S」が使われています。 信号の増幅に使うパワーMOSFETは小型の物ではなく、アナログアンプなどで使われるのと同じサイズの素子を、2個使用してハーフブリッジでスピーカーを駆動しています。 スイッチング用のMOS-FETは、ドイツのインフィニオン・テクノロジーズ製の「IRFB4020PBF」です。 デジタルアンプは別名「スイッチングアンプ」と呼ばれるように、高速のスイッチングを行うため、大量のノイズが発生します。このノイズによって歪も発生します。 また上記のデッドタイムは、もともとの信号には存在しないものなので、歪の原因となり、長くすると歪も大きくなります。 このため、現在のデジタルアンプでは音質改善の方法として、NFBによって歪やノイズの減少させる手法は不可欠になりつつあります。 この回路の弱点は、何と言ってもダンピングファクターの低さです。 1世代前のA-1VLやA-977などは、ダンピングファクターが「25」しかありません。A-5VLでは「60」に上昇しましたが、それでもアナログアンプに比べるとかなり低いです。 SONYのS-Master搭載のデジタルアンプが、「ノンフィードバック構成」とPRしていたため、もしかするとONKYOもNFBを弱くしたのかもしれませんが、歪率が出力1Wで0.08%もあるのでは不安です。 VLデジタル関連の特許 特許2004120212 特許2005278039 |
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(プリ部) | ||||||||||||||||||||||||||||||
音量の操作は電子式のオプティマムゲイン・ボリュームです。 実物はロータリエンコーダ(見た目は安物のボリューム)の後ろに、モーターが付いており、マイコンを経由して電子ボリュームを動かしています。 バランスやトーンコントロールも、電子ボリュームを使用していますが、リモコンにはボタンが無く操作できません。 電子ボリュームのメリットは、ギャングエラーやカーボンなどの汚れによる接触エラーが起きないことですが、価格は1個50円程度のものから2500円ぐらいするものもあります。当然ながら音質が良い物もあれば悪い物もあります。 A-5VLで使われているのは、ルネサス製のIC「R2S15211FP」です。 このICには8chの電子ボリュームと11chの入力セレクタ、そしてトーン回路が内蔵されています。これだけ多機能ですがメーカーの調達価格は400円程度だそうで、価格からするとピュアオーディオ用ではなく、ゼネラルオーディオ用のパーツです。 |
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(DAC) | ||||||||||||||||||||||||||||||
内蔵されているDACはバーブラウンの24bit/192kHzのPCM1796で、L/R独立で2個搭載しています。 DACの後ろのローパスフィルターは、ONKYO独自の「VLSC」となっています。 DAC用のインターフェイスは、S/PDIFで光端子と同軸のデジタルがあり、24bit/96kHz(ハイレゾ)までのPCM信号に対応しています。 オーディオレシーバーは、旭化成エレクトロニクスの「AK4112BVF」です。 オペアンプはTI製のNE5534などを使用。電解コンデンサは東信工業のオーディオ用です。 |
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(フォノイコライザー) | ||||||||||||||||||||||||||||||
MM/MCカートリッジに対応した、ディスクリート構成のフォノイコライザー回路です。 中級機の中にはディスクリートと言いながら、オペアンプを使用した簡易なフォノイコライザーを搭載している物もありますが、A-V5Lの物は負帰還量が変化しない定NF型で、価格の割にそこそこしっかりした回路になっています。 |
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(入出力端子・リモコン) | ||||||||||||||||||||||||||||||
入力端子はCD、PHONO、TUNER、TAPEにDOCです。デジタル入力は同軸と光端子があります。デジタル端子以外は真鍮の削り出しです。 スピーカー端子は2系統あります。 また他のONKYO製品との連動用に、RI(Remote Interactive)端子を装備しています。 |
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リモコンで出来るのは、ボリュームのアップ・ダウンとミューティングのみです。他のボタンはCDプレーヤーやチューナー用です。 型番はRC-751S。 |
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定格出力 | 80W+80W (4Ω) 40W+40W (8Ω) |
最大出力 | 90W+90W (4Ω) |
高調波歪率 | 0.08%(1kHz、1W出力) |
周波数特性 | 5Hz~60kHz(+1 -3dB) CD他 |
S/N比 | 100dB (CD、TUNER、AUX) 65dB (PHONO) |
ダンピング ファクター |
60(8Ω) |
消費電力 | 170W |
サイズ | 幅435×高さ80×奥行340mm |
重量 | 10.2kg |
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