TOP使っているオーディオアンプ > TA-F333ESX


SONY TA-F333ESX

    1986年 定価79,800円



SONYのTA-F333ESXは、1986年2月に発売されたプリメインアンプです。

TA-F333ESXは上級機を凌駕する内容を持つSONYの戦略機で、クラスを越えた物量の投入により「内容、スペック、音質」が話題となり、大ヒットとなったアンプです。

TA-F333ESXは大容量のトランスやコンデンサに加えて、「Gシャーシ」を採用したことで、たくさん売らなければ赤字とも言われていましたが、SONYのもくろみは大当たりとなります。

これに対抗して各メーカーも物量アンプを投入。「798戦争」と呼ばれる物量競争となりました。しかしその人気は衰えず、TA-F333ESXキラーとして投入された、YAMAHA AX-900やONKYO A-817XXなどを蹴散らします。
1986年の798アンプの比較

このヒットによりSONYのアンプのイメージは大幅に向上。「333シリーズ」と「555シリーズ」のアンプは、1990年代にかけてSONYのオーディオ商品の主力となっていきます。


TA-F333ESXの登場は、オーディオファンにとっては驚きであり、衝撃的なものでした。しかし、時代の流れから見れば「必然的」なものでもありました。

当時はブックシェルフスピーカーといいながら、大型化・重量化が進んでいた時期(1985年 ONKYOのD-77Xの登場により、スピーカーの598戦争がスタート)です。中級機のアンプでも30cmクラスの大口径ウーファーと、12cmクラスのスコーカーを駆動できるパワーが必要となっていました。

またCDプレーヤーの進歩もめざましく、マランツCD-34の登場により1986年は物量と価格の競争が必至の状態となっていました。つまり音の入口のCDプレーヤーと、出口のスピーカーが物量戦争となる中、アンプへの物量投入は避けられない状況にあったといえます。


(TA-F333ESXの登場前夜)
当時のSONYはCDプレーヤーや、カセットデッキは人気がありましたが、アンプに関してはヒット商品が無く、鳴かず飛ばずという状況でした。

売れ筋の「798」の価格帯のアンプで、イニシアチブを握っていたのはKENWOODです。新商品の開発にも積極的で、1985年には自社の上級機に迫る内容のKA-990Vを発売して、ライバルメーカーを引き離しにかかります。

そしてSANSUIはAU-D607X Decadeで、ダイアモンド差動回路に加えて、バランスアンプという強力な武器を投入していました。

そのライバルたちも、YAMAHAは楽器メーカーという立場と、ヤマハビューティにより強固なファンを抱えおり、クラスA回路と宣伝力が武器のTechnics、GmサーキットのVictor、サーボやターボなどと毎年新しい回路を繰り出すONKYO、西洋の強豪・Philipsをバックに持つマランツ、なりを潜めているものの開発力があるPioneerと、SONYから見るとまさに強敵ぞろいでした。

またSONYの社内でも、伝説的なCDプレーヤーのCDP-555ESDと、その弟分のCDP-333ESDへの開発が進んでいた訳ですから、それらに見合う内容のアンプの開発が要求されていたと思います。


(TA-F333ESXについて)
TA-F333ESXの売り物は、なんといってもG(ジブラルタル)シャーシです。
このGシャーシの素材は大理石と同じ組成をした炭酸カルシウムに、不飽和ポリエステルに加えて、グラスファイバーで強化したものです。
当時はレジン・コンクリートとも解説されましたが、一般的な名称としてはBMC(バルク・モールディング・コンパウンド)と呼ばれる素材です。

BMC自体は他のオーディオメーカーでも使用していますが、SONYではレコードプレーヤーのPS-4350(1974年発売)のキャビネットとターンテーブルに初めて採用しました。
当時の名称はSBMC(SONY Bulk Molding Compound)で、オーディオ用に配合や比重の調整など行い、SONYが独自に開発したもののようです。これがGシャーシのベースとなりました。

Gシャーシは音質に影響を与える振動に強く、内部損失が大きいことに加えて、非磁性・非金属であるため電磁歪や、うず電流の発生がないなどのメリットを持っていました。
以後のソニーのアンプの重要なパーツとして、1993年まで使われ続けました。また同じ1986年発売の、CDP-555ESDにも採用されています。


アンプの音質を左右する重要なセクションである電源部は、大型電源トランスと電圧増幅、出力段に大容量のコンデンサを使用したS.T.D.(Spontaneous Twin Drive)方式とし、安定した動作を実現しています。

パワーアンプの出力段には、ローインピーダンスのスピーカーのドライブや、スイッチング歪やクロスオーバー歪を低減する「スーパーレガートリニア」を採用しています。

フォノ・イコライザー回路には、高域応答特性に優れたローノイズHi-gmFETを採用。そしてパッシブ素子のみで構成したトーン回路など、全体的に「シンプル&ストレート」を追求した、回路構成となっています。


当時のSONYというと、最先端の技術を持つメーカーという印象でしたが、TA-F333ESXではオーディオ・カレント・トランスファやパルス電源といった、自社の技術でも効果のないものは容赦なく切り捨て、音質向上に有益なオーソドックスな技術の積み重ねたアンプといえます。
そして「798」という価格にも関わらず、音質のためにパーツ代をケチらずに、まったくの正攻法で物量を投入した結果、できあがったアンプでした。


現在のアンプは、新商品が出るたびに音質が向上したと言いながら、実際の中身は1990年代から進歩していません。それでも価格は2倍ぐらいになっており、「インフレ」とも言える状況です。

オーディオ不況により、外国のファンドが親会社になっているため、明らかに自分の利益優先の傾向が出ており、当時のようにユーザーが喜ぶ物を作れば、売り上げと利益は、後からついてくるという考えは見当たりません。



(音質について)
TA-F333ESXは最近のアンプと聴き比べると「音が太い」。そしてパワフルで低音がよく出ます。全体的にはどっしりとして安定感のあるサウンド。評論家の訳のわからない「ご託」を聞かなくても、実物を聴けば誰でもわかる「ポリシー」のある音です。

ロックはパワーがあり「ロック」を聴いてると実感。それでいてクラシックもちゃんと聴けてオーケストラは壮大。でもけっして大味では無く細かいところもちゃんと出てきます。ジャズも少し力強いサウンドになってしまいますが、サックスやベースの太さを楽しめます。この音は後から登場する「798戦争」のライバル機たちの音にも大きな影響を与えました。

ユーザー側から見れば、こういう音の傾向がハッキリしたアンプの方が、スピーカーやCDプレーヤーなどとの組み合わせもしやすいと思います。現在では解像度とか透明感、艶、音場、バランスなどいろいろなことが、アンプには求められますが、こういった1本筋の入ったアンプが無いだけに、発売から30年近くたった今でも人気が衰えないのだと思います。

弱点としては少音量時の特性が少し悪く、夜にオーディオを聴く際などは工夫が必要かもしれません。また同じような性格の機器との組み合わせには注意が必要です。例えば低音がよく出るCDプレーヤーのSL-P990やDP-7040などをつなげると、さらに低音が強くなるどころか、全体の音のバランスが悪くなる場合があります。

FMfanのダイナミックテストで長岡鉄男は「音は多くの面で本格派、セコイ音作りは感じられず12万8000円クラスにもひけをとらない」「CPは圧倒的に高くて社会の迷惑になりそう」と評価しています。


※現実的な問題としては発売から30年近くもたっているのでメンテナンスは必須です。これはTA-F333ESXに限ったことではなく、1980年代のアンプを聴く場合には重要なポイントです。

リアパネルの端子のクリーニングはもちろん、内部のクリーニングも必要です。アンプは放熱用のスリットが多いので内部にホコリがたまります。このホコリや汚れが音質を劣化させる要因となります。またガリは出ていなくてもボリュームやセレクタのクリーニングも重要です。

また発熱量が多いので、アンプの上に他の機器を載せて使用するとアンプだけではなく、その機器もダメージを受けるかもしれません。ラックで使用する場合も上の棚板との間隔は広めにとったほうが良いと思います。



(フロントパネル)
TA-F333ESXのデザインは当時のプッシュボタンを多く使ったアンプから見ると、少しクラシカルな雰囲気のものでした。しかし操作はわかりやすく使いやすいです。

カラーはブラックですがヘアライン仕上げとなっており、高級感があります。また当時は高級機の証だった、サイドウッドが標準装備だったのも重要なポイントでした。

パワーインジケーターはスイッチ「ON」で赤く点灯、動作が安定するとグリーンになります。

トーンコントロールはターンオーバー周波数をTrebleとBassで2種類切り換えられる。 カートリッジロード(PHONO切替え)スイッチは、MM、MC40Ω、MC3Ωの3ポジション。



(パワーインジケーター ランプの球切れ)
TA-F333ESXのパワーインジケーターのランプはLEDではなく麦球(電球)が使用されています。このため、長期間使っているとグリーンのランプが切れてしまいます。この場合、プロテクトが解除されても赤いランプがつきっぱなしとなります。

ムギ球の交換は簡単なほうです。まずサイドウッドと天板(ボンネット)を外し、ちょうど電源スイッチの横(左側面・基板の一部が見えているのでわかりやすい)にあるネジを外します。そうすると麦球の付いている基板を本体から取り外すことができます。

麦球は基板にハンダ付けされているのでこれを交換してやります。麦球は12Vのものを使用しましたが明るさはちょうどよい感じです。

緑色と赤色のものはビニールのキャップとなっているので、切れた麦球から取り外し新しい麦球に被せます。ただしビニルも古くなっているので、ゆっくり慎重にやらないと破けてしまいます。
交換が終わったら基板をアンプ本体のガイドにはめてネジを取り付ければ終了です。




(シャーシと内部について)
底部のGシャーシをベースに、天板・サイド・リアには厚めの鋼板を使用しています。Gシャーシには格子状のリブをつけて剛性をアップさせるとともに、リブの厚みや間隔をランダム化することで、共振対策を行っています。

Gシャーシの上部となるサイドとフロント、リアパネルはフレーム構造をとして、強度の向上と振動対策を行っています。またサイドウッドも単なる装飾ではなく、側板の補強と内部損失により振動を吸収する役目を持っています。その他にもブロックコンデンサにも制振対策を行うなど、パーツの取付方法にも配慮がされています。

CDプレーヤーと違ってアンプは内部にあるトランスからの発生する振動への対策がポイント。この振動をうまくコントロールしないと基板が発信し、ノイズによって音質が低下します。

Gシャーシや大型トランス、コンデンサなどの物量投入により重量は18.6kgとなり、同じ時期に発売された「128(12万8000円)」クラスのTechnics SU-V10X(13.0kg)やKENWOOD KA-1100D(18.0kg)、DENON PMA-980(16.0kg)をも上回っていました。

でもFMfanのダイナミックテストによると実測はさらに重くて19.4kg。サイドウッドは1枚685gで、その下のボンネットは1.66kgとなっています。またボリュームはムクで100gとなっています。

実際の中身も凄まじく、ONKYO A-819RS(113,000円)と比べても、たぶんパーツ代はTA-F333ESXのほうが、1.5倍ぐらいかかっていると思います。


内部のレイアウトは左側に電源トランス、中央部は大きなブロックコンデンサとパワー部にヒートシンク。右側がドライバー段とフォノイコライザー基板、プリ部はフロントパネルの後ろという配置です。


天板 底板
通気用のスリットの面積は広く、それだけ内部にホコリもたまりやすい。 インシュレーターはフロント側が、リアに比べて2まわりぐらいサイズが大きい。

Gシャーシと一体成型された
インシュレーター
Gシャーシのリブ



(電源部)
電源トランスは300VAクラス並みの大型サイズ。カタログには350VAと書かれていますが実際は189VAです。長岡鉄男はこれについてトランスは容量よりもサイズ(コアサイズ)のほうが重要であるといっています。電源コードはそれほど太くはないですが極性表示付きのOFCのコードです。

電圧増幅段(A級)と出力段(B級)の電源に独立した整流回路を設置したS.T.D.電源となっています。電解コンデンサは電圧増幅段が63V・4700μF X2本と、出力段が63V・12000μF X2本と十分な容量です。

カタログでは電圧増幅するAクラス段と、電力増幅するBクラス段(出力段)用の電源回路は独立しているため、Aクラス段は大出力時にもパワー段の干渉を受けず安定した動作が可能となっています。

雑誌の長岡鉄男の解説では、Aクラス段のコンデンサは無駄に大容量を搭載している訳ではなく、瞬間的大出力時には、ちゃんとBクラス段のバックアップを行うようになっているそうで、合計33,400μFのコンデンサはキチンと能力を発揮できるようになっています。

ちなみに後継機のTA-F333ESXUではAクラス段13,400μF、パワー段25,000μFに強化。ライバル機のYAMAHA AX900には何と71V・22,000μFが2本と、今考えるとあり得ないようなコンデンサが搭載されていました。

それに対し高容量化して音質を大幅に改善したと言っている、DENONのPMA-2000RE(180,000円)は、71V・12000μFが2本のみ。他にも電源トランスにカバーは付いていないなど、TA-F333ESXと比べて価格は2倍以上ですが、実際の中味はデフレになっています。 電源部はアンプの中でもコストがかかる部分ですが、現在のアンプと比べてもこの頃の「798」アンプのすごさがわかります。

電源トランス 電源トランス

コンデンサの振動を抑えるカバー コンデンサの頭には大きなスポンジ状のものが、貼られており、これを透明カバーで押さえて、コンデンサが振動するのを防いでいます。

平滑コンデンサはニチコン製ネガティブブラック

容量は12000μFx2本と4700μFx2本


(パワー部)
出力段はB級動作のパラレル・プッシュプルです。

TA-F333ESXの登場前は、AB級のアンプが全盛でした。AB級の宣伝文句には、必ずといってよいほど、B級は歪みが多く音が悪い的な文言が使われていました。

でも実際にはアンプの音の良し悪しはA級、B級、AB級などの動作だけで決まる訳ではありません。
A級やAB級のアンプよりも音が良いB級アンプは、たくさんあります。


B級アンプとはいえ、実際には少しバイアスをかけており、スイッチング歪や、クロスオーバー歪を減衰させるレガートリニアを進化させた「スーパーレガートリニア」回路を搭載しています。


ヒートシンクは放熱面積を広げるために傾斜がつけられています。肉厚があるしっかりしたものでフィンは22枚。ダンプがされているため、叩いてもほとんど鳴きません。

今のアンプはMOS-FETによるシングルプッシュプルが多く、ヒートシンクまわりは寂しい限りですが、この頃のアンプはパワートランジスタがたくさん並んでいて壮観な眺め。いかにもアンプという感じです。

バイアス回路とプロテクト回路 ヒートシンク下部の
パワートランジスタ

サンケン 2SC2837 サンケン 2SA1186

初段・ドライバー段 緑色のコンデンサはMUSE
赤はELNAのRE


(プリ部)
プリ部ですごいのはボリュームとフォノイコライザー回路。このクラスのアンプでは安価なボリュームが使われることが多かったのですが、音質に配慮してキチンとしたものが使われています。

フォノイコライザー回路も価格の割にはキチンとしたもので、入力段にFETを使用したハイゲイン・イコライザーです。回路自体は簡素ですがパーツにはコストをかけてあり、オペアンプはJRC 5532、コンデンサはニチコンのMUSEやスチロールコンデンサです。インピーダンスを低減するためにバスバーも使われています。

トーン回路 ALPS製のボリューム

フォノイコライザー基板 パワートランジスタ
NEC C2275


(入出力端子)
リアパネルの入出力端子で金メッキになっているのは、PHONOとCDだけです。TAPEは3系統ありますが、AUXは1系統のみです。

これら端子の上にはグラフィック・イコライザーなどを接続するADAPTOR端子とスイッチがあります。

入出力端子 スピーカー端子


SONY TA-F333ESXのスペック

定格出力 140W+140W (4Ω)
120W+120W (6Ω)
105W+105W (8Ω)
高調波歪率 0.006% (4Ω 10W)
0.004% (6Ω 10W)
0.002% (8Ω 10W)
混変調ひずみ率 0.004% (8Ω)
周波数特性 2Hz〜200kHz (+0 -3dB)
S/N比 105dB (CD、TUNER、AUX、TAPE)
87dB (PHONO MM)
68dB (PHONO MC)
ダンピングファクター 100 (8Ω)
消費電力 245W
サイズ 幅470×高さ161×奥行436mm
重量 18.6kg




TOP
CDプレーヤー
アンプ
スピーカー
カセットデッキ
チューナー
レコードプレーヤー
PCオーディオ
ケーブル
アクセサリー
歴史・年表
いろいろなCD


SONY・ソニー TA-F333ESX B級オーディオ・ファン