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YAMAHA DSP-1 1986年 138,000円


YAMAHAのDSP-1は1986年に発売されたサラウンドプロセッサです。

世界で初めて音場の生成をデジタルで処理したサラウンドプロセッサで、DSP(Digital Sound Field Processor・デジタルサウンド フィールドプロセッサ)と名付けられました。
これ以降、YAMAHAのDSPを搭載したAVアンプには「DSP」の型番が付けられ、1990年代のAVアンプ市場では、他のメーカーが霞んでしまうほどYAMAHAが席捲することになります。


DSPが登場するまでは、「ドルビーサラウンド」がいわばスタンダードでした。ドルビーサラウンドはフロント左右の2チャンネルと、リア1チャンネルの3チャンネルのシステムで、サラウンド成分となるリアchの信号はモノラルです。またアナログ回路で処理できるように開発されたため、音場処理は簡素で、当時のサラウンドの核ともなる残響時間(ディレイタイム)の、処理にも限りがありました。

YAMAHAのDSPはメインのステレオ2チャンネルに加えて、プレゼンス(効果音)用のスピーカーをフロント2チャンネル、リア2チャンネル追加して、6チャンネルのシステムの構築が可能でした。

また、コンピュータ用語のDSP(Digital Signal Processor)である、高い演算能力を持ち高速なLSIと、各種フィルターを組み合わせることで、サラウンド成分の要素となる残響時間や反射音の減衰特性、原音と反射音の始まる時間差(会場の大きさを表す)などの調整が可能です。さらにそれらの高音や低音についてのコントロールも可能でした。

この能力を最大に活かすために、YAMAHAは実在のホールなどで生の音場データを計測して収集し、コンサートホールなどの音楽用プログラム13種類と、映画用プログラム3種類、ディレイやステレオフランジなどの楽器演奏向けエフェクター16種類の計32プログラムを内蔵して、誰でも簡単にサラウンドを楽しめるようにしました。

またユーザー自身がマニュアルで音場を作成することも可能で、それをプログラムとして登録することも可能です。


DSP-1の価格は138,000円で、当時の高級機といわれるプリメインアンプや、CDプレーヤーが買える値段です。ただシステムを組むのには、価格以外にもハードルがありました。

当時のサラウンドプロセッサはリアスピーカー用のアンプを搭載したものが、ほとんどでしたがDSP-1にはアンプが搭載されていません。
現在のアクティブスピーカーのような、アンプ搭載型のスピーカーはほとんどなかったので、6チャンネルシステムの場合は、プレゼンスのスピーカー用に、別途にアンプが2台必要で、4チャンネルシステムの場合はアンプが1台必要でした。

つまり、リアスピーカーの購入費用がかかるのは当然としても、さらにアンプの購入資金が必要となる訳です。そしてアンプの置き場所も必要となります。

またフロントスピーカー用には、アンプのプリアウトとパワーイン(メインイン)端子の間に、DSP-1を接続する形になりますが、この時期のプリメインアンプは、プリアウト端子を持っている機種は減っていました。そのため、セパレートアンプを使用して本来の接続方法をとるか、アンプのテープデッキ用の出力端子に、本機を接続して使用するなどの工夫が必要でした。


DSP-1が発売された翌年(1987年)には、ドルビープロロジックが登場。1990年にはこのドルビープロロジックを利用して、映画用の音場生成ができるシネマDSPが開発されます。1995年には5.1chサラウンドのドルビーデジタルに対応。1999年にはドルビーデジタルサラウンドEX(6.1ch)を搭載するなど、DSP搭載のAVアンプは進歩を続けていきました。



(フロントパネル)
多機能なサラウンドプロセッサですが、フロントパネルには電源スイッチ、ミキシング用の入端子とその調整ボリューム。テープセレクターと出力レベル。それにディスプレィしかありません。
サラウンド関連の操作はすべてリモコンから行うようになっています。


専用リモコン


(シャーシと内部について)
シャーシは鋼板製です。フロント、リア、サイドパネルをコの字型にしてフレームを作り、シールド板を兼ねたビームで補強して、それに天板と底板が取り付けられています。
脚はインシュレーターではなくプラ脚です。

内部はICだらけで、オーデイオ機器というよりもコンピュータに近いです。もっとも「デジタルサウンド フィールドプロセッサ」を日本語に直すと、音場を生成するための演算装置ですので、回路やパーツを見ても従来のオーディオ機器とは違います。

発売当時138,000円もしたので、何でリアスピーカー用のアンプを搭載していないのかという声がありましたが、内部にアンプを搭載するような隙間はありません。

DSP-1では音場の生成をデジタルで処理するため、アナログの入力信号をまずA/D変換してデジタル信号に変えて、DSP回路で音場を作りだし、それをまたD/A変換をしてアナログ信号にしてから出力しています。

内部は左側から電源回路、その隣がオーディオブロックで、A/D変換、D/A変換、ミキシング回路、ミューティング回路などがあります。シールド板の右側は1階部分にマイコンなどのコントロール回路。2階部分はDSPの回路となっています。



(電源回路)
電源トランスの容量は33V・18VA。スペースの問題もあるのかもしれませんが、当時のオーディオ機器としては簡素な回路です。いちおうオーディオブロックとデジタルブロックに分かれた独立電源になっています。

電解コンデンサはELNAのオーディオ用コンデンサ「RE」。その他に家庭用電源からのノイズを減衰するための、ACラインフィルターを装備しています。
電源コードは細い平行ケーブルで極性の表示が付いています。

電源トランスとACラインフィルター 電源回路


(システムコントロール回路)
LSIやICだらけの回路です。

CPUブロックには、機器全体のコントロールを行う日立製の8bit・MPU「HD6303RP」と、NEC製のROM「μPD27C256AC」に、NECのRAM「μP4464C-15L」。DSP回路の制御をする日立製のACIA「HD63A50P」などがあります。
他にはフリップフロップの三菱「M74HC273P」と東芝「TC74HC74P」。トランスペアレントラッチ「M74HC373P」、ヘックスインバータ松下製「MN74HC14」。マルチプレクサ「M74HC138P」と「M74HC139P」などのICが使われています。

タイミングジェネレーターの回路には、フリップフロップの「M74HC273P」、リップルカウンター「M74HC393P」、ヘックスインバータ「M74HC04P」などがあります。

ディスプレィ用のインターフェイス回路には「M74HC273P」「M74HC02P」。松下製のトランシーバー「MN74HC245」、サンヨー製のトランジスタアレイ「LB1216」などのICがあります。

その他にはシステムバックアップ用のボタン電池などもあります。

システムコントロール回路 MPU「HD6303RP」とACIA「HD63A50P」


(DSP回路)
DSP(デジタルサウンド フィールドプロセッサ)の心臓部は、YAMAHAが独自に開発した、デジタルシグナルプロセッサ(これもコンピュータ業界ではDSPと呼ばれます)の「YM3804」です。

当時のパソコンのCPUは、32bitのインテル80386(i386)が発売されたばかりで、主流はまだ16bitの80286やV30でした。
そんな中、YM3804の内部バスは24bitで駆動するように設計されており、汎用的な処理を行うパソコンのCPUに比べると、数値の演算機能に特化されているため、極めて高速な処理が可能です。

つまり入力した原音の信号を元に、残響(反射音)などの成分を演算で導き出し生成するのに、タイムラグがほとんど無しに行える能力を持っていました。

また演算能力の高さは、高い精度の反射音の生成も可能とし、従来のサラウンドプロセッサではディレイユニット1個で、1本の反射音しか処理できなかったものを、「YM3804」は1個で2chの処理が可能で、1chあたり最大22本の反射音の処理することができました。

処理時スピードを上げるために使われるRAMは、NEC製の4bit RAM「μPD41416C」で、当時はRAMがものすごく高かったのですが、DSP-1では18個も使われています。
その他にはFM音源用のIC、YAMAHA「YM3087」などがあります。

DSP回路 DSP用IC YAMAHA YM3804

FM音源用 YAMAHA YM3087 NEC 4bit RAM μPD41416C


(A/D変換・D/A変換回路)
DSPはデジタル回路のため、アナログの入力信号をデジタル信号に変えるA/D変換回路と、DSPで生成された音場をアナログ信号に戻すD/A変換回路を搭載しています。

A/D変換回路はアナログの入力信号をデジタルに変換し、DSP回路へと流す回路です。
日立製の逐次比較型ADC「HD14549B」と「HD14559B」を使用。他にロジックICの8bitシフトレジスタのNEC「μPD74HC166C」や東芝「 TC74HC595」。ヘックスバッファの松下 「MN4050B」、三菱「M53207P」。ヘックスインバータの三菱「M74HC04P」などが使われています。

D/A変換回路は、DSPで作られた音場の信号をデジタルからアナログに変換する回路です。
ここでは6チャンネルに対応するために、バーブラウン製の16bitDAC「PCM54HP」が3個使われています。
PCM54HPは1985年のCDプレーヤーのフラグシップ機「CD-2000」にも搭載されたDACで、音質は折り紙つき。ただPCM54HPはシングルDACのため、DACから出た信号をサンプルホールド回路で、左右のチャンネルに分離しています。

サンプルホールド回路には、電子スイッチ(2chマルチプレクサのNEC「μPD4053BC」や、NEC製のデュアルコンパレータ「μPC319C」があります。

A/D変換回路 ADC 日立 HD14549BとHD14559B

D/A変換回路 DAC バーブラウン PCM54HP


(ドルビーサラウンド・出力回路)
ドルビーサラウンド用のICはナショナルセミコンダクターの「LM1112CN」です。

ドルビーサラウンド回路 出力回路


(入・出力端子)
リアパネルの入力端子は1系統で、インプットバランスのボリュームがあります。

出力端子はメインとプレゼンス(効果音)用のフロント1系統、リア1系統で合計6チャンネル。それ以外にセンタースピーカー用のモノラル出力とローパス(200Hz)の出力があります。
フロント用のメインとプレゼンスのMIXスイッチがあり、これをONにすると4チャンネル再生が可能となります。またメイン出力を-10dBにするスイッチもあります。

その他にはテープデッキ用の再生出力と録音入力端子があります。

入出力端子


YAMAHA DSP-1のスペック

周波数特性 10Hz〜100kHz +0 -0.3dB(Main)
20Hz〜20kHz +0 -0.3dB(Processing)
消費電力 25W
サイズ 幅435×高さ72×奥行312mm
重量 4.5kg











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