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VICTOR TD-V711

  1987年 定価85,000円



Victor TD-V711は1987年に発売された3ヘッド・クローズドループ・デュアルキャプスタン方式のカセットデッキです。長岡鉄夫で有名なFMファンのダイナミック大賞・優秀推薦機。


1987年3月に次世代のカセットとも言えるDAT(Digital Audio Tape)レコーダーが、各社から発売されました。当時はレコードがCDに取って代わられたように、DATも低価格化が急速に進み、カセットテープに置き換わると予想されており、各社ともにカセットデッキのラインアップは縮小していました。

DATは非常に注目されていましたが、ハードの価格が高いのと、CDからの録音がレコード会社からの反対により44.1MHzで出来ないなど、ユーザーからの評判は今ひとつでした。
そこに起きたのがバブル時代の到来と、1986年から始まったアンプの「798」戦争、スピーカーの「598戦争」、そしてCDプレーヤーの「ハイビット戦争」です。

カセットデッキは、録りためたカセットテープという資産が膨大にあり、大量に売れた1970年代末〜1980年代始めの、メタルテープ対応機の買い替え需要もありました。そこでDATが普及するまでの間はまだカセットデッキも売れるということで、各社はアンプ、スピーカー、CDプレーヤーの物量化に対応して、カセットデッキにも物量モデルを投入することになります。


TD-V711もそんな物量モデルとして投入されたカセットデッキです。この時期の物量デッキの特徴は、いたずらに機能を増やすのではなく、音質を優先するためにシャーシや電源、メカの強化やコンデンサなどに高音質パーツの投入を行ったことです。

ライバル機はA&D GX-Z7000、EXCELIA XK-007、KENWOOD KX-1100HX、Pioneer T-818、SONY TC-K333ESX、TEAC V-870、Tecknics RS-B905、YAMAHA KX-1000など。


TD-V711はダイレクトドライブによるクローズドループ・デュアルキャプスタン機構を搭載しており、安定したテープ走行と確実なテープタッチを実現しています。
ヘッドは独立構造の3ヘッドで、録音ヘッドは1970年代からの実績のあるSAヘッド、再生ヘッドは高域特性に優れたアモルファスヘッドになっています。ヘッドのコイル巻線や信号線にはPCOCCが使用されています。

録音と再生回路は音質劣化につながるカップリングコンデンサーを、可能な限りなくしたDCアンプ構成です。電源部はマイコンやディスプレィからのデジタルノイの干渉を避けるために独立電源となっており、低インピーダンス化がはかられています。また基板はOFC(無酸素銅材)を使用した配線パターンとなっています。

ドルビーHX-PROシステムを搭載しており、録音時のバイアス量を入力信号の変化に合わせて、自動的に調整することで、高音域の飽和特性を改善し、フラットな周波数特性を得ています。
これとは別に手動のバイアス調整機能も搭載しています。ノイズリダクションシステムはドルビーB/Cタイプです。
その他には自動選曲機能を搭載しています。



(音質について)
音質はレンジが広く、かつ重心が低い骨太のサウンドですばらしいです。
解像度が高くキレのある音で、高音もよく伸びます。低音は締まっており、量感はフロアスピーカーだと少し足りないように感じますが、小型スピーカーでは問題ありません。

クラシックやジャズの繊細なところも、きっちりと再生でき、それでいて、ちゃんとロックも聴けるという、とても出来の良いオールラウンダーです。

1980年代の初めにSONYの中級機で録音したカセットテープも、TD-V711で再生すると大幅にクオリティがアップ。内部の再生回路はシンプルですが、頑丈なシャーシやメカ、強力な電源回路などの恩恵かもしれません。



(フロントパネル)
フロントパネルは洗練されたデザインで、CDプレーヤーのXL-Z711などと一貫性を持たせたデザインです。カラーは写真ではふつうのブラックに見えますが、少し緑がかったブラックのメタリックです。

レイアウトは一番左には電源ボタン、タイマースタンバイ、トレイの開閉ボタン、ヘッドフォン端子とボリューム。そしてカセットホルダー。

ディスプレィの下にはカウンターのリセットやメモリボタン。ノイズリダクションの切替スイッチとドルビーHX-PROとMPXフィルターのON/OFFスイッチ。ソース(入力)の切り替え用のインプットセレクタがあります。その下は再生・録音・早送り・巻き戻し・PAUSEの操作ボタンです。

右側には録音ボリュームとバランス、バイアス調整、モニタースイッチなどがあります。右側の大きな録音レベルのボリュームは、このころのトレンドです。





(シャーシと内部について)
手で持つとズッシリと重く、シャーシの頑丈さが伝わってきます。

カタログにはインナーシャーシがどうたらと書いてありますが、実物はもっと現代的な構造で、フロント、リア、サイドパネルでフレーム構造を作り、さらに中央部とディスプレィの裏にシールド板を兼ねたビーム材を配置するという、とても強固なシャーシになっています。

しかもこれらのパネルと天板は制振鋼板を使用しており、振動対策には余念がありません。底板は磁気歪対策のために銅メッキ処理が施されています。

底板の下にはXL-Z701と同様にソリッドベース(厚さ16mm)が装着されています。ソリッドベースは、制振材をパーチクルボードでサンドイッチしたものです。
これを取り付けることで、ソリッドベースの内部損失による振動の吸収。底板の振動係数を変化させての共振の防止。そして重心の低下によりデッキ全体の振動の抑制を狙ったものです。

ソリッドベースは、ミクロン単位の振動が問題となるCDプレーヤーには、あまり効果がなかったのか、XL-Z701だけにしか採用されませんでした。しかしカセットデッキでは効果があったようでTD-V721、TD-V731、TD-V931と装着されました。
インシュレーターは樹脂製の大型のものが取り付けられています。


内部は左側がメカと電源回路。右側のディスプレィの裏にシステムコントロール回路。右側の基盤は録音と再生のオーディオ回路となっています。
電源トランンスからの磁気歪(ノイズ)が発生しますし、システムコントロール回路のマイコンやディスプレィからはデジタルノイズが発生します。これらがオーディオ回路に入ると音質の悪化につながるため、シールド板はオーディオ回路を囲む(守る)ように配置されています。

オーディオ基盤にある4つのシャフトは、CDダイレクト、ダイレクト、LINEの切り替えと録音ボリューム用の物で、スィッチやボリュームを最短距離の配置して、信号線の無駄な引き回しをしないための工夫です。


底部 インシュレーターと
ソリッドベース



(電源部) 
電源トランスは中央部のシールド板に取り付けられており、それにかぶさるように電源回路の基板が下向きに取り付けられています。これは電源トランスの周りをBOX化することで、トランスからの磁束漏れをガードする目的です。

電源トランスはバンドー製で容量は24.8V.・25.5VA。フィルターコンデンサは松下電器のオーディオ用35V・6500μFが2本。オーディオ回路の電解コンデンサもELNAのDUOREX 63V・1000μFが2本、63V・470μFが2本と強力。

電源回路はいわゆるアクティブ電源で、±トラッキング制御によってアース電位がゼロとなるように、プラス側とマイナス側が連携して動作することで、ローインピーダンス化と安定性を向上させています。また独立電源として回路間の相互干渉を防いでいます。

電源ケーブルは平型キャプタイヤで極性表示が付いています。 

電源部の内容としてはSONYの物量機・TC-K555ESXとほぼ同じレベルで、1980年代前半の10〜20万クラスよりも強力です。

電源回路 オーディオ回路の電源部



(ヘッド・メカ)
ヘッドは独立構造の3ヘッドです。録音ヘッドはSA(センアロイ)、再生ヘッドはアモルファスヘッド、消去ヘッドが2ギャップフェライトという構成になっています。録音・再生ヘッドともに巻線、リード線にはOFC線材が使われています。

SA(Sendust-Alloy)ヘッドは名前のとおり、センダストを使用したヘッドです。ただPioneer やTechnics、YAMAHAのセンダストヘッドは、コアにセンダストを使用していますが、VictorのSAヘッドはテープの接触面にセンダストを使用しているだけで、コアの部分はパーマロイなどを使用していました。このため、磁束密度などの磁気特性は他社のセンダストヘッドやアモルファスヘッドよりも劣ります。

当然、Victorもそれはわかっており、このTD-V711から再生ヘッドにはアモルファスヘッドを投入。後継機のTD-V721では、録音ヘッドもアモルファスになります。

ヘッドはダイカストのパーツにマウントされており、クローズドループ・デュアルキャプスタンと合わせて、モーターや外部振動を抑えて安定したヘッドタッチを実現し、変調ノイズを低減しています。

キャプスタンはダイレクトドライブ。3相6コイルのBSLモーターを使用しており、セラロックサーボで制御されています。

※セラロックサーボはセラミック発振子を使用したサーボ回路のことです。セラミック発振子は精度こそクォーツに及びませんが、小型で温度変化に強く、長期安定性に優れた発振子です。
クォーツは確かに高い精度を持ってますが、水晶振動子の周波数温度特性は+25℃を頂点としたカマボコ型で、温度変化に弱いという弱点があります。

ヘッド・キャプスタン・
ピンチローラー
メカ
 
   
 
クローズドループの
フライホイール
BSLモーター



(録音・再生回路)
DCアンプ構成で、カップリングコンデンサーを排除することで、音質の劣化を防いでいます。基板には伝送効率の高いOFC(無酸素銅材)のパターンを使用しています。

ノイズリダクションはドルビーBとCタイプ。録音回路にはドルビーHX-PROシステムを搭載しており、録音時のバイアス量を入力信号の変化に合わせて、自動的に調整することで、高音域の飽和特性を改善し、フラットな周波数特性を得ています。

ドルビー用のチップは日立製の「HA12088ANT」。ドルビーHX-PRO用はNEC製の「μPC1297CA」です。

回路のパーツ数が少ないのはデュアルオペアンプを多用しているためで、NECの「μPC4572HA」やROHM製の「BA15218N」などが使われています。

入力ソースやモニターなどの切り替えは、配線の引き回しによる音質劣化を防ぐために、フロントパネルからシャフトで、基盤の奥にあるスイッチまでつないでいます。またスイッチ自体も電子スイッチ(三菱製 M4066BP)を使用しています。
一般のスイッチでは経年による接点の劣化や汚れにより、音質の劣化や接触不良によるガリなどが発生しますが、電子スイッチではこれらの心配がありません。

電解コンデンサは松下製のオーディオ用や東信製のコンデンサが使用されています。

録音・再生回路 ドルビー用チップ
HA12088ANT

ドルビーHX-PRO
NEC μPC1297CA
OFC基盤のマーク



(入出力端子)
入力端子はライン、ダイレクト、CDダイレクトの3系統。出力端子は1系統(固定出力)です。その他にシンクロ録音端子を搭載しており、ビクター製CDプレイヤーとシンクロ録音が可能です。

リアパネル


Victor TD-V711のスペック

周波数特性 15Hz〜21kHz ±3dB(メタルテープ)
15Hz〜19kHz(クロム・ノーマルテープ)
S/N比 56dB(Dolby オフ・メタルテープ)
Dolby-Cで10dB、Dolby-Bで5dB改善
歪率 0.5%
ワウ・フラッター 0.022%(WRMS)
0.05%(W.Peak)
チャンネル
セパレーション
40dB
消費電力 18W
外形寸法 幅435X高さ140×奥行336mm
重量 10.0kg




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