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Technics ST-G6T

     1984年 定価49,800円



Technics ST-G6Tは、1984年10月に発売されたクォーツ・シンセサイザーチューナーです。

ST-G6TはST-G4(1984年・39,800円)と兄弟モデルで、内容的にはST-G4のフロントエンドを強化して、簡易なプログラムタイマー機能を付けたモデルです。

型番の末尾の「T」はタイマーを表しており、ST-S4Tなどそれまでの命名規則では「ST-G4T」という型番になる訳ですが、そうなるとST-G7とST-G4の間の中級機(ST-G5の後継機)がなくなってしまい、商売的にはよろしくないということで、「ST-G6T」という型番にしたんじゃないかと思います。

ただ49,800円という価格ですので、中身を中級機らしく見せるため、フロントエンドの交換とIF帯域やオートスキャンレベルの切り替え、といった機能を付けたのかもしれません。
※海外仕様のST-G4にはIF帯域やオートスキャンレベルの機能が付いており、ST-G4の日本モデルはスイッチを付けずに、機能を殺しているだけのようです。


ST-G6Tはカタログスペックを見ると、ST-G4よりもワンランク上がっている項目もあるのですが、実際に使ってみると、受信性能も音質も初級機レベルです。Technicsにはいろいろと「前科」があるので、思わずカタログスペックを疑ってしまいます。

実は当時のTechnicsのCDプレーヤーでは、コストダウンのために上・下に関係なく、多くのモデルで基板やパーツを共用しています。ところがカタログなどの宣伝文になると、上級機になるほど高度な回路や、物量を投入しているように説明をしています。そんなことを続けた結果、後に1bitDACを搭載しているにも関わらず、18bitDAC搭載というような、「詐欺事件」のようなことも、やらかしています。


ST-G6TのFMフロントエンドは4連バリコン相当です。クォーツPLLシンセサイザは、スワローイン・カウンタ方式(他社でいうパルススワロー方式)をです。基準周波数を可聴帯域外の25kHzに設定することで、音楽信号への影響を排除しています。

カタログではシンセサイザー部とMPX部のPLLに、クォーツを使用した「世界初のツインクォーツ」となっいます。同調回路とMPXの両方にクォーツを使用したのは、ONKYO Integra T-419(1979年・150,000円)が先ですが、バリコンチューナーだからいいや。ということになったのかもしれません。

ところが実際は「ツインクォーツ」と言いながら、基板には水晶振動子(クォーツ)が1個しかありません。これでは1つのクォーツで、シンセサイザー用、MPX用、タイマーの時計用と3つ分を兼用しているということになります。

本来ならば、シンセサイザー用は25kHz、MPX用は19kHz、タイマーの時計用は32.768kHzとそれぞれ基準周波数が違うので、周波数による精度の違いや温度変化などによる安定度、つまり音質のことを考えればクォーツをキチンと分けて、それぞれ専用に発振回路を作ることが理想です。
実際はクォーツが使われているのはシンセサイザー回路だけといってよく、シンセサイザー回路が内蔵されているICに、発振周波数の変換・送出機能があるので、それをMPX回路に渡しています。
MPX回路のクォーツはいわばシンセサイザーの「おこぼれ」であり、いろいろな回路を通っているため、本来のクォーツの精度よりも落ちてしまいます。

カタログでは「ツインクォーツ」などとカッコ良さそうなことを書きながら、実際にはこういった「手抜き」があちこちにあり、ST-G6Tの音の悪さの原因となっていると思います。


IF部はノーマルとスーパーナロウを自動的に切替する「オートIF」を搭載しており、放送局の受信状況により、音質優先かクリアな受信優先かを自動的に選択します。このIFの切り替えは手動でも可能です。

MPX部はリニアスイッチングMPX回路と呼ばれるもので、カタログによると従来のTechnicsの回路は、二重平衡差動方式のスイッチング回路で、素子構成の関係で非直線歪の発生がありました。リニアスイッチングMPX回路では、回路を大幅にシンプル化して、非直線素子を排除したダイナミック型のスイッチング回路としているそうです。これもIC化されているので確認のしようがなく、実際のところはわかりません。


機能ではオートスキャンチューニングとオートメモリー機能を搭載しています。スキャンチューニングは、任意の周波数からオートスキャンして、最っとも近い局を探し出す機能で、オートメモリーは自動的に放送局を探し出して、低い周波数から自動的にメモリーしていきます。このメモリー機能は手動でも設定でき、FMとAMの計16局をランダムにメモリーできます。

ただプリセットは内部のスーパーキャパシタにより、バックアップされているため、1週間ぐらいコンセントを抜いてしまうと内容が消えてしまいます。


プログラムタイマー機能は、実際には日付の設定ができないため、24時間に1回のタイマー予約と、毎日同時刻の予約が出来るだけです。当時の単体のオーディオプログラムタイマーのように、1週間に10プログラムを予約などということはできません。あくまでも機能を限定したタイマーです。
このタイマーで、リアパネルにあるACアウトレット(1系統・680W)のON/OFFが可能で、このACアウトレットにテープデッキのコンセントをつないで、タイマースタンバイ機能を使えば、留守録が可能です。


この頃のシンセサイザーチューナーは、Pioneerの「D.D.デコーダー」やKENWOODの「DLLD」などの、新しい回路が登場して音質がどんどん改善されていた時代です。ところがST-G6Tにはそういう回路がありません。宣伝文句で、さも高性能なように誤魔化しているだけです。

価格帯からいうとライバル機はPioneer F-120D、KENWOOD KT-880、SONY ST-333ESなどになりますが、とてもじゃないですが内容的にはまったくかないません。本当のライバルは3万円台のモデルです。



(受信について)
現在はケーブルテレビからFM放送を聴いていますが、受信能力はKENWOOD KT-880Fに比べると落ちます。それほど高くはないと思います。
注意が必要なのはオートスキャンチューニングで、弱電界の放送局は全部スキップされてしまいます。


(音質について)
高域を少し強調して「良い音」に聴こえるように調整されていますが、こういう小手先の手段が通用するのは、素人さんかオーディオ初級者まで。KENWOOD KT-880Fと比べると2ランクぐらい落ちます。

トーク部分ではわかりずらいですが、音楽が流れると一聴してレンジが狭いことがわかります。解像度も悪く音にキレがありません。高音と人の声の部分に山を作っていますが、低音は出ません。そのため全体的には音の軽さが目立ちます。

音の強弱は平面的なのにダイナミックレンジが106dBというスペック。どうやって計測したのでしょか。1970年代のバリコンチューナーよりも、左右のセパレーション悪く、定位も良くないし音場も狭い。という感じで文句なしに初級機の音です。

またIF回路が貧弱なせいか放送局によっては、IF帯域の「nomal」と「narrow」を切り替えても、あまり音質に差がでません。こうなるとオートIFの意味がなくなってしまいます。


受信性能は初級機に毛の生えた程度、ともかく音質が良くない。タイマー機能は中途半端。ノスタルジーに浸るという目的以外は必要のないチューナーだと思います。



(フロントパネル)
ST-G4と共通のデザインで、タイマー関係のボタンやインジケーターが増えています。コンセントにプラグが入っていれば、電源スイッチをOFFにしていても、時計が表示されます。

操作ボタンは左から電源スイッチ、ディスプレィの下にはプログラムタイマーのセット関係のボタンと、時計の表示ボタン。その隣にはチューニング(UP・DOWN)とプリセットのメモリーボタンがありますが、これらもタイマーのセットと共用となっています。

プリセットメモリーはFMとAM合計16局をランダムに登録できます。プリセットボタンは8個しかありませんが、1つのボタンをふつうに押すのと、長押しによって2つの放送局をプリセットできます。

一番右にはFM・AMのバンド切り替え、RECレベル、シグナルレベル(FM信号の強度)、AUTO(STEREO)・MONOの切替スイッチ、「NORMAL」と「SUPER NARROW」のIFバンド切替スイッチ、スキャンレベルの表示があります。

いろいろと機能がありますが、ボタンのサイズが小さいので、けっして使い勝手は良くありません。

ディスプレィは液晶で裏側にバックライトがあります。チューニング状況とオートIF、クォーツPLLのロック状況を表示するシグナル・フィデリティ・インジケーターを装備しています。

    SUPER NARROW受信時 


(キャビネットと内部について)
一部のサイトではST-G6Tのカタログの宣伝文を真に受けて、ST-G6Tがさも高性能なチューナーのように書いてあるところもありますが、中身を見れば一目瞭然です。

キャビネットは薄い鋼板製で重量はわずかに2.3kg。手に持った瞬間、あまりに軽いので覚悟はしていましたが、内部はその想像を超えていました。何しろ奥行が241mmしかないのに、それでもまだスカスカです。

内部は手前のメイン基板にはRF、IF、MPX回路や電源回路の一部、奥には電源トランスとリレーやレギュレーターのある電源回路の基板があります。

メイン基板はST-G4と同じもので、ともかく小さいです(幅23cmX奥行10cm)。フロントエンドはST-G4からグレートアップされいますが、少し受信性能が良くなっても、IF(FM復調)やMPX(ステレオ復調)の回路がチープでは、音質は良くなりません。
電源トランスがある基板は大きくなり、タイマー搭載により増えた電源関連のパーツがのせられています。

この頃のTechnicsは回路のIC化(集積化)を推し進めていましたが、ST-G6Tでは基板の裏面に4つのICが装着されています。

ただし増幅回路(アンプ)などは単にIC化すると、音質が悪くなる場合も多く、KENWOODなどでは音質のためにディスクリートとオペアンプの使い分けをしたり、ここは電源を安定化したほうが音が良くなるということで、電解コンデンサを増やしたりしています。
でもさすがに「浪速の商人」はユーザーのことよりもコストカットが優先です。


※海外仕様のST-G6Tの基板はフロントエンドのモジュールが、アンテナ端子の後ろにあるなど、国内仕様とは大きく異なっているようです。



(電源回路)
電源トランスは小さいです。電源回路はST-G4よりもパーツが多いですが、これはタイマー機能の搭載による部分もあります。それでも全体としては整流回路があるぐらいで、チューナーの中級機の電源としては貧弱で物足りません。電解コンデンサは松下(現パナソニック)製です。

電源トランス 電源回路


(フロントエンド・PLLシンセサイザー・システムコントロール)
フロントエンドはミツミ製の小さなモジュールを使用しており、FM4連バリコン相当です。

PLLシンセサイザー部は、スワローインカウンタ方式(普通のパルススワロー方式)です。パルススワロー方式のメリットはPLL回路(位相同期回路)に、プリスケーラ(前置分周器)を組み合わせていることで、素早い同調が可能なことです。

この回路いや、このST-G6Tの心臓部となるのが、NEC製の多機能デジタルチューニングシステムIC「μPD1714G 511」です。

このチップには4bitマイコン、デジタルシンセサイザー、PLL回路、プリスケーラ(前置分周器)、
16局のプリセット、周波数やレベル表示、LCDドライバー、タイマー機能、発振周波数の変換・送出などの機能が内蔵されており、Technicsの優秀なチューナー技術陣がいなくても、簡単に多機能なシンセサイザーチューナーを作ることができます。

でも、こういう多機能チップは、本来は小型で値段が安いミニコンポ用に作られたチップで、コストダウンと省スペースが優先され、音質的な部分はあまり考慮されていません。

フロントエンド ミツミ製のモジュールユニット

   
 
デジタルチューニングシステム
NEC μPD1714G 511
水晶振動子


(FM復調 IF・検波回路)
IF回路はパーツが少なくとても簡素です。使われているチップは、松下製のIF用IC「AN7274NS」です。

オートIFを装備しており、受信状況に応じてIF帯域幅を「NORMAL」と「NARROW」に切替えることができます。このIFの切り替えはマニュアルでも可能です。

「NORMAL」は実効選択度 40dB(400kHz)で音質重視。「SUPER NARROW」は25dB(200kHz)として、受信能力を優先しています。

IF回路 IF用IC 松下 AN7274NS


(ステレオ復調 MPX回路)
この頃のMPX回路はPioneerやKENWOODなどが採用する、38kHzの正弦波で検波出力と掛算を行い、ステレオ復調して高いチャンネルセパレーションを得る、いわゆる「リニアMPX」が主流となりつつありました。

新型のリニアMPXに対し、ST-G6Tは旧来のスイッチング方式のMPX回路です。「リニアスイッチングMPX回路」という名前は、カタログによると非直線素子を排除したことから来ているようですが、もしかするとリニアMPXから「リニア」という言葉をいただいてきて、さも新しい回路のように名前を付けたのかもしれません。

また、スイッチング方式のMPX回路では、スイッチング信号の正確性がチャンネルセパレーションに影響を与えることから、上記のように「ダブルクォーツ」などという嘘を付いたのだと思います。

メインとなるICは、松下製のチョッパスイッチング(チョッパ制御)方式のMPX用IC「AN7472S」です。
AN7472Sはフィードバック制御のパイロットキャンセラー回路とミューティング回路を内蔵しており、外部から1kHzの基準周波数(クォーツでなくてもOK)をもらえれば、VCOの発振時定数を無調整にできる機能があります。

MPX回路 MPXデコーダー 松下 AN7472S


(アンテナ端子・出力端子)
アンテナ端子は75ΩのFMアンテナ端子がありますが、F型端子ではありません。チューナーへのF型端子の採用は、早いモデルで1975年ぐらいから行われているので、10年近くもたってまだ装備していなかった訳です。AM用は外部アンテナ端子と付属の専用ループアンテナ用の端子です。
出力端子は固定出力で、その他にタイマーと連動したACアウトレットがあります。

リアパネル


Technics ST-G6Tのスペック

FM 受信周波数 76.1MHz〜89.9MHz
周波数特性 4Hz〜18kHz +0.2-0.5dB
実用感度 0.9μV(IHF)
10.3dBf(新IHF)
SN比50dB感度
MONO 2.2μV(IHF)、18.1dBf(新IHF)
STEREO 22μV(IHF)、38.1dBf(新IHF)
全高調波歪率
MONO 0.09%
STEREO 0.015%
実効選択度 NORMAL 40dB(400kHz)
SUPER NARROW
25dB(200kHz)
S/N比
ステレオ
セパレーション
60dB(20Hz)
70dB(1kHz)
57dB(10kHz)
イメージ妨害比 90dB
IF妨害比 105dB
スプリアス妨害比 110dB
AM抑圧比 55dB
リークキャリア -70dB
キャプチャーレシオ 1.0dB
AM 受信周波数 522kHz〜1629kHz
実用感度 290μV/m、20μV
選択度 50dB
イメージ妨害比 40dB
IF妨害比 60dB
消費電力 9.5W
サイズ 幅430×高さ64×奥行241mm
重量 2.3kg




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