TOP > 使っているオーディオCDプレーヤー > NEC CD-720


NEC CD-720 
     1987年 定価69,800円



NECのCD-720は、1987年11月に発売されたCDプレーヤーです。ライバル機はYAMAHA CDX-800、KENWOOD DP-990SG、TEAC ZD-880など。

当時のNECは、1982年にCDプレーヤー1号機のCD-803を発売して以降、話題となった機種はCD-803と、超重量級プレーヤーのCD-903ぐらいで、すっかり他のメーカーの後塵を喫していました。


CD-720の開発コンセプトは、発売時の雑誌記事によると「高音質と多機能性の追求」となっています。

D/Aコンバーターはフィリップス製の「TDA1541」を搭載。このDACは1チップに、2つのDACが内蔵(デュアルDAC)されており、左右独立DACとして動作しています。デジタルフィルターは4倍オーバーサンプリングです。

電源トランスは、デジタル回路からオーディオ回路への干渉を防ぐために別巻線とし、電源回路も独立電源としていました。さらにデジタル回路からオーディオ回路への信号は、3系統のオプト・アイソレーション(光伝送)を使用して、デジタルノイズの侵入を防いでいます。

シャーシの底板は鋼板を2重に貼り合わせたもの。メカはフローティングされ、大型のインシュレーターと合わせて外部からの振動を抑えています。


実はCD-720の中味はピックアップ、メカ、信号処理回路、サーボ回路、デジタルフィルターとSONY製ばかり。DACはフィリップス製の「TDA1541」ですが、1987年はSONYのほとんどのCDプレーヤーも「TDA1541」を搭載しているので、内容的にはSONYのCDプレーヤー(非ESシリーズ)の、異母兄弟と言っても良いかもしれません。

この頃のNECのCDプレーヤーの「ウリ」は、プログラムなどの多彩な編集機能です。CD-720も24曲ランダムメモリーやオート編集、マニュアル編集、オートフェイドアウトなどの機能の他に、10枚分のCDからプログラム編集が可能な「ディスクチェンジ編集機能」や、それを記憶するディスクメモリーも装備していました。

他の主な機能はプログラムメモリー、ランダムプレイ、イントロスキャン、リピート(全曲、プログラム、A-B)、スキップ、オートエディット、フェードアウト、INDEX/TIMEサーチなど。

ただ、オートチェンジャー機でも無いのに、10枚分のCDのプログラム機能を付けたのは、ちょっとやり過ぎで、操作が複雑になっただけとも言えます。

もしかすると、Pioneer PD-7050(1987年2月発売・64800円)が、8枚分のプログラムを記憶できたのに対抗したのかもしれません。
ただ記憶といってもディスクナンバーしか記憶できないため、何番(ディスクナンバー)にどのCDをプログラムしたかの記憶は人間がやらなくてはなりませんでした。



(音質について)
高音は少し伸びが不足。低音はそこそこ出ますが締まりは良くないです。音場は普通ですが定位は良好。「TDA1541」の力からするとバッとしない音ですが、原因はエントリーモデル用の安価なメカ。

NECはこれに反省したのか、CD-10では同様のメカを使いながら、制振材をたくさん後付けして、振動を抑えこんでいます。
CD-720でもメカの部分に防振ゴムを取り付けてやると、解像度と高音は大幅に改善。ようやく「TDA1541」らしい音になります。

CD-720の価値はTDA1541を搭載していることです。現在でも人気のTDA1541/TDA1541Aですが、この時期はハイビット競争や1bitDACにユーザーは注目しており、評価が上がるのは90年代に入ってからとなります。

TDA1541シリーズというと、TDA1541AのS-1やS-2といった選別品が有名ですが、無印のTDA1541も音の良いDACであることは変わりません。



(フロントパネル)
10キーやプログラム関係のボタンはシーリングパネル内にあり、スッキリとした印象のデザインです。このデザインは、翌年発売のCD-830DSにも継承されていきます。(中味は全くの別物です。)

ただ当時はリモコン付きの機種でも、本体の操作ボタンを使う人が多かったので、評判はさほど良いものでは無かったと思います。その「プレイ」「ストップ」「ポーズ」のボタンに、入っているゴールドのラインは、塗料が悪いのか消えやすいという欠点がありました。

ディスプレィはミュージックカレンダー(24曲)や、多彩な編集機能に対応するために、大型のものを採用されています。電源スイッチを入れると、まず過去にプログラムされた画面が表示されるため、ディスプレィの故障と勘違いされる方が多いですが、これがオリジナル仕様です。

早送り・早戻しのサーチボタンは2スピードタイプで、最初は低速でサーチを行い後に高速に切り替わります。
アェードアウト機能は単に音を絞っていくだけでなく、音量が「0」になると次ぎの曲に移り、PAUSE状態で停止します。

ヘッドフォンのボリュームはスライドボリュームです。


再生画面 プログラム編集画面





(シャーシ・内部について)
シャーシの底板は1mmと1.6mmの鋼板を重ね合わせた2重底。天板は0.9mmの厚さのコの字型の鋼板で、フロントパネルと噛み合う部分やサイドにほんの少し防振材が付いています。

フロントパネルの下には樹脂製のスカートがあります。いくつものビスで止められているところを見ると防振効果を狙ったものかもしれません。
インシュレーターは樹脂製の大型のものですが、後ろ側の2個はアルミの化粧リングが付いていません。

内部は左側にメカと電源トランス。メイン基板は左側の奥が電源回路、右側の奥がオーディオ回路、手前側はサーボ、信号処理、システムコントロール回路などのデジタル回路です。


天板 インシュレーター



(電源回路)
電源回路は以前のNECのCDプレーヤーに比べると貧弱です。電源部の能力は音質にも大きく影響するので、NECは他社よりも強力な電源部を搭載してきました。ところがCD-720は他社と同じレベルです。でもNECはラストのCD-10で、再度強力な電源部を搭載することになります。

電源トランスの容量は26VA。当時のCDプレーヤーが必要な容量は15VA前後ですので、ここはずいぶんと余裕のある物を積んでいます。トランスはデジタルとアナログの別巻線になっており、電源回路も独立電源となっています。

貧弱になったのはコンデンサの本数や容量です。CD-720では日本ケミコンのAWF 50V・1000μFや東信の25V・4700μFなどを使用しています。

電源コードは極性表示付き直径8mmのキャブタイヤです。
電源トランス 電源回路



(デジタル回路 サーボ・信号処理・システムコントロール)
サーボ、信号処理回路でメインとなるのはSONY製のチップです。
ピックアップやスレッドモーターのサーボ制御を行う「CXA1082」。

信号処理用の「CXD1135」はSONYのCDプレーヤーでよく使われた「CXD1125」と同一の機能を持つチップで、EFM信号やサブコードの復調と誤り訂正、スピンドルモーターのサーボ制御を行っています。

RAMはサンヨー製の8bit CMOSスタティックRAM「LC3517BML」は2枚使われており、1枚は誤り訂正用に、もう1枚はディスクチェンジ編集機能で行ったプログラムを、電源OFF後も記憶するディスクメモリーとして使われているようです。このメモリーのバックアップ電源用として電気二重層コンデンサ(スーパーキャパシタ)も装備しています。

プログラム機能やシステムコントロールを行うマイコンは、NEC製の「μPD7216ACW」が使用されています。

デジタル回路 SONY CXA1082

SONY CXD1135 NEC μPD7216ACW


(DAC・オーディオ回路)
デジタル回路からオーディオ回路への信号は、HP製の高速フォトカプラを使って、3系統のオプト・アイソレーション(光伝送)を行いデジタルノイズの侵入を防いでいます。

D/Aコンバーターは16bitのフィリップス製の「TDA1541」を搭載。NECは以後CD-10まで主力機に「TDA1541」「TDA1541A」を搭載していきます。

TDA1541は多くの特徴を備えたDACで、その技術は現在の24bitや32bitDACにも活かされています。

内部には下位10bitのパッシブデバイダと上位6bitのアクティブ(ダイナミック)デバイダがあり、上位6bitについてはDEM(ダイナミック・エレメント・マッチング)という方式により、出力信号をシフトすることでD/A変換の誤差を平均化し精度を向上させています。
またグリッチ歪みが少なくなるような仕組みも持っています。

TDA1541のシリコンウェハーは、オランダのフィリップスの工場で生産されましたが、チップとしての製造はオランダ(HSH)、台湾(RSH)、インド(HHH?)の工場で行われています。下の写真のTDA1541はHSH8736なので、オランダで1987年の36週目に生産されたチップということがわかります。

デジタルフィルターは、4倍オーバサンプリングのSONY製「CXD1088」。FIR型のフィルターで83次+21次の2段構成で、リップル特性±0.001dB以内、阻止帯域の減衰量80dB以上という能力を持っています。

ノイズ成分を可聴帯域の20kHzから離れた、156.4kHzの周波数に移動できるため、ローパスフィルタは低次のものとなっています。

オーディオ回路 DAC
フィリップス TDA1541

デジタルフィルター
SONY CXD1088
(左)高速フォトカプラ
HP 6N137



(ピックアップ・ドライブメカ)
ピックアップ・ドライブメカはSONY製のアッセンブリパーツで、「KSL-210ACM2」というものです。エントリーモデル用のアセンブリーパーツですが、メカの開発にはけっこう費用がかかるため、NECをはじめいろいろなメーカーで採用されました。

ただ1987年~90年ごろは物量の投入が盛んで、59,800円クラスでもこのメカより、良いものを積んでいたため、NECのCDプレーヤーの弱点としてCD-10まで継承されてしまいます。

ピックアップは3ビームのKSS-150Aを搭載しており、スライド機構はギヤ式です。このピックアップとスピンドルなどのユニットは、ゴム系のパーツを使ってフローティングされています。
ただメカベース、メカシャーシなど各パーツの強度が無いため、振動に強いというものではありません。


(メカのメンテナンス・修理)
トレイ開閉用のゴムベルトは、ブリッジを外してトレイを引き抜いてやれば簡単に交換できます。大きな黒い歯車の下にあるトレイ開閉用のスイッチも、接触不良によるトラブルの多い場所で、アルコール綿棒でクリーニングすれば解消します。

電源スイッチの照明が玉切れしれしている場合は、メカを外して作業を行います。使われているのはムギ球で、緑色のカバーをはめることで緑色に光っています。

ピックアップはKSS-150AでKSS-210A、KSS-212Aと互換性があります。寿命となった時に交換用のドナーを探すのには容易だと思います。

ピックアップ・ドライブメカ ピックアップ・ドライブメカ

ピックアップ
SONY KSS-150A
トレイ

トレイ開閉用のスイッチ 電源スイッチ用の照明



(出力端子)
出力端子はアナログが固定と可変出力の2系統。デジタルは同軸の1系統でデジタル出力のON/OFFスイッチもあります。

アナログ出力端子 デジタル出力端子


NEC CD-720のスペック

周波数特性 5Hz~20kHz
ダイナミックレンジ 96dB
S/N比 105dB
消費電力 22W
サイズ 幅430×高さ109.5×奥行328mm
重量 6.9kg (実測重量 6.8kg)





TOP
CDプレーヤー
アンプ
スピーカー
カセットデッキ
チューナー
レコードプレーヤー
PCオーディオ
ケーブル
アクセサリー
歴史・年表
いろいろなCD





NEC CD-720 B級オーディオ・ファン