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SANSUI D-370

     1981年 定価59,800円



SANSUIのD-370は1981年11月に発売されたカセットデッキです。SC-D55(1980年・59,800円)の後継機ですが、いわゆる「珍品」とか「レア品」と呼んでもよいデッキじゃないかと思います。

カタログではマイクロ・コンピューターを使って、プログラムやメモリープレイを実現させた「DACS8」が特徴となっていましたが、それは当時としては普通のことで、ダイナロイヘッドを搭載していることが最大の特徴です。


ダイナロイヘッドは三協精機が開発したカセットデッキ用のヘッドで、メーカーの宣伝文句によると、パーマロイ、フェライト、センダストに続く磁気ヘッドということでした。

素材となるダイナロイ(dynalloy)合金は、Fe(鉄)とCr(クロム)、Mo(モリブデン)、Mn(マンガン)、Ni(ニッケル)、Si(ケイ素)からなる合金で、センダストと比べると耐磨耗性は同等でありながら、センダストの弱点である耐食性にすぐれ、コストも安いというのが特徴でした。

ところが、このダイナロイヘッドを採用したのは、カタログブックを調べても、SANSUI D-370以外にはNEC V-111の再録ヘッドと、ONKYO TA-9Xの消去ヘッドぐらいしかありません。ということはどの機種もヒット商品ではないので、ダイナロイヘッドの数自体も少ないということになります。

なぜダイナロイヘッドが普及しなかったのかということで、考えられることは2つです。
ひとつは同じ1970年代に「ダイナロイ」の名前を持つ別の合金があったことです。軸受用のアルミニウム合金ですが、アルミとケイ素、そしてカドミウムからなる合金でした。カドミウムは人体にとって有害な物質であり、当時はイタイイタイ病や安中公害で問題となっていました。

もうひとつはメーカーの「センダスト離れ」です。センダストは1970年代後半からフェライトに代わる磁気ヘッド材料として使用されましたが、加工がしずらく、渦電流損失も大きく、耐食性を高めるために添加物が必要なため、本来の磁束密度が得られないなどの問題がありました。またコストが高いというのも問題でした。

メタルテープの発売当初こそ、センダストヘッドを利用するメーカーが多かったですが、ハードパーマロイが改良されてメタルテープに対応可能となると、テクニクスやLO-Dなどセンダストヘッドから切り替えるメーカーが出ました。またSONYがセンダストヘッドの後継として、アモルファスヘッドを開発していることは公表されていたため、そもそもダイナロイヘッドへの期待が薄かったという可能性もあります。
ちなみにサンスイのこの時期のラインアップを見ると、D-370以外のヘッドはハードパーマロイ、フェジアロイ、フェライトと機種によってバラバラであり、方向性が見えてきません。


メカはキャプスタンに、FGサーボで制御するコアレスSBL(スロット・ブラシレス)モーターを、使ったダイレクトドライブ方式を採用。リールとメカはDCモーターです。

テープホジションはノーマル、ハイ、メタルの3ポジションで、オートセレクターではなく手動です。ノイズ・リダクションシステムはドルビーBとCタイプを搭載しています。

サンスイ独自の42モードAMPS(Automatic Music Program Search)を搭載しており、曲の頭出しやリピートなどのプレイができます。またリピート再生は、デュアルメモリーファンクション機能により、スタートと終了を任意にメモリーして再生することもできます。
他にはRECミュートやテープリードイン、タイマースイッチなどの機能があります。



(音質について)
定価は59,800円と中級機の価格帯ですが、音質は初級機レベルです。ダイナロイヘッドが原因なのか、チープなオーディオ回路が原因なのか、それとも両方とも問題なのか。

どちらにしても音質を求めて購入するデッキではありません。



(フロントパネル)
フロントパネルは上級機のD-570(77,000円)、D-770R(79,800円)、D-970(99,800円)と統一されたデザインです。

レイアウトは左から電源スイッチ、タイマースイッチ、カセットの開閉ボタン、ヘットホン端子(標準プラグ・ヘットホンボリュームはありません)。

カセットドアの隣は電子式のカウンターで、4桁のカウンターと時間表示が可能です。その下はカウンターリセット、メモリー、AMPS、リピートなどのボタン。
その下がロジックコントロールによる再生、録音、早送り、巻き戻しなどの操作ボタン。

レベルメーターは12セグメントのLEDです。テープセレクターはノーマル(LH)、ハイ(クローム・ CrO2)、メタル(METAL)の3ポジション。右側には録音レベルのボリューム。ドルビーの切り替えスイッチ、マイク端子(標準プラグ)となっています。





(シャーシと内部について)
シャーシ(キャビネット)は普通の鋼板製です。真ん中にはビームがあり、シャーシの剛性を高めています。

内部は左がメカと電源回路、システムコントロール回路。右側は2階建てで上がドルビー回路。下が録音・再生回路です。
録音・再生回路の基板はたぶんミニコンポ用の物で、1枚の基板にカセットデッキに必要なすべての回路がのるように出来ています。D-370ではその中の録音・再生回路の部分だけにパーツが取り付けられています。




(電源回路)
電源トランスは「Sansui」のマークがあるので、サンスイトランスのようです。容量は22V・21VA。いちおう別巻線のものが使用されていますが、電源回路自体はとても簡素なもので、独立電源と呼べるようなものではありません。
電解コンデンサは日本ケミコンのSM(汎用品)。電源ケーブルは平行コードです。

電源トランス 電源回路



(システムコントロール・サーボ回路)
再生や録音、早送り、巻き戻しなどのボタンのコントロールを行うマイコンは、沖電気「MSM5836RS」です。NANDゲートは沖電気の「MSM4011RS」や「MSM4023RS」が使われています。

また電子カウンターの後ろには日立製のマイコン?「HD38701A08」があり、電子カウンターとLEDのレベルメーターの制御を行っています。
この電子カウンターの時分の制御には、家庭用電源の周波数(50Hz/60Hz)が使われており、住む地域によって、リアパネルの切り替えスイッチを設定するようになっています。

システムコントロール・サーボ回路 沖電気 MSM5836RS



(ヘッド・メカ)
ヘッドは録再が「ハイBs・ダイナロイヘッド」。消去が「ハイBs・ダブルギャップ・フェライトヘッド」です。「ハイBs」というのはサンスイが勝手に付けている名称です。

メカはたぶん三協製です。キャプスタン用のモーターはFGサーボで制御するコアレスSBL(スロット・ブラシレス)モーターで、ダイレクトドライブのためワウフラッターは0.03%と低いです。リール・メカ用はDCモーターとなっています。

ダイナロイヘッド(中央) メカ



(録音・再生回路)
録音・再生基板はスカスカです。この基板は1枚にシステムコントロールやサーボ、ドルビー回路も載るようになっており、サイズからいっても安価なミニコンポ用だと思います。

パーツ点数は少なく、電解コンデンサもオーディオ用ではなく、汎用品が使われており、音質を考慮した設計ではありません。

ドルビー・ノイズリダクションシステムの別基板です。左と右のチャンネル別になっており、けっこうパーツ数があります。
D-370はドルビーBとCタイプを搭載していますが、基板にあるICはドルビーBタイプ用の東芝製「TA7629P」だけです。ドルビーCの部分はディスクリートの回路で、「つけ足し」を行っています。

ドルビーCタイプは1981年からカセットデッキへの搭載が始まりますが、専用ICの開発が遅れたため、ドルビーB用のIC+つけ足し回路というのは、サンスイだけでなくSONYなどでも行われています。

つまりメイン基板のドルビー回路はBタイプ用で、ドルビーCに対応するためにはスペースが足りず、別基板にせざるをえなかったということだと思います。

ヘッドフォン用のアンプには、サンヨー製のテープレコーダー用アンプIC「LA4170」が使用されています。

録音・再生回路 録音回路

ドルビー基板 ドルビーIC 東芝「TA7629P」



(入出力端子)
入出力端子はライン入力とライン出力。その他にサンスイのランダム自動選曲機構を搭載するレコードプレーヤー FR-D50A、P-M7とのシンクロ端子があります。
また家庭用電源(50Hz/60Hz)のサイクルチェンジのスイッチがあります。

リアパネル


(1981年 MAGNAXカセットテープ 発売)
MAGNAXはフィルムメーカー「コニカ」によるカセットテープのブランドです。

この頃はメタルテープ対応カセットデッキの売上が好調で、カセットテープも爆発的に売れていました。またコニカのライバルであるフジフィルムが、積極的にカセットテープの開発や販売を行っていたのも、コニカの参入のきっかけになったのかもしれません。
ただコニカにはノウハウがなかったので、アメリカのAmpexと合弁で小西六アンペックスを設立して、カセットテープを開発・販売しました。

MAGNAXは「Super dB」をキャッチコピーにしたカセットで、音のエネルギーが集中する中低域を充実させるとともに、周波数特性、MOL特性、SN比などを合わせたトータルバランスを優先させた基本設計となっています。

ラインアップはノーマルタイプの「ML」「GM-T」、クロームタイプの「GM-U」、メタルテープの「METAL」で、価格はML C-60が400円。GM-T C-60分が550円、GM-U C-60分が550円、METAL C-60分が1150円でした。


SANSUI D-370のスペック

周波数特性 メタルテープ
30Hz〜18kHz ±3dB
クロムテープ
30Hz〜17kHz ±3dB
ノーマルテープ
30Hz〜15kHz ±3dB
S/N比 60dB(Dolby OFF)
70dB(Dolby B)
80dB(Dolby C)
ワウ・フラッター 0.03%(WRMS)
±0.06%(W.peak)
消費電力 25W
サイズ 幅430×高さ111×奥行324mm
重量 6.4kg




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